アニメに出てきた実銃【その弐】『アーバンスクウェア 琥珀の追撃』-Web-tonbori堂アネックス

アニメに出てきた実銃【その弐】『アーバンスクウェア 琥珀の追撃』

2017年9月13日水曜日

anime Gun

X f B! P L

 OVA黎明期に出たあだ花…と言うと少し残念な感じもありますが、1986年に当時出来たばかりのバンダイ・ビジュアルのOVAレーベル、エモーションから販売された作品です。そしてこの路線の作品は今に至るもあまりない気がします。特段出来が悪いわけじゃないけれど、時代が早すぎたのか、アニメを観る層はこういう話を求めていないのか。いやもっと焦点あてる部分が違うのではとか思いますが、かく言うtonbori堂も記憶が薄く、はるか昔に、関西の日本テレビ系、よみうりテレビで放送していた『アニメだいすき』枠で観たっきりなだけなのです。録画も撮っていなかったため記憶をたよりに書いています。ですが当時アニメ雑誌やバンダイが刊行していたBクラブ、模型情報などでOVAの設定資料が発表されワルサーMPL、スマイソンが登場し、さらには隠し玉も飛び出したりと、なかなか凝った感じのOVAでした。


OVAとして販売され未だ円盤化されていない作品です|Amazon.co.jp: アーバンスクウェア 琥珀の追撃 [VHS] : DVD 

舞台は港町 神戸

 こういうストーリーだったら横浜、横須賀あたりでは?と思うのですが何故か神戸です。それは監督の西森明良(現在は西森章)が大阪芸術大学に在籍していたからかもしれません。庵野秀明監督が在籍していた頃だそうで『王立宇宙軍オネアミスの翼』の監督、山賀博之とは同じ下宿だったそうです。

ソース|バンダイ発行のホビー雑誌Bクラブの監督インタビューより。

 その割には神戸感薄かったなと思うのですが、それは多分登場人物が、ネイティブで神戸弁、関西弁を喋っていなかったからだと思います。その辺りは日活無国籍アクションを意識して共通語でということなのかもしれません。もしかすると記憶違いで登場キャラの誰かがしゃべっていた可能性もわずかにありますが。記憶に無いのです。実は神戸が舞台だったというのも今回そのバンダイが発行していたホビー雑誌Bクラブの設定を読んで、えっ?そうだったの?とてっきり横浜とかだと思っていました。(または架空のベイエリアの都市)


 あと主人公を助けてくれる、クライマックスにはほぼ主人公並みの活躍をする望月刑事(声をあてているのはサンダース軍曹でお馴染みの田中信夫)の口癖が『バカタレが!』なので、凄い違和感があったのだと思います。関西人はまず『アホか!』っていいますから(笑)

 音楽はチキンシャックというフュージョンジャズバンドが担当。たしかサックスがフューチャーされてたなと思ったら土岐英史さんが参加していたとかで納得です。土岐さんは山下達郎さんのライブバンドメンバーとしてもサックスを担当(現在は別の方が担当)していたベテランプレーヤーで当時でも名の知られた方でした。といってもtonbori堂が土岐さんのお名前を知るのはもうちょっと後の事なのですが。ちなみにシンガーの土岐麻子さんのお父様であります(これは豆知識)

Amazon.co.jp: 「アーバン・スクウェア~琥珀の追撃~」オリジナル・サウンドトラック: ミュージック 

 キャラクターデザインは『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』の高田明美さん。ちょっと大人のキャラデザインをされていましたね。『パトレイバー』、『うる星やつら』ともに原作漫画に寄せているキャラデザインなので高田さん本来のそうですね、『魔法の天使クリーミーマミ』の登場人物がちょっと大人になったって感じです。

登場したGun

 では本題の使用された銃についてのお話をば。当時の刑事モノよろしく、ニューナンブとかではなく言わばTVドラマの刑事モノでよく見る銃からちょっとレアなまで色々ありました。

望月刑事

 主人公は松本良という売れないシナリオライターで、彼が事件に巻き込まれる形で彼を助けるのが望月刑事です。良が巻き込まれた美術品盗難と詐欺事件の黒幕を追っており、アウトローの一匹狼タイプ。いわゆる『あぶない刑事』っぽいキャラクターです。ちなみに『あぶない刑事』と時期がかぶっており、製作期間から考えると当時のアクションの流行りがそうだったということなんでしょうね。ですがやることはどちらかと言うと『ダーティハリー』でした(笑)望月の愛用銃は多岐に渡り様々な銃を使用していましたがここでは手元にある資料から挙げてみます。

