以前に『PART1』を観た時の感想でPART2、つまり今作を観て評価が決まると言いましたが、ある意味これ以上ないというほどの正当続編をやっていると感じた上で思ったのは、やはり原作がSF大河小説である以上、語るべきはまだ先にあるのかという事でした。ただ本作のみを切り出して考えるとこの作品はまさに『逆襲のポール』というべきものでした。ただならばエントリのタイトルも『逆襲のポール』とすればいいのに何故「アトレイデス」としたのかは、大きくいって家名を背負って孤独な戦いを挑むことになったポールと、彼を救世主と崇める者たちや彼を愛する人たち、そしてポールを救世主にしようとする母、レディ・ジェシカも含めての、やはり大河的なドラマと捉えれば『逆襲のアトレイデス』というのがぴったりだと思ったのです。ということで簡単なあらすじの後感想を書いてみたいと思います。
逆襲のアトレイデス/STORY
アラキスに攻め寄せたハルコンネン家と親衛軍サーダーカーの急襲によりアトレイデス家は一夜にして滅んだ。辛くも逃れたアトレイデス家の跡取り、ポールは母のレディ・ジェシカとともにアラキスの先住民族、フレメンの一部族の長であるスティルガーに保護されていた。彼を預言者(救世主)と感じるスティルガーに対し反発するものもいたが、部族の戦士(フェダイキン)ジャミスと決闘し彼を倒し正式に部族の一人として認められた。とは言えハルコンネンから狙われている身であり、よそ者であるポールはフレメンの一人としてアラキスで生きていくために彼らの技と知識を学び、フレメンの戦士であるチャニの導きでやがては砂虫(ワーム)「シャイ―=フルード」の背に乗る事が出来るまでになっていた。またその過程でポールはチャニと互いに相手を思い合うようになっていく。最初は貴族のお坊ちゃんに何ができると思っていたチャニも次第にポールの心の内を知り彼に惹かれていくのであった。
ポールの母、レディ・ジェシカはベネ・ゲセリットの出身であるためフレメンの教母に指名される、お腹の子とポールのため教母になる試練を受けるジェシカは猛毒の命の水を飲みその試練を乗り越え、フレメンの歴代教母の記憶をも受け継いだ。そしてその力を使いポールをマフディー、預言者としてフレメンとアラキスを救う救世主となるように仕向けていくのだが、ポールの予知夢はその先に待つものは多くの民の死でしかないと母の行動に悩む。しかしジェシカは南の民を糾合するためにさらに厳しい土地である南へと旅立つようにポールを促すがそれを拒否するポール。ジェシカはやがてポールもここに来ることになると告げ南へと信者とともに旅だった。
実はこのアトレイデス家の崩壊は帝国皇帝であるシャッダム四世も関わっていた。皇女イルーランはその事で弱みを握られたハルコンネンの横暴を見過ごす父に不信感を覚えるが、実はこの状況を産み出したのは彼女の師でもあるベネ・ゲセリットの教母であるガイウスの描いたものだった。女系しかなれぬベネ・ゲセリットは男子の救世主クイサッツ・ハデラックを産み出すため活動していたが、教団を離れ自らクイサッツ・ハデラックを産み出そうとしたジェシカを危険視しクイサッツ・ハデラックかもしれないポールを抹殺するために仕掛けた陰謀だったのだ。
スティルガーの元、チャニの導きでフェダイキンとなったポールたちはゲリラ戦で圧政を敷きアラキスに産出する「スパイス」を収穫しようとするハルコンネンを苦しめていく。そしてフェダイキンと認められたポールはスティルガーからフレメンの名としてウスールを与えられ戦名を決めろと言われる。ポールはアラキスの砂漠で見たムアティブ(砂ネズミ)を名乗りたいと申し出るとフレメンたちの星座ムアティブ座は北を指すとしてますますスティルガーたちはポールを預言者、リサーン・アル=ガイブ(外からの声)と見るようになる。そして密輸業者のスパイス採取機を襲った時に彼らの用心棒として姿を隠していたアトレイデス家の武術指南役、ガーニイと再会し彼からアトレイデス家の秘匿していた核(星々を統治する領主たちの中でも特に大きな領主たちを大領家と呼び、彼らは連合を組みながらもそれぞれを牽制するために核を最終兵器として保持していた)の隠し場所をポールに教えそれをもってハルコンネンを打破するように迫る。
その中であまりにも多い被害を出したラッバーンに代わり、ウラディミール男爵は後継者と目されるラッバーンの弟、フェイド・ラウサにアラキスを任せる事にする。フェイドは人を傷つけることをなんとも思わないサイコパスで野心に燃えていた。叔父であるウラディミールに誕生日にコロッセオで捕虜のアトレイデス家の兵士3人を血祭りに上げるという儀式で1人だけ薬物を投与されていない捕虜をけしかけられるがそれを屠りウラディミールに詰め寄るが皇帝の弱みを握るウラディミールより次期皇帝へつけてやると言われアラキスへ向かう。アラキスに到着したフェイドによりスティルガーたちの居住地であった洞窟が急襲され破壊された。圧倒的な戦力で押し潰すかのようなハルコンネン家に対し、このまま座して滅びを待つのでなく自ら運命を受け入れ戦うために南へ向かうポール。彼を待つのは銀河に争いを巻き起こす乱世の奸雄か、はたまたアラキスを救う救世主か?運命の時が迫る。
ポールの苦悩
あらすじを短くしようとしても1800文字もあって書きすぎたかなと思いつつも、実はここからが凄い物語の肝があり、クライマックスなのでぜひスクリーンで観て欲しいと思います。
