今回はこのブログで毎月感想を書いているファイブスター物語。tonbori堂がそこに入れ込む原点みたいなものをちょっと書いてみたいかなと思います。それは永野護のアニメ界デビューにまで遡る事になるのですがお付き合いのほどを🙇
実は以前にも『出会いは重戦機から。『ファイブスター物語』|tonbori堂漫画語り』というタイトルでよく似た事を書いていますが、改めてここに書いておきます。(なので若干の内容被りはご容赦ください<(_ _)>、こちらも併せて読んで、だいたい分かるみたいな感じになっていると思います。)
それは『重戦機エルガイム』から始まった
なので本来は「tonbori堂アニメ語り」で書くものかなと思うのですが、この後に『フール・フォー・ザ・シティ』の話も入れようかなと思っているので、あえて「漫画語り」で「外伝」な訳です。ちなみに【ネタバレ】とはいっているのはエルガイムのみならず漫画『フール・フォー・ザ・シティ』について内容にふれているからです。よろしくご了解いただければ幸いです。
『重戦機エルガイム』
『重戦機エルガイム』(重戦機はヘビーメタルと読みます)は1984年2月4日から翌年の2月までの1年間放送されたロボットアニメです。前年度からのサンライズ(名古屋テレビ制作枠)のロボットアニメ枠で79年のガンダムから82年の『戦闘メカ ザブングル』で同枠の監督を担当することになった富野由悠季が83年の『聖戦士ダンバイン』に続いて放つロボットアニメでした。
A級ヘビーメタル/エルガイム(ROBOT魂[SIDE HM]エルガイム/バンダイ)|(c)サンライズ |
重戦機とかいてヘビーメタルと読ませる部分やメカデザインだけでなくキャラクターデザインも一人の若者に託すという、今でもあまり例を見ない抜擢を行った事で当時も話題になりました。それが『重戦機エルガイム』です。
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エルガイムから、F.S.Sへ
総監督富野由悠季の元、若手スタッフを中心に編成された富野監督いわく、若手を育てるという方針で作られたロボットアニメです。前作『聖戦士ダンバイン』は監督のいわば入魂の作品で、異世界、ファンタジーとロボットアニメという当時としては類を見ない試みで力がはいった作品でした。
そのため相当消耗したのか、エルガイム製作前のインタビュー記事では、今回は若い力に託したいというような事を語っていたように記憶しています。脚本はシリーズ構成にイデオンやダンバインに参加した渡邊由自を筆頭に渡辺麻実、富田祐弘、大野木寛、河原よしえがそれぞれ担当。作画スタッフに北爪宏幸、大森英敏、演出、コンテに川瀬敏文、今川泰宏という布陣でした。いわゆる当時の大ベテランではなく若い力を取り入れようとしたのは、ザブングル、ダンバインを経てその先も見据えての行動だったように思います。
そしてメカデザインのみならずキャラクターデザインも担当と発表されたのが永野護だったわけです。当時まだ大学出のぽっと出(といっても同時期製作の『銀河漂流バイファム』のサブメカや安彦良和監督作品『巨神ゴーグ』でのメカデザインを担当してしました。)の若者に担当させるなど、かなりファンの間でもざわついたものでした。正直に言えば癖のあるキャラデザインはヒラメみたいと言われた事も。
しかし、その膨大な量のデザインをたった一人で産み出していった永野護という才能に惚れ込んだ周りの人々がいたのも事実です。一人は現、KADOKAWA専務の井上伸一郎。そして当時ザ・テレビジョンの編集長を務めていた佐藤良悦。ザ・テレビジョンの別冊として『聖戦士ダンバイン』の別冊を手掛けた佐藤が永野護の才能に惚れ込んで、彼にエルガイムの別冊L・GAIM2で自由に書かせたものが(実際にはその前のL・GAIMでも発表されたオリジナルイラストにもそれはありましたが)アニメでは語られていない年表と、新しいヘビーメタルでした。
|重戦機エルガイム(2) (ザ・テレビジョン・アニメシリーズ)|角川書店/tonbori堂所有 |
