40年越しのストレンジ体験。|『天使のたまご』4Kリマスター-Web-tonbori堂アネックス

40年越しのストレンジ体験。|『天使のたまご』4Kリマスター

2025年12月28日日曜日

anime movie

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 40年と時を経て『天使のたまご』を観ることになるとはまったく思ってもいませんでした。当時、OVAの値段はLPレコードよりも高く、まだアルバイトを始めたばかりのガキんちょは欲しいものが他にも色々あり、そこまで『天使のたまご』にお金をつぎ込めませんでした。もっともその後レンタルビデオで観て、まるで話を覚えていなかったのは今回再見して、なるほどこれは話は覚えてないなと改めて思ったものです。それはおいおい語ってみますが、それよりも画は覚えているシーンが頻出するなと思いました。それは当時アニメージュで特集が組まれており目にしているからです。それに東京ではキネカ大森でティーチインを含めた上映会があったことは前に付録を掘り起こして確認しています。とは言えそれから40年、4Kリマスターにより精緻な手作業による手書きアニメーションの極地が蘇るとは。このところ押井監督のお仕事がリマスタリングされているのもそうですが、その他作品の4Kリマスターの波に乗って今観れるのは非常にストレンジな気分を体験しました。という事で今回は『天使のたまご』について40年越しのインプレッションを書いてみようかと思います。

【11月14日(金)公開】天使のたまご 4Kリマスター⑤ #shorts #押井守 #天野喜孝/YouTube/徳間アニメch【公式】


夢うつつか幻か?

 『天使のたまご』は何処が舞台なのかはっきり明言されません。最初に出てきた卵の中で眠る鳥の見る夢?または荒廃した文明の中、ひっそりと終焉を迎える終末。押井監督もそもそもそういうどこそこでのと明言はせずに聖書からの引用を盛り込み、台詞を少なくすることで説明を排して世界とそこに流れる時間に浸れるように作っていると思います。


 著作の中でも箱舟や少年の持つ十字架、洪水に「天使」は明らかに確信犯としてちりばめたとおっしゃってますし。タルコフスキーの『ソラリス』や『ストーカー』を意識した流れる時間をコントロールしようとした苦闘の跡がそこかしこにうかがえます。それ故に起伏に乏しく何が起こっているのか分からない(そもそも起こってないのかもしれない)ため眠気を誘うという話もよく聞きますし、tonbori堂も確か寝てしまったし当時は「分からんな、何がしたいのか?」と思いました。ただその後押井監督の他作品や監督の発言などを聞いて40年の時を超えてなんとか当時と同じく「分からない」けれどそういう時間とモチーフに埋め尽くされた映像なんだと感じることになりました。


 でもこの「分からない」は曲者で人は分からないと興味が失せて眠気を催します(ヲイヲイ)、でも今回のリマスターでドルビーアトモスという強烈な音響と奇麗に映し出された4K画像のおかげで眠気のタイミングで轟音で目覚め画の凄さに魅入られる。まるで夢うつつか幻かという体験を40年越しで味わうことになりました。

ミニマムな世界

 また台詞を発する登場人物というかキャラクターもほぼ2人だけ。途中で出てくる彼らはそれこそ亡霊か、幻のようなものだし、そういう世界で2人だけの何かがあって何かが変わった(もしくは元に戻った)というそういう構造です。そしてどんどん引いていくことでこの話が実は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と同じ構造を持っていることに今回気が付きました。初見時はえ?なにこれ??あの箱舟然としたものは?もしかしてこれ全体が?何かの宇宙船?(宇宙船とか考えのが当時の自分のオタクスタンスが垣間見えてしまいます)と想い、そういう抽象的なものではなく実存的(もっとも宇宙船も空想ではあるんですが物語のリアリティなどとして)なものを志向していたように思います。


