掃き溜めの復讐者たち|『THE BATMAN-ザ・バットマン-』感想【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

掃き溜めの復讐者たち|『THE BATMAN-ザ・バットマン-』感想【ネタバレ注意】

2022年4月10日日曜日

DC movie

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 マット・リーヴス監督の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』観てきました。上映時間が長いと聞いていましたが『ジョーカー』と同じくスルスルと鑑賞出来ました。それはtonbori堂が好きな要素で固められていたからだと思います。腐敗と犯罪に塗れた大都市ゴッサム。陰鬱な空気感、陰気に降りしきる雨、その闇の中から現れ犯罪者を退治するバットマン。対するヴィランもその闇から現れた狂気の犯罪者、バットマンに謎かけをしながら凶行を重ねていく。活動2年目で荒削りなバットマン=ブルース・ウェインが凶悪な犯罪者リドラーと対決する物語はまるでサイコサスペンススリラーのようで見応えがありました。反面、これでお終い?って気にもなったりもしました。それは何故なのか。振り返りながらちょっと考えてみたいと思います。

映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』特別予告(世界の嘘編)/YouTube/ワーナーブラザーズ公式チャンネル/© 2022 WBEI TM & © DC

闇から訪れる恐怖/STORY

 ゴッサム・シティは犯罪都市、夜のとばりが降りる頃犯罪者たちが街に繰り出す。そんな悪人どもを闇から見張る男。ブルース・ウェインはこの街をまともな街にするために「バットマン」となって2年。犯罪者たちは闇から現れ悪人ども退治する彼を恐れていた。またその過激な自警行為はゴッサムの人々からも畏怖されていた。


 そんなゴッサム・シティは市長選挙が迫っていたが、現職のミッチェル市長とリアル候補との接戦が報じられていた中、自宅に一人でいたミッチェル市長がマスクをした何者かに惨殺される。そして現場にはバットマン宛のメッセージが残されていた。ゴードン警部補からのバットサインで現場に赴いたバットマンはこのメッセージは自分への挑戦状であることを見抜いたが次々と次の凶行が。事件の手がかりを得るためにゴッサムの暗部を彷徨うバットマン。そして事件に関係したナイトクラブの訳ありのウェイトレス、セリーナと共に謎を追う。しかし事件の底にはゴッサムの底知れぬ闇が拡がっていた…

暗黒探偵バットマン

 tonbori堂は毎度アメコミ映画の話をする時に原典に疎いという話をしていますが今回もバットマンはコミックスで「ゴッサムで最高の探偵」でもあるという話は知りませんでした。今回のバットマンはオリジンを経て活動2年目という、ルーキーではないけれど慣れてきた頃でもあり色々煮詰まってる感じを醸しています。そんなバットマン=ブルースになぞなぞを問いかける連続殺人犯がヴィランとなっています。一応リドラーがベースにあるんですがヴァル・キルマーがバットマンを務めた『バットマン フォーエヴァー』でのヴィランとしても登場しました。リドラーにはジム・キャリーで当時如何にもリドラーらしいと妙に感心したのを覚えています。ちなみにトゥーフェイス/ハービー・デントにはトミー・リー・ジョーンズ、他にニコール・キッドマンが出演していましたがtonbori堂前作リターンズよりも印象が薄いです。ヴィランキャラを演じた2人の事は強烈に覚えていますけど反対言えばそこしかフックが無かった。


 今回の『ザ・バットマン』に関して言えばストーリーは強烈だしキャラクターも魅力的だけどちょっと入り込んでいけるフックが弱く感じてしまいました。シーン、シークエンス毎は強烈かつ黒のトーンの圧が凄くまさにスクリーンで観るべき画となっていたんですがキャラが多い。具体的にいうとバットマンとゴードンのバディモノにしたかったのか、サイドキック的でありながらそうではない危険な関係のキャットウーマンになる前のセリーナとのビルドゥングスロマンな探偵モノにしたかったのか?ちょっとどっち付かず?みたいな印象があったのです。ただ長尺なストーリーでセリーナの背景も描かれる事で腑には落ちましたけどゴードンとの関係性を強調すればもっと締まったし尺も切り詰められたかもなとは感じました。反対にゴードンはもっと薄くセリーナをメインに据えてリドラーとの対決を軸にビルドゥングロマンを追及するとか。とは言え過不足はなく描かれてはいるかなという感じではありましたね。

ダークナイト後のバットマン

 これはもう明らかにクリストファー・ノーランのダークナイト3部作の影響下というかノーランのバットマンをベースに置いた作劇というものでしたね。当然オリジンをそっちに置いておらず『ザ・バットマン』では直接のオリジンを描かず独自のバットマン/ダークナイトとして立ち上がる様を描いているのではあるのですが、それにしてもダークナイトの影響は大きい。というよりフランク・ミラーが原作を担当したバットマン・ダークナイト・リターンズそして『ザ・バットマン』の下敷きでもあろうと思われるバットマン:イヤーワンの影響が見て取れるそうです。この辺りはTwitterやアメコミ映画ファン、アメコミ解説YouTubeなどでも言及されているのでこの路線は続くのだろうなと思うと、DCEUからはずれたところで再度バットマンをトリロジーなどで語るのかとは少し思いました。確かにロバート・パティンソンのブルースやゾーイ・クラヴィッツのセリーナ・カイルは魅力的でその後のストーリーは観たいんですけれど。それにゴードン警部補を演じたジェフリー・ライトも良かったので2人のバディ作品でも成立してしまう。ここはバランス難しいところですよね。

