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BLOOD TYPE:BLUE|『ブルークリスマス』(1978公開|東宝)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

2018年2月24日土曜日

movie SF

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 ドラマ『北の国から』の倉本聰脚本、『独立愚連隊』『大誘拐』の岡本喜八監督による東宝映画『ブルークリスマス』はSF映画ですが特撮の無い一風変わった作品です。ここいらの事は『ブルークリスマス』をとりあげているであろうブログや映画系評論サイトで何度も語られていることでしょう。ですがこの事がこの作品を唯一無二の作品にしているためこれを外すして語ることは困難です。

画像はAmazonより(リンクも)|『ブルークリスマス』|(C)1978 東宝
画像はAmazonより(リンクも)|『ブルークリスマス』|(C)1978 東宝

特撮の無いSF映画

 SF映画ということもですが岡本喜八監督作品でも異色中の異色作と言っていい本作、もっとも喜八監督の作品はどれも異色作と言われる事が多いんですが中でも作品の成立から評価までひっくるめてある種のカルト作品としても知られている『ブルークリスマス』についてちょっと書いてみようかと思います。というのも先月になりますが、CSの日本映画専門チャンネルで庵野秀明特集というかエヴァンゲリオン一挙放送+『シン・ゴジラ』チャンネル初放送があり、その前後にその関連だと思うのですが岡本喜八監督の作品も幾つか放送されていたのです。


 そこで何本かを久しぶりに観たのですが、本当に庵野監督は岡本喜八監督に影響を受けているなという事がよく分かったのです。それで、今回は脚本が倉本聰という異色作である『ブルークリスマス』について書いてみようと思い立ったわけです。ちなみにこれは知ってる人も多いと思いますが『エヴァンゲリオン』の使徒の識別コード「パターン:青」はこの作品からとられています。


二人の異才

 この作品の脚本を書いた倉本聰は自身の脚本を一言一句そのまま使う事を要求し台詞の変えることを嫌うといいます。しかし岡本喜八監督は撮影に際しては一部の変更を申し入れたようです。ただ撮影はされたものの使わなかったというのもあるようで、その辺り後年不満を漏らしていたとか。ちなみに倉本聰が宇宙人という設定をもってきたのは当時空前のUFOブームがあったこととも無関係ではないと思いますが『北の国から』にもUFOの目撃というか接近遭遇な話もあったので77年公開の『未知との遭遇』の影響も何らかの形であったのかもしれないなと想像しています。


 それまで宇宙からの来訪者は、冷戦下で何を考えているのか分からない東側を仮託して忍び寄る侵略者というイメージがありましたが、『未知との遭遇』はそれとは違う宇宙人像を描いています。ならばもっと友好的ムードになってもいいじゃないかと思いますが、倉本聰にとってはUFOより前年にNHKの大河ドラマ『勝海舟』の降板を契機にTV局への不信感が募った気持ちからでこのシナリオを書き上げたとも噂されています。実際に倉本聰は何事においても批評精神旺盛なところがあるのは周知の事実。権力や体制側への批判を込めて敢えてこういうシナリオを描き上げたのでしょう。


 かたや岡本喜八は東宝生え抜きの職業監督でもあった人物。監督になったのも自分の脚本である『独立愚連隊』で、シナリオも書ければ他人の脚本でも喜八カラーというべき色を出せる映画人。ウェブや書籍で語られている多くのものでは倉本脚本を一言一句違えずにということには閉口したものの、倉本聰のシナリオを自らの手で撮影できることを喜んだともあります。そして限られた(それでも当時の映画としては大きな)予算で海外ロケを敢行し、再現の難しいホワイトハウスのシーンや暴走族を治安部隊が鎮圧するシーンをカットすることを倉本聰がのんだことにより完成したという逸話は先に上げましたが、ホワイトハウスのシーンは一応撮影されたものがあったようでAmazonビデオにある『ブルークリスマス』の予告編にはそのシーンとおぼしきシーンが入っています。

ソース|ブルークリスマス - Wikipedia

 それでも随所に細かいカット割りに印象的な照明、そして印象的な構図が頻出しています。よく見ると庵野監督の作品でも同じような構成だったりカットが見つかるかも。特にtonbori堂が印象的にこれはそうではないかと思ったのは、酒場の2階で勝野洋と沖雅也が語るシーンやクラシックがかぶさってくるシーンです。ここで勝野洋演じる特殊部隊の沖と同僚であったものの飛行訓練中にUFOと遭遇し血が青くなってしまった原田を演じる沖との対話はゲンドウと加持、あるいはミサトとリツコ。ゲンドウと冬月などよく似た構図が使われてるなと。そう言えば無人の駅で沖と彼と恋に落ちる冴子(竹下景子)と先の話をするシーンも影響及ぼしているなとか。またNYで仲代達也演じるジャーナリストとと岡田英次演じる科学者がNYを散策しながら語るシーンもそうかもしれません。そして『シン・ゴジラ』で見られた登場人物のキャプション。これは『日本のいちばん長い日』でも数多いキャラを捌く為に用いられたと思うのですが、今回の映画でも使用されています。

