2018年3月1日、アメリカの公開から遅れる事、約半月。大ヒットの波を受けて公開となりました。まだ日本の興行成績はでていませんが並みいるライバルも多い春休み興行の前半戦、どういうことになるかも気になりますが、なによりマーベル・シネマティック・ユニバース(M.C.U)は『アベンジャーズ/インフィニティウォー』という大締めへの助走の作品もある中で、今後のM.C.Uを引っ張っていくと思われる『ブラックパンサー』期待に違わず、いや期待以上の作品でした。
【ネタバレ】※内容に関してズバリな部分は書かないようにしますがちょいちょいと内容が分かるような事を書いていくと思うので情報をシャットアウトしたい方はご覧になってからお読み下さい。
【ネタバレ注意】
ワカンダ・フォーエバー!!
ワカンダの若き王、ティ・チャラ
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でソコヴィア協定のまとめ役となったアフリカの小国、ワカンダの新たな王、ティ・チャラこと「ブラックパンサー」が主役の映画は、黒人のアイデンティティやアフロフューチャリズム、アメリカの黒人の歴史までも包括し、今の世界の写し鏡とも言うべきストーリーと秘密のミッションを遂行するブラックパンサーとワカンダの戦士たちの活躍。130分間飽きる事のないエンターテインメント大作に仕上がっています。こう書くとなんだか詰め込み過ぎて肩がこりそうだなと思う方もいらっしゃるかもしれませんけど決してそんなことはなくストーリーは王道。新たな王として踏み出す青年が父の隠した秘密に苦悩し、最強の敵と戦う。そんなお話です。そこには家族、仲間、友、導師、全てのエレメントがしっかりと揃っており、中心にいるティ・チャラに影響を及ぼし合っているのです。
ストーリー
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で登場し亡くなった父より王位を継承したワカンダの若き王ティ・チャラは、ワカンダの守護神『ブラックパンサー』としての顔も持っている。ワカンダはアフリカにある小国。その地に太古の昔、宇宙から隕石が落下した。隕石は衝撃を吸収し放出するという特殊な力を持つヴィブラニウムという鉱石だった。やがて落下した場所に五つの部族が集まった。部族は争いを繰り広げていたが、豹の化身バーストに導かれたパンサー族の族長が、その地に生えているハートの形をしたハーブを飲み、超常の力を得て各部族を平定した。そしてヴィブラニウムの力で豊かな国を打ち立てたのであった。
そのヴィブラニウムの取引が行われるという情報を得たティ・チャラは国外でスパイ活動を行っている幼馴染で元恋人のナキア、王の側近で護衛部隊ドーラ・ミラージュの隊長オコエとともに取引の行われる韓国のソウルに赴く。そして以前にワカンダへ侵入しヴィブラニウムを盗み出した大罪人、ユリシーズ・クロウをカーチェイスの末捕える事に成功した。しかし、にせの取引でおびき寄せたCIAが先に尋問することになったのだが突如謎の集団がクロウを救出に来てまんまと逃げおおせられてしまう。実はこの取引にはある男の企みがあった。ティ・チャラはその企みを見事に打ち破り真のワカンダの王となることが出来るのか?
