今どき『地球防衛軍』というとゲームを思い出す方が多いんじゃないでしょうか。プレイヤーは地球防衛軍の各種兵科の一員として迫りくる侵略者の兵器(巨大化した昆虫とかクリーチャー)を撃退するシューティングゲームです。でも今回ご紹介するのは1950年代に製作されたカラー映画です。ワイドスクリーン東宝スコープで製作され当時まだ珍しかったイーストマンカラーで製作された力の入った映画でした。中でも登場する異星人ミステリアン(当時は遊星と言われています。)のマスクをした風体、その特徴のある声はインパクトがありました。
そしてもう1本、こちらは大戦中に密かに開発された旧海軍の海底軍艦が、第2次世界大戦後の世界に突如として海底より侵攻を開始したムウ帝国に対して決死の戦いを挑む。マッハ2で空を飛び強固な岩盤をも貫くドリルを艦首に装備し、どの潜水艦よりも深く潜航できる。夢の超兵器の活躍を描く映画『海底軍艦』。『キングコング対ゴジラ』の凸凹コンビである高島忠夫に藤木悠が出ているのでコメディタッチなのかとも?思うシーンもありますが、きわめて大真面目に旧軍が密かに開発した超兵器をもって世界を救うというなかなか考えてみると凄い映画です。
ちなみに登場する海底軍艦「轟天」は未だ人気の高い東宝特撮メカです。今回はそんな『地球防衛軍』とドリルは男のロマン『海底軍艦』の話をしたいと思います。
『地球防衛軍』
この映画は以前に当ブログの『tonbori堂映画語り』エントリで紹介しています。かいつまんで言うと、昔、太陽系にあった遊星(惑星)ミステロイドは科学者たちの暴走により核戦争が勃発。星は砕け散りその残骸が小惑星となりました。ですが星が砕ける前に脱出したミステロイドの住人ミステリアンは5千年もの長い年月、宇宙を放浪し、太陽系に帰還し地球にやってきました。富士山麓の地下に秘密基地を築き、日本政府に周辺地域の譲渡を迫ります。最初は友好的な態度を示していましたがやがては地球人の女性を攫い、さらに領土の拡張を要求。ここに至り日本を中心に世界各国が連携、対ミステリアンの共同戦線が張られミステリアン撃退をせんとすることになったというお話です。
tonbori堂映画語り『地球防衛軍』【ネタバレ】|Web-tonbori堂アネックス地球防衛軍DVD/TOHO/懐かしのジュエルケースDVD。 |
時代背景から読み解く『地球防衛軍』
映画の公開前後、1957年の世相は、戦後ももはや遠くになりけり…とはいっても先の戦争の影はまだまだ濃く、朝鮮特需によっての好景気に湧いたものの、日本はまだまだ敗戦国として先の戦争を引きずっていました。そして戦後復興の原動力さえも隣国である朝鮮半島の大韓民国に対して朝鮮民主主義共和国が進軍、国連軍、中国の人民解放軍が加わっての戦争が停戦したものの東西の緊張は高まり、ベトナムでは米軍が介入していました。世界を覆う戦争の影の中で日本は平和を享受していましたがどこか捻じれた気持ちがあったのかもしれません。
他方、エンターテインメントとしての戦争映画を作りたいものの、先の戦争を描くならやはり反省が先にたってしまう。日本は焦土と化し、多くの若者が戦地で散ってしまった。それを脳天気に勝ち戦として真珠湾や勝った勝負だけを描くのは嘘に嘘を塗る行為。映画は嘘のものではありますが、あまりにも無神経になってしまう。だからこそ正しい戦争をどこかで渇望していたのかもしれません。だからこの作品では侵略者を撃退するという世界的な道義からみて「正しい」戦争をする映画になっているのです。ちょっと酷い言い草ですけれど。とは言え敵であるミステリアンは自分たちのしでかした事を棚に上げ、自分たちの繁栄のため(この場合は生存と子孫繁栄のため地球人女性との混血を望んでいた)この戦争を仕掛けてくるところは、国際社会から追い詰められた日本とも重なります。ちょっとアンビバレンツな設定とも言えますね。これがハリウッドならば「今日は地球の独立記念日となるだろう!」とか大統領が言っちゃってモールス信号で連絡をとりあって同時攻撃で侵略者を撃退みたいになるわけですが。そしてだいたい、相手は人を人とも思わない昆虫であったり、本能だけで地球人を襲う怪物であったり基本的に「分かりあえない」敵です。
