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偽りの神と闇の騎士|『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

2019年10月5日土曜日

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 ホアキン・フェニックスの『ジョーカー』の公開を記念して先週と今週、DCコミック原作の映画が放送されました。局は違いましたけどこういうのいいですよね。で、『ダークナイト』は名作なんですけれど、あえて『バットマンvsスーパーマン』を少し語ってみようと思います。というのもtonbori堂はクロスオーバーが好きなので。まあ言っちゃえば例えば金田一耕助と明智小五郎が推理合戦とか大好きなんですよ。そういうドラマありましたけど、唸るまでのはまだ出会ったことがないです(ヲイ)でもこの『バットマンvsスーパーマン』は賛否両論だとは思いますが、tonbori堂の目には好きな風合いを持つ作品と映りました。

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STORY/ダークナイトvs鋼鉄の男

 ゾット将軍を倒し地球を救ったスーパーマン/クラーク・ケントだったが彼の力は余りにも強大過ぎた。特に市街地で戦った事により市民にも大きな被害が出てしまい世論は彼を危険視する者も現れ、議会は委員会で彼に関する対策を討議することとなった。


 バットマン/ブルース・ウェインはメトロポリスの隣の都市、ゴッサムの自警団として長年活動してきた闇の騎士。しかしここ暫くは半ば引退状態であった。しかしスーパーマンとゾッド将軍の戦いで表の顔であるウェイン・エンタープライズが保有するビルが倒壊、多くの社員が犠牲となってしまい、制御できない強大な力を持つスーパーマンを危険視するようになった。そして彼に対抗する手段を考え始める。


 レックス・ルーサーは超巨大企業レックス・コープのCEOにして天才科学者。彼は武器の開発を行っている言わば死の商人でもあるが、スーパーマンに対する委員会のフィンチ議員に接触し、スーパーマンに対抗する武器を持つためある鉱物の許可を求めるが拒否されてしまう。それはブルースがスーパーマンに対抗するために探しているクリプトナイトだった。ブルースはそれを手に入れたロシアンマフィアとレックスが接触していることを知りレックス・コープで開かれたパーティに赴く。


 サーバールームに忍び込みリモートデバイスを取り付け回収しようとすると同じくパーティに来ていた女性にそれを奪われる。彼女をやっと探し当てたブルースはデバイスを返すように求めるが彼女は警句めいた言葉を残しデバイスをブルースに返してその場から立ち去った。


 デバイスを解析しクリプトナイトの搬入が行われる事をしったブルースは奪取を試みるがスーパーマンに邪魔されてしまう。彼は自警団として時には法を逸脱してまでも行動するバットマンを警戒していたのだった。やがて決定的な出来事が起こってしまう。委員会の喚問に対してスーパーマンがそれに応え出頭したのだが、レックスの奸計によりウェイン・エンタープライズの社員であり両足切断の大けがをおったウォレス・キーフの車いすに爆弾が仕掛けられ会議室にいた全員が死亡してしまう。それを見てブルースはますます彼を危険視し相いれない二人の激突はもはや止められない段階に来ているように思われたが、クラークの母マーサや恋人のジャーナリスト、ロイス・レインの言葉でかろうじてクラークはまだ善の側にいた。しかしルーサーはゾット将軍の宇宙船に入り込み彼の遺骸を使い切り札を作ろうとしていた。

 そして大地を揺るがす決闘がはじまろうとしていた。果たして勝者は誰なのか?ダークナイトか?それとも鋼鉄の男か?奸智に長けた天才か?闘いの火ぶたが切って落とされる。


偽りの神と闇の騎士/スーパーマンとバットマン

 スーパーマン/クラークはゾット将軍を倒し、その後も人類のピンチを救ってくれました。しかし、ゾッド将軍とスーパーマンとの戦いは激しいもので多くの人々が巻き込まれ犠牲となりました。これはM.C.Uでも触れられる事があったけど、日本のウルトラマンでも言われる街で戦ったら被害が増えます問題。コラテラルダメージ(付帯被害)ですね。それをまず取り上げている。ガメラ3でもそれを恨みに思った少女の思いがギャオス変異体をイリスとして覚醒させましたし、これはこじらせると非常に危険な問題です。


 クラーク自体は、ジョナサンとマーサのケント夫妻に育てられ、自らの力に苦悩しながらもロイスという良き人に巡り合い正義のためにその力をふるう事にしました。それはクリプトンで自分を救うために命を落としたジョー・エルと母の願いでもあります。とは言え自らの力は地球では神のごとき力であり、その力を崇めると同時に恐怖し、憎むものも現れました。この辺りの問題意識は『ウォッチメン』を映像化したザック・スナイダーらしいなと思いますが、所謂強大な力を持ったものがその力に振り回され闇落ちするかもしくは極端に走ってしまう問題も出てきます。ただこの作品ではその部分はブルースの見る夢としてスーパーマンが支配する地球という形でしか搭乗しませんでしたクラーク自身はケント夫妻に愛情いっぱいに育てられ素直な良い子に育ったので、自分の出生の秘密や力の事で悩んでも基本的には善意の人です。だからこそ愛する人を楯にとられると非常に弱いのですが。つまり高潔が故の弱点を抱えており、また人々が彼に仮託する想いも重責となってのしかかります。つまり今後そういう未来が無いとも限らないなんとも不穏な空気をこの作品はまとっています。そして神のごとき力を持つ鋼鉄の男に神を仮託してもそれは偽りの神でしかない。それが争いを産み、また世界の破壊者たらんとする男にも目を付けられることになってしまうという皮肉。まるで世界の盟主たらんとした国がその力をもってして平和を与えようとしたとき、世界はさらに混沌とした…そういう皮肉めいた警句を感じました。


