敗残者たちのブルース『仮面ライダーBLACK SUN』感想【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

敗残者たちのブルース『仮面ライダーBLACK SUN』感想【ネタバレ】

2022年10月31日月曜日

drama 特撮

X f B! P L

 AmazonPrime独占配信『仮面ライダーBLACK SUN』一挙配信10話が始まりました。最初は3話だけ観て様子をと思ったんですが2日間で10話鑑賞してしまいました。結論から言うと悪くはないと思います。仮面ライダーというヒーローは基本的に敵役と同じ力をふるうという点から外れていないし、今の世の中の漠然とした問題意識を取り込むのもエンターテインメントとして間違っていないんですがかと言って色々問題もはらんでおりますので悪くないけどもろ手で傑作とまでは言えないのが正直なところです。ちなみに元になった仮面ライダーBLACKは観ていない仮面ライダーで、1号、2号、V3直撃世代でストロンガーまでは記憶あり、平成はブログ時代に響鬼って面白いですよと教えられて観だしたので平成ライダーの祖であるクウガ、アギト、龍騎などを辿っていない人です。以下感想と気になるところをネタバレ込みで少し綴ってみたいと思います。


このエントリは現在配信中『仮面ライダーBLACK SUN』の内容に触れております。お読みになる際はご鑑賞の上でお願いいたします。【ネタバレ】

『仮面ライダーBLACK SUN』 予告編|プライムビデオ/YouTube/Prime Video JP - プライムビデオch

創世王/あらすじ:仮面ライダーBLACK SUN

 2022年、怪人と呼ばれる存在と人間が共存している世界。国連で怪人と人間の差別を訴えた少女、和泉葵は学校の帰り道に怪人に襲われる。その時に割って入った男、南光太郎は黒殿様飛蝗の怪人だった。彼は成り行きで葵を助けたがそれはこの国のと政権与党ゴルゴム党の秘密と光太郎の過去にかかわる大きなうねりに再び引き戻され葵とともに飲み込まれていく発端でしかなかった。その頃ゴルゴムに囚われていた秋月信彦も繋がれた牢獄から光太郎の存在を感じ取り脱走。自らの闘争を始めるべく活動を開始する。2人はブラックサン、シャドームーンとよばれ、怪人たちの王である「創世王」となるべく生まれたキングストーンを持つ存在だった。ゴルゴムと権力者たちがそれを追い求め激しい戦いが起こり葵と光太郎、信彦はその渦中へと身を投じていく。

敗残者のブルース

 現在も進行形の分断や虐げられる側への肩入れ、腐敗や癒着を隠そうともしない政府、政権与党へのカリカチュアライズなど。それらはあまりにもストレートすぎる描写のためそのまま当てはめてしまうという弊害を起こしていると思いました。この同じような出自の2人の男がそれぞれ信じる者に裏切られ敗残者となり再び相対した相克の物語や主人公が敗残者の中から再び立ち上がるドラマには熱い物がありましたが、背景として潜んでいるものがぶつかりあってノイズにさえなっている。背景というかBLM運動やヘイトクライムそれを本邦へのそれに変換するにあたって70年代安保や戦後の復興の裏にあったものや731部隊をベースに組み立てたゴルゴム結成の秘密のそれ自体は悪いことではなく物語を原典の仮面ライダーBLACKに寄せて構築したからというのも当時BLACKを観ていたと思われる層の感想を読んで知りました。ですがもう少し枝葉を整理してはどうかと思う点が幾つか有るのですよね。手を伸ばしすぎて整理が出来ていない印象がずっとありました。よしんばそれが物語を動かすためのものであったのだろうと思うのですが群像劇としては例えば3神官やビルゲニアの出自が(彼らもまた作られた存在であり創成王後の最初期の個体であったはず)や真の創造主は戦前の軍人たち(人)の事。その生成の秘密など凄くとってつけた感に見えてしまうのが否めない。(それは断片的に効果的に配置されていたのに)それと仮面ライダーBLACKを観ていない層にとっては最終回の唐突なリメイク元の主題歌を流す演出は正直パロディにしか見えませんでした。カラーがいきなり変った印象です。


 それでも2日に渡って最後まで完走出来たのは同じ出自を持つカインとアベル的葛藤をもつ光太郎と信彦の葛藤と怪人のルーツのドラマ、そして今を生きる葵のドラマに引き込まれていったからです。とは言えラストのオチは物議を醸すあまりにもストレートな見せ方でそこも問題があるなと感じました。実際物言いだけで戦いは終わらないといった方が万人に受け入れられやすかったのではと思います。ただ敢えてあのラストにした心意気ってのはあっさりと否定は出来ませんがそれでも不服従や異議申し立てとテロとは違います。血は流れるかも知れなくてもあっさりと銃を取れという風に読み取れてしまうメッセージは(例え逆説的であっても)乱暴にすぎると思いました。以下気になったところを箇条書きにしてみます。

