出会いは重戦機(ヘビーメタル)から。|『ファイブスター物語/FSS』|tonbori堂漫画語り-Web-tonbori堂アネックス

出会いは重戦機(ヘビーメタル)から。|『ファイブスター物語/FSS』|tonbori堂漫画語り

2017年5月16日火曜日

book FSS manga

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 ファイブスター物語(FSS)はデザイナーの永野護が月刊ニュータイプに30年にも渉って連載している(途中連載休止時期あり)漫画です。tonbori堂が長くに渡って読んでいる漫画は幾つかありますが、その中でも最長の部類でかつ、副読本などを含めて入れ込んでいる物語です。

ファイブスター物語第1巻表紙|永野護著/KADOKAWA刊/tonbori堂蔵書
ファイブスター物語第1巻表紙(初版)|永野護著/KADOKAWA刊/tonbori堂蔵書



出会いは『重戦機エルガイム』

 tonbori堂が永野護の名前を知ったのはガンダムの富野由悠季監督が『聖戦士ダンバイン』の後番組として送り出すアニメのメカデザインとキャラクターデザインに起用した新人ということでアニメ誌(その頃はまだ後にファイブスター物語/F.S.Sを連載する事になる月刊ニュータイプはまだ創刊されておらず、当時のアニメ誌、アニメージュやアニメック)から知りました。タイトルの『重戦機』はヘビーメタルというルビが振られており、登場する人型ロボットをそう呼んでいました。ロボットにそういう名称を与える事で世界の一部とするのはガンダムからの富野由悠季の十八番。『聖戦士ダンバイン』ではオーラバトラー、『戦闘メカ ザブングル』ではウォーカーマシンといった具合です。


 この頃、サンライズからは後にゲーム会社バンプレストから発売されることになる『スーパーロボット大戦』によってロボットが機種を指す名称、モビルスーツなどがあるロボットをリアルロボット、単体で活躍するワンオフ、または合体して戦うヒーローロボットをスーパロボットと分類していました。ヘビーメタルはその中ではリアルロボットよりではありますが、そのキャラクター性はどちらかというとスーパーロボットに近いものがあります。

別冊テレビジョン/エルガイム/角川書店刊/表紙はエルガイム(アハメス)
別冊テレビジョン/エルガイム/角川書店刊/表紙はエルガイム(アハメス)

 正直言ってキャラクターは今まで観たことのない、なんというか平べったい(ヲイヲイ)感じなものの、キャラクターの身に着けているモノの設定や、主人公メカの関節、基本骨格と装甲からなるフレーム構造など(ムーバル・フレーム)、A級、B級というクラス分けなど設定の細かさ。今までのガンダムの大河原邦男さんのラインでもなく、それをリアルにしていった出渕さんのラインでもなく、またSF的な裏打ちのある堅い、ぬえのラインでもない全く新しいデザインが出現したのです。


バンダイ/ROBOT魂/エルガイム/tonbori堂所有
バンダイ/ROBOT魂/エルガイム/tonbori堂所有

 ヘビーメタルの二重関節とムーバブルフレームはガンダムのモビルスーツの関節機構では、人間の動きはトレースできないことによる永野護なりの回答です。放送当時にアニメ雑誌で取り上げられた永野護という人物のキャラクターも相まって、周りもロックスターのような言動を面白がってとりあげていました。またそれは永野護という人物にほれ込んだ周りの人たちが、そう仕掛けていった部分もあります。この辺りの空気や出来事を現KADOKAWAの専務取締役、井上伸一郎さんの著書、『マモルマニア』詳しいです。内部の人の証言ではありますが、井上専務は編集者でもあるので、ある程度の事実が含まれている読み物です。残念ながら出版元のトイズプレスではどうやら絶版になってるようなので古本等で探すしかありませんが、その名のとおり永野護のファン、マニアならば押さえておきたい1冊です。


マモルマニア/トイズプレス刊/井上伸一郎著/tonbori堂蔵書
マモルマニア/トイズプレス刊/井上伸一郎著/tonbori堂蔵書

 少しお話が脇道にそれてしてしまいましたね。エルガイムは永野護のデビュー作として固定のファンも付き成功を収めました。その人気もあってあちこちからムックや解説本が発売。角川書店からも放送中に1冊、放送後にさらに1冊、発売されました。L.GAIM2というタイトルのそのムック本は冒頭にエルガイムの世界、五つの星が集うペンタゴナワールドの歴史が、アニメで語られているのとは違うものとして年表が表されていました。これがファイブスター物語の原型です。

