『MIU404』が終了した金曜日がやってきました。(2020.09.11)『アンナチュラル』のスタッフが手掛けた警察ドラマってことではじまる前から注目していたけれどCOVID-19感染拡大で撮影も止まったりで果たして放送出来るのか?と思いつつ放送日が決定して当初の予定は14話だったものが11話(平均的な1クール放送回数)で放送出来たのは本当に良かったし、いや実際の話数で観たかったよってのもありますが着地点は決まったなと思いました。『アンナチュラル』『フェイクニュース』『獣になれない私たち』の野木亜希子脚本、今回も冴えてます。そして『アンナチュラル』製作チームの新井順子P、メイン監督の塚原あゆ子監督。このチームほんとうにいいチームですよね。今回もそのチームワークの良さが出ていたと思います。
ロゴはイメージです。 |
探索者たち
『アンナチュラル』の時には探究する者のお話だなと思ったけど、こちらは外に出ている分、探索者といった感じでしょうか。真実の欠片を追い求める猟犬というイメージもあるけれど伊吹の「俺は刑事だ」という台詞には所謂、警察官を犬(権力の)という意味合いもとれる犬よりは探索者の方が合うかなと思ってこのタイトルにしました。まあ『アンナチュラル』が「探究者たち」だったのも大きいんですが。「あぶない刑事」ってのも考えたんですけどね、ちょっとベタすぎるかなとかも(笑)いや本当に2人とも「あぶない刑事」なんですけどね。いやドラマの「あぶない刑事」とはまた違っている意味ですよもちろん。でも刑事モノって先行者が多いジャンルだし大変だったと思います。
これは野木さんの持ち込みじゃなくてプロデューサーの新井さん提案というのはあちこちのインタビューで野木さんや新井さんが語っている事なのですが、刑事ドラマって言わば定番ジャンルとしてやり尽くされていると見る向きもありますが、それだけにピタッとハマれば新しい事も、「今」にも斬り込めるジャンルなんですよね。警察官が相対する事象はほぼ極端な事が多い。つまり犯罪、違法行為です。それを起こす人にはそれを起こしてしまった理由がある。それを追う2人にもドラマはある。だから観ている人にそれは明日の自分だとか、ああこれはとか思わせれば十分訴える事が出来るジャンルなんですよ。だから自分も警察モノが好きなんですけどね。それに解決でも未解決でも決着がつくのもいいところ。いやまあ他のジャンルでもお話である以上は決着は付きますけど(笑)
実際には無い4番目の機動捜査隊を舞台にするってのもいいですよね。刑事ドラマの定番設定。実際にある部署に新設されたとか、特別に集められたとかそういう『独立愚連隊』的な架空部署だと現実に沿いつつも少しはみ出せる訳です。そう言えば綾野剛は同じTBSの『S-最後の警官』に出演してしましたが、主人公の配属先は警察庁に新設された特殊部隊NPSという架空の組織でした。こうやって独立愚連隊にしておけば実際の警察では捜査一課でも強行犯捜査係やSITやら、その上所轄の捜査課やとかで登場人物が増えすぎてその交通整理だけで大変になるかというのもあります。だから殆どのドラマでは所轄は所轄で(笑)「太陽にほえろ」のように捜査一係のメンバーだけで捜査、解決パターンが定番でしたが「踊る大捜査線」で所轄と本庁(警視庁)とのヒエラルキーや捜査本部では本庁捜査一課がしきるなどが描かれたりして一時は所轄の警察官が無茶な事をして解決パターンのドラマは終焉を迎えちゃった感もありました。でも特命係『相棒』や(その後本当に特命捜査対策室に特命捜査係が新設されて通称特命係になっちゃったりとかも、テレ朝「未解決の女」の主人公はそこの架空の部署6係という設定)まだまだ鉱脈が埋まっているジャンルな訳です。って蛇足ばかりになっちゃいましたね(^^;どうしても刑事ドラマを書くとそういう傾向になってしまいますがもう少しご辛抱を。
第4機動捜査隊
志摩と伊吹が所属する4機捜、警視庁の刑事部に属する機動捜査隊は3隊までしかありませんが第1機動捜査隊の隊長である桔梗が働き方改革の一環で第1機動捜査隊の共助や他の機捜のヘルプに入れる機動的な部隊を新たに創設、第1の隊長兼任として指揮する部隊です。その性格上、1機捜と同じく分駐している芝浦署に本部を設置していましたが陣馬警部補のうどん湯切り事件により裏手にある元カフェに居ぬきで移動しています(笑)それもまた彼らの独立愚連隊っぽさをひきたててます。
ローンウルフ志摩
