不可能に挑む男|『ミッション:インポッシブル:デッドレコニングPART1』感想【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

不可能に挑む男|『ミッション:インポッシブル:デッドレコニングPART1』感想【ネタバレ】

2023年7月30日日曜日

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 トム・クルーズの『ミッションインポッシブル』シリーズ最新作『デッドレコニングPART1』、夏休みの大作に相応しいとは思うんですが正直中盤で、何を観てるんだろうか?となったのは否めませんでした。ただこの作品、ある意味では現在公開中映画ではかなり極北に位置する映画であることは間違いありません。物凄い映像、アクションがふんだんに詰まったおもちゃ箱というかエンターテイメントの粋を集めた映画であることは疑いようがない作品になっていると思います。いったいなんのこっちゃと分からないのも無理はありません。観てるこっちが訳が分からないんですから(笑)でもこれは『君たちはどう生きるか』とは違う意味での訳の分からなさでもあるんですよね。ということであらすじの後にそこら辺の事を書いてみたいと思います。

映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ファイナル予告/YouTube/パラマウント・ピクチャーズ

『ミッション:インポッシブル』の内容について言及しておりますので【ネタバレ注意】とさせていただきます。なるべくご鑑賞後にお読みください。

世界の命運を握る鍵を奪取せよ/STORY

 北極海で作戦行動中のロシアの潜水艦セヴァストポリには画期的な索敵航行システムが搭載されていた。それはAIによる人工学習機能を搭載し敵潜水艦に探知されず行動できる画期的なものであった。そのシステムは艦の中央部に収められ入室するには2つの鍵を一つに合わせてしか入室できない。しかし探知されないはずのセヴァストポリは敵潜水艦に探知され魚雷による攻撃を受けた。応戦するセヴァストポリ、しかし探知器から敵潜水艦は消え失せ自ら発射した魚雷によって沈没し乗員は全員死亡する。


 それから暫くの時が経ったある日、IMFのエージェント、イーサン・ハントは新たな指令を受ける。それは元MI6のエージェント、イルサ・ファウストが盗み出した鍵を奪取する命令を受ける。早速アラビアの砂漠に向かうイーサン。そして鍵を奪取しにやってきた傭兵を撃退しイルサから鍵を預かるのであった。


 アメリカ合衆国の情報機関トップが集まり全世界を揺るがしている「エンティティ(幽体)」についての対策を話し合っていた。エンティティは各地のネットワークジャックを行い各国の情報機関も対処を憂慮していたが、そのエンティティにつながるのが鍵であるという。その鍵はあのセヴァストポリの鍵と同じものでありエンティティに直接コネクションできるもので各国情報機関が血眼になって捜索中であると元IMF監督官で現在CIA長官であるキトリッジがデンリンガー国家情報長官に報告していた。そして現在、鍵をIMFに追跡させていると告げると突然彼の秘書がガスマスクを差出し部屋にガスが充満する。ガスは催眠ガスでキトリッジ以外は皆眠らせられた。キトリッジの秘書はイーサンの変装だったのだ。彼は鍵の情報が全く無い事を訝しいと思い直接キトリッジに会いに来たのだ。そしてキトリッジにもう一つの鍵を探しだし破壊すると宣言する。キトリッジはそんなイーサンにCIAも他の国の情報機関も全力でイーサンを追跡するだろうと告げる。


 イーサンはハッカーのルーサー、テクニカルサポート専門のベンジーとともにもう一本の鍵の行方を追いアブダビ空港へ。しかしそれを追尾するCIAエージェントのブリッグス率いるチームも向かっていた。ルーサーたちがCIAのシステムに侵入しイーサンが鍵を引き取りにくる男を確保するために支援するが、鍵はプロの泥棒であるグレースにすり取られてしまった。しかも何者かが設置した小型核爆弾を見つけたベンジーはギリギリで爆弾を止めるがそれは何者かのトラップだった。イーサンたちはグレースは鍵を欲する何者かに雇われていると踏み彼女を追って一路ローマへ飛ぶ。果たしてイーサンたちは無事に鍵を回収し世界の危機を回避できるのであろうか。

不可能に挑む男

 イーサンが不可能に思える任務に挑む。『ミッション:インポッシブル』シリーズは基本的にそういう物語で第1作目からTVドラマ『スパイ大作戦』と同じタイトルを冠した『ミッション:インポッシブル』がそのドラマ版主役であるフェルプスがヴィラン(悪役)となり(名前は同じだけれど演じている人は違います)若いイーサンが劇的に主役への交代を遂げました。その後第2作には香港ノワールで名を馳せたジョン・ウーを迎えたり3作目はJJ・エイブラムスとシリーズを重ねていく行くうちにトム・クルーズの看板作品となり4作目のブラッド・バード監督を経てローグ・ネイションからクリストファー・マッカリーがシリーズの監督を務めています。よっぽどトム・クルーズとウマがあうのか、デッドレコニングまでクリストファー・マッカリーが続いていますがその製作方法も大胆になってきて今作で喧伝されているのはまず危険なアクションシーンを先に撮ってそこにあうようにストーリーを当てはめていくという即興劇のような作り方をしているとか。大体のアウトライン、シノプシスはあるんでしょうけど、大がかりなアクションを撮って、これなら話はこうしようというよく言えば自由度の高い作り方をしているんですがそのためストーリーはキーアイテムもしくは達成すべき任務のために振り回されているようにローグネイションからは感じることも多いです。


