タイトルがいささか懐かしの「木曜スペシャル」のような惹句でありますが、(もしくはウルトラセブン風なナレーションで)『地球防衛軍』はある日、宇宙からやってきた謎の宇宙人(遊星人)によって地球が侵略されるSF映画です。
『地球防衛軍』/©東宝/DVD/懐かしのジュエルケース/tonbori堂所有 |
1954年の『ゴジラ』の成功により続く『ゴジラの逆襲』後に定期的に作られるようになった東宝特撮映画の流れで製作されたもので、『空の大怪獣ラドン』に続きカラーで製作されワイドスクリーンである東宝スコープを採用した最初の映画でOPの東宝マークを挟むようにTOHO SCOPEと入っているのが確認できます。(STORYは結末まで書いていますので読みたくない方は目次から飛ばして本論「ミステリアンの怪ロボット、モゲラ」からお読みください。
予兆
富士山麓のある山村に友人の白石(平田昭彦)を訪ねる渥美(佐原健二)と白石の妹で渥美の恋人、江津子(白川由美)、そして白石の婚約者だった広子(河内桃子)。おりしも村ではお祭りの最中でしたが、気鋭の天体物理学者であった白石が何故、こんな山村に引っ越してきたのか?同僚であった渥美は真意を問いただしますが、白石は言葉を濁します。やがて対岸で火の手が上がり、白石は3人にこの場を離れるようにいい、自らはその山火事の方へ何かを探しに向かいそのまま姿を消しました。
白石に去り際に渡されたレポートを恩師である中央天文台の所長である安達博士(志村喬)に渡す渥美。白石報告書は「ミステリアンの研究」と題され、太陽系の小惑星帯はかつて一つの惑星(遊星)であり、高度な文明があったとし、しかしなんらかの理由で星が破壊され現在のようになったということがまとめられていました。しかし報告書はその後のミステリアンの事について途中で終わっていました。安達博士はあの几帳面な白石がと訝しく思いますが、そこに白石の住んでいた村が山崩れにあい壊滅したとの連絡が入ります。
警察と、防衛隊。科学者による合同調査団に同行した渥美は大地にぽっかり空いた穴を見て何が起こったのかまったくわかりませんでした。同行した科学者も頭をひねるばかり。前日に救助に入った防衛隊によるとガイガーカウンターで強い放射能を検知した場所も再度計測すると殆ど検知されず、何が起こったのかは分からない状況です。さらに上流に調査に向かうことになった警官たちに渥美は同行を申し出ます。途中の河原で村人たちが魚をとっているところに出くわし、村人たちに話を聞くと、なぜか川の水温が上昇、魚が浮かび上がってきたといいます。
さらに奥地に向かうと、こんどは地面の温度が異常に高くなりタイヤのゴムが溶け出しました。ジープを止めて辺りを見回していると、奇怪な電子音と機械音が鳴り、正面の山が崩れそこから金属製の巨大なロボットが出現し渥美たちの前に立ちふさがったのです。
出現
そのロボットは目から光弾を発射し、調査隊のジープをやすやすと破壊。命からがらでその場を逃れた渥美たちは、ふもとの町までなんとか帰還。警察署では対応に追われていました。ロボットはそのまま町まで侵攻、防衛隊による防御線は町の外に構築できず、町の外に。住民の避難が始まりましたが、ロボットは町の建物を次々と光弾で破壊、町は一面火の海に。消防隊の消火も追いつきません。逃げる町の人々を追うようにロボットが境界線である鉄橋に向かったところで防衛隊が橋を爆破、ロボットは川に倒れ込みやっと停止しました。
この怪ロボット出現で、安達博士はもしやこれは白石報告書にあったミステロイドで文明を築いていたミステリアンの仕業ではないかと考え、ここ最近の未確認飛行物体、空飛ぶ円盤の目撃が頻発していることも加え彼らが人知れず地球に来訪しているのではないかと考え、白石報告書を世に問う決心をしました。時を同じくして富士山麓に大きなドームが出現、防衛隊がドームを包囲する中、調査に向かった安達博士以下科学者たちはそのドームからの声に導かれに中に招かれます。
接触
ドームに招かれた安達博士一行は、自らをミステリアンと名乗る者たちと会見します。彼らは白石報告書にあったミステロイドに住んでいたのですが行き過ぎた科学文明の果てに惑星を二分する戦争が起こりミステロイドは破壊されてしまい以後、宇宙の放浪者になったと言います。彼らは安達博士にドームの半径3キロの土地を自由にすることと、地球人の女性との婚姻を認めて欲しいと、そして既にリストは出来ているのでそれに従って彼女たちをこちらに差し向けて欲しいという要求をしてきました。直ぐには返事は出来ないと一度は持ち帰り、対策会議に諮りますが、既に富士山麓にドームを構築し有無を言わさず占領している事と、女性の数人を既に拉致の形で捕えているらしいということが分かり、ミステリアンの要求は断固拒否という結論に至りました。
威嚇
防衛隊はすぐさまドーム攻略のため戦車、野戦砲、戦闘機による波状攻撃を加えることに決定、作戦を決行しましたが、ドームは鉄壁の防御を誇り、ドーム上部より強力な光線を発射。また円盤で戦闘機を蹴散らしていきました。防衛隊の通常兵器ではまったく歯が立たず緒戦はミステリアンの勝利に終わる事になってしまい、ミステリアンはますます行動がエスカレート。東京の上空に空飛ぶ円盤を飛ばし、無益な戦いを止めるようにアジテーションしていくように。
