生き残れ!|『新感染 ファイナル・エクスプレス』|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

生き残れ!|『新感染 ファイナル・エクスプレス』|感想【ネタバレ注意!】

2017年9月6日水曜日

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 韓国の映画は本当に凄いのが出てくるので油断が出来ません。韓流といって高を括るとえらい目にあいます。『シュリ』がそうでしたし、その後も『アジョシ』『チェイサー』など、tonbori堂は韓国映画をそう多くは観ていませんが、話題になって、趣味に合致するものを観に行くと、毎回、『うわぁぁぁぁぁぁぁ』とか『スゲェェェェェェ!』と繰り返す感じになります。

動画はYouTubeより|『新感染 ファイナル・エクスプレス』日本語吹き替え予告編|

絶体絶命。高速の密室でのサバイバル。

 今回の『新感染 ファイナル・エクスプレス』も以前からぽつぽつと話題になっていたのですが公開後映画TLで既に高評価続出。『シャイニング』『IT』やガンスリンガーシリーズでお馴染みの小説家のスティーブン・キングもゾンビのドラマとして人気の高い『ウォーキング・デッド』より面白いと評しています。

ソースはパンフレット表2部分の著名人の推薦文より

 日本でも去年『アイアムアヒーロー』が公開され、ゾンビ(アンデッド)映画好きに高評価を得ていましたが、さらに上を行くゾンビ(アンデッド)映画ではないかと思います。


あらすじ/プサンまで

 ファンドマネージャーのソグは別居中の妻に娘、スアンをプサンまで送り届けるため早朝のソウルから特急列車KTXに乗り込んだ。ソウルの街は不穏な空気が包んでいたがそれに多くの人は気づかず列車は出発する。出発して間もなく発車寸前に列車に駆け込んだ少女が突如苦しみだし倒れてしまい、CAがかけよるが少女は苦しんだ挙句こと切れてしまう。だが突如立ち上がりCAに襲い掛かる。筋を食いちぎられたCAもまた蘇り周囲の乗客に襲い掛かり車内は阿鼻叫喚の地獄絵図に。前方車両へ移動するものの次第に感染者が増え追い詰められる乗客たち。バス会社の常務ヨンソク、野球部員のヨングクと応援団長の女子高生ジニ。身重の妻ソギョンを気遣う、サンファとともに追い詰められるソグとスアン。


 列車は停車するはずのチョナン駅を通過。既に駅舎には感染者が溢れ、助けを求める人を振り切り、指定されたテジョン駅にて軍の保護を受けることに。取引のある軍関係者に連絡を取りなんとか自分たちだけでも助けてもらおうとするソグであったが既にテジョンの軍隊は壊滅、警官と軍人も全て感染者となっていた。慌てて列車に戻る乗客たち。多くの乗客が犠牲になってしまったがソグとスアンは戻る際に離れ離れになり離れた車両に乗り込むことになってしまった。同じくはぐれてしまったヨングクとサンファとともに感染者ひしめく車両を突破することを決意したソグ。列車はプサンまでノンストップで進行することになり、それまでに彼らは合流できるのか?果たしてプサンは大丈夫なのか?皆の不安を乗せたままKTXは疾走する…


走るゾンビ(アンデッド)

 と言えばまず『28日後…』でしょうか。あれはゾンビではないんですがまあアンデッド映画の亜種として認識されていますよね。基本的に何かに感染して人を襲うというのがゾンビ(アンデッド)映画の基本です。ですが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』や『ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド)のゾンビはノロノロと動きます。ただ数が尋常でなく多いのでやがては飲み込まれる恐ろしさがありました。しかしダニー・ボイル監督が『28日後…』で走るゾンビというものをしたおかげで恐怖が新たな展開を迎えました。ゾンビ(アンデッド)映画の祖とも言えるジョージ・A・ロメオ監督は走るゾンビはお気に召していなかったようですが、恐怖の描写もこれでぐんと幅が広がりました。


 以降、ゾンビは走ってもいいんだという流れになってきており、『ゾンビ』のリメイク『ドーン・オブ・ザ・デッド』もゾンビは走っていました。走るゾンビで圧巻だったのは『ワールド・ウォーZ』なのですが…まあこれについてはまた述べる事にします。『新感染 ファイナル・エクスプレス』でもゾンビは走ります。劇中ではゾンビという名称は無く感染者という言い方をされていたようでしたが、序盤は何かヤバい噛まれたりするとおかしくなるという認識でただただ訳も分からず逃げ惑うだけの恐怖の対象でした。途中で徐々に習性などが分かってくるにつれ攻略法が見出されますが、それは焼け石に水なようなもの。あくまでも登場人物の生き残る確率がほんのちょっとだけ上がる程度のものです。走る密室である列車という空間をつかったサスペンスを盛り上げるこの習性が上手く使われていました。


KTX

 韓国ソウルからプサンまでを結ぶ高速鉄道です。タイトルは『新感染』ではありますが、角ばってるしどっちかというと『ミッション・インポッシブル』に出てきたフランスのTGVに似てるなと思ったら、TGVの技術を導入しているとか。最高速度は時速は305㎞/h、20輌からなる満員なら千人ほどの人員を輸送できる韓国の主力高速鉄道です。

