何を戸締りしたのか?|『すずめの戸締り』雑感【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

何を戸締りしたのか?|『すずめの戸締り』雑感【ネタバレ】

2023年5月1日月曜日

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 今や国民的アニメーション監督となった新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』随分遅くなりましたが観てまいりました。相変わらずよく出来ているなと思いました。いや今回に限っては大作監督の風格さえも感じます。この辺りは監督の最初期作から追っかけている人たちからどう思うのかお聞きしたいところだけど(何せtonbori堂、最初期作は殆ど追っかけていないので)今作は大作なんだけど単調な感じを物凄く受けました。お話としては一本道ですし、寄り道も殆どなし、ロードムービーとしても、掴まれるものが弱いような気がしたのはあまりにもストレートにあの地震を新海監督なりに捉えようとしたからかもしれません。もちろん震災への思いは『君の名は。』からのこの『すずめの戸締り』までを3部作とするなら着地点にそれを選んだのは分かるけれどあまりにもストレートにすぎるなと思ったのです。ということで幾つか思った事をあらすじの後に書いてみたいと思います。

映画『すずめの戸締まり』予告②【11月11日(金)公開】/YouTube/東宝MOVIEチャンネル


※完全ネタバレではないですが観たという事を前提にして書いておりますのでご注意ください。

すずめの戸締り/あらすじ

 岩戸鈴芽(すずめ)は高校生。ある朝子どもの頃の夢を視た後、登校時に一人の青年に出会う。この辺りに廃墟は無いかと尋ねられた鈴芽は山中にある打ち捨てられた温泉街ならあると青年に教えた。しかし青年の風貌に既視感を覚える鈴芽は彼の後を追いかけ山中の廃墟へ向かう。そして街の中心にある円形の建物の中心にある古い扉を見つけ、青年が扉を探していると聞いていたので歩み寄り思わずその扉を開けてしまう。扉の先は何か別の風景が広がっていたがそこには入り込めない。怖くなった鈴芽は扉を閉めるが足元にある石碑に気が付く。猫を模した彫刻のような形をした石碑を持ち上げるとそれは何かになって走り去ってしまった。


 学校に遅刻していった鈴芽はあれは何だったんだろうと思いつつお昼時になった時、あの廃墟のある山から妙な煙が立ち昇っているのを見つける。しかしクラスメートたちにはそれが見えない。そして鳴り響く緊急地震速報、嫌な予感を感じて教室を飛び出し廃墟へ向かう鈴芽はあの扉から何かが大量に噴出しているのを目撃する。そしてその扉を閉めようとしている青年。思わず飛び出した鈴芽は青年と共にその扉をなんとか閉じ、青年は呪文と共に現れた鍵穴に鍵を掛けた。青年の名は宗像草太、自らを「閉じ師」と名乗り各地の廃墟から開いた「後ろ戸」から噴きだそうとしていたミミズというものが常世から現世へ災厄を運ぶのを封じるために各地の「後ろ戸」を閉じて回っているのだという。そして要石というミミズを抑える封印が緩みかけていると鈴芽に話すのだがどうやらそれは鈴芽が抜いたあの柱だったらしい。ともかく要石の行方を探すという草太と鈴芽の前に一匹の野良猫が現れる。ミルクを与える鈴芽が「うちの子になる」と尋ねると人語で「うん」という猫。そして「すずめ、好き」と言い草太に「お前は邪魔」と言うと草太は鈴芽の想い出の亡母に作ってもらった壊れた椅子に姿を変えられてしまった。


 猫は要石であり2人は要石の猫「ダイジン」を追って日本中を追いかける事になる。果たして無事に要石の封印を元に戻し草太は元に戻れるのか?鈴芽の冒険が始まる。

戸締りの旅

 まず最初に思ったのはむやみやたらに「石碑」を抜くなと思いました(笑)。もっともこれはこういう作品では定番展開だししょうがないと思いつつもやっぱり突っ込まざるを得ません。ホラー映画でもアドベンチャー映画でも手を触れてはいけないものに手を付けるというのはやっぱりオイオイオイ!ってなるんですね。とは言えそれはもやもやポイントではありません。『岸辺露伴は動かない』の露伴先生なら美味しいなと思うところです。その後話は草太が椅子に変えられ2人(鈴芽と椅子の草太の1人と1脚)がダイジンを追いかけフェリーで愛媛に渡るまでは快調に進みます。いささかご都合主義な展開もテンポがいいと思えば気になりません。この辺りはもはや手慣れているという感じさえあります。もちろん椅子になった草太の不穏な感じも入れ、舞台は神戸に。山の上の遊園地というと須磨の須磨浦山上遊園を思い出しますがあんなデカい観覧車はどちらかといえばハーバーランドだよなってことでモデルは岡山の倉敷にある鷲羽山ハイランドなんだそうです。ちなみにどちらも廃墟ではないんでお間違えの無いように。


 少しもやもやポイントが出てくるのはダイジンがやたらと人が死ぬとか煽るところ。それと神戸の後は東京へ向かい草太のアパートに行くところからです。そこまで断片として出てきた鈴芽と彼女を引き取った叔母の環との微妙な関係と草太の祖父で先代の閉じ師である羊朗と会ったあたり、東京の後ろ戸を辛くも閉じたものの草太は西の要石によりその役目を負わされており後ろ戸の要石となってしまったのですが、草太を元に戻すために鈴芽は羊朗から一度常世に行ったものは常世が見えるようになるが再びその地を踏むには常世に入り込んだ後ろ戸をくぐる必要があると教えられ、草太の悪友である朋也のオープンカーで鈴芽の故郷、岩手県に向かう事になるのですが、ここでやっとこの作品はあの震災の事を真正面に据えているのかはっきりするんですよね。うーん、いや確かに壊滅的な地震を多くの被害をもたらしたけどさらに被害が出ないようにするために閉じ師がっていう設定は分かるんですがそこでどうなんだろうなと思ってしまうんですよね。


