深くて暗い闇の中へ｜『キリング・フィールズ　失踪地帯』（2012公開｜米）｜tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

　先ごろ、ひかりTVで無料配信されていたので鑑賞した作品です。（2017年8月31日まででした）監督は名匠マイケル・マンの娘、アン・カナーン・マン。アメリカ、テキサス州テキサスシティ郊外にある犯罪多発地帯をモチーフに、実際に起こった事件を下敷きにした映画です。

あらすじ

街のどぶ攫い。

　テキサスシティの刑事、ブライアン・ヘイとマイク・サウンダーは街をパトロール中に不良娘が、男たちの暴行されているとの通報で現場に向かい、男たちを捕まえる。そこに上司がやってきて別の現場で死体が出たのでそちらへ行けと命じられる。すでに発見者によって現場は荒らされていたものの少ない証拠を鑑識が来る前に保全し雨が降りそうな天気を感じたブライアンはマイクに防水シートを探させて死体に被せる。

　被害者は家出少女と思われ、身元を示すものは何ももっていなかった。現場を鑑識に任せてパトロールに戻る2人にマイクの元妻で刑事のパムから失踪した少女の捜索の応援を頼まれる。ブライアンは死体が見つかったらと答えるが、マイクは管轄が違うと突っぱねる。

　2人は街を徘徊する保護観察中の少女アンに声をかける。話を聞いて、家まで送る2人。アンの家には男たちが数人いた。アンの母は家で客をとっていたのだ。マイクが全員を追い出して身分証を求めた。客の一人、地元の油田で働くライノだけが妙に突っかかってくることに違和感を覚えるマイク。そしてブライアンはアンに何かあればすぐに連絡するように名刺を渡す。死体で発見された少女の身元をさぐるために町にでる2人。証言を集めますが手がかりはすくなく少女ともめていた男に揺さぶりをかけますが証拠がないためいったん解放する

殺人地帯/キリング・フィールド

　やがて失踪した少女の死体が発見された。先の家出少女の事件も街のポン引きが怪しいと目星がついたが失踪した少女の件は未だはっきりしないところが多かった。マイクの強引な捜査で地元のポン引きの一人ルールが隠した車を発見しそこから発見された家出少女のDNAが検出された事か張り込むことにしたマイク。ブライアンはトラブルを起こしたアンを送ってその後の合流しようとするが立ち寄ったガススタンドでアンが誘拐されてしまう。これまでの多くの失踪事件をつなぐ鍵が殺人地帯とよばれる荒野にあると睨んでいたブライアンはアンもそこにつれていかれたと考え荒野へ急行する。

　張り込みしていたマイクの前にルールたちが現れたが少女を人質に逃走。踏切止まったときに少女は逃げ出したが警官を撃ってルールたちは逃走してしまった。取り逃がしたマイクはブライアンの留守電メッセージを聞いて殺人地帯へ向かう。マイクの飼い犬に匂いを追わせて殺人現場を発見するブライアンたちはアンを発見する。まだ死んでいないアンをマイクに任せてブライアンは犯人たちを待ち伏せするが返り討ちあってしまう。犯人は失踪した少女の携帯からマイクの携帯へ電話し「相棒は死んだぞ」と告げる。ブライアンは失踪した少女の携帯の追跡を電話会社の社員に頼んでおり、そこからマイクはアンとブライアンを襲ったのがアンの母親の家に出入りしていたあの男、ライノだと悟る。ブライアンの救出をパムに任せてアンの家に向かうマイク。真犯人との対決の時が迫っていた…。

　テキサスと言えばテキサスレインジャー、自主独立性が高いというイメージと国境をメキシコと接しており、犯罪多発地帯、レッドネック（プアホワイト）というイメージもあります。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス。あの舞台も確かテキサス。西部のイメージも大きいですが犯罪のイメージ、闇がぽっかりというイメージも大きい土地柄です。また人間関係も濃く、サツ（警察）に任せるぐらいなら自分たちで。もっといえばよそ者はでていけという。なんだか無法地帯っぽいですが、さすがに都市部ではそういうことは少ないでしょう。どちらかといえば工場地帯や周辺の原野とか人気の少ない所に暮らす排他的なところがそういう部分を強調しているのではないかと。