別冊テレビジョン/エルガイム2/表紙はエルガイムMk2ヘッド/ブラッドテンプル/永野護/角川書店刊
別冊テレビジョン/エルガイム2/表紙はエルガイムMk2ヘッド/ブラッドテンプル/永野護/角川書店刊



 Amazonで中古が出回る事がありますがプレミア価格がついたりしているので、古書店を丹念に回ればもうちょっとお安く手に入るかもしれません。この『エルガム2』に、ファイブスター物語の原型となる五つの星の物語の年表とともに、それに対応した新作イメージイラストには見慣れないヘビーメタルが描かれ読者の想像を搔き立てました。格納庫に佇み出撃を待つガスト・テンプル。惑星ミズンで擱座した、エンパー・テンプル。砂漠の大地に立つ、白き血の宮殿、ブラッド・テンプルなど。それらは数十年後姿は変わりましたがファイブスター物語の中にそのスピリットを持つものとして出現を果たしました。

月刊ニュータイプ創刊-1985

 その頃、出版大手の角川書店は折からのアニメブームから新アニメ雑誌創刊に乗り出し、その一環としてその当時ガンダムを監督した富野由悠季と接触。富野監督の『聖戦士ダンバイン』の頃からサポートしていました。テレビ番組専門誌『ザ・テレビジョン』の別冊としてダンバインのムックを刊行したり、角川ノベルズという新書でダンバインの舞台となる異世界バイストンウェルに迷い込んだ男、もう一人のショウ・ザマ、サコミズ・シンの物語小説『リーンの翼』を発行などです。

 これらはやがてくる機動戦士ガンダムの続編『機動戦士Zガンダム』のローンチに合わせての事だったんだろうなと今ならうっすら分かりますが、当時、徳間書店が宮崎駿監督とべったりとなっていって後のジブリアニメ製作に乗り出していくまさに船出期にアニメージュを購読していた目には、ならばうち(角川書店)は富野監督だ!という話になったのかな?と思っていました。

 ある意味それは正しく、ある意味では間違っていました。実のところ目玉はそれだけではなかったのです。その辺りも井上専務の「マモルマニア」にがっつりと描写されていますが、当時の創刊編集長、佐藤良悦氏が永野護に惚れこんでエルガイムのムックに表した年表のストーリーをニュータイプ誌上で展開。ガンダムとともに目玉にしようとしたのです。西暦1985年に月刊ニュータイプは晴れて創刊。そして漫画『フール・フォー・ザ・シティ』の連載がスタートします。これはそれまで連載漫画を描いたことのない永野護の所謂テストライティングのようなものとして始まりました。これをとってみても、ニュータイプ編集部の力の入れようが分かるというものです。


 そして創刊の翌年『フール・フォー・ザ・シティ』が最終回を迎えひと月おいてファイブスター物語の予告がなされ1986年からスタートしました。以降、アニメ映画化、単行本化に際して連載休止期間があり、現在に至っています。この頃にもいろいろな話がありますが今は割愛させていただきます。そして現在、単行本は13巻まで、また雑誌連載に掲載されたそのままを収めたリブートという形態での単行本が7巻まで発売され、設定副読本も多数ありますが実は近年大きな出来事がありました。

フール・フォー・ザ・シティ表紙|永野護著/KADOKAWA刊
フール・フォー・ザ・シティ表紙|永野護著/KADOKAWA刊

フール・フォー・ザ・シティ (ニュータイプ100%コミックス)(リンク先はAmazon)

花の詩女、MHからGTMへ

 ファイブスター物語/FSSは作者の永野護が新作アニメを製作するという事で休載に入ったのが2004年の事でした。単行本にして12巻の頃でしょうか。その休載期間中もデザインズ(DESIGNS)という設定本を刊行し、FSS読者への一種のファンサービスがなされていました。そして永野護が手掛けている新作アニメの製作状況もちょこちょことニュータイプ誌上で特集され、お話はボーイ・ミーツ・ガールである。新しいロボットが出るという設定が発表されていました。特に新型ロボットはファイブスター物語の一方の主役ともいえるエルガイムのヘビーメタルがさらに深化したというべきモーターヘッド(さらにはマシン・メサイアというロボットも発表されています)、その間に富野監督と組んだブレンパワード、『少女革命ウテナ』の幾原監督と組んだノベル、シェルブリッドなどとは違う、永野護のラインを持ちながらもまったく新しい、だけど明らかに永野護のデザインであるロボット、ゴティックメードを発表しました。