コルト・ローマンMkⅢ

 まず最初に良と出会った時に使っていたのは「コルト・ローマンMkⅢ」4inです。コルト・ローマンはMGCからモデルガンが発売されていて80年代の刑事ドラマやその後の90年代Vシネマで刑事の拳銃としてよく使われていました。それらは殆ど短銃身2inで、4inモデルは制服警官の拳銃として使われている事が多かったように思います。

コルト・ローマンMkⅣ/2inモデルガン
コルト・ローマンMkⅣ/2inモデルガン/tonbori堂所有


 ローマンはその名の通りLAWMAN、法執行機関向けにコルト社が作ったリボルバーでMkⅢシリーズの一つです。シリンダーピンが銃身下剥き出しでしたが、その後、MkⅣと呼ばれる後期モデルでピンを防護するシュラウドカバーがあるタイプが販売されました。モデルガンも両方がモデルアップされていたように思います。ちなみに望月刑事が使用していたのはシュラウドカバーのある後期モデルです。弾薬は.357マグナムを使用。次元のコンバットマグナムと同じ弾薬です。同じ口径の日本の警察が一般に使用する.38スペシャルも使用できます。

 そしていよいよクライマックスに望月が密輸組織のボスに捕らわれた良を助けに敵のアジトに乗り込む段になってからが凄い事になります。

スマイソン6インチ

 スマイソンはコルト・パイソンの銃身にシリンダー、フレーム、グリップ部は堅牢なスミス&ウェッソンのM19コンバットマグナムを合体させたものです。望月が使うのは6インチ。刑事ドラマ『大追跡』で沖雅也演じる矢吹刑事が使用しているのはコルト・パイソン6inでしたが、アニメとは言え公式な銃ではないスマイソンのような銃を使わせるのは珍しいことです。ベースとなったコルト・パイソンはコルト社が製造していたリボルバーです。特長的な金属表面仕上げはコルト・ブルーとまで言われ、独特なトリガーメカニズムは好評を得ていましたが何分高価なため、大ヒットとまでは行かずS&WのM19コンバットマグナムやスターム・ルガーの安価で堅牢なリボルバーに顧客がながれていってしまったいわば悲運の拳銃です。

スマイソンの元になったコルト・パイソンのモデルガン(4in)
スマイソンの元になったコルト・パイソンのモデルガン(4in)/かつてtonbori堂が所有していたもの。


 その工作精度の高い銃身の上には連続発射時の熱で歪むことをふせぐためのベンチレーテッドリブという梁のような形になって熱を放熱するようになっています。また銃身下部にはエジェクターを兼ねたシリンダーピンを保護するシュラウドカバーが銃身と同じ長さまで伸びており、射撃時の反動を抑えバランスよく照準出来るようになっています。それを安価ながらも丈夫なフレームを持ち故障が少ない信頼性の高いS&WのKフレームに組み込んだプライベートなカスタムモデルがスマイソンというわけです。


 Kフレームの名銃といえばこのアニメに出てきた実銃「壱」ルパン三世(リンク先は該当エントリ)でご紹介した次元大介のS&W M19コンバットマグナムがその筆頭に挙げられます。日本でも銃器専門誌でとりあげられ人気が出てきてモデルガンメーカーのコクサイやCMCからスマイソンが発売されていたことがありました。またコルト・パイソンは『シティーハンター』の主人公冴羽潦の愛用銃としても有名ですよね。

コルト・マスタング.380オート

 コルト・ガバメントの機構をそのままにダウンサイジングしたポケットピストルです。バックアップ用に隠し持ち歩くには最適な拳銃ですが、弾数もそれほど多くなくあくまでも護身用です。確か敵のアジトの脱出時に助け出した良に自分の身は自分で守れということで望月が渡していたように思います。よく考えると素人に銃を渡すとか警官としてはアウトですよね(笑)まあここは緊急避難的措置ということで無問題なんでしょうが(笑)

Colt Mustang Pocket Lite 2012/Wikipediaより|By Michael E. Cumpston - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29019871
Colt Mustang Pocket Lite 2012/Wikipediaより|By Michael E. Cumpston - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29019871



レミントンXP100

 そして一番の変わり種はアジト襲撃時にライアットショットガン(ポンプアクション)にグレネードランチャーを2本並べて付けたグレネードショットガン(架空の銃)なんですが、さらに隠し玉として、実際に実在する拳銃としては特殊な用途で用いられる拳銃としてあまり海外の映像化作品でも滅多にお目にかかることが出来ない代物が登場しました。それがレミントンXP100です。