　この映画もそういう部分を強調しているように思います。ブライアン（ジェフリー・ディーン・モーガン）はNYから来た男でマイク（サム・ワーシントン）は地元生まれの地元育ち、多分ブライアンはNYで何かがあったようでテキサスは妻の故郷ではないかと推察しているのですがそういうよそ者感とか、とにかくねっとりしてくる感覚はこれお父さん譲りですかね、アン・カナーン・マン監督。ただ初手の事件の犯人が逃げてしまったというのがちょっともやもやパターンであそこは別に決着をつけても良かった気がします。そのため印象が散漫な感じを受けました。テキサスの風土とかを感じさせることに成功しているかもしれないけど。そこは残念ポイントですかね。

キャスト

　ブライアン・ヘイには『ウォッチメン』のコメディアンことジェフリー・ディーン・モーガン。最近では『ウォーキング・デッド』で血も涙もない棘バット男ニーガンを憎々し気に演じていますが、こちらでは信心深い、刑事と言う仕事に疲れ切っているよれよれ中年で、家族を大事にするパパの顔を持つブライアンを演じていました。強面が多い人なんだけどこういう役も似合うんだなというのは発見でしたね。相棒のマイク・サウンダーにはサム・ワーシントン。主役はこっちかもしれません。テキサスという土地が嫌でたまらないのにその土地で警官をしているという複雑な役回り。最初はブライアンが話を引っ張っているんですが結末を〆るのはこのマイクなのです。かかえている闇があるなという部分などサム・ワーシントンって割とそういう役多い気がします。

　2人に助けられる少女アンにはクロエ・グレース・モリッツ。『キックアス』のヒットガールですが今回、拳銃を振り回したり、ナイフを襲ってくる連中に突き立てたりはしません（ヲイ。絵にかいたような貧困家庭に育った根はいい子なんだけどというテンプレではある少女役をさすがにクロエちゃん。上手く演じております。マイクの元嫁の刑事パムにはジェシカ・チャスティン。気の強いキツイながらも情け深い刑事を好演。マイクとパムの間の溝とか2人の関係性も短いながらもよく表現されていました。

　アンの母親のルーシーにはシェリル・リー、あの世界一美しい死体といわれたローラ・パーマーを演じたシェリルが人生の最下層の娼婦を演じているのには驚きました。いやエンドロールでるまで気が付かなかったんですが。その他、マイケル・マンの『パブリック・エネミー』に出ていたジェイソン・クラークがポン引きのルール、スティーブン・グレアムが不穏な労働者ライノを演じています。この辺りはマン監督が呼んできたのかな？この作品出ているキャストがみな疲れ切っているというか、じっとりしていてそこも凄いリアリティ産んでいるなと思いました。

　さすがマイケル・マンの娘というところでしょうか。Wikipediaによると『HEAT』の第2班を率いていたとあります。ちなみにマン監督奥様とは早くに分かれておりアン・カナーンは奥さんに育てられていたそうですが、その後父親の仕事を手伝うようになったとか。父親譲りの夜間撮影からフィルターをかけた色調などなど、雰囲気はもう満点あげていいんですが、肝心のストーリーが。失踪事件とアンを中心に据えたストーリーにすれば良かったのではと思うんです。そのためどうにも散漫な印象が拭えないのは残念ポイントでしたね。

　あとアン・カナーン・マン監督、ドラマ『THE BLACKLIST』のシーズン３でも1話だけ監督をしているようですね。また他のラブロマンス映画も撮ってるようなので今後名前がちょくちょく出てくるかもしれないので要チェックかも。Wikipediaの英語版にはもともとはマン監督とダニー・ボイル監督の企画だったようですがお蔵入りしたものをアン・カナーン・マン監督が引き継いだように書いてありました。日本語版Wikipediaのリンクしてある公式サイトのキャッシュにもボイル監督とは書いていませんでしたが別の人の企画を引き取ったというインタビューが掲載されていましたのでこれはほぼ間違いないのではないかと。ボイルが暗いと断念した素材をよくぞとは思いました。完全実録というわけではないですが、雰囲気は一級品のクライムサスペンスでした。とにかく背中にねっとりとねばりつくような感覚の映画です。この手の犯罪映画が好きな人にはおすすめできる1本です。

参考｜Wikipedia｜キリング・フィールズ　失踪地帯

｜Amazon.co.jp: キリング・フィールズ　失踪地帯を観る | Prime Video 

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