 それまでのロボットの関節とは全く違うツインスイングという異形の関節機構を持つゴティックメードがさらに実現化するのは2004年から実に8年の歳月を要したわけですが、それまで、作品内容の詳しい話は伏せられ、『ファイブスター物語/F.S.S』とは関係ないという事を、映画製作記を語るポッドキャストラジオで永野護も井上専務も言ってたのが(まあこちらも古株ファンなので話半分で聞いていましたが)蓋を開けてみたらこれはまごう事なき『ファイブスター物語/F.S.S』だったというオチがつきました。しかも現在描かれている物語で言えば『ファイブスター物語/F.S.S』プリクエル(前記)というべきものでした。主人公ロボット、ゴティックメード『氷の女王カイゼリン』、赤鬼、青鬼『ボルドックス』。ドナウ帝国、緋色の惑星カーマイン。そして詩女。作品のエンディングからのカーテンコール。そこで明かされる真実。(見ればわかるという構成)


 これは『花の詩女 ゴティックメード』を観た人でないと分からないかもしれません。永野護の考えるヘッドライナーの戦いとは?いうものと、永野護が紡ぎだすおとぎ話の骨格が見える、単体でもよく出来た小品という趣の作品なのでありました。実際の連載再開時にそれが具現化された時は皆が吹っ飛んだものです。その時の衝撃をTwitterのつぶやきを拾ったものがこちらです。

ファイブスター物語連載再開によるハッシュタグ#FSS_jpに集うFSSファンの流れ。 - Togetterまとめ


 リンク先をご覧いただければ分かると思うのですが、これは比較的な肯定的な意見を拾っていても、それ以上に当然反発も大きいものがありました。それまで永野護の代名詞であったモーターヘッドを全て捨ててゴティックメードに乗り換える、いや塗り替えるという此のショックは信じていたものに裏切られたと思った人もいたはずです。


 ですが永野護のパーソナリティはそんな事では揺らぎません。何時でも先を見て、漫画デビュー当時、まだ誰も注目していなかったノイズミュージックに言及し、ファッションに関しても常に先を取り入れようとしていた永野護はモーターヘッドにおいても重装甲、積層装甲、倒立ヒールなど新しいラインを取り入れて来ましたが、関節に関しての新しいアイデアをどうしても取り入れたかったのでしょう。それまでの系統とは全く異なるこのツインスイング関節を、なんでもありのファイブスター物語/FSSに取り入れるに際してモーターヘッドの関節の進化系とするのではなく、それまでこの世界のロボットはこの関節を使用していたと大胆な試みを施すことにしたのです。普通はそれまで積み上げたものを捨てることなど怖くて出来ない、またはもったいないと思うのではないでしょうか。常に探求心を失わず、挑戦することを選び続けた永野護らしい判断でした。


 現在ファイブスター物語/FSSは月刊ニュータイプで連載中です。第6話「時の詩女」ツラック隊のエピソードがこの2017年の6月号のエピソードで終了。エピローグ的なエピソードを2つ挟んでパルスエットのエピソードに入っていくこと。これまではエピソードが終了すると単行本のカバー制作に入るため休載というのがお約束でしたが、今回に関しては連載を中断せず、デザイン集の編集も並行して進めるとか。マモルマニアやFSSファンがかえって、「いや体壊すくらいなら休んでください」という空気が出ているあたり、FSSは永野護にとってライフワーク以上のものを感じます。ということで今後FSS関係のエントリはぼつぼつ立てていこうかと考えています。その時は何卒よしなに。

追記:現在第17巻が絶賛発売中(2024年1月現在)

Amazon.co.jp: ファイブスター物語 17 (ニュータイプ100%コミックス) : 永野 護: 本 

追記:DESIGNS最新刊も近日中発売ですがまずはDESIGNS1から3を。

F.S.S.DESIGNS 1 EASTER;A.K.D. /永野護著/KADOKAWA刊/Amazon

F.S.S.DESIGNS〈2〉ADDLER:JUNO/永野護著/KADOKAWA刊/Amazon

F.S.S. DESIGNS 3 KALAMITY GODDERS:BOTH/永野護著/KADOKAWA刊/Amazon

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中

ファイブスター物語 17

ファイブスター物語/F.S.S DESIGNS7 ASH DECORATION

F.S.S. DESIGNS 7 ASH DECORATIONリンクはAmazon

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