ワカンダの王、ブラックパンサー
【ここからネタバレ入ります】
ティ・チャラの父、ティ・チャカは先代のワカンダの王で、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』においてアフリカ/ナイジェリアのラゴスで起こった事件が元で、『エイジ・オブ・ウルトロン』のソコヴィアでの悲劇を引き起こした過ぎたる力を規制するためのソコヴィア協定の発議し、そのとりまとめ役をしていました。しかしアベンジャーズに復讐を誓うジーモの策略による爆弾テロにより落命してしまいました。
ティ・チャラはその後を継いでワカンダの王となったのですが、ワカンダの王になるにはある儀式を経なければなりません。といっても普通は株主総会でのシャンシャンみたいなもの?のようでしたがそこにワカンダ5部族の中でも平地に住んだ4部族とは違い、山岳部に住み着いているジャバリ族の族長エムバクが突如挑みかかってきます。ジャバリはワカンダの守り神である豹の神バーストを奉らなくゴリラを奉じていたため長きに渡り高い山に追いやられていたのです。そこでエムバクと決闘し彼を降伏させました。(王の資格を得るにはブラックパンサーの能力を一度失い挑戦者の挑戦を受けなければなりません。それはジャバリも含めたの他4部族の代表者と王族のならだれでも挑戦できます。その勝負は死か、相手の降伏かによって決まるとされています。そしてハート型のハーブを服用し土中に埋められ祖先や神と交信し再びブラックパンサーの能力を得ることが出来るのです。)
ここまでのシークエンスの前にナキアをピックアップするためによその村から人を攫う人買いをあっという間に壊滅させるブラックパンサーの能力、戦闘力を見せるシーン、ティ・チャラを迎えるラモンダ女王にシュリ王女、エムバクの乱入など、外の世界はワカンダほど平和ではないと見せておきつつ、儀式の際にワカンダも決して一枚岩ではないと見せる部分は上手いなと思いました。それぞれの想いや考えが交錯する。これはこの映画でも重要な部分で、アバンタイトル1992年のアメリカ、カリフォルニア州オークランドの出来事もその部分に関係してきます。今回のヴィラン、キルモンガーは登場時、謎の人物ですが、ある程度物語進むとこの男もしや?となり、そして正体を明かした時に、ああやはりと。そこで彼の出自と歩んできた道のりが非常に重要になってきます。
公民権運動の頃にオリジナルが誕生したブラックヒーロー
原典コミックスのブラックパンサーがマーベル・コミックで誕生したのはアメリカで公民権運動が激化しようとしていた頃でした。同じようにアメリカで苦労していたユダヤ人が産み出したブラックヒーローはアメリカの黒人たちに受け入れられ人気を博していく事になります。ですが差別が無くなったわけではないし、今もそれはあります。警官による黒人射殺事件は今もアメリカを悩ます問題です。また最近では『デトロイト』というキャサリン・ビグローが撮った映画がありましたが、ちょうど本家マーベルコミックスのブラックパンサーが誕生したころに実際にあった事件でした。
時はキング牧師暗殺、公民権運動の盛り上がり、そして過激派であるブラックパンサー党などが現れました。映画冒頭のシーンであるアメリカ、カリフォルニア州オークランドはそのブラックパンサー党発祥の地であります。また92年はロサンゼルス暴動のあった年。そういう時代を経てと黒人の地位は確かに上がったけれど、根底にあるものを揺さぶるエレメントがありました。それが、これほどの大ヒットになるのはやはりアメリカでも思うところが大きいのかなと感じました。それはヴィランであるキルモンガーもその出自と辿った道程を考えると複雑なものを背負っているなと考えざるを得ないのです。
※追記2018.03.12 少しだけ改稿追記しています。大筋での変更はしていません。時代背景を少しだけ書き足しました。
※追記2018.03.17 さらに少しだけ改稿追記しています。オークランドについて少しだけ書き足しました。
※追記2023.09.23 説明が分かりやすいように文章を整理しました。
超文明国家ワカンダ
