スペクタクル/『NOPE/ノープ』感想【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

スペクタクル/『NOPE/ノープ』感想【ネタバレ】

2022年10月8日土曜日

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 毎度のことながら遅くなりましたがジョーダン・ピール監督『NOPE/ノープ』の感想です。『ゲット・アウト』も『アス」も観て無くて初ジョーダン・ピール作品でしたが予告編の時から気になってて相手が人ではなくまさに「何か」なのがなんなのか?それと彼の作品は色々話題になっているのでこの機会に一丁、観たろうかとなったのですが…凄い映画でした。そして観た後に反芻するほどにこれはなんだ?となる面白い映画でした。ということで簡単にあらすじ書いた後で気になるところを書いてみたいと思います。

映画『NOPE/ノープ』予告編/YouTube/ユニバーサル・ピクチャーズ公式ch

最悪の奇跡/STORY

 ハリウッドからさらに山間部にあるヘイウッド牧場、そこでは映画やドラマなどに馬を貸し出しをする仕事をしていた。父オーティスと息子のオーティス・ジュニア(OJ)そして娘のエメラルド。しかし娘のエメラルドはOJたちと上手くいっておらずダンサーやユーチューバーと自称してフラフラしていた。


 ある日、なんでもないその日突然空から物が降って来てそれにあたってオーティスは死んでしまう。残されたOJは牧場を維持しようとするが撮影の仕事をしくじってしまい、近くにある近くある西部劇のテーマパークのオーナーで元子役のジュープに馬を売ることで糊口を凌ぐことにする。その夜異変を感じた馬が柵を飛び越え嘶いて駆けていくの追いかけるOJは空に何かがいる事に気が付く。それは「最悪の奇跡」の始まりでしかなかった…。

何かが空にいる

 もし、それが誰も観たことが無いもので自分たちが最初に見つけたのだとしたら…それは奇跡なんだけれどその発端は父の死と引き換えのもので最悪である。しかもそれは一発逆転出来るような生易しいものではなかった、というのが序盤の印象です。ネタバレすると父であるオーティスの死からの不穏な空気(サントラもまたそれを盛り上げる)はまさに平穏な田舎の海水浴場に現れたホオジロザメによる右往左往する人間たちを描いたスピルバーグの『JAWS』を想起させますが空を飛ぶもの、未確認飛行物体UFO、最近はUAPというらしいですがとなれば同じくスピルバーグの『未知との遭遇』が浮かびます。


 でもこの作品のアバンタイトルはどこかのスタジオで血塗れのチンパンジーが徘徊しているシーンではじまり、倒れている人間の足が映し出され何か異常事態が起こっていると感じさせるところから始まります。そこでもう疑問の嵐ですよ。最初に書いたJAWSや未知との遭遇のイメージというのは「予告編」から受けたもので自分たちの知らない何かが空にいることの映画だという妄想によるものでこのシーンから始まったのは凄く意外かつ、「なんだこれは?」と強く感じます。そこから何かのスリットがタイトルバックとして映し出されるのですが何か別の映画を見せられている?とさえ思うんですがその後の展開から予告編でも出てきたシーンとなるのです。しかしアバンタイトルで何かの不穏なものを見せられて、常に何かが潜んでいる感じがずっとしていて予告編で繰り返して観たシーンが何かのサインを発しているのでは?と思うようになり、なるほど「サイン」や「シックスセンス」のシャマラン作品のような手触りを感じたという人がいるのも納得です。

 シンプルに言ってしまえばこの作品はモンスター映画として分類できるかもしれません。モンスターパニックとまでしていないのでどちらかと言えば『JAWS』より『トレマーズ』に近いかも。観ている最中も、「あ、これトレマーズだ」と思ったところが幾つかありました。でも分かりやすいパニック描写が無いからと言ってこの映画にスペクタクルが無かったのかと言えばそうではなくヘイウッド牧場のある谷で繰り広げられるシーンはまさにスペクタクルなシーンでした。そこも含めて盛り上がりどころもしっかり押さえている映画で非常に面白かったですね。でもこの作品はそこだけで終わらない訳です。理由はアバンタイトルのシーンや予告でも印象的に使われていた馬の動画、正しくは連続写真で映画の元になったとも言われるものです。これらが複合的に絡んで鑑賞後にあれは何を意味していたのかと考えさせるのです。

ゴーディ

 アバンで描写され、その後にもなんどか繰り返される奇妙で怖ろしいシーンは架空のシットコム(スタジオに観客を入れてスタジオに組まれたセットのシチュエーションで放送されるコメディ・ドラマのスタイル。『奥様は魔女』や『フレンズ』などがその代表格)『ゴーディーズ・ホーム』とドラマで起こった惨劇だという事が分かってきます。そこでまず観客は混乱するわけです。このドラマはいったい何を意味しているのか?作品自体も章立てになっており五つのパートからなっており、OJとエメラルドの兄妹と空にいる何かと何らかの関係があるのでは?となるのですが直接的な関係性はヘイウッド牧場から馬を購入している近くにあるウェスタンのテーマパーク、ジュピターズ・クレームのオーナーで元子役のジュープ。彼はその『ゴーディーズ・ホーム!』の出演者の子役であり事務所の部屋にその時の思い出の品を飾っています。そして彼が馬を必要としていたのはパークでのショーのためなんですがその真の目的や彼の事を考えるとどうしても分からなくなる。でも逆を言えば隠されたレイヤーを読み取る楽しみもあります。


