異端児か?選ばれし者か?運命をブッ潰すスパイダーマン/『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

異端児か?選ばれし者か?運命をブッ潰すスパイダーマン/『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』【ネタバレ】

2023年7月9日日曜日

anime MARVEL SF

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 待ちに待った『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編、『アクロス・ザ・スパイダーバース』観ました。いやもうとんでもなかったです(笑)それぞれのスパイダーマンの表現方法とかスパイダーソサエティの描写とか。中でもそれほど情報が多かったわけではないけど予告編だけの情報だとヴィランのスポットを軸にスパイダーマン2099/ミゲルとマイルズが何らかの形で激突する物語がメインになると思っていたんですが…そうなんだけどそれだけじゃない、実は主人公は2人だったというのがまさに続編らしいと膝を打つ作品でした。そしてこれは偶然なのか必然なのか、マルチバースを舞台とする物語の蓋然性なのか、『ザ・フラッシュ』と似た選択のお話になっています。もっとも描かれる事象は似ているけど全く違うんですがこちらもまた「スパイダーマン」というアイコンを考えさせるお話になっていたと思います。ということであらすじの後気になるところなどを語ってみたいと思います。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ファイナル予告/YouTube/ソニーピクチャーズ公式

※この感想には「重大なネタバレ」がありますので出来ればご鑑賞後にお読みいただければ幸いです。

※タイトル変更『異端児か?選ばれし者か?または…』から『 異端児か?選ばれし者か?運命をブッ潰すスパイダーマン』としました。2023.07.11

※前作の感想エントリ。

君は一人じゃない。|『スパイダーマン:スパイダーバース』|感想【ネタバレ注意!】

君は一人じゃない。|『スパイダーマン:スパイダーバース』|感想【ネタバレ注意!】

【ネタバレ注意!】『スパイダーマン:スパイダーバース』アカデミー長編アニメーション映画賞受賞のこの作品。新しいスパイダーマンの誕生物語(オリジン)として、また多くのスパイダーマンは集うクロスオーバーとしても非常によく出来た面白い映画でした。彼らの活躍を活写したこの作品の感想です。

運命なんてブッ飛ばせ!/STORY

 グウェン・ステイシーはその世界に唯一人のスパイダーウーマン。突如としてニューヨークの近代美術館現れた怪人と戦っていた。そこに現れる謎の人影、彼らも自らをスパイダーマンと名乗りその怪人を取り押さえようとする。その場にグウェンがかつて救えなかったピーターを殺した容疑でスパイダーウーマンを追っているグゥエンの父、ステイシー署長が現れる。突如現れた怪人ヴァルチャーは取り押さえられたがステイシー署長と対峙し。自らの抱える秘密に葛藤していたグウェンは正体を明かし別の時空からやってきたスパイダーたちとその場を去った。


 マイルズ・モラレスは死んだピーターの代わりにニューヨークの自警活動を続けていたが他の時空のスパイダー、とりわけグウェンとの思い出を懐かしく思い出していた。そんなある日の事、進路相談の時に遭遇した時空つなげる穴を身体に持つヴィラン、スポットと戦うがのらりくらりと躱され取り逃がしてしまううえ、進路相談をすっぽかしてしまった事で両親から外出禁止を言い渡されてしまう。そこに時空ポータルが開きグウェンが現れる。再会を喜ぶ2人。グウェンは今別時空のスパイダーたちで結成されたスパイダーソサエティという組織に属して活動しているとマイルズに告げる。しかしグウェンがこのバースに再び降り立ったのにはある理由があった。そうとは知らないマイルスは久しぶりの再会を喜ぶのだがグウェンがマイルスのいるアース1610にスパイダーソサエティを率いるスパイダーマン2099ミゲル・オハラからの使命を帯びてやってきたのだった。やがて取り逃がしたスポットは自らの秘められた力に目覚めマイルスたちスパイダーマンへの復讐を誓うのだがそれはマイルスをも自らの運命に立ち向かう事につながっていく。そしてグウェンとマイルスはそれぞれの運命を左右する大きな戦いに身を投じる事になる。

運命は変えられないのか?

