その男、天才につき|『ドクター・ストレンジ』|感想/考察【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

その男、天才につき|『ドクター・ストレンジ』|感想/考察【ネタバレ注意!】

2018年4月7日土曜日

MARVEL movie

X f B! P L

 ニューヨークのメトロポリタン総合病院に勤務する天才外科医、スティーヴン・ストレンジ。他の映画ならゴットハンドとも呼ばれそうな神のようなメス捌きで数々の命を救ってきた男。そんな挫折を知らない男が不慮の事故で両腕が麻痺。なんとか麻痺を直そうと辿り着いた先がチベットで魔術を会得することだった!

動画はYouTubeより|Doctor Strange Official Trailer 2|Marvel Entertainment

その名は「ストレンジ」

 なんとも漫画のようなお話ですが原典であるマーベル・コミックスでも同様な設定で高慢で自信家。目に見えるものしか信じない男が挫折を味わい、真理を知り、やがて使命に目覚めるこれまた王道なストーリーだそうです。カンバーバッチは同様な高慢で自信家のシャーロック・ホームズが現代に生きている設定の英国BBCのドラマ『シャーロック』で主演を務めており、まさに適役。そして予告編のビジュアルはこれまた凄いものでした。NYの街並みが、ねじ曲がり裏返っていく。『インセプション』でクリストファー・ノーランが見せた都市が立体的に動き出すビジュアルは正直新味はありませんでしたが、魔法使いが戦う場所としては面白いものでしたし、実はこれはチョイ見せな部分。フェイズ3の作品群は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』はこれまでのカラーを継承していましたが、この『ドクター・ストレンジ』から極彩色にちかい色彩がどんどんと入って来たように思います。(『アントマン』のミクロの世界もちょっとその部分ありましたが。)

多次元宇宙

 この作品はマーベル・シネマティック・ユニバースで初めて多元世界マルチバースの言及がなされたこと。原典マーベル・コミックスでは数々のキャラクターがおり、歴史により同じキャラでも世界観が微妙に違ったり矛盾をはらんできたりしました。そのためそれぞれのキャラが別のバース(世界)で生きているという設定にして多次元宇宙論を展開したわけです。この作品でも多次元からパワーを得たり、また別のバースからの侵略を防いだりと世界の広がりを感じさせる設定を産み出しました。そんな『ドクター・ストレンジ』についてストーリーを紐解きあれこれ書いてみたいと思います。

絶望の中の希望/ストーリー

※ストーリーの結末まで書いております。ご注意ください。

承前

 ある古い寺院の書庫のような場所で数人の男女たちが現れ見張りを殺すと書庫の古い書物の一ページを破りとる。そこに現れた黄色の法衣のような出で立ちのフードの人物。どうやら集まっていた男女たちはその人物の弟子のようだ。人物は女性で彼らの師匠だった。彼らがその書物で行おうとしている儀式を止めようと現れたのだ。するとリーダーの男はその場からゲート(通り道)を作り出しロンドンの雑踏へ逃げ出す。しかし逃げても彼女は追ってくる。意を決し彼女と戦う事に。ビルの壁面が動き出し、異空間へと変貌していく中、魔法陣を作って戦うが仲間がやられていく。その隙にゲートをつくってリーダーと数人の離反者は逃げ去った。

神の腕を持つ天才医師

 彼の名はスティーヴン・ストレンジ。一風変わった名前のこの医者は天才的な腕を持つ外科医。今日も難手術をオペ室で音楽を流し、まるでランチでリラックスしているかのようにその腕を振るい患者を救った。傲岸不遜な態度で決して皆から好かれているわけではないが、それでも救った命は数知れず。その人たちからは感謝されてもいた。ある日学会のパーティに出席するために高級スポーツカーで会場に向かうストレンジに同僚で元恋人のクリスティーン・パーマーから電話が入る。全くスピードを落とさず彼女の話を聞くストレンジ。的確なアドバイスを送ったのだがその直後、ふとしたミスで車ごと崖から転落してしまう。