一匹狼を気取ってはいますがその実、仲間思いないい奴だけどそれを見せないなかなかのひねくれもの(笑)元捜査一課でその時のバディが変死し、第一発見者のため古巣の捜査一課では「仲間殺し」と陰口を叩かれ所轄に飛ばされながらも桔梗によって4機捜に拾われたという過去を持つ苦労人。そして一見常識人で知性派ですが暴走した時はパートナーである伊吹よりも危険な存在。それでも警察官であるという事に誇りと矜持を持つ男です。
星野源が一見優しい感じだけど皮肉屋で冷笑からの実は情に厚いとか複雑な人物はぴったりですよね。「逃げるは恥だが役に立つ」の平匡とか。相方伊吹の綾野剛とは「コウノトリ」で共演していたそうで(そういえば放送が遅れた期間にやってましたね、何分観ていないんですけれど(コラッ!)2人のファンとしてはそこも楽しみだったようですね。でもなんといっても水と油の性格の2人ってのは定番中のド定番、そこは外さないながらもさらに上回るってのが気持ち良かったですね。
ランニングマン伊吹
元ヤンキー。茨城県警の蒲郡警部補に不良時代に諭され真人間から自分のような道を見失っている者たちを真っ当な道に戻すため警察官を志した男。こういうの「改心組」っていうんでしょうか。志摩には「野性のバカ」と言われていますが野性のカンとピカ一の足で捜査に挑む男です。でもその人を疑う事をしらない警察官としては致命的な性格のためあちこちで騒動を起こし奥多摩の交番で8年間いたところを九重の着任のため余剰人員となった志摩の臨時のパートナーとしてやってきたのでした。
とにかく警察官としての原理原則に忠実な志摩とは本当に水と油で物事を深く考えていないようで本当に考えていない。というか考える前に動く脳みそ筋肉タイプ。そしてくよくよ悩まない…と思いきや恩人の事で生来持っていた闇というか怒りが吹き出しそうになってくるという、ある意味で志摩と似た者同士な部分も前半で2人のドラマに時間をちゃんと割いてそして伊吹の恩人である蒲郡の話へつなげたことが大きかったですね。演じる綾野剛はちゃらいんだけどちょっとした仕草とかで余白を感じさせるのが上手いですよね。蒲郡の一件からの最終回はそれが効果的でした。
テレ朝刑事ドラマ『BORDER』で主人公が越えてしまった一線。恩人蒲郡がその一線を越えてしまった事で伊吹はそれを越えてしまうのか?CM前でも煽りいれてきていましたからね。実際には志摩の方がヤバい感じもしてダブルで越えちゃうのかと思ったらラスボスの煽りもあり…対峙したときに「俺は刑事だ」とか無間道(映画『インファナル・アフェア』)を思い出したり(なので正直最悪の結果も考えました。)でもそうではなかったあの流れは入ったかもしれないスイッチとは…脚本の妙とキャストの好演が光っていましたね。
頼れる上司、桔梗ゆづる
志摩と伊吹の上司で4機捜と1機捜の隊長。警視。既婚、しかし夫には先立たれ子ども育てながらも男性社会の警察で警視のポジションにあるというのはかなりの苦労人。意味のない根性論や性差別には一言物申すタイプで敵も多いけれどその飾らない人柄と先見性のある指導力で部下からは慕われている、上司になって欲しいタイプ第1位な人です。演じるのは麻生久美子。『時効警察』の緩い三日月とは違って出来るモードの麻生さんもいいですね。「dele」の時の麻生さんを思い出しました。
顔面配備、陣馬
桔梗とは付き合いの長い(彼女が機捜の隊員の頃にパートナーをつとめたこともある)強面の警察官。家族からは何かと風当たりが強くて(警察官という仕事柄、勤務時間が不安定かつ仕事に打ち込むタイプのため家族との時間が相対的に減っているため)それで悩むこともあるけれど、職人タイプで後輩の指導も適格。やんちゃもできるが締めるところは締め、地味な捜査も出来る4機捜の兄貴。それが陣馬さん。演じる橋本じゅんも強面だけど面白い(ヲイ!)そして安定感のある方。劇団新感線で古田新太らと磨かれた瞬発力と顔面力が遺憾なく発揮されていました。はまり役といってもいいと思います。
青年九重
刑事ドラマで必要なのは青年です(笑)いや「太陽にほえろ」でも一応は青春ドラマとしての側面もあったからこそ当時若手売り出し中の萩原健一を起用したり、その後を松田優作が抜擢されたりしたわけで。けっして星野源や綾野剛が若くないという話ではなく2人ともある意味極端な人なのでいまどきというか常識人としての色のついていないこういう青年、でも彼も彼なりのかかえたものはあるし、経験を積むことにより成長するところを描けることにより対峙する被害者や加害者との対比も鮮明になるポジションとして最終的にいい味だしたなという。それを岡田健史が演じています。正直彼の事は知りませんでしたが若手俳優さんですよねくらいとしか(^^;ですが興奮すると福岡弁がでるとかいろいろ美味しい役どころだったように思います。まあ『アンナチュラル』でいうと久部君ポジションですよね。