設定されながらも本編では未登場だったブラッド・テンプルがフレームランチャーを構えているイラストをはじめとして砂漠に立つディスティニー・テンプル、惑星ミズンの湿地帯で擱座したエンパー・テンプル。惑星ガストガルでハンガー(格納庫)で待機しているガスト・テンプルにMk3ワンダースカッツなど、設定のみでしか語られていないヘビーメタルたちの姿がそこにありました。
ファンは色めき立ちましたが、その物語は既にエルガイムの枠を超えた何かになっていったのも薄々感じてしました。アニメの設定よりさらに拡張された、いやエルガイムとはまた違う別の五つの星の物語が展開されていたのです。大枠ではまだその時点では『重戦機エルガイム』の舞台ペンタゴナ・ワールドに属していましたがやがてそれは『フール・フォー・ザ・シティ』という角川書店の新アニメ雑誌、月刊ニュータイプでの永野護の漫画を経て『ファイブスター物語/FSS』となっていくのです。
新しいデザイン、ヘビーメタル。
tonbori堂がこのアニメで特に惹かれたのはなんといってもメインのロボット、ヘビーメタルです。ガンダムの大河原さんでもない。マクロスのスタジオぬえでもない。ダンバインの後半メカデザインを担当した出渕さんでもない、あたらしいデザイン。80年代はガンダムから始まったロボットアニメブームにより毎週色々なロボットが登場していましたが、エルガイムは当時放送中のロボットアニメのどれとも違う新しいロボットでした。
A級ヘビーメタル/エルガイムROBOT魂[SIDE HM]エルガイム/バンダイ)|(c)サンライズ |
張り出した肩、脛が開いてジャンプのショックを吸収するランダムストレート。装甲材質もそれまでの金属設定ではなくセラミック装甲など斬新な設定に魅了されました。特に主人公メカ、エルガイムの立ち姿の美しさはその後の主人公機Mk2とともに特筆すべきものだと思います。またライバル騎であるA級ヘビーメタル・バッシュはFSSのモータヘッドになっても基本のラインは継承された優れたデザイン。骸骨と甲冑イメージを取り入れた無骨で、スマートという相反するものの融合したロボットとして今でも永野デザインの1,2を争う名騎体だと思います。
画像はAmazonより(リンクも)/HI-METAL R 重戦機エルガイム バッシュ/約225mm ABS&ダイキャスト&PVC製 塗装済み可動フィギュア/バンダイ |
設定も面白いと思いました。リアルロボットというジャンル(これ自体は後から言われたジャンルではありますが)敵側のロボットが量産機体であり「量産型」やそれに類する名前で機体が区別されたりしていましたが、ヘビーメタルはまず「A級」「B級」という規格があり、A級はいわゆるロストテクノロジーとも言うべき技術が使われているワンオフ、ないしはそれに準ずる同型。B級はそれを模倣した安価なシステムでつくられたものという設定。正直、設定がてんこ盛りすぎてエルガイムMk2ではバインダーの武器庫設定はそれほど上手く使われていた記憶がありません。それはエルガイムもそうなんですが少なくとも、肘から腕にかけて側面に設けられた打突用突起アキュートやバインダーにセットされたSマインなどはしっかり物語の中で演出として使われていたように思います。
もともとストーリーに即したデザインからストーリーに関わるデザインとなっていき、やがては「マリア」というサポートドロイドを産みだすに至りましたがそれは富野監督からNGを出されお蔵入りしたという経緯も今となってはF.S.Sの下地になったのは周知の事ではありますが、画面に収まり切っていない設定を、なんとか思うように存分に使いたい、描きたいという欲望がF.S.Sを描く動機の一つではないかなと思います。富野監督からはNGを出されたマリアでしたが、後にMk2のヘッドコンデンサのシルエットとして映ったり、Mk1でもあるエルガイムの頭部にもというイラストを角川のムック、L・GAIM1で書いたりということを監督の目を盗んでやっていたりと反骨心旺盛なクリス(永野護)らしいエピソードも多く、この辺りは以前にもご紹介した井上専務がトイズプレスより出していた「マモルマニア」に詳しく描かれています。