ソースはパンフレットの解説より

 ノンストップというわけではなく劇中では止まりませんでしたが幾つかの駅を経由してソウルとプサンを結ぶ韓国の主要輸送網の一つになっています。今回ソグは早朝にソウルを出発し、昼までにはソウルに戻ると言っていたところを見るとソウル-プサンを2時間半強程度で結んでいると考えられます。(パンフレットによると2時間40分、最短2時間15分だそうです。)映画は約2時間弱。映画の時間経過はリアルタイムではないですがパンデミックが起こってからあっという間の出来事であったという事が分かります。


キャラクター

 主人公のソグはファンドマネージャーで利益第一。損が出そうになったら守るのではなく切り捨てる非情な男です。妻とは別居。年老いた母と同居し、一人娘のスアンの学芸会もすっぽかし、誕生日に何を送ればいいのかも分からない男です。そのソグがこの状況下でも最初は利己的に動くのですが娘を助けるためと、助け合わないと生き延びられない状況に変化していくのが見どころになっています。演じるはコン・ユ。残念ながら彼の出た出演作はこれが初めてなのですが、韓国映画俳優は本当に層厚いですよね。観て無かったけど気になってた『サスペクト 哀しき容疑者』に主演しているとか。こちらも機会があればチェックしたいと思います。


 身重の妻を守るサンファ。あきらかに趣味の悪いジャケットにガラの悪い言動は、ソグとは違うブルーカラーであることを表していますが、こういう状況下でも冷静に判断し自らの肉体をフルにつかって感染者を殴り飛ばし、ドロップキックをお見舞いする頼れるオヤジです。演じているマ・ドンソクもこれまたこれが初見の俳優さんなのですが、ドロップキックのいい俳優は名優法則というのがtonbori堂にはありまして、例えばソン・ガンホ。『殺人の追憶』では見事なドロップキックを見せていました。あとK1でお馴染み角さんこと角田信朗さん味ありましたね。


 スアンは母と父が別居している事に心を痛めている少女で、誕生日のお祝いにプサンにいる母に会いたいとわがままをいったのも父と居たいから。子役のキム・スアンはなんというか、こういう映画だと子どもっていうのは難しいと思うんですが、脚本、そして彼女の演技の賜物といってもいいのではないでしょうか。公式サイトによると20本以上のドラマや映画に出ている人気子役なんだとか。納得です。


 その他にも身重ながらスアンを気遣うソギョン(チョン・ユミ)、仲間だった部員の変貌に殴り倒すのをためらうヨングク(チェ・ウシク)、ヨングクが好きでどこまでも2人で一緒に逃げようとするジニ(アン・ソヒ)、ソグ以上に利己的であるバス会社常務ヨンソク(キム・ウィソン)など、極限の中で彼らの人生が交錯する様はまさにパニック映画の王道です。パニック映画は一種群像劇の様相もありますから各キャラクターも非常に大事ですが、短い時間できちんと描かれておりそこもこの作品が高評価である一因ではないかと思います。


最後に

 実はそれだけではない部分がこの『新感染 ファイナル・エクスプレス』にはありますが、それは是非ご覧になって確かめてください。いやいや「ゾンビ映画」でしょ、誰かが助かってそれは誰かのおかげで、いわゆるゾンビ映画の定番展開あるんでしょ、って舐めているともうガツーンとやられます。いややられました。本当です。実は高評価ながらもゾンビ映画の定石は踏んでるんでしょとかtonbori堂はちょっと高を括っていましたが…。ガツーンとやられてしまいました。


 で思うのは『ワールド・ウォーZ』の事なのです。『ワールド・ウォーZ』も『新感染 ファイナル・エクスプレス』級に凄い映画になる可能性を秘めていたんですよね。というのも原作を読んだ方はご存知でしょうけど、各地で同時進行する対Zの話をまとめたもので、そこには『新感染 ファイナル・エクスプレス』とはまた違っていますけど脱出の話があったり宇宙から地球のパンデミックを監視し続けて宇宙線(放射線)でボロボロになった飛行士の話などが入ったいわばフェイクドキュメントな作品でした。

 ですが映画はいろいろ紆余曲折の末ああいう作品となってしまいました。いやいいところもあるんですよ。でも『ワールド・ウォーZ』でも描写されたような走るゾンビを使いながらもこうまで評価が天と地ほども差がついてしまったことにいろいろ不憫な子だなあって『新感染 ファイナル・エクスプレス』の事を考えた時にそう思ってしまいました。まあこれは本当に余談でしかないのですが、出来るのならば監督のヨン・サンホに『ワールド・ウォーZ』の新作撮ってもらえないだろうかとか思いました。そのヨン・サンホはもともとアニメーションの監督さんで、このソウルのパンデミックの前日譚をアニメ映画化もしているそうです。そちらもちょっと観てみたいですね。

 血は苦手という人もおられるでしょうが、これはぐっとくる映画ですのでもしよろしければ是非ご覧になっていただきたいと思います。


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