the others
何時もなら犯人?いやそれとも実はと気をもむ俳優、金井勇太演じる1機捜に併設されている「スパイダー班」(ウェブを探索するからスパイダー、ウェブは蜘蛛の糸って意味がありますから多分そうではないかと思うんですけど…)糸巻を演じてて無くてはならない戦力でしたね。野木脚本の『フェイクニュース』でも描かれていたWebでの問題意識的な部分は主に特派員RECというのが担当していくのかと思ったらそこはもっと悪い奴がでてくるという流れでしたがある意味の今の我々というかネットの駄目な部分を体現していたのはRECでした。演じていたのは渡邊圭祐。『仮面ライダージオウ』で魔王に仕えるという謎の人物ウォズを演じた新人さんです。メジャータイトルでこれとはツいてるなあウォズ(笑)
そして刑事部長我孫子豆治には生瀬勝久。そういえば生瀬さんもジオウに出ていましたね。どちらかと言えば日和見主義で官僚主義だけど一寸の虫にも五分の魂なお方を生瀬さんらしく演じていました。他にもハムちゃんこと羽野麦役黒川智花や蒲郡には小日向文世というなかなか豪華なキャスト陣でしたが一番は最終的に4機捜と対峙する事になる彼がサプライズでしたね。
久住という男
菅田将暉が演じる久住。「クズを見捨てる久住や」と嘯き、五味やトラッシュなど偽名で立ち回る、触れ込みはプログラマーというが逮捕された後も一切を黙秘しているため不明な男。最終回のその服装からバットマンの宿敵ジョーカーとの関連性さえもささやかれているけれど、他者から干渉を頑なに拒み、そして他者を操る虚無的な人物。志摩はメフィストフェレスと言っていました。たしかに甘言をもって人を弄し地獄へ引き込むメフィストのような人物です。気になるのはその死生観
「汚いもんを見んようにして、自分だけは綺麗やと思っとる正しい奴ら。みーんな泥水に流されて、全部なくしたらええねん」「神様は俺よりもっと残酷やで。指先一つ、一瞬で、人も街もぜーんぶさらってまう」「10年経てばみんな忘れて、終わったことになっとる。頭の中の藻屑や」「神の采配やな。そいつは死ぬ運命やった」/MIU404第11話「ゼロ」久住の台詞
これはやっぱり東日本大震災を思い出すし、違うかもしれないけれど何かがあったのではと思わせるのに十分な台詞でした。また自ら鉄橋にぶつかり警察の横暴を演出して見せようとして屋形船の客にそれを見せた時自分の蒔いた種でそれがおじゃんになって志摩と伊吹に逮捕された時に
「俺はお前らの物語にならない」/MIU404第11話「ゼロ」久住の台詞
と言い放ちます。絶望感ではない諦観じみたものを感じるとともに強固な意思も感じますが実は何も無いのかもしれない。絶望の澱から出てきたものが人の形になった感もあるけれど一瞬見せる表情はやはり人のもの。これは菅田将暉が出演した別のドラマ「dele」の真柴祐太郎のブラックサイドにも感じてしまうんですよね…。「dele」は全く別の脚本家(小説家でもある金城一紀)の作品なんですが菅田将暉ありきのオファーだったそうで、そう考えると彼の持つ底知れなさがそうさせているのかも。まあ星の本棚を精神世界に持つフィリップですからね(仮面ライダーW)そういう意味ではスイッチが間違って入ってしまった人で反省も悔悟もなく退屈な日々をただ生きるだけが彼への罰かもしれません。
最後に
すごく面白かったドラマで是非404のメンツでシーズン2作って欲しいと思う反面、彼らの物語は最終話「ゼロ」でゼロ地点に戻った事で綺麗に完結しているとも言えるんですよね。ただ志摩と伊吹の物語はこれで終わった訳じゃないという事も「ゼロ」で示唆されているのでやっぱりシーズン2は観たいなと…(どっちやねん!
それと「アンナチュラル」とのクロスオーバーはスペシャルかなんかで出来ないものですかね。そりゃ石原さとみや窪田正孝とか売れっ子だしやっぱり東海林=市川実日子が出て無いとってなるし神倉所長と坂本さんも良かったけど(特に神倉さんは不意打ちでしたねえ)桔梗さんが西武蔵署の署長さんになった訳だし…ねえって感じですがどうでしょうか。>TBS様。
やっぱりTBS金曜で野木脚本、新井Pに塚原演出に外れ無しってことで。
参考記事
リンク 誰の人生かわからない人生を生きることは誰にとてもつらいこと|Real Sound|リアルサウンド 映画部
リンク 脚本家・野木亜紀子を直撃!「MIU404」の物語ができるまで<「MIU404」インタビュー前編> (1/3) | 芸能ニュースならザテレビジョン
※Blu-rayBOX絶賛発売中
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