ミステリアンとはこの映画では殆ど分かり合える事無く彼らは地球を追われていくわけですが、白石と接触し結果的に彼をだましたことになるけれど意思は疎通できたわけです。その後に地球人と異星人との交流を描いた作品はウルトラシリーズで幾つかありました。アメリカでも移民国家であることから、他民族との融和と対立をテーマに『宇宙大作戦』(スター・トレック)が製作されています。つまり立ち位置によりいろいろな見方が出来るのは、やはり戦後から10年以上が経過してもなお世界の情勢や日本の立ち位置が色濃く出ているのではないだろうかと。もっともそれでもなお非常にタイトにまとめられた侵略モノの映画としては傑作の部類に入ると思います。そしてその後にさらに日本はあの敗戦を受け入れ地球の軍隊として異敵を撃破する映画を作ります。それが『海底軍艦』です。
『海底軍艦』
こちらはエントリを書いていませんが、詳しく書くと長くなるのでかいつまんでストーリー語ってみると、土木技師が突然失踪する怪事件が頻発。その謎を追う刑事に、偶然事件に巻き込まれたカメラマンが海運会社の専務と秘書を助けた事でその事件に巻き込まれていき、徐々にこの一件がムウ帝国を名乗る謎の一団の陰謀であることが分ります。やがては専務は元海軍少将で、過去にある戦艦の秘密建造作戦と神宮寺大佐の反乱の真相を知っており、秘書はその秘密作戦でイ403潜で反乱を起こし消息を絶った神宮司大佐の娘ということが明らかになります。そしてムウ帝国は人々の前に姿を現し、海底軍艦の建造停止とかつての植民地を返還するように世界に迫りますが。しかし世界各国は国連を通しこれを黙殺。しかし抗戦の構えをとるムウ帝国の科学力により世界各国でムウ帝国の攻撃が。米の最新式原潜レッドサタンも深海で圧壊しムウ帝国に対し人類は打つ手がなくなります。残された希望は神宮司たち旧帝国海軍人が人知れず、南海の孤島で建造していた「海底軍艦」轟天に託されたというお話です。
元は同名の小説が原作で艦名は轟天ではなく「雷光艇」という名前で、この映画はほぼオリジナルに近い展開だそうです。
翌年は五輪という時代。
『海底軍艦』が作られたのは1963年。併映はクレイジーキャッツ総出演の『香港クレイジー作戦』です。翌年にはオリンピックというこの年、景気は高揚し、既に戦後は終わった空気が醸造されつつあった時代に敢えて先の大戦で秘密裏に建造された戦艦が、空を海を縦横無尽に駆け巡り、敵であるムウ帝国を蹴散らす様は、日本もそういう国にこれからなるよという話なのかもしれません。作品としても、娯楽作品として非常に完成度も高く、『独立愚連隊、西へ』『国際秘密警察シリーズ』などを執筆した関沢新一の手によるものでロマン溢れる冒険譚になっています。普通なら先の戦争で敗戦を認めない一部の将校が反乱(これは『独立愚連隊、西へ』の岡本喜八監督が撮った『日本のいちばん長い日』でも描写されていました。)を起こすという設定は、普通に考えればかなり際どい設定です。
ですが日本、ひいては世界の危機に立ち上がる神宮寺大佐は日本は既に世界の一員ですと宣言するかのような脳天気さも感じられます。(併映がクレイジー映画なだけに)そういった意味では海洋国である日本ならではの海軍信奉や乾坤一擲のためにずっと耐え忍ぶなど日本人好みの展開とはるか古代に太平洋に沈み滅んだとされる幻の大陸ムーを基にしたムウ帝国の伝奇ロマンがエンターテインメントとしてほどよく成立しているのです。
海底軍艦『轟天』
この名前も凄い。戦時中の特攻兵器としてつくられた人間魚雷は『回天』と名付けられたのは天を回して戦局を逆転させるという意味合いでつけられたそうですが、ならば轟天は、その姿を以って世界に轟かせ天を畏怖させるとでもいうのでしょうか。ですが轟天は救世の艦となり、特徴的なドリルで今も人気の高いメカとなりました。人類の救世主となった海底軍艦はいわば宇宙戦艦ヤマトのようなものです。沈み朽ち果てた赤さびの浮いた沈没戦艦の残骸からその錆をまるで脱皮の如く脱ぎ捨てて発進するヤマトの元は、決定的な敗戦から、日本がやがて立ち上がるその日まで、人知れず南海の孤島で来るべき日にその巨体を天に轟かせるため、艱難辛苦に耐え忍んだ轟天建武隊。そしてムウ帝国撃滅のため発進する様は、ガミラスの猛攻から希望を求めて飛び立つヤマトに通じるものがあります。
