終戦のゼロからマイナスへ/『ゴジラ-1.0』感想【ややネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

終戦のゼロからマイナスへ/『ゴジラ-1.0』感想【ややネタバレ注意】

2023年11月25日土曜日

GODZILLA movie VFX

X f B! P L

 そろそろ公開からひと月も過ぎようかとしているので【ネタバレ】込みでの感想をアップしたいと思います。Twitterではだいたいもう言っちゃってるんですがブログでもログとして残して置こうかと思いまして書いておりますので一つよしなに。

【対ゴジラ篇】映画『ゴジラ-1.0』《2023年11月3日劇場公開》/YouTube/東宝MOVIEチャンネルより
 公開前は『三丁目の夕日』の山崎監督ということで、最近の『アルキメデスの大戦』は良かったんですが、CGアニメ『ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー』での酷評や毎年ブロックバスター映画をリリースし、ヒットメーカーとしての立場から節操がないとか見識が無いと揶揄される作風などなど毀誉褒貶される事も多いということで正直観る前は不安もありました。ただ監督のメジャーデビュー作の『ジュブナイル』と『リターナー』は根強いファンがおり、tonbori堂も『リターナー』は好きだしCGの表現とVFXでの第一人者としては日本では比類なきクリエーターであることは間違いないと思っております。

 そんな山崎貴監督が、あの『シン・ゴジラ』の後に放つゴジラ映画はやはり気になっていました。そしてその内容は日本にゴジラが初襲来するという作品となりました。つまり『シン・ゴジラ』と同じ「最初の1頭(オリジン)」ということです。シンの続編でもなく’54後の世界観でもなく、新たに紡がれたゴジラの物語は初見時、これは凄いなと素直に思いましたし面白い!ともなりました。実は気になったところもあったんですが画面の迫力と演者に助けられて最後まで面白く鑑賞出来たのです。ということでその辺りを少し書いてみたいと思います。

終戦のゼロからマイナスへ/ゴジラ-1.0/あらすじ

 太平洋戦争末期、特攻隊として出撃した敷島は機体不調のため太平洋にある小島、大戸島守備隊の仮設飛行場へ着陸した。しかし整備兵の橘は機体におかしなところは無いと敷島に告げる。その夜、突如、基地は謎の怪物に襲われる。土地の者がゴジラと呼ぶその怪獣を零戦の20mm機関銃で撃てと橘から促される敷島だったが彼は撃てず、そのため守備隊は橘と敷島を残して全滅。復員する船の中で死んだ部下たちの写真を橘は怒気を含め敷島に手渡していった。

 戦地から復員してきた敷島、実家は空襲で燃え落ち、両親は亡くなったと近所に住んでいる澄子から告げられおめおめと帰って来た事をなじられる。生きる気力を失っていた敷島だったが、戦後焼け野原になった東京である事から出会った赤ん坊を連れた大石典子という女性と慎ましく暮らしはじめた。暮らしのために木造の船で機雷掃海の仕事に就く敷島。艇長の秋津、船員の水島と元海軍技術士官の野田とともに危険ながらも機雷処理に励むのだった。そんな彼らの平穏な生活を侵す大きな黒い影が東京に現れる。それはあの大戸島に現れた怪物が米軍の核実験で変容した怪獣だった。終戦から2年。戦後の混乱から立ち上がろうとしている日本に未曾有の危機が迫る。