ストーリー

 1978年、国営放送JBCの報道部員、南は京都での国際会議中に突如UFOと宇宙人について訴えた兵藤博士の行方を追うように命じられる。同じころ知り合いの記者、木所より恋人の血が青いと相談を受けるのだが何を馬鹿な事をと一笑に付す南。果たして木所の恋人でもある女優の高松夕子はJBCの大河ドラマの主演を来日中の人気ロックバンド「ザ・ヒューマノイド」との麻薬パーティにいたことによる麻薬所持というスキャンダルで降板となる。


 一方、兵藤の行方を追う南は手掛かりを追ってニューヨークへ向かう。街を歩き回りやっとのことでコンタクトをとった兵藤博士は驚くべき事実を告げる。最近目撃情報が頻発しているUFO。それを目撃した人間は血液が青くなるというのだ。既にこの事実は各国首脳の間では秘匿された事実であり、青い血の人間を秘密裏に隔離し、人体実験や非道なロボトミー手術を行っているという。青い血の人間が何をしたというわけではないが、宇宙人によって操られるかもしれない。また全く別の何かになったかもしれない。そういう恐怖から各国は秘密裏に青い血の人間を処分しようとしているというのが博士の主張だった。しかし南と別れたすぐに博士は謎の人物たちに拉致されてしまう。


 日本に戻った南には取材中止命令が降り、新聞社にリークしようとした記事や資料も記者との待ち合わせ場所に待ち受けていた謎の男たちに没収されてしまいパリへの異動を命じられる。一方、国防庁参謀本部に務める沖は、上司の沢木率いる特殊部隊に配属される。彼らの任務は青い血の人間を秘密裏に処分すること。そんな中、沖は散髪屋につとめる西田冴子という女性と親しくなる。深い仲となった沖と冴子だったがベットを共にしたときに彼女の血が青い事に気がついてしまう。


 もともと真面目な沖は普通の怯える人たちにしか見えない青い血の人間を処理する仕事をしていることで深い苦悩を抱えていたが彼女と一緒になる決心をして親に紹介するという。そして彼女は沖に青い血であることを告白する。おりしもクリスマスイブが近づく中、青い血の人間を一挙に殲滅する陰謀が静かに進行していた。青い血の人間がいることはすこしづつリークされ、情報がコントロールされるメディア。そして大きな陰謀。そしてその年のクリスマスに事件は起こった…。

BLOOD TYPE:BLUE

 庵野秀明の岡本喜八好きは有名で、これまた巷間で言い古されている話ではありますが『新世紀エヴァンゲリオン』に出てくる使徒の『パターン青』は先に書きましたように『ブルークリスマス』の英語題から来ています。

 見かけは人間と同じだが人ではない何かというと、侵略系SFの『ボディスナッチャー』や血液など細胞に入り込んでその形態を乗っ取る『遊星からの物体X』が思い出されますが、それらは隣人が何を考えているか分からない、いつの間にか乗っ取られている恐怖をベースにしたものです。ですがこの『ブルークリスマス』の青い血の人間は、まったく普通の人間であり血の色がUFOを目撃しただけで青くなってしまっただけの「人間」として描かれています。


 為政者が恐怖によって世界を統治するため、意図的に青い血の人間を排除しようとじわじわと世論を操作しラストシーンにまでもっていく恐ろしさは今の時代にも十分通じるテーマで、いや今だからこそ身に染みるお話だと思います。今はネットで情報が溢れておりメディアは信用できない真実を伝えていないといいますが翻ってネットの情報も真実といえるでしょうか?必ずしもそうでないフェイクも数多くあり、そのフェイクを「オルタナティブ・ファクト」と呼んで別の見方での真実といいそれを支持する層もいる状況。ネット社会で隠された真実が明るみに出た事があってもその分、誰かの意図で世論が誘導される手法も巧妙になりさらに先端化しているとも言える昨今だからこそ響くテーマだと思います。