 映画『TENET/テネット』ならば起きた事は変えられないけれど、起こる前ならば変える事が出来る。ということで計らずも『ザ・フラッシュ』のようにマルチバース、そして運命の出来事(劇中ではカノン・イベントと呼称されていました)を変えるということで両者の出した結論は真逆であるようにも見えますが、実はそうではないんですよね。『ザ・フラッシュ』は「起きてしまった」事を受け入れるお話であり、そこにタイムトラベルとマルチバースで味付けされているけれど「過去」を受け入れるか否かの決断の話で、『アクロス・ザ・スパイダーバース』はカノン・イベントとという半ばスパイダーマンは愛する人を必ず喪うというテンプレート化された不文律をマイルスは「まだ起こってない」出来事としてそれを回避しようとするお話なんです。つまりこれから起こる事にどういう事になろうとも力を尽くして運命を変えて見せるという決意の物語なんですね。もっともこの『アクロス・ザ・スパイダーバース』でのマイルスの話はまだ終わっていませんから結果、マイルスの父であるディヴィスが命を落す未来もあるかもしれない。けれどまだ起こっていない事をそれは運命として何もせず見ているだけというのはヒーローらしからぬ行動です。バリーだって散々トライした上での苦渋の決断な訳ですから。そのためクリフハンガーとしてもこの展開はものすごく効いていると思います。それと同時に進行していたグウェンの物語。『アクロス・ザ・スパイダーバース』はグウェンの物語でもあって、それはオープニングが彼女の独白から始まることで明確になっていると思います。


 父であるステイシー署長からは殺人犯のスパイダーウーマンとして追われ、その秘密を誰にも打ち明けられず孤独に打ちひしがれていたグウェンはその寂しさや父に打ち明けても受け入れられない拒絶でスパイダーソサエティに身を寄せました。しかし気になっているマイルスにもカノン・イベントやマイルス自身の大きな秘密に関してまた秘密を抱え鬱屈していくのですが紆余曲折の末、自らのアースに戻った時、死ぬ運命であった父が警察官を辞めた事でその軛から外れた事を知り運命というものは予め決まっているものではないとマイルスを救う事を決意します。ここでグウェンの物語もまた次作『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』についての引きが生まれているのも併せて上手いと思いました。


 ただどちらの物語も完全には終わっていません。マイルスは元居たアースではなくとある理由からスパイダーマンのいないアース42へ。そしてグウェンはスパイダーソサエティを離脱し自らの仲間を集めマイルスを救う事に。それにスポットは着々とマルチバースのスパイダーたちを付け狙うべく暗躍するだろうしミゲルは世界の理を破壊しようとするマイルスを排除するのか、それとも和解するのか?先の想像だけが膨らむクリフハンガーのためこの1作での「作品」としての判断はまだ正確にはくだせません。それでもこの作品は『スパイダーバース』でのアニメーション表現をさらに推し進めたという点では今必見の作品でありさらに言うと大いなる物語の第一幕であるというのもあって『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の1作目のような感じを受けました。なので出来うる限り大きなスクリーンで観て欲しい1本ですね。