というか実は轟天は宇宙戦艦としても『惑星大戦争』に登場。ゴジラ映画にも『シン・ゴジラ』が作られるまでのミレニアム2000年からの東宝ゴジラシリーズ最終作であった『ゴジラ・ファイナル・ウォーズ』でも旧作と同じ形をした轟天とゴジラの対決とその後、空中戦艦として生まれ変わった「新」轟天が登場。ゴジラと共にX星人と彼らが操る怪獣たち、ガイガンにカイザーギドラと戦いました。未だに『海底軍艦』はリメイクの呼び声も高く、他にアニメ作品にもなっていたりしますが、tonbori堂は『ゴジラ・ファイナル・ウォーズ』の冒頭に出てきた轟天が良かったですね。平成ゴジラVSシリーズと呼ばれる一連のゴジラ映画に国連対ゴジラ対策部隊Gフォース司令官役を務めた中尾彬と、副官役からその他まで平成ゴジラ常連俳優であった上田耕一が副官という燃えるシチュエーション。VLS(旧作の轟天には無かった装備です)から発射したミサイルで南極のクレバスへゴジラを閉じ込め活動停止に追い込むという活躍を見せました。
ゴジラファイナル・ウォーズで撮影に使われた轟天号。新規に起こされたものだそうです。 あべのハルカス大阪芸術大学スカイキャンパスにて開催された『大ゴジラ特撮展』にて撮影(C)TOHO CO.LTD |
あれは最後のゴジラ映画ということで夢の顔合わせをしてくれたのかなとちょっと思いましたけど、あれだけで1本の映画を作って欲しい。そんな名シーンでした。ちなみに本編は…最後の東宝チャンピオン祭りという感じでしたね(笑)あと関係ないですが米海軍の最新鋭原潜が「レッド・サタン」って…それはいろいろあり得ないですよね。昔は米軍の原潜はやられるんだよねーっていう意識でずっと観てて今回、確認のため観たら…レッド・サタンはないわーってなりました(^^;(ニックネームというか非公式ならレッド・サタンはあっても正式名称ではちょっと考えられない)
どこか同じ匂いのする2本
この『地球防衛軍』と『海底軍艦』はどこか同じ匂いがします。ムウ帝国はかつてその科学力でこの世の栄華を欲しいままにしていましたが大陸が海中に没しその権威は消え去りました。ミステリアンも進んだ科学力を持ちながら行き過ぎた科学力によって星が砕け散ったという、双方ともに亡国の民です。実はこの亡国に日本の鏡像としての役割をもたせたんじゃないか?と思うのですがどうでしょうか。その脅威から世界を守るのは日本と言うのも鏡像であるかつての自分たちの姿を破り禊をするという行為なのかもしれません。いやあくまでもtonbori堂の私感ですが。
まあ単純に空中戦艦α号が轟天っぽいですよねという話も(デザインは双方ともにSF挿絵、ボックスアートの祖である小松崎茂)あります。それでも先の大戦を知っていた人たちが無意識にそういうのを込めててもおかしくないし、意図していたかもしれないなとふと思ったりもします。娯楽作品としても完成されているのでこの夏に続けてみるのもいいかもしれません。あと重要なのはこの2本とも本多猪四郎、円谷英二コンビで撮られている事。本多監督らしいドキュメンタリータッチの淡々とした描写が画面にいい抑制を産んでいるのも見逃せませんね。職人らしい手腕で無ければこの2本は成立しえなかったとも思います。『地球防衛軍』は木村武(馬淵薫)、『海底軍艦』は関沢新一、どちらのフィルモグラフィも興味深く木村武脚本なら『潜水艦イ-57降伏せず』『美女と液体人間』『世界大戦争』『マタンゴ』は押さえておきたいおきたいところです。
関沢新一脚本ならば『大怪獣バラン』『独立愚連隊、西へ』『モスラ』『キングコング対ゴジラ』でしょうか。前回とりあげた『緯度0度大作戦』も関沢新一の手によるものです。硬軟取り混ぜた作風が持ち味でした。ちなみに日本映画専門チャンネルの『東宝特撮王国』では『海底軍艦』と『緯度0度大作戦』なので『地球防衛軍』は別の手段で観なくちゃなりませんが(^^;
追記20180830:
日本映画専門チャンネル、9月の『東宝特撮王国』で『宇宙大戦争』(ロングバージョン)とともに『地球防衛軍』も放送されるようです。(これが最終の放送のようです。)
※Primeビデオでも配信中
0 件のコメント:
コメントを投稿
お読みいただきありがとうございました。ご意見、ご感想などございましたら、コメントをよろしくお願いいたします。【なおコメント出来る方をGoogleアカウントをお持ちの方に現在限定させて頂いております。】