今作でポールは周りの期待と重圧に苦悩し、最後はそれを引き受ける事になるんですが、母ジェシカはベネ・ゲセリットと袂を別ちつつも基本的にやっていることは同じで自らの手でポールを救世主にすることに邁進し実の母からのプレッシャーが半端ない上に母のお腹にいる妹までもプレッシャーをかけてくるという、控えめに言ってもきつい状況。それだけジェシカのやっていることはベネ・ゲセリット的ではあるんですが、当の教団教母ガイウス・ヘレネ・モアヒムからするとジェシカの行動はゲセリットからの支配から逸脱したものでしかないんで、その動きを潰そうとして動いたのが1作目のアトレイデス家の滅亡という事ということもあり、そこもまたキツイ。結局彼女たちベネ・ゲセリットも最終的にはクイサッツ・ハデラックを産み出す事にあるためハルコンネンのフェイドにレディ・フェンリングを接近させ彼の血を受け継がせる事までやっています。全ては連綿と続いて来た血の血統を絶やす事なく自らの一部とするため。だから逸脱者には消えてもらうという事でポールは行も地獄、返るも地獄な訳です。
しかもスティルガーもポールはマフディー、「リサーン・アル・ガイブ」であると信じてやみません。ポールのいう事をいちいち都合よく解釈する辺りも昨今の世相を反映しているかのようで、スティルガーは無学で無教養でもなく、一族を率いる頼れるリーダーなのでその落差にはよすがが無いと人はもろくも崩れ去るという事なのかもしれないと感じさせます。
そんな中、予知夢を見てアラキスを救う夢どころか、無数の死体が足元に転がるような夢ばかりを見てこのまま救世主となって地獄へフレメンの民を連れていく事になるより自らフレメンの一員として彼と共に生きたいと願います。とは言え状況はジリ貧で、ハルコンネンにはギュウギュウ締めあげられる。劇中ではラッバーンはいいようにやられていましたけども所詮は局地戦での勝利では大局は動かないものです。そんなどん詰まりの中で結局は母の敷いたレールにのるしかないと腹を括ったポールは命の水の試練を受ける訳ですが、そこに今作の主役格でもあるもう一人の主人公チャニが大きく関わって来ます。
信念の人、チャニ
チャニはフレメンのフェダイキンの一人で前作でポールが自らを殺しに来る女性として幻視していた人物。今作ではグッと距離を縮めていますが、原作では確かに小さくない存在ではあるものの、若干違う立ち位置にいます。(それはレディ・ジェシカもですが)ポールについていく従属的な関係はなく、対等なパートナーとしての立ち位置を持ち、悩めるポールを支え、救世主にならなくとも自らの信じる道は「自らの」力で得るという強い信念があります。だからこそ命の水の試練の際に蘇るためのトリガーとして使われた事にも反発するし、変節してしまったかのようなポールとは微妙な距離を感じてしまう。3作目のグリーンライト(GOサイン)が出た今、どう決着するかについてもチャニの行動はどうなるかでデューン3部作?(デューン原作自体はポールの子たちの世代の事、その先の未来まで描かれています)の本当の評価が定まる気がします。
叙事詩から戦記へ
今回はポールが苦悩しつつもアトレイデス家の家名を継ぎ、フレメンとともにアラキスを解放するという話のため(その結果、皇帝となるというのも含めて)ダイナミックな作品となり、IMAXと音響の迫力も非常に素晴らしいものではあったんですがその分、前作にあった叙事詩性は薄れ、代わりに大河性と戦記のような物語になっていたと思います。前回の叙事詩性を好ましく思っていたのでそこは残念なポイントでした。とは言え前作の叙事詩性が無かったら今回の作品は普通にスペクタクルなSF戦争モノ(砂漠の惑星で繰り広げられる)になっていたと思います。もちろん今作から登場で最後にポールを戦うフェイドのようなヴィランや、全ての黒幕であるハルコンネン男爵という対抗するキャラクターや、皇帝やイルーラン、教母ガイウスなども魅力的ではあるんですが戦記である以上思い返すとそれぞれの掘り下げは若干薄かったようにも思います。それだけに今回はポールとチャニにフォーカスしていたという事でもあるのですが。そのためポール周りのキャラクターの描写に力が入っておりそちらへの不満は殆どありませんでした。
それとこれは余談ではあるんですがベネ・ゲセリットや命の水の試練、スティルスーツで厳しい砂漠を生き抜くフレメンや彼らの行動様式、オーニソプター、サンドワームは思えば思うほど『風の谷のナウシカ』への影響が大きいなと思いましたね。これらは全て原作にあるもので、60年代に発行されたこの作品を宮﨑監督が知らぬはずもなく、実際にその影響については度々俎上に上ります。またtonbori堂の好きな『ファイブスター物語』にもその影響は浅からぬというのも感じました。実際『デューン砂の惑星』からの影響はかなりの広範囲に渡っており、そういう意味でも原作を今実写化というのは当時では難しい映像も作れるようになったという風にも思います。それをスクリーンで確認できたのは良かったですね。
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※前作の感想です。この時は今作でDUENという作品の評価が定まると思いましたが、さらにその先を提示してきたので(それは原作で言うところのどこまでやるのかにもよりますが)まだまだこのデューン砂の惑星記は続きそうです。PART3のゴーサインも出たそうですから。|ソース|「デューン」第3弾「砂漠の救世主」の製作が正式決定!ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督×レジェンダリーの新プロジェクトも進行中|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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