井上専務がまだラポートのアニメック編集部にいた頃に、やっと富野監督からの解禁がでてアニメ誌にてクリス書いてもらった衝撃のエルガイムのイラストや、F.S.Sを読んだ富野監督が怒鳴り込んできたとか面白いエピソードがたくさんあります。
ロード・トゥ・ファイブスター物語
やがて角川書店より新アニメ誌が富野監督の新作、ガンダムの続編『機動戦士Zガンダム』にあわせて立ち上がる事になりザ・テレビジョンから佐藤良悦が編集長として指揮することに。そして目玉として永野護にファイブスター物語を描かせるためにまず、漫画というフォーマットになれてもらうために『フール・フォー・ザ・シティ』(F.F.C)の連載がはじまりました。
『フール・フォー・ザ・シティ』|永野護 著|角川書店/tonbori堂所有 |
『フール・フォー・ザ・シティ』
『フール・フォー・ザ・シティ』はディストピアな未来世界を描いた青春漫画でした。ロボット警官、ベオグライドや電動バイクなど永野護らしいメカニックが出てくる反面、あまりにも素人然とした漫画にうわぁってなったものです。でも連載が進むにつれどんどん上達していく様を見守る事になったのはいい思い出です。この『フール・フォー・ザ・シティ』は単行本1巻で完結ですので最初から読むとすごい勢いでコマ割りとかスキルアップしていってるのが分かりますので原点を知るのに非常に良いと思います。しかもドウター、ログナー、ソーニャ・カーリンなどF.S.Sでもお馴染みのワード、キャラも登場します。
これは手塚先生のようなスターシステムでエルガイムのマクトミンが『フール・フォー・ザ・シティ』ではレジスタンスのリーダーで登場している事からそうだと分かります。つまりログナーというのはそれだけ永野護の中での重要人物であるという事も分かります。ストーリーの根幹には一時はミュージシャンで生計を立てようと思っていたクリスらしくフォガットというバンドのアルバムタイトルから来ており、作品のテーマまでがロックという音楽で成り立っており『ファイブスター物語』の原点を見る思いです。
MAMORU NAGANO'S SUPER NOVA|原作・作曲:永野護、歌:川村万梨阿 |
この作品ではレコードも制作され劇中のバンド『スーパーノヴァ』の名前を冠したものになっています。このことからもネーミングだけではなく音楽がベースにある事を強く意識した作品であり、作品の後半で重要人物が死ぬことから、ある意味永野護のパーソナルな部分が強く反映された作品です。『ファイブスター物語』だけでもなんら問題は無いと思いますが、もし深く読むならばこの『フール・フォー・ザ・シティ』も是非、手に取って読んでほしいと思います。ただ現在、重版がかかっていない模様で長らく欠品状態なので古本でないと見つからないかもしれません。重版出来してほしいんですが…。
レコードはCDで『花の詩女 ゴティックメード』の時に再発売されたのですがこちらも生産終了品となったようです。
Amazon.co.jp: MAMORU NAGANO'S SUPER NOVA: ミュージック
最後に
ファイブスター物語14巻の発売が近いので Twitterでのハッシュタグ #あなたのFSSはどこから? にちょっと細かく答えてみたような感じで書こうと思ったら『重戦機エルガイム』と『フール・フォー・ザ・シティ』の解説みたいなエントリになってしまいました。けれどこの2本っていうのは、やはり永野護のデビュー作というか原点にあるというのは間違いないと思います。『重戦機エルガイム』に関してはデザインのみならずストーリーテリングやロボットアニメの作法、そしてなにより永野護のアイデアの源泉として避けては通れない作品だと思います。『フール・フォー・ザ・シティ』に関しては漫画の作法と永野護の創作の中心軸としてあるのではないか?これは最近強く思う事ですね。それが今の『ファイブスター物語』につながっている。そんな気がします。また14巻でその想いが強くなるのか、それとも?本当に2/10の発売日14巻とニュータイプの特集楽しみです。
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