俺の屍を越えてゆけ|『大怪獣のあとしまつ』感想【ややネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

俺の屍を越えてゆけ|『大怪獣のあとしまつ』感想【ややネタバレ】

2022年4月2日土曜日

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 という事で(どういう事だよ)実は観ていたんですよ、『大怪獣のあとしまつ』。公開時にtonbori堂がウォッチしている映画タイムラインにずらりと酷評というか怨嗟の声が並んだりしてそうとう炎上というかネット(主にTwitter)で騒ぎになったのも記憶に新しいんですが三木監督のドラマ『熱海の捜査官』のファンであり感想/考察エントリも書いたtonbori堂、ここは特撮怪獣ネタも好きだしともかく観ないとなんとも言えないなと鑑賞してきた次第ですが…うん三木監督の作品でしたね(笑)元々三木監督の作る映画やドラマってどちらかというと奇妙な雰囲気と少しラインから外れたおかしな人たちで紡がれる話って印象で、ある意味今回のような話は合いそうで合わないんじゃないかと思っていました。それは半分当たって半分外れた印象です。


映画『大怪獣のあとしまつ』本予告(60秒)|松竹チャンネル|YouTubeより

※完全にはネタバレしていませんが内容書いているのでややネタバレとしております。何卒よしなに。


大怪獣のあとしまつ/STORY

 突如として日本を襲った大怪獣はその出現と同じく突如として死んだ。大きな光に包まれた後大地に伏した怪獣のその死骸をどう処理するのか。それぞれ政府各省庁の押し付け合いの結果、首相直轄の特務隊が怪獣の処理を統括する事になり特務のエースである帯刀アラタがその任に当たる事になる。しかしそれぞれの思惑により遅々として進まない死体処理作業。そして2年前に突如行方不明となり戻ってきたアラタと元恋人であり特務隊員であった環境相付秘書の天音ユキノ。その夫で首相秘書官の天音正彦の関係も怪獣処理に絡み再びこじれていく。


 そして怪獣の体内で発生したガスが死骸の中で膨らみ、やがて関東一円にそのガスがまん延するにかもしれない状況になってしまう。処理を任された特務隊はユキノが閃いた方法に賭ける事になるのだが作戦は失敗し、特務隊はますます逆境に置かれる事になる。そしてアラタたち特務隊に正彦は最終手段を告げる。しかし正彦の作戦には無理がありアラタは全てを背負って自ら強行手段に打って出る。果たして大怪獣の死骸は無事処理できるのだろうか?

ラインを越えた者

 観終えて思ったのは三木監督は「ライン」を越えた人の話が本当に好きなんだなって事と物事を徹底的に斜に構えて観客の位置から見せる事が好きなんだという事。それがたまにカッコいいショットになるだけでそこで勘違いしてしまう人もいるんだろうなと。三木監督作品をくまなく観ているわけではないんですが、一風変わった境界を越えたり越えなかったり『熱海の捜査官』では越えていったし、ある意味『時効警察』の霧山もキワにいる人物ですよね。そういう際というか境界上の人たちを描くことが好きな気がします。


 翻って今回の主人公のアラタも突如として失踪したものの戻ってきた人物として描かれています。つまり彼も「ライン」を越えた人物。行方不明であったというだけでその後何事もなく特務に復帰して任務についている(冒頭では対怪獣作戦のために徴兵される友人の壮行会が怪獣死亡により同窓会になったシーンから始まっていますが)事の不自然さや怪獣を倒したのは本当の事なのか。実はそれこそも「ライン」を越えた先の話ではないか。この辺りは三木監督の真骨頂でこの世界をリアルに見せるのではなくある意味あやふやなディフォルメされた世界であるということを強調している訳ですが…特撮好きにはそこ、そうなの?みたいなになっちゃいますよね。

ラインを越えない者

 これはユキノや正彦の事で、三木監督のドラマ『熱海の捜査官』も最後は何処かへ往く人々と待つ人々というパターンだったんですね。ある解釈は出来るものそのネタばらしではなくこの『大怪獣のあとしまつ』と併せて考えるとアラタはあちら側に往ってしまった人間だけどユキノたちがラインを越えないように戻ってきた。そしてユキノはまたアラタの帰りを信じて待つ(帰ってこないと分かっているけれど)という話なんじゃないかなと。そしてそこに入れない正彦という図式。


 でも怪獣映画や特撮映画好きが観たいのは「対象」をどうにかして解決する「解決映画」が観たいのです。そしてその「対象」が中心でなければならない。その「対象」というのは当然、怪獣です。三角関係や登場人物の愛憎描写はあってもいいけれどそれは「対象」によって影響を受けて話が進む従の立場でやはり「場」の「中心」は怪獣。『シン・ゴジラ』の時に東宝側は矢吹とカヨコとの間を進展させるシーンが欲しいと言ったそうですが庵野監督は拒否したという話を聞きました。庵野監督としては矢吹とカヨコの関係性が物語の進行に必然があれば描くけどそうでないなら入れないという事だと思うんですが、ユキノとアラタ、正彦の関係性は物語の進行上必要なのかどうかと言えば実は必要なんですよ。でもその場合「怪獣」はただの「デウスエクスマキナ」でしかない。舞台装置の一つでしかないんですが「怪獣映画」を観に行く観客としては「怪獣」を観たい訳で怪獣が「どこから来てどこへ行くのか?」という話を観たいのに人が「どこから来てどこへ行くのか?」を見せられると、うーん…ってなってしまうという感じになるのかなとこの評判はそうなのかと思いました。つまり怪獣映画の則に則っているように見せかけて則っていないから駄目映画の烙印を押されてしまったのかなと思っています。

