プサンまで|『新感染 ファイナル・エクスプレス』|考察【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

プサンまで|『新感染 ファイナル・エクスプレス』|考察【ネタバレ注意】

2017年9月8日金曜日

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 『新感染 ファイナル・エクスプレス』についてファーストインプレッションを書いた後に幾つかのエントリを読んで、そうだったのかと腑に落ちることがありました。今回はこの事についてちょっと前回エントリでも触れた『ワールド・ウォーZ』の事や監督が影響を受けたという『ミスト』そしてちょっとダジャレな邦題問題も含めて書いてみたいと思います。


動画はYouTubeより|『新感染 ファイナル・エクスプレス』予告編|株式会社ツイン

※この後ラストに触れたり、物語に直接絡んでくる事を直接的には書いていませんがラストを想起するような事を書いてしまいますので未見の方はご遠慮いただければ幸いです。もし観ていない場合に読まれるのなら自己責任でお願いします。また、いわゆるあらすじからのストーリー詳細やそれぞれのキャラクターについての解説もしておりませんので併せてご了承いただければ幸いです。

逃げ延びれるか?プサンまで

ネタバレです!







 でははじめます。これはこういうエントリがあり興味深いというツイートをして下さった方がいらっしゃり、鑑賞後に読んだブログエントリです。



 tonbori堂がフォローしているあさやんさんのツイート。リンクはそのブログエントリです。
「新感染 ファイナル・エクスプレス」――なぜ「列車」であり、「釜山」なのか?  - 君と夏の夢 将来の終わり

 詳しくは上のエントリをじっくりと読んで頂きたいと思いますが、何故ソウルからなのか?なぜプサンに向かうのか?その背景には朝鮮戦争のソウル陥落、MERSウィルス(これは冒頭のシーンで思い出す人多そうです。tonbori堂は鳥インフルエンザかなとも思いましたが)そして記憶に新しいセウォル号の沈没事故です。実は腑に落ちたというのは、これが北朝鮮によるソウル侵攻という部分で、韓国はソウルで何か同時多発で起こったらどうなるかというシミュレーションな展開という部分です。ちょっと素人考えで発端部分で、深夜にデモが多発や市街地で暴動が発生などあちこちで問題あるならメディアで北の謀略などとか囃し立てないかとか冒頭で少し思ったんです。でも韓国は日本と違って実は今もまだ休戦協定が結ばれている準戦時下なんですよね。つまり朝鮮戦争休戦協定時からずっと有事が続いているという事です。そこで、こういったパンデミックが起こった場合、それが北だろうがはたまた未知の事象にしろ、殊更に不安を煽るような事はやらないんだろうという事を上のエントリを読んで思いました。でもネットでの投稿動画は日本でもこういう描写は出るだろうなという画を出していましたね。あれは『アイアムアヒーロー』の原作でもありましたね。2chなどに書き込んでいる者や動画をアップしている者もいましたね。『シン・ゴジラ』でもTVや一般のネット動画のシーンがありました。


 日本でもこういう事態に陥ったらどうなるかは、これまで起こった2度の震災の記憶から紐解くしかありません。メディアの動きなどはどうなるかは実際のところよく分からないのですが、『シン・ゴジラ』をちょっと思い出す描写に、実際上のブログエントリを書かれた方は『シン・ゴジラ』をひいて韓国の『シン・ゴジラ』と書いてらっしゃいました。しかし『シン・ゴジラ』とは決定的に違う面があります。それは『シン・ゴジラ』は何か不明生物が出現した時の主に「政府」の対応とそれに対抗するために奮闘する政府側に身を置いている普通の人たちを描いたものでした。『新感染 ファイナル・エクスプレス』は普通の(それぞれの事情を抱えている)人たちがプサン行きのKTXに乗り合わせたことで、ソウルを襲ったパンデミックが列車にも及び、そこから脱出するために奮闘するというお話です。そこが大きな違いです。


