「 静かに瞑れ」|『ジョン・ウィック:コンセクエンス』感想【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

「 静かに瞑れ」|『ジョン・ウィック:コンセクエンス』感想【ネタバレ】

2023年10月26日木曜日

Gun movie

X f B! P L

 観てきました。ジョン・ウィック:チャプター4ことコンセクエンス。今回は前作で出演予定だった真田広之が満を持して出演。そして物語を動かす鍵となるジョンの友であり最強の刺客、ケインにドニー・イェンを迎えたシリーズ最強の布陣。上映時間が大幅に増え、パラベラムは好きだけど一方でもう天辺じゃないか?と思っていたらまだまだやれる!とばかりにアクションで物語を紡ぐスタイルを確立したなと思いました。ということでジョン・ウィックの大逆襲になるか?それとも主席連合との周囲を巻き込む大戦争となるのか?『ジョン・ウィック:コンセクエンス』について、あらすじの後、少し書いてみようと思います。


【本国版 Final Trailer】『ジョン・ウィック:コンセクエンス』9/22公開/ポニーキャニオン【映画部】ch/YouTube

※若干の【ネタバレ】があります。ご了承ください。

ジョン、最後の戦いへ/STORY

 主席連合の差し向けた殺し屋と襲撃者たちを辛くも撃退したジョンは、NYコンチネンタルの支配人で協力者だったウィンストンに銃撃され、そのまま姿を消した。NYのホームレスネットワークの王バワリー・キングとともに地下に潜伏したジョンは傷を癒し反撃に転ずるが既に主席連合はジョン・ウィック抹殺をグラモン侯爵に一任。グラモンはジョンではなく彼の旧友や協力者を締めあげ、最後にジョンを殺そうと目論んでいた。その手始めとしてジョンを撃つ事により筋を通したウィンストンからNYコンチネンタルを取り上げ、彼の忠実なコンシェルジュ、シャロンを目の前で射殺する。


 そしてジョンの旧友であり引退していた殺し屋ケインを招聘し、ケインの懇願も聞き入れず娘の命と引き換えにジョンの抹殺を強要する。その頃、前首長を殺害したジョンは身を隠すために日本の大阪コンチネンタルの支配人であるシマヅコウジを尋ねていた。既に世界で彼の安全な場所は数少なく、友と呼べる人間も同様に少ない。しかし大阪コンチネンタルにグラモン侯爵は腹心であるチディとともにケインを送る。そして大阪コンチネンタルの聖域特権は剥奪されたため、コウジと娘のアキラは主席連合と戦う事に。ともに戦うジョンだがコウジは彼にこの場は退けと諭す。脱出するジョンは包囲されるが、彼にかかった懸賞金目当ての犬を連れた殺し屋(追跡者/トラッカー)ノーバディ(名無し)は、懸賞金釣りあげのためジョンを狙うグラモンの手下を倒し彼をその場から逃がした。しかしジョンを逃がすためにコウジはケインと戦い命を落とす。


 辛くも脱出したジョンにウィンストンはある方法を示す。それは主席連合の古いルールに則り、グラモンへ決闘を申し込む事。それしか主席連合から真の自由を得られる手段はない。果たしてジョンはグラモンとの決闘に挑む事が出来るのか?そして自由を得る事は出来るのか?全てに決着を付けるためジョンは最後の戦いに挑む。

ただ妻を愛した夫

 ジョンが、ウィンストンとバワリー・キングに墓碑銘に刻んでくれと頼んだのは「妻を愛した夫」でした。彼の妻ヘレンの墓碑銘が「夫を愛した妻」、ただ妻を愛した夫だったのに、全ての歯車が狂ったのは彼女が最後に贈ってくれた愛犬をロシアンマフィアの息子が殺した事。車を奪っただけなら命を取られる事は無かったはず。しかし犬まで殺した彼と彼を護ろうとする父を含めて組織を壊滅させたジョン。しかしそれが裏社会に復帰したと見なされ結果、抜けるための誓約を使われますます泥沼に。一度はルールの中にいた男が妻を亡くした後に見舞われる悲劇から憤怒に駆られ、自らを捨て鉢としさらなる泥沼へと至るのがパラベラムまでのジョン・ウィックの軌跡でした。


 もうそうなると、最後はどう考えてもハッピーエンドは考えられないし、実は監督もジョンがハッピーエンドを迎えるとは考えられないとインタビューで語っています。もっともどういう結末をハッピーエンドとするかによるとは思いますが、ジョンが最終的に目指すのは死んで妻の元に行けなくとも(天国に)、自らの心の安寧を得て納得出来る生を全うしたいという事でしょう。理不尽な世の中に抗い筋を通すジョン。監督はこれもインタビューで語っていましたけどジョン・ウィックの物語を「ギリシア悲劇」になぞらえていましたがtonbori堂は任侠映画の影響も感じられました。ルックとしての影響を受けた作品として鈴木清順の『東京流れ者』などを挙げていたスタエルスキ監督でしたが、ある種『唐獅子牡丹』のような殴り込み的な様式もあるし、旧友が命を落とすなどは任侠映画感が凄く感じられました。