 でも今回のあのヒキは改めて見ると少年の内的世界でもあり、もしかすると少女の見る夢だったのかもしれないという見方も出来ます。つまり「ビューティフルドリーマー」な訳です。まあこの辺りの解釈はいっぱい出ているかもしれませんが、テキストを読んで分かった気になるより、今回改めて『天使のたまご』を観て実はHuluで『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が観れるので再見してああなるほどと膝をポンと打ちました。これはやっぱり両方観ないと分からないですね。

技術の粋

 髪の毛やレイアウトの凄さは多分今では再現不可能な領域で時間こそ短いしアクションもあるわけではないけれど凄まじい労力がつぎ込まれた映像はそれだけでもアニメ史に残して良いかと思います。風にたなびく服や髪の一本一本。そしてキャラにそって動く影など手作業でほどこされたアナログの精緻さはやはり他にない味わいがあります。

 アニメはなんでも出来るしどんなカメラワークも可能だけれど(それでも出来ない事もあるかとは思いますが)それは全て書き込みされた技の集合体。この作品には当時の最高のスタッフが結集しておりその力を余す残らず堪能できるのも4Kリマスターあってこそです。

 キャラクターデザイン、アートディレクションはイラストレーターとしても活躍している天野喜孝、一見で天野さんのキャラと分かる以上に世界観が伝わるキャラを産み出していて発表当時は本編よりも天野さんのイメージボードのキャラ画が強く脳裏に残りました。作画監督は名倉靖博、『とんがり帽子のメモル』のキャラ原案かつ作画監督を務めた事で有名ですが名うてのアニメーターで『天空の城ラピュタ』や最近の作品では『犬王』にも参加。うちのブログでは『花の詩女ゴティックメード』の作画監督も務めてらっしゃいます。

 美術は小林七郎、押井監督とは『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』で組んだ大ベテラン。小林さんがいたからこそのレイアウトと押井監督が語るほど影響があったとか。撮影は杉村重郎、これまた押井監督とはこれまた『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』で縁のあったスタジオぎゃろっぷの所属でベテランカメラマンがご担当されたとか。撮影には普通20台以上のカメラを使用するところ色調の変化やサイズが変わる事を避け1台で丁寧にセルに静電気で付着する埃を丁寧に羽箒などで払って撮影したとか。また色指定にはジブリで宮﨑監督と長年組んだ保田道世。ベテランの皆さんは、コンテやキャラをみて参加を決めたそうです。本当にスタッフに恵まれ、その力を十二分に発揮していると言っても過言ではありません。中でも美術の小林さんには押井監督、レイアウトを教わったとのことで押井監督のレイアウト主義というか指向はこの時に培われたのかと得心しました。

キャスト

 少女には兵藤まこ、押井監督が今回のリバイバル上映でのトークショーで兵藤まこは自分にとってのミューズ(女神)であると明言し、後に『紅の眼鏡』などにも起用していました。

リンク|押井守監督作品で兵藤まこが演じる役はいつも同じ 40年前の「天使のたまご」収録を振り返る : 映画ニュース - 映画.com

 そして少年には根津甚八。後に『機動警察パトレイバー 2 the Movie』において、敵となる元自衛官、柘植行人を演じた根津甚八さんです。晩年は病に苦しみ闘病生活を送っておられたようですがその存在感は余人をもって代えがたい魅力のある俳優さんでした。今回の少年も短い台詞ながら存在感を放っています。

40年越しのストレンジ体験

 まさに40年後に『天使のたまご』をスクリーンで、しかもオリジナルマスターをそのままのクオリティで観れて、しかもやっぱり眠気誘われるけどその度に爆音で頭が冴え、次第にその作画とレイアウトに酔いしれるという本当にストレンジな体験でした。こういう事もあるんですね。まさに押井監督のマスターピースといっていい1本でした。

※ブクログ/Amazon/公開前に発刊された原作的なものでアニメージュが手掛けたアニメージュ文庫の1冊として出ていました『天使のたまご』、これを今読むのもいいかもしれませんね。

天使のたまご
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