赤か?青か?|『ジャガーノート』(1974公開/英)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

赤か?青か?|『ジャガーノート』(1974公開/英)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

2021年3月3日水曜日

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 この作品については一度ならず2度までもエキサイトブログの方で取り上げています。

1度目はこの作品のDVDが新ジャケになったのでそれに合わせてアップしたものです。何せ子供の頃にTVで観てなんとカッコいい男達の渋い話なんだろうと、詳しいストーリーは忘れてしまってもドラム缶に仕掛けられた精巧な時限爆弾を解体するお話というのだけを覚えていて結構前に購入して、新たにディテールなどキャストを含めて好みの英国映画だなあとなった思い出深い作品で、そこからお題を決めて同じ映画を観て感想をアップしあうネットイベントで自分が上げさせて貰った作品がコレでした。(TSUTAYAに新版の入荷があったのを確認していたので)また当時東日本大震災があったことからプロフェッショナルが困難な任務にあたるというのを当時救出や捜索などに当たった人々を思い出す感じでこれを選びました。ということでこの思い出深い『ジャガーノート』を今回ご紹介したいと思います。

ジャガーノート、DVD/販売元エスピーオー
『ジャガーノート』DVD/旧版。公開ポスターをレイアウトしたジャケットは逸品


狙われた豪華客船/STORY

 大西洋航路の豪華客船ブリタニック号がアメリカに向けて出発する桟橋は乗船客と見送りの人でごった返していた。無事に出航するブリタニック号が大西洋の航路半ばに差し掛かったところで船を所有するソヴリン海運の専務、ポーターの自宅にアイルランド訛りでジャガーノートと名乗る男から電話がかかる。ブリタニック号に7つの爆弾を仕掛けた。爆弾の解除方法を教えて欲しければ50万ドルを用意せよと言うのだ。一笑に付すポーターだったがジャガーノートはデモンストレーションとして小さな爆発を起こした。


 ブルネル船長へ至急船内を検索するように連絡すると見慣れないドラム缶が七つありそれそれが爆発するとブリタニック号は大西洋の藻屑となる。ポーターは早速警察に連絡するがテロリストに屈しないのがイギリス政府の方針。そこで海軍の爆弾処理チームで爆弾解体の名人であるファロン率いるチームを落下傘降下させ大西洋航行中のブリタニック号に乗り込ませることに。荒波に揉まれチームの一人が命を落とすがファロンと副官のチャーリー以下残ったメンバーは早速爆弾の解体に取り組む。しかし爆弾は精巧に作られトラップが仕掛けられたやっかいなものだった。


 スコットランドヤードもマクロード警視以下捜査班が元軍属を中心に現状に不満を持っている者から容疑者をリストアップ。精巧な爆弾を製作できるのは知識が無いと難しい。そしてアイルランド訛りから偽装の可能性を含め軍属に絞ったのだった。そして46人を洗い出した。船内でも不穏な空気が流れるがファロンは大胆にかつ繊細に爆弾の解除を探っていたがブービートラップに引っかかりチャーリーと部下3人が爆死してしまう。


 やりきれなさを抱えるファロンだがタイムリミットは刻一刻と迫ってくる。そして彼はこの爆弾の仕掛けに似たものを戦時中に見た事を思い出し、その頃46人の中からマクロードもある人物を特定していた。果たして爆弾は解除できるのか?乗客の運命は?タイムリミットまであと僅か。ブリタニック号に運命の時が迫る。

群像劇でありプロフェッショナルの物語

 tonbori堂がこの映画が大好きなのはプロフェッショナルのお話だからです。それぞれ人間的には欠点を抱えていながらも持ち場で全力を尽くす。それが余すところなく活写されている。例えばソヴリン海運のポーター専務。小さな子供を抱えながら朝の支度をしているところに脅迫電話が掛かってくる。それだけでポーター(演じるはLOTRのビルボことイアン・ホルム)が男やもめでシングルファーザーでといろいろ想像させてくれるけれどそれは物語の本筋ではないのでクドクド説明はしない。ただ会社という記号や専務という役職という記号だけではない生きた人間であるということを印象付ける事に成功しています。


 警察のマクロードはブリタニック号の出航で暫く離れて暮らしたいという妻と子を見送ります。そしてその船がリモートでハイジャックされた時も一瞬たじろきますがその後騒ぐ訳でもなく淡々と冷静に職務を遂行します。時折困ったような顔をしますけどだからといってじたばたしたり分かりやすく感情的にならない。これをのちにレクター博士で一躍有名になるアンソニー・ホプキンスが確かな演技力で演じています。

『ジャガーノート』DVD、ジャケット内部。
『ジャガーノート』DVDジャケット内側。リチャード・ハリス以下主要人物のスチルが。

 爆弾解体のプロ、ファロン。主役でもある彼はロンドンの会議場か劇場らしき場所に仕掛けられた爆弾を容易く解体処理をします。そして『おいらはーチャンピオン、ファロンはチャンピオン』と鼻歌まじりで歌いながら現場を後にする。自身の仕事に誇りと自負を持つプロフェッショナルがファロンであると分かるシーンです。しかしブリタニック号船内での同時解体作業での処理中のミスでチャーリーが死んでしまうと船長室で酒を煽ってちょっとだけ本音をブルネル船長に吐露します。そこもプロフェッショナルらしいんですよね。職務を投げ出すわけではない、グラスの酒をひとしきり煽るとただ立ち向かう。そこがいぶし銀でまた良いのです。

 そして冷静にまた爆弾と向き合い、爆弾のクセから犯人に思い当たり、犯人が仕掛けた罠を見抜く当たりは結末を知っていてもなお痺れる瞬間です。「赤か?青か?」タイム・サスペンスでもあり、頭脳戦でもあるこのストーリーは最初から全員の活躍で積み上げられて来たもの。そしてファロンの行動は常に裏打ちされた経験によってなされたもの。そういう深みをリチャード・ハリスの名演技で堪能できます。「ファロンはチャンピオン」、部下からの信頼も厚く困難な状況でも決して諦めることなくベストを尽くす。だからこそ腹心の部下、チャーリーが亡くなった時に追い詰められた顔を一瞬覗かせる。船長に思いを吐露する場面はベストシーンの一つです。

 製作は英国でリチャード・ハリス、アンソニー・ホプキンス、イアン・ホルム以下英国俳優でしめられ(ブルネル船長役オマー・シャリフはエジプト人ですが英国で学び、アラブ映画で活躍していましたが後に世界的俳優となり英国でも活躍)舞台は船上とイギリスで極めて作風も英国っぽさがある(地味だけど人物描写など細かく行き届いている)作品ですが監督はリチャード・レスター、アメリカ人です。ですが英国で映画製作歴があり『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』の監督も務めた職人監督。だからこそこの雰囲気が出せたのだろうなと。後にクリストファー・リーブ主演の『スーパーマン』3部作の2本を監督する事になります。

『ジャガーノート』DVDジャケット裏側
『ジャガーノート』DVDジャケット裏側


 この物語は基本的に現場の人たちに力点が置かれています。ブリタニック号の乗組員、乗客、船主側の担当者、事件を捜査する刑事たち。そして爆弾を解体するファロンたち。メインはファロンですが群像劇でもあるこの作品は決して古びることなく、某映画の台詞じゃないですが事件は「現場で起きている」ことを丁寧に追ったそういう作品です。パニック映画という括りだけは無いいぶし銀の魅力に溢れたこの映画。是非お時間があればご覧になっていただきたい作品です。

※今度Blu-rayかつ吹き替え版収録の新版が5月に発売予定!

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