 それでも『ミッション:インポッシブル』シリーズの大きな売り、セールスポイントはトム。クルーズの大胆なアクションであり、それ抜きではやはり成立しないかと思います。スパイが活躍する映画は数あれど007やジェイソン・ボーンは主人公が孤立無援であったり組織のバックアップは最小限で個人の知恵と数少ない仲間たちの助けでのりきるアクション物か、シリアスでリアルな諜報戦の世界を描き出す『裏切りのサーカス』のようなサスペンスかに分類されるかと思いますが『ミッションインポッシブル』は明らかに前者。そしてノリはどんどん『ワイルドスピード』に近づいているにも関わらずトムは不動のセンター。彼が自ら製作してるのだから当然なんですがそれだけにアクションシーンの凄さは既に突き抜けている感があります。『トップガン:マーヴェリック』でも本物へのこだわり。もちろんCGの助けも借りるけれど、実際に撮った素材を重視するそのスタンスは映したものが本物でなければならないというトムの信念が見えるかのようです。

キーアイテムのためのストーリー

 アクションメインであるため前々から薄々思っていた事が今回さく裂した感じになっているのはいなめません。実のところtonbori堂は『ミッションインポッシブル』のヴィランで顔をしっかり覚えているのは1作目『ミッション:インポッシブル』のジョン・ヴォイド、ジャン・レノ、3作目『M:I:Ⅲ』フィリップ・シーモア・ホフマンです。他の悪役…すみませんが殆ど印象が薄いしぎりぎりローグネイションとフォールアウトに出てきたソロモン・レーン役ショーン・ハリスでしょうか。フォールアウトは近作なのでヘンリー・カヴィルの熱演もありましたが…今作でも殺し屋パリスのポム・クレメンティエフやエンティティのエージェントである謎の男ガブリエル、イーサイ・モラレスも頑張っていますが、次作では味方になりそうなパリスはともかくガブリエルのモラレスは良い俳優でもエンティティの代理人ということで影が薄いんですよ。武器商人のホワイトウィドウ役ヴァネッサ・カービーのほうがキャラが立っていました。(その前の登場時より)それはやっぱりイーサン=トムがセンターで全てが彼の行動のためにキャラが動かされているように思えるからです。


 これはそういう映画なんだから仕方がないんですが今作はランタイムが163分のため、嫌でもそれに付き合わされる事になってしまうのですよね。正直この映画が2時間ぐらいならばそうとは思わなかったと思います。よくこの映画はトムの身体を張ったアクションを見る映画だという話がネットでも散見するんですがならば2時間ほどでまとめていればと思います。特にこの映画はPART1、2が2時間でも4時間の大作です。アクションをつなげるためのストーリーなんだから素直にこの驚天動地のアクションを堪能し驚嘆するのも楽しみ方の一つだとは思うけどなまじ長いからつなぎのストーリーを急にポンと入れられると素に戻ってしまう感じがして列車に乗り込む前のシークエンスでいったい何を見ているんだろうとなってしまったんですよね。そこでちょっと訳が分からなくなってしまって(苦笑)キーアイテムを追っかけるためのお話としてそれが機能していてもいいんだけどそれならばコンパクトにまとめようよと思ってしまったのでした。そしてルーサーやベンジーのようなシリーズキャストも確かにいるしアンサンブルキャストっぽくはしていても基本イーサンが動く事でしか物語が進まないので気が散ってしまうし今回あるキャラクターが退場してしまうのもまさにキーアイテムのためのとしか思えなかったのも残念でした。

ヴィランとしてのAI

 AI人工知能が人類に牙を剥くというのはよくある話なんですが、それは例えば『2001年宇宙の旅』のHAL9000は人間の異なる命令によって衝突が起こりその矛盾を解決するべく宇宙飛行士を排除しました。『地球爆破作戦』の西側の防衛用コンピューター、コロッサスはその計算力で人類はこのままでは全面戦争で破滅するので同じような東側のコンピューター、ガーディアンとつながり人類を統治するに至りました。今回のAI、コードネームはエンティティと名づけられているようですがその出自も明らかにされていますが、先行している同じ作品と違うのはまたもやこのエンティティもトム≠イーサンが自らを射ち滅ぼす可能性がある人類として彼に無力感を味合わせようと彼の仲間を狙ってくるというものでした。AIをメインヴィランに設定したのはいいけれど結局そのAIまでもがソロモン・レーンみたくイーサンの弱点を狙ってくる展開。もちろんスーパーエージェントのイーサンの最大の弱点は「仲間」なんですがその仲間さえもお話に利用されすぎじゃないのかとも。折角、今のハリウッドの状況に即したヴィランを設定しているにも関わらずちょっとそうなのかと…ただPART2では本体に出向かなければならず場所は沈んだ潜水艦となれば水中戦は必至でそこは気になりますがそれのためのAIかとも勘ぐっちゃいますよね。

デッドレコニングPART2

 と言いつつも『デッドレコニングPART2』はやっぱり見逃せない1本になると思うんのですよね。この後宇宙への撮影を目論んでいる(『ミッション:インポッシブル』シリーズではないそうです。)トム・クルーズがまたもや限界突破の超絶アクションを仕掛けてくるだろうしそれが可能なのはやっぱりトム・クルーズなんですよね。齢60を越えても不可能アクションに挑み続けるトム・クルーズはそれこそ『トップガン マーヴェリック』でもう現役を退いてはという台詞に「だとしても今日じゃない」という台詞があったように限界に挑み続けるのは何故なのか?映画は俺が引っ張る!という矜持なのか。トム・クルーズはアクション映画だけではなく初期の作品には『レインマン』や『マグノリア』という作品もあるけれどここ10年以上は数本のぞいて殆どSFかアクション映画というフィルモグラフィになっています。それは劇場に来るお客さんを楽しませたいからなのか?ともかく全身を掛けてエンタテインメントを表現している男の不可能に挑む姿を観るにはやはりTVの画面は狭すぎます。ここは一番大きなスクリーンで楽しみたいですね。

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