ケイン

 そしてジョンだけの物語だったら実は3で終わらせても良かったのにラストシーンをコンチネンタルで終わらせたから(それはチャプター2からの流れもあったからだと思うけれど)4作目が作られる段になって、もう1人ジョンと対称になる強力なキャラクターを投入してきました。それがドニー・イェンが演じる盲目の殺し屋ケインです。座頭市を意識しているキャラクターですが、彼は殺しの世界から抜けるため目を差し出した男です。それでもその冴えは衰えを知らず、ジョンの旧友であり、家族(娘)のためにこの世界に引き戻されたというバックグラウンドを持っています。そんなケインをドニー・イェンが存在感たっぷりに演じている訳です。後天的に視覚を失っても研ぎ澄まされた感覚と殺しの技が冴え渡る男なんてキャラクターは確かにドニー・イェンしか出来ません。おかげでこの作品の対立軸にツイストが加わって長丁場が締まったと思います。正直、ジョンとバウリー、ウィンストンの何時もの面子に主席連合は差し向ける殺し屋という(ただ金のためだけとか命令に忠実なという紋切型)図式だとこうはなってなかったと思います。

コウジとアキラ

 真田広之が演じる大阪コンチネンタルの支配人でジョンの旧友。前半の見せどころであるケインとの対決で存在感を示した真田広之もまた前作で主席連合の殺し屋ゼロ(演じたのはマーク・ダカスコス、多分真田広之が演じたらキャラクターが違っていたと思います。)を怪我でリタイアせずに演じていたら、このベストバウトが実現しなかったと思うと何が幸いするか分からないものですよね。還暦越えてもこの動きが出来る2人も凄いです。それとともにコウジはジョンのしたことは拙い事だと分っていてもなお義理と人情で彼に手を差し伸べる男として出番は短いながらも印象的なセリフをジョンに送り、盾となって散るというまさに任侠の漢を鮮烈にハリウッドに示したように思います。


 娘のアキラ役にはリナ・サワヤマ。役者ではなくシンガーソングライターだそうですが監督が惚れ込みオファーを出し最初は演技の経験がない事から断っていたのを説得したのだとか。OKがとれた時点でアクションの練習に参加してもらってとのことだそうですが、堂々としており雰囲気をしっかり持っている彼女もまたコウジとともに大阪コンチネンタルでのシークエンスに無くてはならない存在感を放っていました。アキラは父のコウジがジョンを庇う事で主席連合と敵対する事になるのは反対していますがそれでも父の事を愛しており彼の矜持を全力で守ろうとする娘というのも良かったですね。

ウィンストンとバワリー、シャロン

 ウィンストンはAmazonプライムビデオで彼をメインに据えた『コンチネンタル』という70年代の頃の若きウィンストンを描くスピンオフドラマシリーズが作られていますがまだ1話しか観ていないんですが、今回は片腕であるシャロンを殺され復讐するために『パラベラム』ではホテルを守るためにジョンを撃ったものの彼と再度、手を組み主席連合に挑むことになります。裏社会で老人は言わばサバイバー(生き残った者)であり舐めてかかると痛い目にあう。彼もまたその1人であり、リスクもとるけれどしっかりと実も取る。なにより矜持を大事にする漢(漢とかいておとこと読むアレです。)です。そんなウィンストンをイアン・マクシェーンがまさにはまり役で演じています。ジョンとともにこの作品の顔でもありますよね。そして登場人物の中で1人だけジョンのことを「ジョナサン」と呼ぶ男。その謎をも最後の最後で。いやこれは結局謎が深まっただけかもしれないんでスクリーンでご確認ください。


 バワリーはジョンの協力者としてチャプター2から参戦したNYのホームレスネットワークの支配者です。主席連合とは表だって敵対する勢力ではなかったんですがジョンに以前見逃してもらった事で恩義を感じている節があり彼を助けたことで主席連合からペナルティを課せられましたが、その後もジョンを秘密裏に支援している人物です。尊大かつ芝居がかった人物ですが言わばエリア88のマッコイ爺さんみたいな何でも持ってきてくれる人でこういう物語にはなくてはならない人物。それをキアヌとは『マトリックス』トリロジーでモーフィアスを演じたローレンス・フィッシュバーンが演じるのも縁を感じますね。またバワリーの胡散臭いところや芝居がかったところを楽し気に演じてるんで余計にそう思うのです。まるで別の世界のマトリックスではこの話が紡がれているのでは?なんて事を妄想したり(笑)


 シャロン役のランス・レディック…先日急逝されてしまったんですよね。渋い声の持ち主でコンチネンタルのコンシェルジュとして頼りになる男を演じていましたが…。そして作中でもあのように退場してしまうとは。でもウィンストンと一緒に行きますとか言ってる時点でヤバい!って思ってしまいましたけどね。ヤクザ映画でもよくあるシークエンスです。ヴィランの悪辣さを印象付けるためにとられる手法ではあるけれど…。だからこそウィンストンが危険を冒してまで一度は切ったはずのジョンに協力するのかというのも納得出来るというか。佇まいが本当に得難い方でした。R.I.P.ミスター・レディック。