 自分の勤務するメトロポリタン総合病院に運び込まれたストレンジだったが、両腕の複雑骨折に加え神経にも障害が残る酷い怪我を負ってしまう。自ら指示したオペでも両腕の麻痺は直らずNYの高層マンションもついには去ることになってしまう。そんな時、以前、不可能と思えた傷害で手術を断った患者がチベットで完治したという噂を聞きつけ彼に会い行くことに。ストレンジは今藁にもすがる気分だった。その男ジョナサンは歩けないほどの障害があったはずだが、仕事仲間とバスケットに興じていた。ジョナサンはストレンジに対して以前手術を断られたとにべもないが、震える両腕を見て、チベットのカマー・タージに行くように勧める。

カマー・タージへ

 残ったお金でなんとかチベットへ向かうストレンジ。しかし街を彷徨うも、カマー・タージを知る者はおらず無為な時間だけが過ぎていく。そんな時、唯一残った高級腕時計を見咎められ街のごろつき共に絡まれるストレンジ。暴行され腕時計を奪われるが、物陰から出てきた男が不思議な体術を使いごろつきどもを一掃する。彼はストレンジをずっと見ていたといい自分の名はモルドと名乗り、ついてこいとストレンジを促す。


 彼はカマー・タージの人物だった。一見普通の建物の中にカマー・タージはあった。そこでストレンジはエンシェント・ワンと皆から呼ばれている導師とあう。彼は動かない両腕の治療法を求めるがエンシェント・ワンは彼に治す方法はないが魔術を教える事は出来ると告げる。非科学的なものを一切信じないストレンジにエンシェント・ワンは彼を魔術を使いアストラル体を分離させ異なる世界を体験させた。驚愕したストレンジはこの深遠なる技術を知りたいと願うが、エンシェント・ワンはそれを拒否する。しかしモルドが彼は素質があるととりなし、ストレンジが魔術を学ぶことを許す。


 カマー・タージは外見は普通の建物であるが中は広大で、マスター・ウォンが護る書庫には古の魔術書が多数残されており、またこの場所は物理的ではなく高次元からこの世界を守るための結界の中心であり、この他に三つある結界、サンクタムとつながっているという。三つのサンクタムはニューヨーク、ロンドン、香港の三か所に置かれそれぞれエンシェント・ワンの高弟たちが護っていた。またカマー・タージの中心にはアガモットの目と呼ばれる宝物があり、時を操る魔術が使える秘宝があった。最初は基本の魔術さえ碌に使えなかったストレンジだが、エンシェント・ワンによるヒマラヤの山頂から基本的な魔道具であるスリング・リング使いゲートを開く試練を突破した後、生来の才能、見たものをすぐに覚えられる能力を使いどんどんと吸収していく。やがて彼は書庫の古書を読み漁り様々な魔法を吸収していくがウォンに立ち入りを禁じられたエンシェント・ワン専用の書架にある古書のページが破り取られていることに気が付く。


 それこそがエンシェント・ワンが追っていた人物の破り取った古書だった。破り取ったのはカエシリウス。エンシェント・ワンの一番弟子にして闇の魔法に魅入られた者。彼はその闇の魔法で暗黒次元の魔王、ドルマムゥと契約し暗黒の力を得てこの世を暗黒次元の力で永遠の闇に落とそうとしていた。その書を読み進め、アガモットの眼を使った時間操作の魔術を行ったストレンジにウォンとモルドはアガモットの眼を使う事は暗黒次元の力を使う禁忌に触れる事になると警告する。