バットモービル

 ただダークナイトでは軍用車両をベースにしたタンブラーと呼ばれるバットモービルではなく、さりとてバートン版のようなコミックスから抜けて出来たシルエットほどではなく、アメリカンマッスルカーをベースにしたタイプでこれのカーチェイスシーンは必見モノでこれをIMAXで観れただけで木戸銭の元はとった!ってなるぐらいのカッコよさですね。このモービル、イメージとしてはジョン・カーペンター監督の『クリスティーン』に出てきた殺人カー「クリスティーン」をイメージし(クリスティーンのベース車はアメリカの古き良きオートモービル、1958年型プリムス・フューリー)カーチェイスシーンは『フレンチコネクション』のNYの地下鉄高架下のカーチェイスシーンを参考にしているとか。雨の高速道路を逆走する迫力のシーンとなっていました。後にフレーム剥き出しで懸架されたジェットエンジンのような妖しい揺らめきを見せるモンスターマシンはまさに闇の使者とでもいうべきマシン。マッドマックスに出てて来ても(1作目の方です)おかしくないバットモービルでした。

サイコパスキラー映画

 今回のヴィラン、リドラーは明らかにバットマンの鏡像でしたね。そこにゾディアック事件の犯人を彷彿とさせるシルエットを与えたのは上手いと思いました。というかマット・リーヴス監督、デヴィット・フィンチャー好きすぎじゃない?と思ったら参考にした作品には『セブン』や『ゾディアック』が含まれていないのですよ。挙げている作品はコミックスで言えば先に挙げたイヤーワンであったり映画で言えばコッポラの『カンバセーション…盗聴…』、『ゴッドファーザー』だったり『大統領の陰謀』だったりなのです。確かに聞けば納得です。『カンバセーション…盗聴』は神経症の盗聴のプロが事件に巻き込まれていく話ですし『ゴッドファーザー』は言わずと知れた暗黒街のボスの話です。この辺りは事件の鍵を握るペンギン(演じるのは特殊メイクをしたコリン・ファレル、アンタッチャブルのデ・ニーロ演じたカポネっぽい感じがありました。)やそのボスであるファルコーネ(これまた暗黒街の大物を感じさせる演技をジョン・タトゥーロが見せています。)の話を思えばああそうかもとなるし、ゴッサムの腐敗は大統領のスキャンダルを描いた『大統領の陰謀』を想起させるのは分かります。


 とはいえ陰鬱な街並みに降りしきる雨からはやはりフィンチャーの『セブン』を思い起こすし暗号を残していくというのはゾディアック・キラーを想起してしまうんですよね。(リドラーのキャラ造形には映画ではなく実際のゾディアック・キラーの影響はあるそうですが)それぐらいサイコパスキラー映画としての『セブン』の影響を思ってしまうわけです。でもリドラーは『セブン』のジョン・ドゥよりお喋りです。そこは『ダーティハリー』のスコルピオに近い気がしました。そしてスコルピオはゾディアック・キラーを意識したヴィランです。(実際に当時ゾディアック・キラーが『ダーティハリー』を観に来るかもとアンケート箱に刑事が潜んでいたという逸話があります。)今回リドラーを演じたポール・ダノはこの複雑で異常なリドラーを力演していましたがそのおかげでこのバースでのリドラーはかなりジョーカーに近いのではと思ったら…。最後の最後に…。

掃き溜めの復讐者たち

 そのサイコパスキラーである今回のヴィラン「リドラー」は同じくDC映画でありDCEUとは関係がない『ジョーカー』との共通点も多くそれが時代の空気なのかもしれないなと思うとこれもまたポスト・トランプの映画であることを強く意識せざるを得ませんでした。特にクライマックスのシークエンスは『ジョーカー』の方が先とは言え製作時期を考えるとこのような形になったのはなんらかの共時性があると思えます。それだけにバットマンをリアルに解釈しなおしポスト・ブッシュjrに持ってきたと言えるダークナイト3部作とは違った風合いはそこに感じられると思います。だからこそ次のリーヴス版バットマンはあの男をどう描くのか?実はあの男とバットマンが対峙する削除シーンがあって観ましたがそこは普通に『羊たちの沈黙』のようなシーンにtonbori堂は感じられました。だからこそどうなるのか?先のダークナイト3部作で実は『ダークナイト』だけはジョーカーだけが異質でありだからこそ強烈かつ突き刺さるものがあったのですが今度のあの男はそれに足りえるのか?そこは非常に興味があります。


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