各国から科学者が来日。ミステリアンに対する対策会議が招集されましたが、既にミステリアン側についていた白石がTVの電波をジャックして無駄な抵抗を止めるように渥美に諭します。会議でTVをつかって居並ぶ安達博士や来日したリチャードソン博士やインメルマン博士たちに偉大な化学力を持つミステリアンに抵抗する愚かしさを説く白石でしたが、還ってそれが地球側の結束促し、各国の援助の元にミステリアン包囲網が構築されることになりました。しかしミステリアンはリストにあった女性たちを警察の護衛をかわし空中へ連れ去るなど傍若無人な振る舞いが目に余るようになってきました。そしてとうとうリストにあがっていた江津子と広子もミステリアンに誘拐されてしまいました。
反撃開始
最終決戦
マーカライト・ファープは直径が140mもある巨大なパラボラ反射鏡で敵の光線を反射して相手に返すだけでなく中央部からも熱線を展開できる強力な武器ですが巨大かつ鈍重なため、巨大なロケットにより敵ドームの近くまで空輸のち投下するという作戦でドーム至近で攻撃が可能になりました。マーカライトは素晴らしい性能をもっていますが効力はもって75分、タイムリミットまでにドームを攻略せねばなりません。一方、渥美はドームに囚われた江津子や広子をはじめとする女性を助けるために単身、調査のときに発見したドームの通風口をつかって内部へ侵入。江津子たちを見つけましたがそこにミステリアンたちが押しかけ自らも捕らわれてしまう状況に。
この危機一髪を助けたのは白石でした。彼は科学力に優れたミステリアンが地球人類を導いてくれると信じていたのですが、彼らの目的は地球人類はミステリアンの種の存続だけのための存在で下等な者たちをみており、彼は裏切られたのです。出口まで渥美らを誘導した後、白石報告書の続きを渡し、決着をつけるためドームに戻る白石。
一方一進一退の攻撃を繰り返すマーカライト・ファープとミステリアンドーム。一基のマーカライト・ファープにミステリアンのロボットが迫りますが倒れ込んだマーカライト・ファープでロボットは破壊されてしまいます。残った2基とα号で攻撃を続行しますが効力のタイムリミットが刻一刻と近づいてきました。そこにやっと完成した電子砲を搭載した第2β号が到着、電子砲でドームを攻撃します。白石の内部からの攻撃で防御機能も低下しドームはやがて火の海につつまれていきます。
崩落するドームから間一髪で崩れ落ちるドームから脱出した渥美たちは円盤で逃げ出すミステリアンを目撃します。追撃する第2β号。電子砲で1機、また1機を撃墜していきますが、何機かは大気圏外へミステリアンの宇宙ステーションに逃亡します。しかし監視衛星が国際協力によって建造され打ち上げられたので宇宙からの侵入は阻止できる事になるだろうと渥美は言います。かくして人類は侵略の寸前で、尊い犠牲を払いつつも地球侵略の魔の手から地球を防衛する事が出来たのでした。
ミステリアンの怪ロボット、モゲラ
劇中ではその名前では一回も呼ばれた事はありません。せいぜいが怪ロボットというくらいです。その姿がモグラのようだから「モゲラ」と名付けられたと推測します。この名称自体は作品解説などでよく目にするため特撮好きには周知されている名前です。設定ではミステリアンの拠点構築のために用いられる土木工事用ロボットということですが、そのオーバースペックにより攻撃用に転用されたということですが、そういった説明も一切なしです。
しかしミステリアンの超科学を感じさせるという点においては大成功しているロボットです。前触れからいきなり山肌の中から登場。目から怪光線を発射し町を蹂躙という部分はまるで怪獣のようでもありますが、その特徴的なボディ(金属製を思わせる外観)、電子音、頭でまわっているアンテナなど、そのデザインは多くの人に影響を与えています。例えば漫画家のあさりよしとおさんがディフォルメ化して自らの漫画『中空知防衛軍』にも登場させています。モゲラはミステリアンの量産ロボット(劇中でも2機でてきました)ということからホゲラというロボットを。そこから「機動戦士ガンダム」のモビルスーツ、ザクと融合させたホゲラMk2やキャノン砲をかついだホゲラ・キャノンを登場させています。
『中空知防衛軍』徳間書店刊あさりよしとお著 リンク先はAmazon販売ページ |カバー画はホゲラMk2とホゲラキャノン。高荷義之氏の手によるもの。| |
空中戦艦
60年代にはこういったメカニックが少年雑誌をよく飾っていたそうです。東宝特撮映画ではこの後に『海底軍艦』轟天が登場しています。その後変遷を経て『マイティジャック』の万能戦艦マイティ号、そしてアニメで宇宙戦艦ヤマトが登場し今も空中要塞(戦艦)は続いている系譜です。こういった空中戦艦構想は古くからあり、敵地を空中から強大な火力と防御力をもって攻撃するというものです。例えば日本を爆撃したB-29はスーパーフォートレス、空飛ぶ要塞と名付けられていました。その事から空中を飛ぶ要塞、戦艦というのは軍事関係者の見果てぬ夢ともいえるかもしれません。
α号は流線形をボディを持つロケット型です。どうやって浮上しているのかは不明ですが推進はロケット噴射。まさに子供の思い浮かべる万能戦艦といった姿をしています。デザインはSF挿絵で有名な小松崎茂。小松崎茂は空想科学のイラストやプラモデルの箱絵を多数手がけておられた大家です。そういえば1984年版『ゴジラ』のスーパーXも首都防衛要塞という名称で空中戦艦の系譜…に入るかな?