既にワカンダは数年先のテクノロジーを持ちながらも無用な争いを避けるため表向きは農業が主な産業である途上国として国際社会では認知されていました。ですが実際にはヴィブラニウムの研究、開発を進めて世界でも有数の科学立国になっているのです。ただしその力が強大すぎることもあり、無用な争いから国を守るために基本的には他国の人間は受け入れず、長らく半鎖国状態にありました。またシールドなどで首都をコンシールド(隠蔽)し通常は世界でも最貧国であり主要産業は農業と牧畜と偽装までしています。そのため前年のティ・チャカ王の国連での働きかけは珍しい事だったのでしょう。実はこの映画、ティ・チャラが真の王となる話でもあると同時にワカンダの行く末と未来に向けての希望を見出す内容にもなっているのです。それは今の世界にも向けたメッセージともとれます。アフロ・フューチャリズムという言葉があるそうです。この『ブラックパンサー』にはその考えというか、思想が色濃く反映されていてそれはワカンダの描写に特によく表れています。
ブラックパンサースーツとM.C.Uのハイテクノロジー
ブラックパンサーは王の鎧ともいうべきヴィブラニウム製のスーツを着用します。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の時はマスクは被っていましたが、今回は妹の天才科学者シュリの手によるバージョンアップによりマスクのみならずスーツも豹の牙飾りの中に収められたヴィブラニウムを使用したナノテクノロジー?のようなハイテク装備となりました。キャプテンの盾のように全ての攻撃を跳ね返すだけではなく、その攻撃を吸収しため込んだエネルギーを放出することも可能。手にはヴィブラニウム製の爪。その他、ワカンダの先端技術を用いたガジェットで敵の乗り物を止めたり、通信することも出来ます。
S.H.I.E.L.D(シールド)の装備は084と呼ばれる危険な遺物(オーパーツのようなもの)からのリバースエンジニアリングと思っていましたが、ハワードがヴィブラニウムを何時の時代に手に入れたのか?トニーのリパルサー技術、(アークリアクター)などなどもしかすると源流にワカンダの技術が?と想像するといろいろ考えさせられますね。ハワードはトニーと同じく天才肌の科学者でしたが、一方で秘密裏に超人血清を残しておいたり、ヘンリー・ピム博士の縮小技術を博士が明かそうとしないので強引な手段で手に入れようとしたり、まあそういうちょっとズルい部分があったわけです。なのでそういう事があったかもと妄想できるんですが、もちろん全てがワカンダ由来とは言いませんが幾つかの技術の元ネタがワカンダにあるという風に考えるとちょっと面白いかもしれませんね。
魅力的なキャラクターたち
主人公ティ・チャラ、ヒーローというか実はヒロインポジションでもあるという面白い事になっています。演じるチャドウィック・ボーズマンは40歳、遅咲きと日本では言われていますがなかなかの才人です。なんでもブラックパンサー役を直接オファー受けたとかで、通常オーディションで決まる事が多いハリウッドの映画産業界ではこれは異例な話だそうです。
ティ・チャラの傍には常に女性が寄り添っています。その一人ティ・チャラの元カノでウォードッグというワカンダ国外で活動するいわばスパイであるナキアをルピタ・ニョンゴ。ワカンダを愛しているがゆえにその力で外へ何かを出来ないかを考えている自立した女性を凛々しく演じています。国王の親衛隊であるドーラ・ミラージュの隊長であり王の側近オコエをダナイ・グリラ。人気海外ドラマ『ウォーキングデッド』で日本刀をふるう戦士、ミショーンを演じています。今回は気高く、ワカンダを護る戦士を力強く演じていてナキアとともに美味しいところをもっていく活躍をしています。そしてプリンセス・シュリ、ティ・チャラの妹で、ヴィブラニウムを扱う技術に長じた天才科学者で新型ブラックパンサースーツも彼女の手によるもの。様々なガジェットを開発し兄を助けるしっかり者の妹です。演じるは新星、レティーシャ・ライト。彼女も『アベンジャーズ/インフィニティウォー』の登場が確定しているとかでトニーやバナーと会う事があるかもしれません。M.C.Uの天才の邂逅は観て見たいですね。
ヴィランであるエリック・キルモンガー。複雑な生い立ちを持ちその牙を研ぎ続け機会を伺う男を演じたのは監督であるライアン・クーグラーとは『フルートベール駅で』ロッキーの続編『クリード チャンプを継ぐ男』で組んだマイケル・B・ジョーダン。彼の演技は控えめにいっても最高でした。いいヒーロー映画には最高のヴィラン。それを見事にこなしたと思います。