咆哮

 『ゴジラ-1.0』の凄いところは何と言ってもVFX(敢えての)です。山崎貴監督は自他共に認める日本のVFXとCGの第一人者であるし、彼の所属する邦画VFXでは必ず名前が上がる白組という会社も当然がっつりと今回のゴジラに取り組んでいます。『シン・ゴジラ』にも関わったスタッフをも引き抜き総力戦で挑んだ今作のゴジラ描写は王道かつ迫力満点。海中、陸上での姿、動きなどその迫力は怪獣ならではの恐ろしさもしっかり表現されていました。そしてそれをさらに嵩上げするゴジラの「咆哮」、今回ゴジラの鳴き声が物凄い音圧だなと思ったらスタジアムでスピーカーからゴジラの鳴き声を鳴らしてそれを録音するという音の拡がり迫力を目指した音作りをしていたとの事。とにかくIMAXスクリーンでなくとも音はいいスクリーンで観る事をおすすめしたいと思います。但しあまりの迫力に怖くなっても責任は持てませんので悪しからず。思えば1954『ゴジラ』が夜の東京に上陸したのに対して昼間の銀座を蹂躙する-1.0ゴジラ。まさに暴君といった感じで街を蹂躙していく様は恐怖そのものでした。ここはビジュアリストの山崎貴監督の面目躍如だと思います。

終戦のゼロ

 終戦によってゼロになった日本、それが(負)マイナスになるという「戦後、日本。無(ゼロ)から負(マイナス)へ。」というキャッチコピーから監督が手がけた『永遠のゼロ』を想起する人も多かったと思います。もちろんtonbori堂は前情報も殆ど無かったけれど戦後で復員兵が主人公だという事はやっぱり近作の『アルキメデスの大戦』や特攻を扱った『永遠のゼロ』を思い起こすところがあるんじゃないかとは思っていました。それはもうがっつりあった訳で主人公は特攻を忌避してしまった男。同僚は皆、死地に赴いたがなんらかの理由で彼は本土へ帰還したかったというのは『永遠のゼロ』の主人公を思い起こさせるし、彼は結局守るために特攻したというのは色々思うところではあるじゃないですか。そこで今回は特攻「しなかった」男を主人公にしたのかとちょっと危惧しました。


 というのは、特攻しなかった男が最後の最後、護るべきもののために自ら決着をつけるために死地に赴くというのは安易に想像できちゃうからです。それは結果から言うとそうなりませんでした。でもそれに至る流れが若干もやるというか、そうなんだと。敷島はゴジラの銀座襲撃後、かなりやけっぱちというか明らかに怒りに支配されていたんですが、用意された戦闘機に脱出装置が備えつけられていて、それの使用法を機体の整備をした橘から教えられ使うように促されました。それはいいと思うんですが橘も、部下たちを見殺しにされた上、呼び出すために、大戸島守備隊全滅の責任は橘に有りと敷島からの手紙でおびき出されたりとか、そこまでされてというのもあるんですよね。いやそれでも戦後、それぞれに護るべきものが出来た者たちが命を粗末にするなというメッセージであるという事が出来るかもしれないけれどというのは有りました。その上、これは演出の話ではあるんですが万策尽きた時に敷島が戦闘機で突っ込むシーンではスローモーションになるのは流石に、そうかスローモーションにしてしまうのか…ってのはありましたね。


 キャラクターに目をやると秋津のべらんめえが気になった人もいたようですが自分は気になりませんでした。どちらかと言うと水島が軽いなっていうところでしょうか。そしておっ!と思ったのは吉岡秀隆が演じた野田は何時もの吉岡秀隆なんですが(ヲイヲイ)、いいなと思ったのはゴジラが出てくると何か高揚していたり、対策会議の時にノリノリだったところ。山崎貴監督の指示もあったそうで、マッドサイエンティスト!って感じで、これは1954『ゴジラ』の山根博士が保護の観点からのゴジラ保護を訴えた点で薄められた科学者のエゴや、それを言った後に戦時中での自分の行為を顧みるところはオキシジェンデストロイヤーを作り出し苦悩する芹沢博士に対するリスペクトなのかなと穿ってみたりもしましたね。