怪獣映画の則

 所謂、特撮映画の肝、セオリーや押さえておくべきポイントをことごとく外していると評されているんですが特務隊の設定、国防軍の空中戦艦(シルエットのみ)が妙に巧いのでよけいにコケにしている感じが出ているのは完全に三木監督の仕様だと思うのです。よく比較される福田雄一監督(漫画原作の作品の監督作や作風が同じで共に放送作家、コントやバラエティ出身)ですが福田監督は漫画的にディフォルメしていくスタイルですが、三木監督はどちらかというと状況をコント的にディフォルメしていくスタイル。いわば即興と見立てで創っていくので雰囲気重視なのではと睨んでいます。そのため両監督とも「見立て」が重要になってくるので映画は絵に語らせますけど絵ではなく役者が語ったりしてしまう事が。それが引っかかってくるのかなと。なのでドラマサイズだと凄くはまるんですけれどね。(これは『SPEC』や『ケイゾク』の堤監督にも言えるかも)


 ただ福田監督は暑苦しいとこがなんとなく感じられるんですが三木監督はどこか冷めている感が感じられます。少し冷めたところから観ているというか。ここで盛り上がらせないぞとまで思っている節が。ラストシーンなんかもためを作ってはいるけれどすなおに盛り上がらせないぞっていう。もしかすると少し皮肉的な視線を送っているのかもしれません。総理他閣僚のくだらないシーンもそうで、プロデューサーがあれは何も決まらないカリカチュアライズしたシーンですというのをインタビューで言っててそれを伝わるようにしろというつぶやきも見ましたがそこは頷けたんですが、敢えて突き放した感じでそこには「意味」は無いってのをそのままやってる。だから一周回って意図が伝わらない(多分ドラマだとあそこは直ぐにああこれは会議なんてくだらないって意味なんだなと分かったと思います。)ハイコンテクストに慣れている人ほどあそこはイライラするんだろうなと思いました。

あとしまつ

 COVID-19パンデミックで延期となり再撮影などで予算も膨らんだ事も示唆されていますが元のスケジュールでさっくり公開されていればそこまでけなされなかった(いやそうでもないかな)気がしないでもない感じでtonbori堂はそこまで悪い印象は持ちえませんでした。とは言えラストは容易にオチが想像出来たしそこは安易にそう言ってしまうのかという事と、偶然かもしれないけど「ウルトラセブン」の最終回シーンと少しだぶってしまうような(後から考えるとそうでもないかと思いましたがやっぱりアレはウルトラシリーズへの擦ったデウスエクスマキナオチですよね。)ラストシーンはそこを擦ってきたのかと思いましたけど総じて三木監督らしい作品を撮ったなと思う作品でした。これ連続ドラマネタだったらどうだったのかなってのはちょっと思いましたけどね(苦笑)これを面白いと思える人はいると思います。がなるほど怪獣映画に特定の思い入れとハイコンテクストに読みに行く鑑賞者とは相性の悪い映画でしたね。

※2022.06.20追記しました。下にボーダー引いております。シン・ウルトラマン公開後考えてみるとやっぱり最後の最後に(ネタバレのため反転しております。)ウルトラマンオチで締めようとしたコント劇だと腑に落ちるというか所謂NHKのLIFEのようなコント番組でウルトラマンネタを作ったけれどこれ面白いからと劇場用に仕立て直した感が大きいのです。そこに三木監督の好きなライン越えの話をアレンジしていると思い直したので少し書き足しました。

※ノヴェライズは何故か2冊出ておりましてkindle版なら試し読み出来るので読んでからご購入が良いかと。

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※松竹の怪獣映画といえば『宇宙大怪獣ギララ』実は河崎実監督で続編?も作られてます。

Amazon.co.jp: 宇宙大怪獣ギララを観る | Prime Video

Amazon.co.jp: ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発を観る | Prime Video

※東映の怪獣?映画というかカルト人気がある宇宙パニック映画ガンマー第3号宇宙大作戦っはAmazonprimeVideoで観れます。

リンク|ガンマー第3号 宇宙大作戦

※ついでに日活の大怪獣ガッパも実はAmazonprimeVideoで観れます。

リンク|大怪獣ガッパ

※こんなものも出ていました。HGシリーズ 松竹×東映 怪獣まつり (Amazon)内容は大怪獣「希望」「キノコ」「ギララ」「メタリノーム /キャプテンウルトラ」の4種類。ギララは分かるけど何故メタリノーム?

※AmazonPrimeビデオで配信はじまっています。/大怪獣のあとしまつ(リンクはAmazonPrimeビデオ)

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