 一方のバットマン/ブルースは髪に白いものが混じり、事件を解決するクライムファイターとして活動はしているものの、そういった行為への限界も感じています。それでも彼を突き動かすのは悪への憎しみ。そして理不尽な暴力(パワー)への反抗です。だからこそスーパーマンの純粋な力は、それが悪に対して向けられた時には良いけれどそうではない時はまさに危険な兵器となりうる。またその力の強大さはまさに暴力的であり、このままでは多くの人が犠牲になってしまうことを恐れた。だからこそ、不殺のバットマンがクリプトナイトでスーパーマンの息の根を止めようとしたのです。闇の騎士ダークナイトの責務として。歳を経て少し頑固になってしまった…いやもともとブルースはそういう性格だったかも…とは言え各作品によってバットマンの性格は微妙に異なります。そこがまた面白いところでもあるんですが、このバットマンは頑固者で思った事は曲げないし、ヴィランを捕えても捕えても出てくるこの状況に倦んでいるところはあると思います。残念ながらベン・アフレックの単独バットマン作品は彼が創造上の理由で手を引き、バットマン役からも卒業という事で彼のストーリーは語られることはもうないのですが、ベンの疲れた感じとかちょっと『ザ・タウン』の強盗稼業に倦んでいる主人公に重なるところがあって年を経て頑迷ではあるけれど、高潔な精神を持つ闇の騎士としてのベンアフバットマンを観たかったですね。

破壊者/レックス・ルーサー

 この作品でのレックスはクリストファー・リーブの『スーパーマン』でのレックスのように天才的ではあるけどけれど職業犯罪者って感じではないです。犯罪を生業にしているけど、何かしらのトラウマを抱えた人物で、孤独な人物として描かれています。実のところスーパーマンもバットマンも同じで孤独な人物なんですが、それを埋めるべくロイスやマーサ、ブルースにはアルフレッドがいます。


 だがレックスは信頼しているかのようなそぶりを見せていた秘書まで自分の企みであっさり吹き飛ばすほど周りの人物に対しての情がない。そして全てを破壊したいという破壊願望。幼少期から世界に馴染めなかった天才はやがてこの世界を破壊することを思い付き、その最大の障害になりそうなスーパーマンの排除を考え、それをバットマンにさせようとした。この映画のストーリー、大まかにいうとそれだけなんですが、レックスは世界をわが手にではなくただ壊すために手に入れるというある種の愉快犯で、ダークナイトのジョーカーのような善悪の彼岸にいる人物ともまた違う愉快犯でした。その動機が幼少期の記憶によるというのはこれヒーロー側にも言える話でスーパーマン、バットマンともに幼少期の経験が大きいという。これもザック・スナイダーが意図した事だと思います。

救いの女神/ワンダーウーマン

 この作品からの登場のダイアナ・プリンス/ワンダーウーマン。彼女も長い時を人間界で過ごした故に今は少し身を引いた感じで世の中を見ている立場ですが、レックスが自分の計画の障害になりそうなメタヒューマン(DC映画世界での超人、アクアマンやフラッシュ、サイボーグ、他の事を指している)を探っていることを察知しどれほどの情報を手に入れているのか探りに来たところでブルースと出会います。そしてレックスの産み出したドゥームズデイを食い止めるためバットマンとスーパーマンに手を貸す事にしました。ザック・スナイダーは強い女性が好きですよね。それは『エンジェル・ウォーズ』でも明らかです。まあ描き方の事やストーリーの事で散々叩かれたけれどインナースペースで果敢に戦う少女をあそこまで執拗に描く人だからそうだと思うんですよ。


 でもこの映画でのワンダーウーマンはやっぱりデウスエクスマキナの域はでていなくてカッコいいし痺れるんですが、まあそこまで。ただ彼女の来歴が語られることになったパティ・ジェンキンスの『ワンダーウーマン』では血肉を伴ったまた高潔な精神をもつヒーローとしてオリジンが語られました。この作品でワンダーウーマン、かっけー!ってなった人は是非ご覧いただきたいですね。

ジャスティスの誕生

 ということで次作『ジャスティス・リーグ』へと続くになったわけですがそれについては以前エントリを書きました。

超人神話創生『ジャスティス・リーグ』【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

 まああまり絶賛はしていません。でもキャラクターたちは魅力的で彼らのストーリーは観たいと感じました。事実『アクアマン』はジェームズ・ワンの手により海洋冒険活劇として喝采を浴びました。でもDCユニバースの再編やなんやかんやで『フラッシュ』の映画は進行が遅れているし、バットマン単独も同様です。『サイボーグ』もどうなったのか音沙汰あるけどほぼ無しみたいな感じです。


 そこでつい夢想してしまうのがザックがこのまま音頭を取っていたらある程度の流れを作ってまたマーベルとは違う潮流を作れたかもなあと…。まあ言っても詮無い事ですが。ただこの作品のエンディングまで観たときは割と本気でそう思っていました。2大ヒーローの激突だけではない、ヒーローの死、そして正義とは?という一大叙事詩的なビジュアルストーリーが紡がれるのでは?と思ったものですが…。でもその萌芽が感じられたこの作品。やはり今でも観ると(地上波でカットされていたとしても)胸熱いものでしたね。やはり記憶にとどめておきたい1本でした。

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