 映画では裏読みといって本筋の裏にあるものが隠されたテーマをあぶり出してくる見方があります。それは比喩だったりするので本筋はエンターテインメントなお話でも社会性に富んだ裏に込められたものが出てくることがあります。当然そんなの関係ないよという作品もありますけれど特にジョーダン・ピールは前2作は自身が黒人でありながらも白人の中で育った事による人種に関するテーマを深く刻んでいます。tonbori堂は前2作を観ていないと言いましたがそれでも作品のネタバレしていない感想からでもそれは伝わっています。となればやはり深読みはしてしまうし、ジュープはアジア人(演じるはスティーブン・ユァン、ウォーキング・デッドなどに出演している俳優さんです)だから余計に人種的なものを深読みしてしまう訳です。ここは作品への評価が分かれる遠因なのかもしれません。


 そしてこのチンパンジーのゴーディが人を襲うという話は実際の事件にヒントを得ています。ドラマの撮影中ではないですが映画などにも出たことがあるある夫婦に飼われていたチンパンジーが突然その夫婦の知人を襲ったという話です。かなり凄惨な話なのでネットで検索するとショックを受けるかもしれません。この話がベースとはなっていますがそこにこだわると話の本質が分かりにくくなってしまうかもしれません。

動く馬

 予告編にも出てくる馬の動画、これも深読みできる要素の一つです。この「動く馬」に関してざっとしたアウトラインはウィキペディアに項目がありますのでそちらを観てもらうとして、キーポイントはこれが映画の大本(映画そのものではないけれど)であり、その時、馬に騎乗していたのは黒人であったということ。そしてヘイウッド家の先祖であるという事です。実際にはこの「動く馬」の騎手は黒人だったそうだけれど名前は残っていないとの事で映画に最初に登場したのは黒人なのに名前が残らずその存在は写真を撮ったエドワード・マイブリッジの名前しか残っていないというのがその後の兄妹の行動に大きく影響していると読めるのです。

聖書ナホム書第3章第6説

 冒頭に出てくるこの一文。

「わたしは汚らわしい物を、あなたの上に投げかけて、あなたをはずかしめ、あなたを見せ物とする。」聖書ナホム書第3章第6説

この見せ物は英語ではスペクタクルとされています。まさにこの作品は「見せ物」であり「スペクタクル」を標ぼうしているんですよね。こういう聖書の一文は押井監督作品で慣れていますがやっぱり裏読みしてしまうので何が?となってしまうのですが見せ物であるが故に何を意味しているのか考えよと言われている気がします。

スペクタクル

 ジョーダン・ピールは動画インタビューで、誰も観たことが無いようなものを作りたかったといい、そのために制約を考えずにまず脚本を書いたと語っていました。そして最初からこの映画はIMAXで撮影される事が前提とされ、撮影監督に「TENET/テネット」のホイテ・ヴァン・ホイテマを招へい。IMAX撮影の第一人者である彼の手による撮影はダイナミックであり、まさにスペクタクルです。この作品への着想は世界がCOVID-19パンデミック化の困難な時期に制作されましたがそれだけに劇場へ人(観客)を呼び戻すものとして作りたいというピール監督の願いが込められているというのは各媒体で語られています。実際参考にした作品としても先にtonbori堂が思い浮かべたスピルバーグの「JAWS」「未知との遭遇」が上がっています(ピール監督はスピルバーグの大ファン)だからこそ荒野を縦横無尽に駆ける映像が絶対に必要だったと思います。ちなみにtonbori堂は不気味で意思疎通が出来なく、目が合ったら危険という事で同じくスピルバーグの「激突」も思い出しました。


 今回の作品は劇場で観るに相応しいという事でIMAXで撮影された事以外にもジュープのウェスタン風テーマパークとヘイウッド牧場でのOJの部屋に飾られているポスターやクライマックスでのOJが馬に乗って疾走したり、位置について迎え撃つところはまさに西部劇のルックです。映画の黄金期には数多くの西部劇が作られスペクタクルな作品も数多く撮られました。今回のロケ地もそれを意識した場所であるのはそのルックを観れば一目瞭然です。


 これはピール監督の映画への想いが詰まっている作品です。だからバランスが悪く見えるかもしれません。それでも決着の付け方や撮影(ショット)にこだわるなどどこまでも撮るという事に着目しスペクタクル作品を撮り切ったピール監督の想いが結実した映画だったなと思いました。これこそ今年スクリーンで観て良かったなと思えた1本です。次はピール監督の「ゲットアウト」と「アス」を観て監督への理解を深めたいと思います。

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