もう早いもので公開から1週間が経ちましたが実は公開初日に観ました。ともかく圧巻の2時間41分でしたね。最初は『ブラックパンサー』タイトルロールのブラックパンサー/ティ・チャラ役チャドウィック・ボーズマンが逝去したので、一体どうその不在を埋めるのか?と思いましたが不在を認め受け入れるお話になっていました。その姿勢は誠実であり納得できるものでした。そこで展開されていく話もエモーショナルで心が揺さぶられました。今回はヴィランも強大かつ、敵というより道を違えたとも言える者との間に巻き起こる諍いというのも性急な感じもありつつ納得できる理由があったように思います。
Marvel Studios’ Black Panther: Wakanda Forever | Official Trailer|Marvel Entertainment |YouTube
前作『ブラックパンサー』やブラックパンサー初登場の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』を観た人なら必見ですし『アベンジャーズ/エンドゲーム』後の(正確には『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』後)フェイズ4の最終作(これも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/ホリデースペシャル』が最終ですが劇場作品として)としても相応しい重厚な作品でした。
海底よりの使者/STORY
ワカンダ王国の王、ティ・チャラは病に倒れこの世を去ってしまう。それから1年、玉座を守っているのは前王ティ・チャカの妻であるラモンダ女王であり開国し周辺国への技術提供や支援を継続しているものの諸外国、特に大国はワカンダのみに産出する金属「ヴィブラニウム」を輸出しない事に苛立ち隠せないがそれを跳ねのけてきた。
一方、王女シュリは兄を失った心の傷は深くそれを紛らわせるためにワカンダの国力をさらに強めるために研究活動に没頭していた。そんな娘を心配するラモンダはシュリを諭すが頑なになっているシュリにはその声は届かない。と、その時に河から謎の人物が浮かび上がる。男は名はククルカン、敵からはネイモアと呼ばれると言い海の王国タロカンから来たのだと語る。彼がやってきたのはワカンダが真実の姿を現した事で多量のヴィブラニウムはワカンダのみに存在しそのコントロールに無いヴィブラニウムを世界中が追い求めはじめ彼らの領域にまで手を伸ばし始めたと。そして探知機に探知されないヴィブラニウムの探知機を作り出した科学者を探し出して捕え引き渡せと要求する。それはやがてワカンダと海底王国タロカンの運命を揺るがす事態へと発展していく。果たしてシュリとラモンダはこの難事を乗り越える事が出来るのだろうか?
追悼と継承
今回の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は「追悼と継承」だったように思います。まずそれが中心にある映画だったなと感じました。観た時にはなんと感情を揺さぶられる作品なんだと。それは架空のキャラクターであるティ・チャラ/ブラックパンサーとチャドウィック・ボーズマンという俳優が分かち難くなっていたという事を今更ながらに思わされる事と同時にそのティ・チャラを追悼し、チャドウィックがブラックパンサー2で体現しようとしたことを出来ないまでもなんとか形にしようとスタッフ・キャスト陣が一丸となっていたことがひしひしと伝わってくる作品だったからです。こういった映画ではあまり類を見ない作品で少なくともtonbori堂が知っている映画では同種のものは無かったように思います。
キャラクターと同一となった男の弔いとその伝えたかった想いを継承するという難しい問題に取り組んだライアン・クーグラーはチャドウィックの逝去で一度は映画作りを止めてしまおうかとも思ったそうです。多分ブラックパンサー以外でも色々2人で計画していたのではないでしょうか。そしてシュリ役レティーシャ・ライトも本当の兄とも慕っていたチャドウィックの逝去の悲しさのみならず、この作品「ワカンダ・フォーエバー」の中心になることになった重圧感は前作のシュリと今作のシュリを観ていると凄くよく分かります。まず顔つきが全然違う。無邪気で伝統よりも事実と科学を重視する異端児でいたずらっ子の天才肌なシュリが突然の兄の死に大人になれと周りからプレッシャーをかけられる、その重圧たるや計り知れないものがあります。