スパイダーソサエティ

 ミゲル・オハラ/スパイダーマン2099がマルチバースで起こるスパイダーマンの事象を監視または時空を乱す因子を修復するために各時空のスパイダーマンを集めて組織したのがスパイダーソサエティです。ここには多くのスパイダーマンたちが所属しています。本拠地は彼のバースに存在する都市、ヌエバ・ヨークにあるソサエティ本部で指揮をとっているけれど自らが出向くこともあるタフでありながらスパイダーマン特有のお喋りや軽口を叩くところがなく、また非常に悲しい過去を背負っておりそれが故にマルチバースを脅かすカノン・イベントの侵害には神経を尖らせているところがあります。そのため独善的にも映る人物です。ミゲルの元には前作で共に戦ったスパイダーマン・ノワールやスパイダーハム、ペニー・パーカー/スパ//ダーも所属しているのですがなんといっても目を引くのはジェシカ・ドリュー/スパイダーウーマンにホバート・“ホービー”・ブラウン / スパイダーパンクでしょう。中でもホービーはロック魂に溢れた男で筋の通らない、気に入らない事には与しないスタンスを持ち、独立独歩で頼れる兄貴分という今回の一番の儲け役じゃないかと思います。その分最初にバイクアクションでAKIRAスライドを決めたりと年長者でグウェンの導師的な役割を担っていたドリューが終盤失速してしまったかのように見えてしまったのは残念かなと感じました。ただこの物語は前編なので後編見せ場があると期待しています。その他にも多くのスパイディが登場しそれ以外のイースターエッグ(お遊び要素や隠し要素)までに行きつく前に目が回る状態に正直2度や3度ではこれは全部をチェックするのは骨が折れそうですがそれもまたお楽しみ要素の一つになっています。そうそうグウェンとマイルスがスポット追跡のために向かったムンバッタン(インドのムンバイとNYのマンハッタンが混じった)のあるアースでのスパイダーマン・インディア/パヴィトル・プラパカールの声はカラン・ソーニ。彼は『デッドプール』のタクシー運転手ドーピンダー役ですしミゲルのオスカー・アイザックはムーンナイトにX-MENのアポカリプス、グウェンのヘイリー・スタインフェルドは『ホークアイ』のケイト・ビショップ、ホービーのダニエル・カルーヤは『ブラックパンサー』のボーダー族のウカビとこれまたマーベルの別作品出演者がいます。


ビヨンドの意味

 ということで『アクロス・ザ・スパイダーバース』だけでは完結しないこの作品、次作は『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』「その先へ」という意味のビヨンドに込められたものはなんなのか?スパイダーマンは必ず愛する者を喪うというお約束をぶっ潰すのか?それとも単にぶっ潰すだけではなく新しい何かを見せてくれるのか?そこは凄く気になります。運命に抗うというのはテーマとしても納得出来るものではありますがヒーローがヒーローである理由。多くの人を救うのか?目の前の人を助けるのか?というトロッコ問題は定番として出てくる話もあり、そこに一石を投じれるのか?それともう一つこれは大きなネタバレになってしまうんですがそもそもマイルスは1610世界のスパイダーマンとなるはずではなかった。あのキングピンの実験で迷い込んだ別次元アース42の放射能を帯びたクモにかまれてしまったことで予期せずスパイダーマンとなった。その「選ばれし者」とそうでない問題。そしてそれに端を欲する元のバースのパラドックス問題。これはマイルスが今作の最後に戻った世界が1610ではなく42であったという、そしてアーロンは生きており、もう一人の自分と(しかもその姿は驚くべきものでした)対峙するというこの状況。まさにどうなるのか分からないけれどスパイダーマンだけじゃなくマルチバースの決定版になり得るかもしれない「その先へ(ビヨンド)」を見せてくれるのではないか?なのでじゃあビヨンドまでまって『アクロス・ザ・スパイダーバース』は配信で観ればいいんじゃんってなるかもしれません。でもそれは間違いです。何故か?それはCGアニメの限界を突破するかのような表現方法がふんだんに盛り込まれコミックブックのような表現方法や(前作でも日本のアニメキャラのようなペニーとかカートゥーン感高いハムとかを越えるようなシュールレアリスム、絵画、CGなどに実写までぶち込む越境ぶり。これは大きなスクリーンで是非堪能して欲しい。そこから『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』がそれを越えてくるかも併せ本当に来年公開予定が楽しみです。そしてその時マイルスの決断やグウェンの選択の真価が問われる事になると思います。

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