ヒーローとは?|『WW84(ワンダーウーマン1984)』感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

ヒーローとは?|『WW84(ワンダーウーマン1984)』感想【ネタバレ注意!】

2020年12月26日土曜日

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 観てきました、『ワンダーウーマン 1984』(以下WW84)。まだ公開初週ですのでクリティカルネタバレは避けますがなんとなーくでも余計な雑音はいらんねんという方のため以降は※ストーリーのネタバレの恐れがありますのでご注意ください ということで何卒よしなに。しかもアメリカでは12月25日に公開かつ配信という変則パターン。これもこのCOVID-19によるいわゆる新型コロナ禍の影響によるものですが、だからこそ今観るべき作品じゃないかなと思った映画でした。ちなみに元は初夏の6月に設定されていましたがその時に公開されていたらこの作品がどういう評価を受けたのかは気になる所です。


映画『ワンダーウーマン 1984』US予告2 2020年12月18日(金) 全国ロードショー|動画はYouTubeより/ワーナー ブラザース 公式チャンネル

WW84アウトライン/あらすじ

 時は1918年アマゾン族の王女、ダイアナはアマゾン族の住まうセミッシラへの招かざる訪問者スティーブ・トレバーとともに故郷を離れ外の世界へ。そして第一次世界大戦を隠れ蓑に世界を滅ぼそうとした戦の神アレスと戦い世界に平和をもたらしたがスティーブは犠牲となって大空に散った。


 それから長い年月を経て1984年、長らく続く米ソの東西冷戦下、世界は二分されていながらも文化は成熟しアメリカンドリームを夢見る若者は町に出てきて一山充てようとしていた時代。ダイアナはスミソニアン博物館の学芸員として働きながら、その力で秘かに人助けをしていた。しかしスティーブを失った心の空白は大きいものだった。そんなダイアナが懲らしめた強盗達が押し入った宝石店は裏商売に手を染めておりその密売品の鑑定がスミソニアン博物館に依頼され新人学芸員のバーバラがあたることになる。その密売品が気になったダイアナはバーバラの元を訪れるのだが、ひときわある石が気になる。その結晶石のような石にはラテン語で「願いを一つ、叶える」と書いてあった。思わずスティーブが戻ってきて欲しいと願うダイアナ。バーバラは「ダイアナのようになりたい」と願うのであった。


 そんなスミソニアン博物館に寄付をしたので見学させてほしいとやってきた男。名前はマックス・ロード。TVで自ら運営する油田への投資を誘うCMでお馴染みの人物だが内情は火の車で共同出資者からは資金の引き上げを言い渡されている人物だ。かれはその結晶石の買い手であり長年それを探していた。その石を使って自らをその結晶石の力を得て他人の願いを叶え代償を得ることで自分の願いを叶える。その目的でバーバラに近づき石を手に入れ首尾よく自らを石の力を得たのであった。


 一方石の力は危険ではないかと思ったダイアナはマックスを探すが、そんな彼女を呼び止める人物が。見知らぬ男はスティーブしかしらない別れの言葉を口にする。男はトレバーの魂を宿していたのだ。スティーブと思わぬ形で再会出来たダイアナは2人でマックスを追うが彼はその力をどんどん増していき、またバーバラはダイアナになるという願いの代償に優しさが失われ独善的な人物へと変貌していく。果たしてダイアナとスティーブはマックスの野望を食い止める事が出来るのか?バーバラを正気に戻せるのか?

1984年という時代

 そうですね、ワンダーウーマン、前回は1918年(そういえば「1917」という映画が公開されましたけど結局観に行けてないんですよ…Amazonプライム特典なんで暇を見つけて観たいと思っているんですが)という過去の時代を舞台にヒロイックファンタジーながらもダイアナがいろいろ失うことでヒーローになるというオリジンを描き出しました。しかし今回は1984という過去とは言ってもかなり近い過去をつかって極めて内省的なワンダーウーマンの内面に迫ろうとした感があります。スティーブは前回サクリファイス(犠牲)としてヒーローとしてのダイアナの覚醒を促した訳ですが当然愛した彼のことが未だに(半世紀を経てもなお)忘れられない彼女の内面に迫ろうとした作品になっているなと。


 その上で今回のヴィランであるマックス・ロード。TVで魅力的に語りかけるが中身は空っぽの男です。成功を人一倍夢見ているが詐欺まがいのことにも手を染めて既にどん底のマックスが打った起死回生の一手は危険な賭け「願いを叶える石に自らがなること。」でした。彼は一見凄くトランプっぽさを醸しだしているけれど(当然彼の事も意識しているはずではありますが)今の時代の欲望への端緒は1984年にあったのではないかという話ではないないかなと感じました。トランプ大統領のような人物が出てきたのは必然としてだからこそちょっと考えようと。近道なんかはないんだぜという。