 レミントン社のボルトアクションの単発拳銃で、遠距離射撃用に作られた拳銃です。主に競技用、または狩猟用に用いられています。弾薬は.223ファイヤボールという専用カートリッジ(弾薬)を使用するようにつくられていましたが、そのライフルなどに使用される堅牢なボルトアクションシステムを利用して個人のガンスミスがリチェンバリングして口径をアップしたりするようになり、幾つかの口径のバリエーションが産まれました。使用するカートリッジ、.223ファイヤボールはもともと軍用小銃弾の.223レミントンがベースの高速弾ですが、構造がボルトアクションという改造がしやすい形式なので同じく.22口径のライフルカートリッジから果てはライフル用の.300口径のカートリッジ。拳銃弾も.44マグナムや.45ロングコルトなど様々な銃弾が利用できるようなカスタムが産まれました。

 この銃、見た目は完全にボルトアクションのライフル銃の機関部をピストルにしたような外観をもっており小口径ライフルと同じカートリッジを使用することで強力な威力をもっています。実際に使うのには無理がありますが、フィクションならばラスボスが自動車やヘリコプター、モーターボートで逃走を図るなら一撃必殺(ワンショット・ワンキル)の画にはぴったりな拳銃だと言えるでしょう。

[[File:RemingtonXP-100.jpg|thumb|RemingtonXP-100|alt=RemingtonXP-100.jpg]] レミントンXP100|画像はWikipediaより
[[File:RemingtonXP-100.jpg|thumb|RemingtonXP-100|alt=RemingtonXP-100.jpg]]
レミントンXP100|画像はWikipediaより

殺し屋辺見

 密輸組織のボスにやとわれた殺し屋。サイレンサー付のセミオートマチックやサブマシンガンを使います。金髪にロングコートという見るからに悪党というビジュアルの殺し屋です。

ワルサーMPL

 ワルサーMPLはワルサー社が第2次世界大戦後に西ドイツ軍や警察のために設計したサブマシンガンです。MPが正式名称でLは長銃身、Kは短銃身を指すそうです。何故か東京マルイのエアコッキングガンとして初期からモデルアップされていて、もしかするとこのアニメが関係している?のかもしれません。ただ派手に撃つ割には実は印象に薄い銃で、果たしてそんなにバリバリ撃ってたかなあととにかくソフトが手元にないのと記憶が頼りのため、キャラシートでは辺見がかっこよく腰だめに構えているんですが(苦笑)

ワルサーMPL/Wikipediaより|Springfield Armory Museum - http://ww3.rediscov.com/spring/VFPCGI.exe?IDCFile=/spring/DETAILS.IDC,SPECIFIC=10309,DATABASE=6385089,, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=96518967による
ワルサーMPL/Wikipediaより|Springfield Armory Museum - http://ww3.rediscov.com/spring/VFPCGI.exe?IDCFile=/spring/DETAILS.IDC,SPECIFIC=10309,DATABASE=6385089,, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=96518967による



S&W M59

 スミス&ウエッソンのセミオートマチックピストルです。往年のGUNマニアなら『刑事スタスキー&ハッチ』でスタスキー刑事がつかっている銃といえばピンと来るかも。これにサイレンサーを装着したものを使用していますが、これは別名「ハッシュパピー」というものです。靴のハッシュパピーではなく、アメリカの野外で作れるトウモロコシ粉をつかった軽食を指す言葉ですが、これを猟犬に与えるとエサをくれと吠えなくなる事から犬を大人しくさせるように弾を喰らわすという隠語としてつけられたもののようです。軍の要請でM59の前身のなったシングルカラム(弾倉に一列しか弾が入らない)のM39にサイレンサーをつけたものを開発したのが始まりです。辺見はこれをサイドアームとして使用していました。邪魔な証人や足手まといになった部下を非情に射殺する殺し屋にはぴったりなアイテムです。

MGCモデルガンS&W M59/かつてtonbori堂が所有していたもの
MGCモデルガンS&W M59/かつてtonbori堂が所有していたもの


非常に珍しいアニメ。

 多分後にも先にもオリジナル企画でこういうのは無いように思います。漫画原作がありますとか、実銃の出てくるアニメはあっても、日活無国籍アクションのような、または80年代刑事ドラマのようなアニメはこれから先も無さそうです。何故なら購買層がいないということなんですよね。萌えキャラが身の丈に合わない実銃を振り回すのなら話は別ですが。もしくは女子高生がサブマシンガンをぶっ放すとか。実際こういう企画、今ならVシネマでも通りにくそうです。

 一定のファン層がいる任侠でもないし、お色気アクションでもないですから。ハードアクション系でそういうのが数年に一回ならまだあるかもしれません。本当に奇跡のような企画だったと思います。またどこかで放送しないかなと密かに思っているんですが…難しいかな(苦笑)

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