いくら原作ではシュリがブラックパンサーを継承するというストーリーラインがあるにしても現実でのチャドウィックの逝去を受けての話なので誰もその用意が出来ていなかった。そこに全員が放り込まれたのです。そんな中でよくぞここまでまとめあげたと感心するしかありません。虚構であるティ・チャラは現実の人間である主演俳優がいない事によりM.C.Uの舞台から去りました。もちろんリキャストという手段や延期という事も考えられていたかもしれません。しかし早い段階でスタジオ側がそれを否定しました。それだけキャラクターとそれを演じる俳優に重きを置いていたと思います。実際マーベル・スタジオはディレクション側よりアクターに重きを置いているというのは冗談めかしてですが『ムーンナイト』にヴィランとして出演したイーサン・ホークがインタビューで語っていました。コミックスで膨大なキャラクターがいるマーベルだからこそキャラクターを演じる俳優はそれを実際に体現できる存在として重要に考えていると言ってもいいでしょう。当然クーグラー監督もチャドウィックこそがティ・チャラでありブラックパンサーだと考えていたからこそその後の展開なども考えられず監督業を廃業しようとまで思いつめた。
その想いがフィルムに載せられているのがこの『ワカンダ・フォーエバー』と言ってもいいと思います。ティ・チャラは冒頭で病死したことが明かされます。自らも天才科学者であるシュリがキルモンガーに焼かれてしまったハーブ(ヴィブラニウムの影響を受けたハーブでそれを煎じて飲むことによりブラックパンサーの力を得る事が出来る)を人工的に合成しようとしますが間に合わず彼は亡くなるというシーン。このシーンは事前に予想されていたティ・チャラは何かワカンダを狙う者との戦いによって命を落としていたというものではなく現実に即したものでありクーグラーはそこにフィクションでありながら現実とシンクロするようなシーンを敢えてもってきたのです。これには驚いたしその後のシュリの事やラモンダの苦悩。オコエやナキア、エムバクといった前作のキャラクターがシュリと関わる事でのティ・チャラの大きさを彼がいないという事をこれでもかと突きつけてくる。そしてその上で心に空いた穴はぽっかりと大きな穴で到底埋めきれないがそれでも前を向いて進んでいくしかない。そう一人じゃないよ助けてくれる人はいるし、心の中でその人は生きている。単純だけどそういうメッセージを感じました。
海底の王国タロカンの使者
もう一方の主人公とでも言えるのが海底の王国タロカンの王であり神とも崇められているククルカン、敵からはネイモアと呼ばれている男です。今回ワカンダと敵対する事になるこの男はとんでもなく強く自らを突然変異(ミュータント)というククルカン/ネイモアは水中を自在に泳ぎ回り踵に翼が生えていてそれを羽ばたかせ自由に空中さえも制する事が出来る強力な力を持ち海底の国タロカンの民から敬われいる人物です。彼はその力をもって国を統べているのではなく民を守る守護者でもあり、タロカンが危機に瀕したら躊躇なくその敵を滅ぼすことも厭いません。彼らの出自はスペイン人が南米、中南米を侵略し略奪したスペイン人をはじめとする白人たちに迫害された先住民が海へ逃れ導きによりヴィブラニウムの影響を受けた海藻を煎じ呑む事により海底へ逃れた者たちでありネイモアはその時、海中で産まれた最初の子どもなのです。海底王国タロカンが成立した時からその国と共に在った者としてしばしば海底から出てくる事もあったようですがそれも稀で殆どを海底で平穏に暮らしていた彼らが急にワカンダに姿を現したのは彼らの国の繁栄もまたヴィブラニウムの恩恵を受けていたから。ワカンダは前作『ブラックパンサー』で開国した事により希少金属ヴィブラニウムはキャプテン・アメリカの盾やその他少ないながらも流出したものしかないと思われていました(一般的に)それが公開されたためその戦略物資ともなり得るヴィブラニウムを世界中が欲し厳しく管理しているワカンダ以外にヴィブラニウムが無いのか?