限定でNETFLIXを復活させたので早速観ました。『攻殻機動隊S.A.C』の直接続編『SAC_2045』シリーズ初のサブスクリプションWeb配信サービスでの公開。そしてフルCGアニメーションとして製作。監督にはS.A.Cシリーズを監督した神山健治と『アップルシード』『スターシップトゥルーパーズ』(CGアニメ)を監督した荒牧伸志のダブル監督。ボイスキャストはS.A.Cのメンバーが全員再集結と話題になったこの作品、果たしてどうだったのか?ってことを気になった部分も含めて書いてみようかと思います。
アウトライン(STORY)/公安9課復活
世界の大国が新たな産業としてのAIによる「持続可能な戦争(サスティナブル・ウォー)」という経済行為を行う2040年代。主要国の経済が一瞬にしてデフォルト(債務不履行)となり全世界に波及。その混乱の余波で人々は疲弊していたがAIによって世界はまだ崩壊もせず衰退しながらもサスティナブル・ウォーは続いていた。
公安9課の解散後、海外に渡った草薙素子はバトー、イシカワ、サイトーらと共に傭兵として各地の紛争地帯でゴーストを名乗り活動していた。今回も契約主のオブシディアン社からの依頼で北米西海岸へ。新入りのスタンダードとともにレイドを目論む連中の捕獲作戦に従事したが謎のスポンサーから支給されたレイディストたちのAIドローンがミサイルを発射、ビバリーヒルズの邸宅に着弾する。その事態の責任を問われジョン・スミスを名乗るエージェントに拘束された素子たちだったが、彼は奇妙な依頼を素子たちに提示する。それはある人物の救出任務だった。罠かもと思いつつ依頼を受けるしか状況を打開できないと感じた素子たちはその申し出を受け入れる。
一方、日本では民間警備会社に転職したトグサに今は内務省で公安部門の顧問をしている荒巻から連絡が入る。初の米出身の首相、久利須・大友・帝都より米大統領からの依頼としての内密の案件を処理できる手ゴマとして公安9課の再建を打診されたという。早速トグサはダークウェブに侵入し素子たちの足取りを追う。そして西海岸へ飛び、素子らから待機を命じられていた思考戦車(シンク)タチコマと接触し素子たちの足取りを追う。
素子たちの目的はミサイルが弾着したビバリーヒルズの豪邸の主でマイクロマシンの開発で財を成した男の屋敷だった。その人物を保護し米帝へ引き渡すのが彼女たちの任務だったが当の本人はメイドドロイドやガードロボットで妨害、そして本人も素子たちに攻撃をしかけてくる。明らかに通常の人とは思えぬ動きをみせる男は『ポストヒューマン』突如として人類の中に現れた新人類とでもいうべき存在だった。トグサやタチコマも合流したがポストヒューマンはアームスーツで素子たちを追い詰める。辛くも彼の脳髄を破壊し全滅を免れる素子たちだったが、スミスはこの件を闇に葬ろうとするがそれを止めたのは大統領の親書をもって現れた荒巻だった。
そしてそれは公安9課の新たなる闘いの日々の幕開けに過ぎなかった。
ポスト・ヒューマン
ポスト・ヒューマンは今回の、「笑い男」や「個別の11人(グゼ・ヒデオ)」「傀儡廻し」に相当する存在です。最初はその存在はまったく浮かび上がらず素子たちの傭兵として関わった任務から、米帝の介入、そしてという流れで明かされる存在なのですが、見た目は普通の人間なれどその能力は弾丸の着弾を予想し回避し身体能力も向上し、痛覚さえも遮断したかのような行動をみせ、オンラインの電脳を瞬時にハック(ゴーストハック)出来るという人を越えた存在です。
ある意味ミュータントのようなもの?を感じますが、それまでは普通の人間が発熱、そして回復からの人格変容などを経てポストヒューマンへと変容するというのは生まれついてなどではなく進化とはまた違った感じもあります。その部分へはS.A.Cからの違う意味で『人形遣い』の影を感じます。つまり電脳化の次に起こる波です。
そもそもサスティナブル・ウォーを可能にしたのも「とあるAI」という事でそのAIがゴーストハックないしは融合をした「人類」が超越的な人格を持つに至った…というのは穿ちすぎでしょうか。「人形遣い」はそこまでの変容をもたらす存在ではなく(本質が変わるかもしれないし変わらないかもしれない)人を高次へ引き上げるためのイニシエーション的なものを感じていたんですがそれとは全く別の「存在」としてのポスト・ヒューマンという描かれ方でした。まだこのシーズン1は序盤戦みたいなもので「どこから来て、どこへ行くのか?」というのは分からないんですがこの世界がS.A.Cのタイムライン上なのであれば攻殻機動隊S.S.Sで登場した「傀儡廻し」の事は過去の事件ではありますがなんとは無しに関係があるのではないかと推測しています。とは言えまだ明かされていない事も多いので外れているかもしれませんが。