 浜辺美波演じる典子、最初はやさぐれてるのかと思ったら案外素直な良い娘さんでというのは展開が早いなとは思いましたが、しかしアレの後でああなるとはいやぁ頑丈だなと思ったところで黒い痣が…あれは何なんでしょうね、やがて-2.0でビオランテ化するんでしょうか?うーん…。ただ彼女が助かったという流れはあざといものの病室で隻眼に包帯が巻かれていた時に「芹沢博士!」(芹沢博士は何故そうなったかは詳しくは語られないものの隻眼なのです。)ってなったんですよね。これは評論家、作家の切通理作さんもご自身のYouTubeで指摘されていたしゴジラ好きの俳優、佐野史郎さんも多分気が付いておられるはず。ラジオで『ゴジラ-1.0』の話をされていたときにはっきりとはおしゃっていなかったけれど初代へのオマージュがあったと言われてましたし(銀座の実況中継とかの事かも知れませんが)。


高雄と震電

 もしかするとこの2つを活躍させたかったから1954より前に設定したのかと思ったらそうだったそうです。(監督があちこちのインタビューで語っております。)そうまでして出した高雄とゴジラの戦闘シーンは凄かったですね。邦画のCGでもここまで出来るのか!となりました。惜しむらくは巡洋艦に乗っている船を動かしている人たちが甲板員ぐらいしか描写されていないところです。中で指示を出している人、動かしている人が見えればもっと良かったと思います。現にクライマックスの駆逐艦ゆきかぜ他によるわだつみ(海神)作戦での艦内での動きなどがあるシーンはやっぱり気持ちが上がるんですよね。予算と言えばそれまでなんですが…。


 震電に関しては、そうかそう来たかと思いました。怪獣映画での戦闘機(飛行機)というのは怪獣と戦うには実は不憫なやられ役やモブでしかないんですがパイロットが主人公である『ゴジラの逆襲』以来のパイロット主人公(敢えてVSシリーズなどの平成以降も含めてメカゴジラ関係パイロット主人公は外しています。スーパーXも同様に。飛行機ってのが大切なんです。)っていうのは良かったですね。そして震電も変った戦闘機であり、大戦には間に合わなかった局地戦闘機で、それをもってくるところとかそれも含めて上手いなと感じました。

GMK

 最後にこれだけは言っておきたいと思います。いや山崎監督、GMKこと『コジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』好きすぎでしょ!(苦笑)ゴジラの倒し方、ゴジラの熱線描写、ゴジラを倒した後、エンディングなどなど。オリジナルの要素もあるけれど金子修介監督の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』っぽい画が頻出してさすがにオイオイとなりましたが、金子修介監督を招いての山崎貴セレクションゴジラ映画の上映で金子修介監督と対談もしてるんですよね。そこでかなりラブコールを送っていたようです(笑)、ちなみに『シン・ゴジラ』はモノクロ版のオルソを上映、これは関西でもあったので観に行きました。舞台でのトークショーも生中継ということで楽しく拝見させてもらいましたが庵野監督が銀座を連呼していたのが印象的でしたね。実際銀座のシーンは邦画VFXでは今世紀ではダントツだと思います。その意味では金子修介監督のゴジラでVFXは山崎貴だったら凄いの作れるんじゃないか?とか。いや今ならガメラ…なんて事をちょっと妄想してしまいました(笑)

ゴジラ

 ともあれ、やはり恐怖の象徴でもある怪獣ゴジラの恐ろしさというのはこれがオリジンであるからこそでそこは描けていたと思います。それとVFXの良さでどうしても作品については甘めの得票になる感じです。「海から来る」「放射能」という点ではしっかりゴジラでしたし。実のところ『シン・ゴジラ』も「海から来る」「放射能」という2点がしっかりと刻み込まれており、あとはそれが災害なのか?それとも戦争なのか?それぞれにメタファー出来るのが架空の巨大生物であると思うのです。もちろん何かの「使い」であるや、それこそが「超越者」という建付けも出来るのが怪獣という存在ではあるのですが。今回は戦争というものと戦後に的を絞って分かりやすくスペクタクルな画を描き出した事は評価したいと思いました。

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※モノクロカラーのマイナスカラーも味があってよいです。/Amazon.co.jp: 『ゴジラ-1.0/C』 [Blu-ray] : 山崎貴, 神木隆之介, 浜辺美波, 山田裕貴, 青木崇高: DVD 

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