闇に落ちた魔術師

 カエシリウスはとある教会で古書のページから解読した内容でドルマムゥと交信しこの世を暗黒にかえることで自分の望みをかなえようとする。それにはエンシェント・ワンが作ったサンクタムの結界を崩す必要がある。まずはロンドンのサンクタムを襲撃し結界の一つを崩し、次はニューヨークのサンクタムに侵入するカエシリウスたちだったが、カマー・タージのゲートからやってきたストレンジと鉢合わせになり魔術を使って戦う事に。激しい戦いの後、魔道具の一つでカエシリウスを拘束する事になんとか成功するが、カエシリウスは衝撃的な事実を話し出す。


 やってきたエンシェント・ワンが実は暗黒次元から力を得て自らの命をつなぎとめているという。ストレンジが彼女を問い詰める隙を付いて拘束を外しエンシェント・ワンに致命傷を負わしたカエシリウスは逃亡。ストレンジは彼女を勤めていた病院に運び込む。突如光のゲートで現れたストレンジに驚くクリスティーンだったが、瀕死のエンシェント・ワンへの延命治療を始めた。しかしカエシリウスの部下たちがアストラル体で攻撃を仕掛けてくるためストレンジもアストラル体で応戦。エンシェント・ワンを護るが、彼女は暗黒次元の力を借りたのは事実であり、それは禁忌を犯してでもこの世界を護るためとストレンジに語り、頑なモルドだけではカエシリウスには敵わないが、柔軟に対応できるストレンジとモルドが力を合わせれば退けることが出来るだろうと語り息を引き取った。


 亡くなったエンシェント・ワンに変わり香港のサンクタムに向かうストレンジ、モルド。既に結界は破られ香港を護っていたウォン倒されは暗黒次元が開かれようとしていた。ストレンジは暗黒次元の中に入りドルマムゥと対峙し彼を説得しようと試みるがする間もなく殺される。しかしその瞬間時間が巻き戻った。彼はドルマムゥに対してアガモットの眼で魔術をかけ永遠にループするように仕掛けたのだ。やがてドルマムゥは永遠に繰り返されるループに苛立ち、ついにストレンジと対話する。このループを解除する条件は暗黒次元の僕とともに地球から手を引く事。ドルマムゥは不承不承、承知しカエシリウスを暗黒に引きずり込み地球から去っていった。ウォンは禁忌の術ではあるが助けてもらった事に対してストレンジに礼をいうが、モルドは一人、禁忌を犯したことを許せずストレンジと袂を分かつことにし、その場を立ち去る。そしてストレンジはエンシェント・ワンに代わりサンクタムを再建し再び結界を張ったのであった。

 そんなストレンジの元にアスガルドからの訪問者が…!そしてモルドはジョナサンの元を訪れ彼から魔術の力を奪い去る。「この世界には魔術師が多すぎる」と嘯きながら。

世界の守護者

 エンシェント・ワンはこの世の摂理に沿いながら多元世界を行き来し、未知のパワーを使う魔術師です。その目的はこの世界を、他の次元より護る事。世界の調和を乱す者からこの世界を護るのが使命です。そのため永遠に近い悠久の時を生きてきた彼女は、実はこの世界と反する暗黒次元の強大な力を得てその生を繋ぎとめていました。高弟であったカエシリウスは愛する人を亡くして道に迷っていた時にカマー・タージを門を叩き弟子になったとされていますが、優秀で、傲慢、とストレンジに似た性質を持っています。だから劇中でストレンジとの最初の時に彼女は彼に教えることを拒否したのですが、もともと後継者を育てようと考えていた事もありモルドの進言もあったことからストレンジを弟子に迎えました。


 その彼女が暗黒次元の力を使っていたのは確かに自ら定めた禁忌に触れる話ではありますが、東洋の陰陽道や太極に照らせば光ある所には影あり、陰陽そろってこそのバランスという事でなんら不思議ではない話です。ただし暗黒次元の力は諸刃の剣。使うものも滅ぼしかねない危険なものというのも定番中の定番です。だからこそ柔軟に、かつ恐れることなくそれを使えるものでないとダメなのです。モルドも結局は頑なな自分の正義に固執して最終的に闇に落ちてしまいました。確かに彼の言う通り暗黒次元の力をつかうという自然の摂理に反した事をしましたが目の前と多くの人々の命を救うというストレンジの行動もまた正解なのです。


