救いの鐘は鳴らない。|『ミスティック・リバー』(2004公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

救いの鐘は鳴らない。|『ミスティック・リバー』(2004公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】

2012年10月20日土曜日

crime movie

X f B! P L

 最近観た映画の中では一番重い映画で観る前の事前情報でもそうとうにキツイお話と聞いていたが想像以上に重たかった。しかし陰鬱な中に美しさを感じさせる。それだけにいっそう悲愴な思いが募る素晴らしい作品。

ミスティック・リバー/ロゴはイメージです
ミスティック・リバー/ロゴはイメージです

深く陰鬱で、美しい物語

 物語は25年前の回想シーンから始まり三人の少年達が見知らぬ男達に呼び止められ一人が連れ去られるところから始まる。彼らは少年デイブ誘拐し4日間監禁した。ようやく逃れてきたデイブとあと二人の友達ジミーとショーンはその日を境にバラバラになっていった。


 そして現在。三人の仲間の一人ジミー(ショーン・ペン)は町の雑貨店の店主。若い頃は乱暴者で犯罪にも手を染めたことがあるが亡き妻との間の愛娘と再婚したアナベスとの間にもうけた二人娘に囲まれ幸せに暮らしていた。しかし愛娘ケイティーが何者かに殺される。そして容疑者に上がったのは同じ町に今も住んでいるデイブ(ティム・ロビンス)だった。


 殺しのあった日に血まみれで帰ってきたデイブに怯える妻のセレステ。ケイティーを殺した犯人を見つけ出し復讐を誓うジミー。そして今は刑事となったショーン(ケヴィン・ベーコン)が事件を担当することになりかつての仲間は再び邂逅する。そしてジミーの復讐に猛る心がまた悲劇を生む。

救いの鐘は鳴らない

 救いはない。いや救われるべきものは誰も無いのかもしれない。もっともこれが救いだというシーンもあるにはあったがそれはある意味贖罪の上でなりたったものなので映像から感じ取れる陰鬱なしかしなかがら美しい情感を際立てる。

サスペンス映画ではない贖罪の映画だ。

 誰がケイティーを殺したかというサスペンスもあるがこれは実際には本筋ではなくあくまでも少年時代の友達の絆、家族との絆、そして報われぬ気持ち。悔悟、罪と罰という話である。それをいまや名手と言っていいクリント・イーストウッドが硬質な画像で切り取っていく。そこに演技巧者、ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコンが目のさめる演技を披露していく。物語としてはショーンとティムが中心となりケヴィンが見る(狂言回し)といった役割だがそれだけに止まらないのは彼ら扮するキャラクターの25年前の出来事が暗い影を落としているからでそれを三人とも見事に体現していた。


 そのため物語を現実にコミットさせるためにショーンの相棒としてホワイティー刑事がおりモーフィアス役でお馴染みローレンス・フイッシュバーンが演じている。それとデイブの妻、セレステのゲイ・ハーデンも夫の持つ暗闇に怯えある決断をしてしまい取り返しがつかないことをしてしまった役を見事に演じている。ジミーの妻アナベス役のローラ・リニーも全てを悟った上で夫を包む妻をこれまた見事に演じているのには驚嘆。うまい役者にいい脚本、そして監督とともに重厚なアンサンブルを画面から漂わしている見事な映画である。


 アカデミー賞11部門を獲った「ロード・オブ・ザ・リング王の帰還」はこれを含めた「ロード・オブ・ザ・リングトリロジー(3部作)」に与えられたものでそれがなければ監督賞か作品賞も獲れたはずだ。それが証拠に主演、助演男優賞はショーンとティムに決まった。濃密なまでに描きこまれた空気感を感じるだけでも価値はある。それとともにアメリカ人のアイデンティティーまでも抉り取った名作として記憶しておいてもいいだろう。イーストウッドの作品というだけでなくアメリカ、そして人間を抉り取った映画として是非観て欲しい。

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2004.1.15別館ブログにてアップ

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