他に長老ジリにはフォレスト・ウィテカー、前国王の妻ラモンダ女王にはアンジェラ・バセット。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にも登場したCIAエージェント、エヴェレット・ロスにはマーティン・フリーマン、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』にも登場したかつてワカンダよりヴィブラニウムを盗んだユリシーズ・クロウにはアンディ・サーキスと脇も魅力的な演技をみせます。
今後のM.C.Uを牽引するニューヒーロー
ワカンダの新たな道を指し示したティ・チャラはこの後のM.C.Uを牽引していくことになると思うヒーローであるのは間違いありません。ワカンダの新たな道は決して平たんなものではなく、ヴィブラニウムという資源と進んだ科学は大国にとっては脅威でしょう。これまでのように半ば鎖国を守っていれば平和は続いたかもしれません。しかしそれでは何時かは衰退してしまう。ましてやキルモンガーのように他国をその進んだ力で支配する事は同じ事の繰り返しになってしまう。だからティ・チャラは傍観は止め、世界と関わっていく事を選んだ。そういう決意のラストだったように思います。直近では『アベンジャーズ/インフィニティウォー』でティ・チャラが担う役割と、ワカンダで繰り広げられる戦いに期待したいと思います。
参考|映画『ブラックパンサー』は、なぜ全米に熱狂の嵐を巻き起こしたのか──人種を越えた「社会現象」の理由|WIRED.jp
音楽最高でした。GoTG、ソー・ラグナロクに続き最近のM.C.U作品は音楽も熱いです。
|Amazon.co.jp: ブラックパンサー・ザ・アルバム: ミュージック
例のアジアプレミアで観覧し、少しは「はて?」と思っていたこともありました。
返信削除王位継承をめぐる秘密、受難、復活を描く王道英雄譚に、背景はハイパーハイテクノロジー社会。
…あれ、これ「マイティソー」と瓜二つじゃん。
(アクションが地味なところがあることや、最終決戦が「橋の上」で繰り広がれることまで!)
しかしそれだけだったらマーベルの凡作になってしまったかもしれませんが、主人公がブラックパンサーだったからこそ、
ハリウッドヒーロー映画の歴史に一線を描く作品になれたと思います。実際、韓国の観客の間ではその点をキャッチしていない層から「ちょっとつまらない」とか「黒人のことなんかわかりもんか(これは確かに酷い)」という評価もありますから。(その割に2週間弱ですでに観客数450万を超え500万に向かって一直線を走っていますけどね)
アフリカが舞台で、人物のほぼ全員が黒人といっても所詮「アメリカの黒人運動で思い描く『理想のアフリカ』なんだろう」というのが私の感想で、実際のところアフリカの観客から美術に関しては似たような評価を受けているそうですが、それでもアフリカやブラジルの黒人社会から熱狂的な支持を得ているそうです。アフリカのプライドを高揚してくれて、「決して我らの伝統を捨て西欧の進んだ道を従うだけが発展への道ではない」という意識を刺激しているとか。アメリカ以外の黒人社会ではシンドロームに近い現象になっているみたいです。
余談ですが、ナキアがわざと捕まっていた人身売買組織はあの「ボコ・ハラム」だそうです。現実を反映しているのもアフリカでのいい評判の原因の一つかもしれませんね。
カンさん>
削除私、ヒストリーチャンネルのアメコミ大全でスーパーマンからこのブラックパンサーの成立という歴史の予習が出来てたことと、さらに『デトロイト』という映画を観たのがきいてるのかもしれません。
実はそういうアフロ・フーチャリズムという部分の指摘はあちこちでされているようです。そこを盛ってもなおマーベルという世界を壊していない。拡張したというのは凄いしちゃんと娯楽超大作になってる部分にはほとほと感嘆いたしました。
しかしナキアが潜入しようとしていたのが「ボコ・ハラム」とは、そこにも踏み込むとは。なるほど参考にしたワイアードの記事で、まさに熱狂だなと思いましたが、そういう事でしたか。