それよりも気になるのはポスト・ヒューマンの描写です。確かにネーミングも笑い男や個別の11人という日本語感をメインにしたフックではなくポスト・ヒューマンという直球すぎるネーミング(まあ米帝というか現実のUSAでも使いそうではありますが)。そして「覚醒」している描写というのが「脳の10パーセント神話」をちょっと連想してしまって少し醒めてしまうのです。この脳の10%云々というのは人間の脳は10%しか覚醒しておらず残りの90%が覚醒すれば高い知能を得る事が出来るというものです。ポスト・ヒューマンというのは今のところ5名が劇中に登場。うち圧倒的な戦闘能力をみせたマイクロマシンで財を成した実業家パトリック・ヒュージ。彼はガウン姿で現れ素子たちをいなし、アンドロイドを操り最期はアームスーツで迫ります。一言も発しないし、視線もあっているようであっていない。そうですね、寄生獣の寄生された個体のような…。人間とコミュニケーションがとれているかどうかも分からない部分や根本的な行動原理が人とは違う感は脳の100%解放という感じではないですが、映画『LUCY/ルーシー』では覚醒していくにつれ人から離れていったのでそういう事も考えられるかな…でも繰り返しになりますが脳の100%覚醒の話は都市伝説の類なので、物語設定としては絶対的に否ではないけれどうーんそうなの?ってなってしまいました。
もっとも謎のAIや「人形遣い」的存在と邂逅した人がさらに進化を遂げた部分での話として押井版『攻殻機動隊/GHOST IN THE SHELL』や士郎正宗原作の『攻殻機動隊』での人としての意思を残したうえでの上位存在とはまた違った意味でのものを描こうとするとこうなってしまうのかなとも少し思います。どちらにしてもその存在のはっきりした意味はシーズン2に持ち越しではあるんですが…。
CGアニメーションのSAC
ルックに関しては少佐(草薙素子)はそもそも全身義体なので歳が変わる事は無いんですよね。なので10数年を経てもルックががらりと変わる事はあり得ないから若く見えても全然問題ないんですがやはりCGですよね。アニメ風のレンダリングを施されたCG、動きはモーションキャプチャで滑らかだけど表情がやはりまだ固いかなって感じです。ここは手書きの揺らぎを含めた芝居の方がまだまだ伝える情報多いかなと。CGでその情報(色気みたいなものや情感含めて)って細かくなればなるほど限定されてしまうのかなとも感じます。
しかしキャラクターの堅さなどまだまだ改善の余地はあるものの動き出すとストーリーが引っ張ってそれなりに観てしまうんですよね。そもそもベースに人の動き(モーションキャプチャ)があるので後は何が足りないのかはまだ分からないんだけども…ただしタチコマはあまり大差ないですね(ヲーイ!。あと改良型タチコマ(従来型からは魔改造と呼ばれています)は新しいアクションも取り入れられておりそこはかなりの見どころになっています。ただゲームのOPのような大金の掛けられたものと比べるとそこはちょい辛いかなとは思います。
2020年の攻殻機動隊として/スタンド・アローン
そもそも普通の1クールからで考えると半分の話数しかなく完全にクリフハンガーで終わっているため、まだこの先も続くのだろうと思いますがどこに着地するのか?という点ではまだ完全には見えていません。そのためこれだけで評価を下すのは難しいシーズン1になっています。1本の作品としてこれはどうでしょうとなりますがウーン1本が45分ならまた違ったかなと。ただ「サスティナブル・ウォー」と「ポスト・ヒューマン」には今後のネットと人の関りについての事が焦点になっているのは分かります。偶然とはいえCOVID-19禍で人とネットの関りはますます重要になっているし、それによるルサンチマンやヘイトなども「持続可能な」や「格差」がもの凄くクローズアップされています。それだけに今後の展開に期待したいですね。ただCGがそこまでこなれてくるかなってのは割合微妙な気がしていますが(ヲイヲイ。
ただネットに対して自律と自立がキーになるような。(電脳を瞬時にハックされるからネットから切り離してスタンドアロンモードになる意味での自閉モードが度々劇中で使われています。)そういう意味でもスタンド・アローン・コンプレックスというSACに込められたスタンド・アローンが重要になるのではと。思えば「個別の11人」も多くの人を背負いながらもクゼという一人の(スタンド・アローン)の物語であり、そして素子のスタンド・アローンとの邂逅の物語でもあったので。やはりtonbori堂は攻殻機動隊SAC_2045からは目が離せません。
『攻殻機動隊 SAC_2045』視聴はネットフリックスほかで。
リンク
※攻殻機動隊SACシリーズ(AmazonPrimeビデオ)
|攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society (レンタル版)
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