 奮闘する部分は同じですが圧倒的にその人たちの立ち位置が違います。ただどちらも普通の人というところでは通底していると思いますが。立ち位置が違うと描き方も変わってくるわけでどちらかと言えば『クローバーフィールド』に近い感じもありますよね。ただしこちらもラストは全然違うものになっていますが。『クローバーフィールド』は『ゴジラ』に影響を大きく受けている作品ではありますし製作者もことさら「9.11」は意識していないと言っていますがどうしても舞台がニューヨークのため思い返してしまいます。そういった心理的や世情の背景というのはどういう映画でも入ってくるものですし物語を形作る一つの要素には確かになっていると感じました。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』と『ワールドウォー・Z』

 『新感染 ファイナル・エクスプレス』『シン・ゴジラ』『クローバーフィールド』『ワールドウォー・Z』この4本の共通項は「何かよく分からない事が起こり、それに対して既存の政府勢力、軍事力はまったくもって歯が立たない。それどころか壊滅的に打撃を受けている」というところでしょうか。違いは『新感染 ファイナル・エクスプレス』はKTXに乗り合わせた乗客たちの極限状態を描き、「シン・ゴジラ」は主に日本政府内での話が進んでいきます。『クローバーフィールド』はニューヨークで主人公の栄転を祝うパーティ中に突然何かが襲来して訳も分からず逃げ惑うという話で、『ワールド・ウォーZ』はある日突然に予兆はあったものの既にパンデミックが世界を襲い混乱の中、元国連調査員の主人公が巻き込まれ、命からがら救出されるものの、原因を探るためにふたたび死者が生者を襲う世界へ舞い戻り地獄めぐりをするという物語でした。


 この中で『ワールド・ウォーZ』は一番評価が低いと思います。実際に評価している人でもうーんってなる部分も多いのだけれど、主にゾンビ映画なのに人体破壊シーンがあっさりしすぎとか、何が起こっているのかさっぱり分からないとか悪評ふんぷんで、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のゾンビももっと全力疾走だし『ワールド・ウォーZ』を想起させるシーンがいくつもあるのにこの差はと思うともう本当に不憫です。

 大きな違いは登場人物の描き込みとKTXという列車の中で殆ど進行するという物語の構成の妙だと思います。『ワールド・ウォーZ』でも閉鎖空間でのパニック描写はあって、イスラエルから脱出したときの飛行機に感染者が混じっていて発症、次々と乗員乗客を襲い仲間を増やしてキャビンが阿鼻叫喚になるところです。ですがこのシーンはずっと続くわけではなくかなり強引な解決法により決着がつきます。『新感染 ファイナル・エクスプレス』はその部分を煮詰めたようにも見えます。もっとも監督の挙げた参考作品には『ワールド・ウォーZ』は入っていませんでしたが。


 それもそのはずでストーリーの骨格は親子の話なんですよね。物語の最初からしっかり描写されているのはソグとスアンの2人。だから監督はコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』とスティーブン・キングの『霧』の映画化『ミスト』を上げているのだと思います。『ワールド・ウォーZ』が残念なのはそれぞれのエピソードは面白くなる要素があるものの何か上手くまとまっていないし、ラストの解決法もちょっと強引にすぎるのではないかという部分ではないでしょうか。ビジュアル面ではその後のゾンビ映画に影響を与えているだけに本当に残念な作品として思い返される事になってしまいましたね。

『ミスト』のデヴィットと『新感染 ファイナル・エクスプレス』のソグ

 監督の上げた参考にしたという作品『ミスト』どちらも自分の子どもを守るため、状況に翻弄されながらも必死に抗います。ですが最後の決断は非常に対照的でした。なにも分からず霧に覆われた町のスーパーマーケットで籠城するデヴィットと息子、そして店に来ていた客たち。周りには怪物がうようよ。次第に客を先導する怪しげな老婦人。分裂する生存者。そして脱出を試みた主人公と息子が辿った運命は非常に過酷なものでした。あのエンディングは衝撃をもって迎えられ高い評価を集めたように記憶していますが、tonbori堂の個人的見解では『新感染 ファイナル・エクスプレス』のソグの決断というか行動の方が納得できます。

