最後に誰が笑ったか?|『フリー・ファイヤー』|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

最後に誰が笑ったか?|『フリー・ファイヤー』|感想【ネタバレ注意!】

2017年5月18日木曜日

Gun movie

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 ゴールデンウィークに公開された銃撃戦映画『フリー・ファイヤー』。ゴールデンウィークを過ぎて5月も折り返しに入ったところでやっと鑑賞できました。『フリー・ファイヤー』の本国トレーラーを観た時から気になってた作品で、その時には主演のブリー・ラーソンには気が付かず、キリアン・マーフィー、シャールト・コプリー、アーミ・ハマーが出ているのかということで注目してましたが、でこの女優は?という認識。ブリー・ラーソンがアカデミー賞を受賞した『ルーム』っていう映画はあまり自分の感度に受信できていなかったのでよく知らなかったのです。

FREE FIER 映画ポスター
By Source, Fair use, Link出典元:Wikipedia

誰が生き残るか?密室でのサバイバル銃撃戦。

 ちょっとしたきっかけでアメリカにやってきたIRAのテロリストが武器密売人と揉めてそこに来ていた員数外の人物たちも巻き込んでの銃撃戦。とんでもないのに何故かあほらしさが漂う緩いオフビートな殺し合いが描かれている映画です。

キャスト

 ブリー・ラーソンはマーベルのM.C.U作品のある意味フェイズ3の要になるのではと噂される『キャプテン・マーベル』に抜擢されアカデミー賞受賞も相まって注目度が最近とみにあがっている若手有望株です。最近では当ブログでも紹介した『キングコング:髑髏島の巨神』にカメラマンのメイソン役で出演していました。

リンク|南海の大決闘。もしくは「闇の奥」へ『キングコング:髑髏島の巨神』

 キリアン・マーフィーはアイルランドの俳優で、『バットマン・ビギンズ』でヴィラン、スケアクロウを演じました。他に同じクリストファー・ノーラン作品では『インセプション』にも出演。ダニー・ボイルの『28日後…』に主演しています。味のある俳優でアイルランドの作品にも多く出演しています。

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 シャールト・コプリーは南アフリカ出身の白人俳優で、同じく南アフリカ出身のニール・ブロムカンプ監督『第9地区』の主演で一躍スターダムに躍り出た俳優です。といっても本人それまでは本職の役者ではなく、友人でもあるニールとともに映画を作ったりとかしていた人でプロデューサーでもあり、監督でもあるそうです。最近では一人称ゲーム視線で話題を集めた『ハードコア』に出演していました。

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 アーミ・ハマーはアメリカの石油王にしてセレブリティ一族のハマー家の出身。いわゆる坊ちゃんです。最近立て続けに話題作に出演、甘いマスクで人気のある俳優です。フェイスブック創設者のザッカーバーグを描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』にフェイスブック立ち上げに関わったウィンクルヴォス兄弟を一人で2役を演じ注目を集めました。最近ではガイ・リッチー監督の『コードネーム U.N.C.L.E.』に主人公の一人イリヤ・クリヤキンとして出演しています。

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一触即発

 一見しても曲者揃いなキャストが危ない銃取引に臨み、ちょっとしたボタンのかけ間違いから、激しい銃撃戦に発展する。あらすじはこうです。ボストンのはずれにある廃工場でキリアン演じるクリスはラーソン演じるジャスティンを仲介に相棒のフランク、フランクの義弟スティーヴォ、その相棒のバーニーとともに違法な銃の取引に臨みます。クリスはIRAの一員で祖国解放のための闘争に使用する武器をアメリカに調達来たのでした。一方フランクの義弟スティーヴォは麻薬中毒のジャンキーで取引前にバーでひと悶着を起こしフランクにどやされます。


 彼らを迎えきた男はオードをいい、ぴったりとしたスーツにオーデコロン、人を小ばかにしたした態度は一味の用心棒役フランクをイライラさせますが、取引までだとなだめるクリス。廃工場の一角で彼らを待ち受けていたのはヴァーノン、南アフリカ出身の英国人で訛りのきつい英語をまくしたてる男でした。お付きの黒人の大男はマーティンといい元ブラックパンサー党(黒人解放闘争のグループ)のメンバー。最初から最悪の取引でクリスたちは米軍の突撃銃であるM16をオーダーしたのにヴァーノンが用意したのはイタリアのベレッタのAR70。モノが違うと一触即発な雰囲気になりますが試射を進めてクリスは銃が使える事を確認、なんとか取引は無事に進みそうになり、そこに銃のケースを運んできたヴァーノンに雇われたハリーとゴードンがひと騒ぎを起こします。ハリーは取引前に悶着を起こしたスティーヴォのその相手だったのです。義妹を傷物にされたと怒りまくるハリーに対してキレたスティーヴォが銃を抜き発砲。そこから事態は悪化の一方へ。

 双方が銃を抜いて廃工場は銃撃戦の渦の中に。その背後に謎の狙撃手が現れ双方に銃撃をしかけ事態はどんどん混沌と。最後に生き残って廃工場を後にするの誰だ?というあらすじです。

ワンシチュエーション

 こういったワンシチュエーションの作品と言えば、有名なのがクエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』です。銀行強盗に失敗した雇われたプロたちが、落ち合う場所の倉庫で繰り広げられる映画です。タランティーノの名を一躍有名にした映画で、彼のスタイルの基本がつまっている映画です。最近でもタランティーノはワンシチュエーションの『ヘイトフル・エイト』という室内で話が進む西部劇を撮っています。