 エンシェント・ワンはその場の最適解を解ける人物をずっと待っており、それがストレンジだったということなのです。彼もその性質は傲慢かつ優秀な人物。カエシリウスとは同質なれど、人を救う事に喜びを見出せる医者だったことが彼を導いたのです。だから彼は問われて自らを「ドクター」を名乗るわけです。

エンシェント・ワン

 マーベル・コミックスの原典ではエンシェント・ワンはいかにもなチベットの仙人という出で立ちのアジア人の老人だったそうです。それをティルダ・スウィントンという女性が演じるという事でちょっとした騒動が起こりました。ハリウッドでは今ホワイトウォッシュというアジア人の役を白人が演じるという人種問題やハラスメントの問題が大きな課題です。セクシャルハラスメントはワインスタイン・スキャンダル後の世界的な動きで急速に問題が噴出しつつもそれを改めようと動いています。この件はその以前に起こった話ではありますが、当時盛り上がりつつあった機運もあり、アメリカではそういった批判が巻き起こっていました。


 しかもティルダが演じる事により女性を差別するのかというところまでに発展しそうではあったんですが、やはり神属性のキャラクターを演じさせるとティルダ・スウィントンはぴったりはまる。もちろん白髪、長いひげのアジア人で老人の俳優がするのもいいんですが、それだとやっぱりステレオタイプなのは否めない、tonbori堂としては彼女で良かったと思っています。

マルチバース

 今回の映画、ともかく映像が凄い。仮の次元であるミラー次元なんてアニメではよくでてきたり、ようするに『宇宙刑事ギャバン』だったら「マクー空間に引きずり込め!」っていうあの異空間みたいなものなんでしょうが、ミラー次元という空間を作りだし、そこで戦闘したり、現実世界をミラー次元に置き換えるなど、現実世界に影響を与えず戦闘を行えるわけです。これは、相手をそのフィールドに封じ込めないと難しい話なんでしょうがかなりな便利技ですよね。特撮ヒーローモノでも戦闘シーンをガチでやると街がめちゃくちゃになっちゃいますよーっていう問題は昔からファンの頭を悩ます問題でした。もっとも限定的ではあるようですし相手を取り込まないとなりませんけど。


 街の損害というかコラテラルダメージ(付帯被害)はマーベル・シネマティック・ユニバースでも『スパイダーマン/ホームカミング』ではダメージコントロール局という半民半官の組織が出てきていましたし『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』まではS.H.I.E.L.Dが後処理を担当していました。『マイティ・ソー/ダークワールド』後のロンドンでS.H.I.E.L.Dが後片付けと危ないダークエルフの遺物を整理保管を、コールソンがぼやくというシーンが『エージェント・オブ・シールド』Season1のエピソードでありましたね。


 このマルチバース展開は今後のM.C.Uでの別世界のアイアンマンがとか、別世界のヒーローがやってきたり、ドマルムゥのように異次元からの侵略者などなどマーベル・コミックスでもある展開が行われるかもしれない、その橋渡し役としてもストレンジは今後の中心人物となるかもしれません。

ストレンジの護るもの。

 この世界マーベル・シネマティック・ユニバースフェイズ1から3までの世界であり、今後インフィニティウォー後の世界がどうなるか。それは分かりませんが複数の世界を守る事になるかもしれませんし、世界の均衡を守る守護者としてこの世界の要で居続けるのではないかなと思います。『ブラックパンサー』がフェイズ3からのM.C.Uの転回点とすれば、この『ドクター・ストレンジ』はフェイズ3から先への未来への眼としてという事ではないでしょうか。『インフィニティウォー』での活躍も楽しみです。

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