 次々と犠牲者が出ながらもひたすら脱出口を目指す展開に『ポセイドン・アドベンチャー』になぞらえる人もいますが、『ミスト』は途中であきらめてしまう物語で、『新感染 ファイナル・エクスプレス』はあきらめない物語とも言えます。想いを繋げていくといってもいいかもしれません。そこには宗教観の違いもあるだろうし(ミストはどうしたって煉獄の蓋が開いて現世とつながり世紀末が来たっていう感じがありますよね)物語としての狙っている着地点が違うという事もありますがどちらを推すかと問われれば断然『新感染 ファイナル・エクスプレス』です。

ダジャレな邦題タイトル問題

 この映画の原題は『プサン行き』です。日本で邦題をつけるにあたり高速鉄道の代名詞である「新幹線」とひっかけた『新感染』そして副題として『ファイナル・エクスプレス』がつけられました。内容を絶賛している人でもこのダジャレ感あふれるタイトルはどうなんでしょうねという人もいますが実は海外でも割と雑なタイトルがつけられているようです(ヲイ)これはパンフレットに載っていたのですが、その中から一部を抜粋してみます。


 ブラジルは「Invasão Zumbi」(ゾンビの侵略)チリは「Estación Zombie」(ゾンビステーション)とゾンビ推しなタイトルになっています。一方フランスでは「Dernier train pour Busan」(プサン行最終列車)、ちなみに韓国では「釜山行」ハングルで『부산행』となります。英題名は「Train to Busan」ゾンビ推しか物語の原題名に即したものかという中では日本のタイトルはともすればギャグに近いすれすれな気がしないでもありません。ただ『プサン行き』とか『ゾンビ列車』『ゾンビ・エクスプレス』とかならお客さん来たかと言われると…自信はありません。ダジャレではありますが、気を引くタイトルとしてはこれは良かったのかなと。作品の顔であるタイトルなので、確かに気にはなりますが映画はお客さんがはいってナンボという側面があります。絶大なる支持ではないけれど、このタイトルはお客さんの気を引くというところではベストの選択だったかなと思います。

最後に

 だいたい言いたいところはこんなところですが、ラストに出てきた韓国軍の兵士がK2アサルトライフルに光学照準器をレイルシステムにマウントしているなとか、ガンマニア的にはゾンビ映画としては銃が珍しく出てくるシーンが少なかったです。その分肉弾アクションは凄いものがありました。特にマ・ドンソクの漢っぷりはもう、これは劇場のスクリーンでないとっていうカッコ良さでしたね。ほかにもネタバレと書いているのでもう書いてしまってもいいかなと思うんですが…やっぱり劇場でそれぞれの登場人物の顛末を確認して欲しいのと、『アロハ・オエ』の訳詞がちゃんと出たのは良かったですね。


 アレ出るのと出ないとでは凄い差がある。『ワンダーウーマン』ではエンディングテーマ出なかったんですよね。洋画でも出るのと出ないと差があるんですが出来れば歌詞は訳詞を出してほしいところです。それにより制作者の意図がはっきりする場合もあるのですから。歌を劇中で使うというのは色々な意味があって歌詞がはっきりとしている場合。エンディングテーマの場合は製作者の意図というのもが現れていると思います。この曲がどういう場面でつかわれているかはネタバレと書いている以上ここまでご覧いただいた方には分かっているでしょうが、もしまだ観てない人がいたら是非スクリーンでご確認のほどを。

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こちらも|Amazon.co.jp: ワールド・ウォーZ (字幕版)を観る | Prime Video 

極限からの脱出という事で|Amazon.co.jp: ミストを観る | Prime Video 

20170912:追記:少し「最後に」の文章を足しました。
20180128:追記:画像を一部差し換え、動画を貼りました。

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