という事は国際社会の関心事です。物語冒頭で国連でラモンダが演説するシーン(予告でもありますよね)でもそんな国際社会の事情が活写されるんですが金属探知機に引っかかっらないヴィブラニウムを探すのは至難の業というよりほぼ不可能とされていました。しかしそれを可能にしてしまったのが今回初登場になるキャラクター、リリ・ウィリアムズaka「アイアンハート」な訳です。その天才的な頭脳をもってシュリも驚くほどの装置を組み上げたリリはタロカンにとっては平安を破る危険人物。それは翻って国際社会に姿を現したワカンダの責任でもあるというネイモアの主張は一理あるように思います。
彼らは争いが絶えず侵略者に土地を追われた被害者。今はその広大な海をテリトリーとし誰にも邪魔されずに暮らしていたのに地上世界のいざこざで自らの国が脅かされる事態となればそれは国を守るために立ち上がるのは確かに分かる話です。もっとも何故あれほどの力を持ち姿を現して国際社会へ海底への干渉を拒む力はあるのでは?ともちょっと思ったんですがネイモアはワカンダに訪れた時にも言っていましたがワカンダというそれまで外界との関わりを絶っていた事からシンパシーを持っているのは明白です。だからこそシュリを国に招いたりもした。それが却って事態を拗らせてしまった感じも否めませんがタロカンとワカンダはよく似た成り立ちがあります。力を持つ守護者によって守られその力の源泉はヴィブラニウムであるという点。だからこそこの2国の争いは避けられたのではと思うのがまたなんともやるせない。コミュニケーションの難しさというものを、互いの根っこに不信感があり力に頼っているとこうなってしまうというのが透けて見えました。これはチャドウィックが主演すると考えられていたストーリーの中でもタロカンとネイモアが登場する事は決まっていたそうだからこういう流れになったんでしょうね。ただこのストーリーはもっと語る事があっても良かった気が少ししました。これはチャドウィックが逝去したことにより書き換えられたストーリーとしてのシュリの物語との整合性が上手く調和されていない部分なのかもしれないなと思ったのですがネイモアというキャラクターの魅力で引っ張っていたので観ている時にはあまり気になりませんでした。彼は今後も語られるべき存在だと思うのでさらに深掘りされて欲しいと思います。
ワカンダ・フォーエバー
ワカンダは今後厳しい道程が待っていると思います。特にシュリの心の穴は大きくこれで完全に埋められたとは思っていません。でも少なくとも前を向こうとしている。それはティ・チャラの遺志でありラモンダの想いでもある。そしてシュリは一人ではない。エムバクもオコエもナキアもいる。そういうラストだったように思います。(ポストクレジットで少し思うところはありますがそれは何時もの「気になる2,3の事柄」で考察したいと思います。)もちろん異論も多いかと思います。それでもティ・チャラ(チャドウィック)の死を乗り越えるのか?いやそれは乗り越えるものではない受け入れ共に歩んでいくのだというのは感じたのでtonbori堂としては非常にパーソナルでエモーショナルな作品となりました。しかもこれマーベル・シネマティック・ユニバースの映画としてはフェイズ4の最後の作品でありこれにて新しいフェイズ5が始まる訳です。フェイズ4はエンドゲーム後を描く、紹介の物語と言われていましたが一方でエンドゲーム後の混乱が数多く挿入されました。確かに全生命の「半分」が消されていた上で5年後に急に戻って来たのですから大混乱でありエンドゲーム後の混乱と喪失そして新たなヒーローという非常にバラエティに富んだといえば聞こえがいいですがまさに「混乱(カオス)」なフェイズだったと思います。その最後が「ワカンダ・フォーエバー」だったのはある種の必然だったのかもしれません。まだ盤面に伏せられたピースはあっても面子は揃ってきました。次なる物語が楽しみです。
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