 恐怖が人の行動を狂わせるというのは多くの映画でも語られたり、実際の出来事を描いた映画でも語られたりするのですが、UFOという存在で大胆に切り取ったのは面白い試みでした。普通なら単純化された侵略者として描かれることが多い宇宙人ですが、この『ブルークリスマス』ではUFOという物体が飛来しているという事と、それと第一種接近遭遇しただけの人たちの変化だけなのですから。そこからも倉本聰が言いたかったのは、いともたやすくメディアに乗せられてしまう人達や、その事を知っていてもそれに関して口をつぐむ人たちの罪深さ。そして恐怖によって人は支配されるという事を言いたかったというのがよく分かります。なによりUFOを目撃し血が青くなった人はそれまでの嫉妬心や妬みが嘘のようになくなり穏やかになるというのですから。これはそれを排除しようとする者たちへの皮肉でしょう。


 もっともそれが上手く機能しているかと言うと前段の南の謎を追いかける部分と後半の沖と冴子の悲恋が上手くリンクしていないし、いろいろ細部にツッコミどころも多く登場人物描写も甘い。それは倉本聰脚本の弱点でもあるかなと。なんというか思い込みというか。そのため喜八演出も精彩を若干欠いてた気がしないでもないんですが、やはりスピードの緩急の付け方やカット割りなど、なんとも捨てがたい魅力のある作品となっているのは間違いありません。ちなみにテーマソング『ブルークリスマス』はプレスリーの有名なあの曲ではなくギタリストとしても有名なCharによるもの。劇中では『ザ・ヒューマノイド』というビートルズの再来と言われるバンドがヒットさせたという設定になっていました。


キャスト

 前段の兵藤博士失踪事件を追いかけ、青い血の謎に迫るTV局報道記者、南を演じるのは喜八組常連、仲代達矢。いわゆるメディア側の常識人としての立ち位置が禁断の秘密を知ってぐらぐらと揺れる南を説得力をもって演じていました。京都の国際会議で突如UFOに関して発言し失踪したキーマン。兵藤博士には岡田英次。時代劇や現代劇の敵役から、重厚な役を得意とする知性派俳優さんです。博士役や学識者役がよくはまる方でした。南に調査を命じる五代報道局長には小沢栄太郎。元祖日本のバイプレイヤー。数多くの映画に出演、主人公の上役だったり敵役や本当に枚挙にいとまがない方でした。『白い巨塔』(田宮二郎主演)の鵜飼教授役が有名です。


 国防庁参謀本部の制服組から青い血に対処する特殊部隊員となった沖には勝野洋。『太陽にほえろ』のテキサスが有名な勝野洋ですが、この役柄では裏テキサスというべき真面目で朴訥なれど国家と愛した人との間で板挟みになる沖を熱演してしました。沖と恋仲になる西田冴子には竹下景子。いまでもチャーミングな方ですが、びっくりするほど清楚で可愛い。そして表情が儚い。クライマックスに胸が締め付けられそうになるのは竹下景子の表情が非常に大きいと思います。


 沖の同僚でUFOと遭遇に殉職したことになっていたが実は生存していた原田には沖雅也。終盤に再登場し前半の明るさから後半はまるで地獄をみたかのような豹変ぶり。前半が『俺たちは天使だ』のキャップで後半は『太陽にほえろ』のスコッチといえば分かっていただけるでしょうか。冴子の兄、西田和夫には倉本聰脚本『北の国から』の黒板五郎役でお馴染み田中邦衛。短い出番ながらしっかり存在感を残しています。もともと田中邦衛は東宝では『若大将』シリーズの青大将役でお馴染みでした。沖の上司、沢木には高橋悦史、喜八作品では『日本のいちばん長い日』から喜八組常連俳優でかかせない人です。


 他にも子役で有名な松田洋治が南の息子役で、南の友人で雑誌記者の木所を岡田裕介。喜八組常連では中谷一郎が国防軍の宇佐美幕僚長、堺佐千夫がタクシー運転手、謎の人物で天本英世、その秘書として岸田森が。他にも中条静夫、島田省吾、芦田伸介、大滝秀治、八千草薫。まさにオールスターキャストによる大作でした。


今だからこそ

 というには些か陳腐かもしれません。しかも倉本聰はいいたいことは分かるけど、作中で、それだけが先行すぎるきらいもあります。もっともこういったメディアによる大衆操作や血の色が違うというだけで問答無用に排除しようとする恐怖の論理にたいする異議申し立てというのはテーマとして現代でも十分に通用するものです。大傑作とまでは言わないけれどラストシーンの世界各地で青い血の人間を幻の反乱軍として虐殺していくことにより逆説的に世界が一つになっているところなどはある種、脳天気に侵略者の円盤を破壊することにより世界の地球の独立記念日と言える『インディペンデンス・デイ』の反対、鏡の裏側にも感じます。一度は観ておいても損はない作品だと思います。あと『ブルークリスマス』というタイトルからクリスマスイブにみるといやなクリスマスを迎える事になるかもしれませんのでその時は当方責任負いかねますのでご了承ください。

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