マーカライト・ファープ
地球側の空中戦艦に次ぐ超兵器。それがこのマーカライト・ファープです。リチャードソン博士の言葉を借りると『簡単に言うとチョッケイ200メートルのレンズです』はてなんのこっちゃ?ようするにミステリアンのドームから放たれる熱線を跳ね返す巨大パラボラ反射鏡で中心部からは熱線が放射できるスーパー兵器です。巨大なパラボラを4脚でささえそれぞれにキャタピラーを装備し移動できます。もっともその動きは鈍重です。そのため防御は主に相手の光線を受けて返す。プラス同威力の熱線ととも、今風に言えば「倍返し!」です。有効射程は1.5㎞、そのため敵のドームの近くに設置する必要があるため専用輸送ロケット、マーカライト・ジャイロでミステリアンのドーム近くに降下させました。しかも反射面の効果をα号に応用できるスーパー技術ですが残念ながら75分間のタイムリミットがあります。これもあさり先生の『中空知防衛軍』にパラボラ光線兵器マークとして登場しました。気になる方は一度検索してみてください。
ミステリアン
ミステリアンの設定は高度経済成長期にはいって出てくるであろう急速な発展に対する警鐘の意味も含ませてあるかもしれません。彼らはもともとミステロイドという惑星に住んでいた太陽系の仲間でしたが、発展しすぎた科学により大戦争が巻き起こり惑星(遊星)ミステロイドは爆発四散してしまったとあります。世はまさに原水爆時代。科学がいきつくところへの不安を映した設定ではないでしょうか。もっともそのミステリアンを侵略者として地球人が日本人が音頭をとって一致団結は先の大戦の負の記憶を払しょくする意味合いがあったという話をどなたかが語っていたのを聞いた記憶があります。映画評論家の町山智浩さんかな?他の方かもしれません。記憶がうすらぼんやりなのでどなたかはっきりしませんがそういう言説を聞いたことがあります。
日本が舞台で、日本で作っている映画だから当然だけど、先の戦争では悪い戦争を起こしたけど、今度は地球を守るという事で「正義」の戦争を行うという。そして主導的役割を果たすというのはある意味に日本の夢であるみたいな。その辺りも感じることがあります。主導するのは科学者で、状況を打開するのも科学者、電子砲を開発するのも防衛隊の「科学」班。やはり技術で立国しなければという想いがあったのでしょうね。でもやはりミステリアンも、上で書いたようにどんどん成長していく科学技術立国日本への不安感も入ってるのも間違いないでしょう。そういえば『ウルトラマン』のバルタン星人も狂った科学者の核実験で星が滅んだという設定で、古くからある設定ではありますが、反面教師として用いられるキャラクターモデルです。
最後に
地球防衛軍はストーリーもビジュアルも当時最高峰の技術を使って作られた映画でさすがに今観ると古いなという点もありますが、その時代でよくぞここまでといった作品に仕上がっています。古いなと感じるのはその時代が映っているからでテーマ、ストーリーは全然古びておらず現代に置き換えても十分通用するストーリーです。もっとも科学的考証は必要かもしれませんが、直径140mを超えるパラボラ反射鏡などビジュアル面でもこういった外連味のあるメカニックもたいしたものです。
またモゲラの設定や見せ方などは今でも通用する映し方をしていて『ゴジラ』とともにお手本になるのではないかと。今気が付いたのですが軍人と科学者グループが中心になって政府関係者が殆ど出ていないのですが、『シン・ゴジラ』とはネガポジになっていて面白いと思います。今観ても古びない東宝特撮映画はまだ幾つかありますがこの『地球防衛軍』今リメイクするとなるといろいろ残念なことになるかもしれません。それでも今の技術でシナリオを変えずにやれないものだろうかとふと思ってしまう、そんなこれは『ゴジラ』ともに名作といっていいでしょう。そんな1本です。
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