 あとそこには当然、超管理社会ディストピア世界を描いた「1984」へのアンサーもあるだろうし、全てにアクセスできる社会になりつつあるからこそ、全ての願いを喰い続け大きくなる獏のようなマックスは全ての人間とつながりたいと願う部分はまさにダイレクトに現在に通じてくると想起しましたね。そしてヒーロー(聖人君子)でも人を愛するし、ちょっとした願いは持つものです。でもそれが肥大化したりするとそれはバケモノになってしまう。だから結局はそれに打ち勝てるのは真実というのは…ちょっとトンチの域かなーとも思いましたけどジェンキンス監督はこんな時代だからこそ真実をちゃんと見極めてというメッセージを発したいのかなとまあそんなことを考えました。

鏡像としてのバーバラ

 バーバラ=チーターはマックスとともにダイアナの行く手を阻むヴィランなんですが最初は気の弱いお人よしだけど優しい女性が、凛として何者にも阿ることのないダイアナに憧れ、石に彼女になりたいと願ってしまったことから変貌を遂げていきます。それは明らかにダイアナの暗い部分でもあり暴走する彼女はダイアナの闇の部分。とはいえ前半けっこう描写があった割に最後までの描き込みがちょっと足りない気がしました。


『ブラックパンサー』で言えばティ・チャラに対するキルモンガー的な立ち位置なヴィランなんですが彼女の変貌が、この石のせいなのかそれとも心の奥底でそういう澱みがあったのかがどうも判然としないのです。結局暴走しただけ感でそこの描き込みが足りない気がしたんですよね…。そういう意味では少し残念なキャラクターです。前半ものすごく面白いキャラクターだったんで画竜点睛を欠く感じと言えばいいでしょうか。

ヒーローとは?

 今年ほど映画業界が厳しい状況に置かれた年は近年無かったのではないでしょうか。COVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大、パンデミック。そして米は最大の感染者数とともに大統領選挙がある年にそれが来てしまった。トランプ大統領の4年間は世界に混迷の種が振りまかれた年だとtonbori堂は思っています。彼を評価する人もいますが分断はすすみMAGA(MAKE America Great Again)の掛け声で商売人の論理と気に入らないものは捨てるだけの治世が良かったとはとても思えません。でもそれがアメリカが4年前に選んだ選択でこの次の4年にどの道を選ぶのかという大事な年の選挙の前に本来は公開されるはずでした。だとすればこの映画のクライマックスやそれぞれの選択も非常に合点がいくものになるしMAGAがレーガン大統領(在任1981-1989)も使ったスローガンであった事を考えるとこれまたいろいろ思うところがある事になります。


 レーガン大統領ってデタント(東西冷戦の緊張緩和)を否定し緊張をもたらしましたが2期目の最後に東側が崩壊し結局東西冷戦終結の立役者みたいに言われています。結果的にそうなったもののそれは新たなる火種を世界に残したし彼の行った事での負の側面が巡り廻って今再現されているともとれます。それはクライマックスを見ても明らかなんですが超人的な力を持ってしても解決できない心の闇の部分には自らが立ち向かう必要があるというメッセージをそういう方法で投げかけてくるかと。しかもキーとなる舞台を1984年に持ってくるかと。ある意味ヒーローとは?という問いかけにもなっている思慮深い展開でした。「猿の手」という話が引用されているのもそうだしオチのつけ方など。そういう意味では100年の孤独を生きるのがヒーローであるという(そもそもヒーローは孤独なもの)というクエスチョンにもなるし、それぞれが自分自身のヒーローたり得ないと世界は変らないという部分もそうじゃないかと。


追記:それと真実は一つという部分も効いてます。『猿の手』という怪談(願いを叶えるには代償が必要)をフックにしていますがあった事をなかった事には出来ない。そこは少しTENETでも触れられる事に共通していますよね。(TENETでは時間を逆行するけれど「あったこと」を「なかったこと」には出来ないというルールがありました。)そこも重要だと思います。


 ただそうだとしても色々とディテールの面でこだわりがある分、画面の解像度が高いので少し違和感を覚えたりとか、バーバラの件とかもあるんですが派手な部分よりも実は内省的かつ寓話な側面が強くなったかなと思います。また説教臭いと感じる人もいるかもしれません。実際セリフで語りかけるシーンもあるわけだしそこが反発を産んでいるのかも?と既に観られた方の感想などを読んでみて感じました。だけどこの時代この瞬間ならではの映画なのである意味旬の作品として観て欲しい1本だと思います。


※前作『ワンダーウーマン』登場人物トレバーとダイアナの関係性をより理解するにはこちらを観て頂ければ。

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