 これまでの2作『君の名は。』は隕石、『天気の子』は異常気象と海水面上昇で、どちらも被害は止められないものの『君の名は。』は死者を出さないようにしていました。次の『天気の子』では目の前の人を助けられなくて何が救済だよと言わんばかりにひとりの犠牲で物語を閉じる事を良しとしないという挑戦的な作りでした。で今回はその折衷に見えてしまったんですよね。取り扱われている題材も前半部分は凄い引き込まれたんだけど、結論はそこかと。それに結局ダイジンが戻らなかったらどうしたんだろ?とかね。バックストーリーがあるような感じでしたが(そこは感じたけど)基本的には映画の中で完結させるには色々と振り切ってもいないし着地も甘いそんな感じを受けました。それでも作中でしっかりあの東日本大震災と出した事は決意も感じられたし諸外国でも受け入れられているようで何よりだとは思います。でもやっぱりもやもやポイントではありますね。

後ろ戸とマツリゴト

 と、まあもやもやしたりもしたんですが、その中で思い出したのが『ひそねとまそたん』です。竜が戦闘機に擬態してその体内で操縦するSFファンタジーアニメです。日本には古来から竜が生息しておりその動物がいる国は富み栄えた事から時の政府は戦前からずっと飛竜たちを保護。戦後は航空自衛隊がその任に当たっていたというお話です。そして作中のクライマックスでミタツ様と呼ばれている超巨大竜が74年周期で目覚め鎮座する臥所を変える神事マツリゴトが行われるのですが、最後の常世での後ろ戸を閉じる作業は何故かそれを思い出しました。


 主人公の鈴芽と『ひそねとまそたん』の主人公ひそねは全然性格も違うし行動も違うんですが(ひそねが自衛官になったのは周囲との関りを避けるためでした)でも両人ともにある意味「無敵の人」なんですよね。鈴芽は草太を助けるために命の危険を顧みず死んでもいいと言い放ちます。それが何故なのかは物語の最後で分るんですが、東京での後ろ戸の出来事で少しづつ変化していきながらも結局無敵の人なんですよ。で、ひそねもそうなんですよ。根本の行動原理が二人とも似ているし超自然現象を持って自然現象を抑えるというのも(ミタツ様の場合はちょっと違うけど)何か同じものを感じてしまいました。それに後ろ戸を閉める事も「まつりごと」ですからね。

何を戸締りしたのか?

 ということで一番のもやもやポイントは実は作劇ではなく作品の根幹である部分だったように思います。震災の事を描くのは良いと思います。風化させないという意味合いもありますし。ただ閉じ師という設定と要石というアイテムが災厄を止める話となっているのがやはり気になってしまいました。地震というのはいつ来るか分からない災厄、天災です。それを止めてしまうというのはやはりむずがゆい。後ろ戸を閉めるという行為はこの国を襲う壊滅的な災厄を少しでも押し止めるものであるという意味合いが大きいのですが、その戸を閉める行為は鎮魂でもあるというのは草太が後ろ戸に鍵をかける時、また愛媛で鈴芽に鍵をかける時に言った土地の声を聴けというあの行為は鎮魂でしか無い。となれば常世のミミズはもしかして人の土地に憑いた情念なのかとか、そこがどうしても何を戸締りしようとしているのか?とノイズになってくる。鎮魂なのか災厄を止めるのか?アイデアは悪くないし画もスペクタクルなんだけどそこが非常に気になりました。

余談:ポスト宮崎駿と邦画の興行

 あと余談なんですがよく言われるポスト宮崎駿監督話、これについては興行面ではそうなんじゃないかと思います。コンスタントに作品を発表し封切られるとヒットする。音楽面でも楽曲もヒットしムーブメントになる。『となりのトトロ』から『もののけ姫』で空前のヒットを記録し『千と千尋の神隠し』で頂点に達した宮崎駿のスタジオ・ジブリ作品に新海誠作品は肉迫していると思います。かつてこのポジションは誰がなるのかとも言われていました。もちろん新海監督だけにおんぶにだっこじゃ不安なところもあるから細田守監督もそれなりに大作を任されているけれど、こと興行面で言えば嫌らしい言い方ですが数字がとれる監督になっているのは間違いありません。


 ですが昨今アニメ映画は邦画の稼ぎ頭で、『すずめの戸締り』だけではなく例えば原作者が自ら監督した漫画『スラムダンク』のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』も大ヒット。定期的に製作されているワンピースの映画も『ONE PIECE FILM RED』が大ヒット、おまけに『名探偵コナン』も最新作『黒鉄の魚影(サブマリン)』が大ヒットしています。その中でも作家性と興行成績という部分では宮崎駿に迫るところに一番近いと思います。だからこそ次の作品も注目されることになるんだろうなと思います。その意味ではポスト宮崎というよりその位置ではなく「新海誠」という記名性をこの震災テーマの3作品で持ちえたんじゃないのかなと思いました。このエントリをにアップする頃には終映の声が聞こえてきました。(2023.05.27に終映だそうです。)COVID-19パンデミックのまだ只中で今の半年間興行を引っ張ってきた事がそれを証明していると思います。よい悪いは別として今の映画なんだなと改めて感じました。


※監督自らのノヴェライズが出ています。バックグラウンドも語られている?のかな。|小説 すずめの戸締まり (角川文庫)(Amazon)

※配信はじまっています。|Amazon.co.jp: すずめの戸締まりを観る | Prime Video 

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