 ワンシチュエーションは必要最低限の設定で物語が作れる反面、ストーリー展開の面白さとアイデア、役者さんの技量に左右されるのでお手軽に作れる反面、もろに作品の良し悪しがでてしまいます。ですがその分傑作も多くワンシチュエーションで検索してもそういう映画のベスト10のようなまとめ記事が山ほどでてきます。ホラーやショッカー映画、コメディなど多彩な映画があげられています。『SAW』シリーズの第1作『SAW』や裁判の陪審員をテーマにした『12人の怒れる男』海に置き去りにされた『オープンウォーター』死んだアイドルを偲ぶために集まった男たちが繰り広げるサスペンスコメディ『キサラギ』など。枚挙にいとまがありません。『フリー・ファイヤー』もその中に喰い込んでくると思います。クエンティン・タランティーノの出世作『レザボア・ドッグス』は倉庫での話が中心になりますが回想シーンで外の場面も多く挿入されてきますから純粋なワンシチュエーションではないですが、閉ざされた密室テーマとしてはこの映画に通じるものがありますよね。

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人はすぐには死なない

 映画が始まる前に監督のベン・ウィートリーのお願いというか注意書きが表示されます。曰く、数々の銃撃戦のデータを精査した結果、人は撃たれたくらいではなかなか死なない、そういう人間のしぶとさを見てほしいというものです。

 実際出てくる連中、なかなかにしぶとい。タフというのではなく「しぶとい」っていう感じです。実は観始めた時に、あれ?これはちょっと思ってたのと違うなと、どっちかというとタフな方を想像してたので、うーんと思ったのですが、進むにつれて画面から目が離せなくなり、何時も映画を観る時は飲み物を買っているのですがそれを飲むのも忘れるくらいに画面に集中していました。いったい誰がどうなるのか、先が読めない展開に加え目まぐるしく変わる状況。誰味方なのか分からない疑心暗鬼。とにかくここから脱出しないという登場人物の行動が予測不可能な場面を次々と作り出していく様は、特別世界がどうとか、凄い武器がとかハリウッドブロックバスターとは違う味わいを産みだしていました。


 音楽は何故かのジョン・デンバー推し。正直詳しくないんですが8トラのカセットは懐かしかったですね。昔のクルマのカーステレオはだいたいこれでした。物語の舞台が1970年代というのも効いていると思います。今なら携帯で連絡とりあってすぐに外部に応援たのめますからね。現代の作品でこれをやるなら絶海の孤島か原生林か山中の奥深くとか街中だと苦労すると思います。

蛇足

 クリスたちがIRAシンパで所属するグループのために武器を買いに来たとか、ヴァーノンの手下マーティンが元ブラックパンサーという設定は面白いですね。今でこそ爆弾闘争やテロを控えているIRAですがつい最近までテロ組織として活動していた北アイルランドの独立運動組織です。この話も書くとすごく長くなりますが、基本的にアメリカのアイルランド系の人がスポンサーになってたりという事はあったそうです。(アメリカは移民国家ですがアイルランド移民も多くおり、アイルランド系ギャングやまた警察官にも多いので物語が多く作られています。)IRAのテロリストがアメリカで潜伏するという映画『デビル』(ハリソン・フォード、ブラッド・ピット主演)がありましたね。IRAとはアイルランド共和国軍の略称で実際のアイルランド軍とは関係がありませんがそう名乗っています。

 マーティンが所属していたブラックパンサー党は黒人解放を掲げた組織でマルコムXの思想に共鳴しており武闘派組織として活動していました。キング牧師暗殺後に力を増していましたが当局の取締など組織の路線変更も有り徐々に力を失っていきましたが武闘派なイメージがあります。なので元ブラックパンサーというと、武闘派(かなり雑な解釈ですが)だなという解釈が出来ます。そのマーティンが白人でアパルトヘイト(人種隔離政策)を行っている南ア出身のヴァーノンと組んでいるとか深堀りするといろいろ考察できそうなのりしろもあります。ブラックパンサー党も完全なテロ組織ではないですが過激な闘争を支持し、70年代から80年代頃にもテロ組織同士の結びつきは言われていたことがあり思想信条を越えて体制への反発という一点のみで武器や人員の訓練、闘争のほう助などがあったのではというのはよく言われる話でフィクションでも度々取り上げられています。


 『フリー・ファイヤー』で使用している拳銃はコルト・ガバメントからブローニング・ハイパワー、取引に使われたベレッタのアサルトライフルAR70(工場の余剰品だから足が付かないという台詞がありました。)にジャスティンのS&WのステンレスフレームのスナブノーズリボルバーにクリスのS&Wのミリポリ、ヘビーバレル?などガンマニアもちょっと目を皿にして観てしまう銃のオンパレードでした。M16の前、第2次世界大戦の米軍制式小銃、M1ガーランド、M1カービンも。この使い方がまたいいんですよね。

Beretta AR 70/90/Wikipediaより
Beretta AR 70/90/Wikipediaより/Di ignoto - coll.priv., Pubblico dominio, https://it.wikipedia.org/w/index.php?curid=5541012



 ちなみにこの中で銃の扱いがプロっぽいのは(というか用心棒として雇われたガンマンだったのでしょう)アーミ・ハマーの演じるオードと謎の狙撃手だけでしたね(笑)この取引の商品というかIRAの武器となるはずだったライフル、クリスたちはM16(当時米軍が使用していたアサルトライフル、めちゃくちゃ有名)だったのに見た事もないベレッタのAR70というライフルを持ってこられたらそりゃなんじゃこりゃになるのも上手いなと思いました(ガンマニア的に)。ヴァーノンとしてはM16と口径も一緒だし銃として使えるんだからいいじゃねーかと思ってたんでしょうけど(^^;

最後に

 ドンパチ好きな人よりもしかするとグダグダなお話好きやワンシチュエーションに燃える人に超おすすめな映画かもしれません。ですが好きな人にはたまらない映画だと思います。年代の設定もいい小品でした。

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