侯爵、トラッカー&more

 本作のヴィランはグラモン侯爵。若く慇懃無礼な人物で主席連合にジョンの抹殺を確約して全権を委任された男です。ジョンの協力者を減らし見せしめに殺し、または刺客として差し向けるいやらしいヴィランをビル・スカルスガルドが演じています。『イット』でペニーワイズを演じたことで注目を浴びた新鋭ですが、上手いですよね。訛りとか、ポーズとか、衣装もスタッフがいい仕事をしているのでそこも高貴なクソ野郎って風情がよくでていました。


 ジョンの追跡者(トラッカー)の1人でノーバディと名乗るトラッカー(これはジョンがそう呼ぶので。ちなみに役名もMr.ノーバディ/トラッカーです。演じるのはシャミア・アンダーソン。新鋭の俳優です。)もいいキャラでしたね。ノーバディというと『Mr.ノーバディ』っていうこれまた舐めた男が殺人マシーンでしたっていう作品がありましたけど(『ジョン・ウィック』のスタッフが製作してます)どちらかと言うと『Mr.ノーボディ』の方を思い出す若き殺し屋って感じです。老齢のガンマン(ヘンリー・フォンダ)が引退しようとヨーロッパに渡るために港へ向かう道中に付きまとうガンマン(テレンス・ヒル)と最後に決闘する映画で、多分このトラッカーもそういう意味合いが持たされているのかなと思いました。相棒が犬だしジョンと通じるところがあるというのもあって彼の懸賞金が上がるのを待つとか主席連合に売り込むとかそういう若さはジョンをはじめとするケイン、コウジらが言わば枯れた(でもめちゃくちゃ動いてますけどね)部分があるのを対比させるために若き追跡者を言わば狂言廻しとして置いたのかなと。目撃者としていいポジションだったと思います。


 それとアクション俳優であるスコット・アドキンスが出てると聞いてたのに、え?どこにも出てなかったと思ってスタッフロール見てたら名前はちゃんとあってでも役名が…キーラ?キーラって誰だっけ?そんなやついたっけと家に帰ってパンフ開いて確認したら起死回生の策でルスカ・ロマに復帰するためにボスであるカティアから命じられたベルリンのボスでクラブ「天国と地獄」のオーナーでした。めちゃくちゃごっつい人で凄い迫力の人だったけどスコットって筋肉質だけどあそこまでごっつくないやん!と思ったらボディスーツを着込んでの熱演だったそうです。ビックリですよ(笑)でもあの動き、太ってるのにすげえなと思ったけどそういう事だったとは。もう1人、『ダブルホーダー』って映画で名前を覚えたクランシー・ブラウン。この方もキャリア長い方で声優もしてたりするんですけど最近またちょくちょく映画でも渋いところで出てくるので、あウィックにも参戦か!ってなりました。

「静かに瞑れ」

 観終わって思ったのは『友よ、静かに瞑れ』でした。北方謙三の小説でドラマ化もされていますが、ここで思い出したのは崔洋一監督の角川映画で製作された1本です。藤竜也主演で、殺し屋とかそういう映画ではないですが沖縄を舞台に地上げ屋と開発会社、それに抵抗するホテルの主人とその友人である主人公。一種の西部劇でもあり、任侠映画だと感じた映画ですが今回の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』にもそれを強く感じました。まさにそういう男たちの矜持とそれを守るための戦いという映画です。スタエルスキ監督は『東京流れ者』などに影響を受けたとも聞いていますが、それらはルックの話であり、根本はギリシャ悲劇であると語っていますが、その描き方はやはり西部劇であり任侠映画に通じるものがあるんですよね。ジョンとウィンストン、バワリー、ジョンとケイン、コウジ、落し前の付け方などなど。それに3作続いてきたジョンの長い旅路の果てにはやはり一つの決着が必要であるし。公開前の監督インタビューで、ジョン役キアヌはスタエルスキ監督にジョンを殺してくれと懇願したそうです。スタエルスキ監督も分ったと言いながらもそこはという事でどうなったかは作品を観て頂きたいと思うのですが、4作も続いたのであればそこは一つの決着があって良いのではないかと思います。もちろんナイスなアイデアがあればババヤガは戻ってくるでしょうけどね。(スタジオはドル箱だから次作もぶち上げてはいますが)またコンチネンタルの話もスピンオフつくられているしルスカ・ロマの殺し屋としてパラベラムで少しだけ映ったバレリーナを主人公にするスピンオフの話も進んでいるとか。あの殺し屋ファンタジーユニバースはスピンオフで暫くは続きそうです。

※毎度おなじみ『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に出てきた銃の解説エントリ「拳銃は最後の武器」シリーズもアップしております。併せてよしなに😌

まさに、「拳銃は最後の武器」:『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に出てきた銃

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『ジョン・ウィック:コンセクエンス』から毎度おなじみ、『拳銃は最後の武器』シリーズ、今回は『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に出てきた銃を取り上げました。ピット・ヴァイパーなど気になるやつだけですが、ご紹介しています。

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