気になるポイント

  • 雀の怪人である俊介が葵とニックと密談している喫茶店であなた怪人ねと店員に言われるシーン。怪人排斥デモ隊にもくさい臭いと言われていたがなにかの臭いがするのか?どうやって一般人が判別しているのか。そこが気になりました。特段説明もされていないのでそこは想像するしかないんですけれどやはり臭いなのか?
  • 葵の造形がグレタ・トゥーンベリのままで同じセリフを使っちゃうのはさすがにストレートすぎるかなと。ただ葵役の俳優さんは上手くかなり光るものを感じたし上手いと思いました。
  • 3神官とは別に幹部としての怪人ビルゲニアの造形だけがなんで地獄大使かドクトルGっぽいんやと思ったら元のBLACKでも顔出し怪人だったからだそうで…うん、まあそこはちょっと厳しいなと思いました。ただ最終回での死闘は顔出ししてるからこその迫力があったんで結果オーライという事で(ヲイ)
  • OPの音楽が何となく光太郎役の西島秀俊が出演した「MOZU」っぽくてそのうちオメラスとか言い出すやつ出てくるんじゃないかと冷や冷やしました。(それはTwitterでもつぶやきました)ただオメラスの話はBLACK SUNでも当てはまると思います。優れた寓話というものはそういう力がありますが「MOZU」本編はBLACK SUNと同じく思う所ありすぎというかフックがデカすぎて空振りしてる感がありました。ただどちらも俳優陣の熱演により「見せる」話になっていたんですよね。そこの共通点は大きく「得体の知れない」何かと戦うことは何時までも続くことなので「終わりなき戦い」という感じはあります。ちなみにその「オメラス」の話は戦わずして去るか目をつぶるという事しか描かれておらず余白のある物語で「ゲド戦記」のアーシュラ・ル・グウィンの書いた短編「オメラスから歩み去る人々」という話からです。
  • ライダーの造形は元のBLACKとシャドームーンを元にしているデザインで全体が変異した生命体感があるのにベルトのギミックがやけにメカメカしいのが気になりましたが西島秀俊と中村倫也の変身ポーズがやたらにカッコよく力を溜めている感じがいいですね。
  • 政権与党はゴルゴム党だと思うんですがそこがはっきりとしていない。あくまでも堂波首相(ルー大柴が怪演)が率いているのは政権与党でありそれはゴルゴム党なんですが何故かイコールにならないんですよ。最初の頃の国会のシーンでは3神官が閣僚席にいましたけど後半は幹事長(演じる寺田農さんは仮面ライダーWではテラードーパント/園咲琉兵衛をされてましたね)が横についててそれははっきり言えば安倍首相と麻生副首相を想起させるものとしてなんでしょうけど。ゴルゴムが敵なのか堂波が敵なのか?分かりにくい。敢えてそうしていると思うんですがならゴルゴムの名前いる?ってなるんです。あくまでゴルゴムは3神官と怪人たちの結社名であり表向きは普通の架空政党名で良かった気がします。
  • クジラ怪人(演じるは濱田岳)は1972年の怪人解放運動の頃にいたようなんですがその前からの言及がない。もっと言えば3神官であるダロム、ビシュム、バラオムやビルゲニアとは光太郎、信彦は古い付き合いのようなんですがそこらへんも察してくれと言わんばかりのやり取りで正直感情移入しにくい。演者の演技のおかげでなんとかって感じです。説明がくどいのはNGですが説明しなくてもスッと入り込む余地が無いとモヤモヤしてしまうのですよね。
  • キングストーンも謎物質で生成の方法が謎すぎる。創世王の体液は怪人にとってのエキスであり彼らを作り出すものでもあるんですがそもそもどうやってその生成を無しえたのかが不明過ぎます。もちろんそういうもんだと言われたらそれまでなんですが人智を超えすぎてて軍の研究の結果というより偶然(創世王になる個体が飛蝗の大発生と日食時に覚醒した)に頼り過ぎてて観ていて神頼みすぎないかと気になりました。
  • ヘブンの材料は人間(死体)と創世王から分泌される体液を混ぜ合わせたものだそうですが光太郎が足を切られた状態でシャドームーンと戦い瀕死になったというかほぼ一旦死亡した感じからの復活時、クジラ怪人がかけた液体はなんなのだというのが、いやあれは元のBLACKでもクジラ怪人がというやり取りをTwitterで見かけましたが…それめちゃくちゃ不親切でBLACK観ていない人のためにまず作らないとって思いましたね。
  • 怪人は創世王の分泌液があれば怪人を製造するストーンを作ることは簡単なようでそれを基に堂波は怪人売買ビジネスをしていましたけど、ビルゲニアが自分たちが作り変えられた「村」を別に持ちノミ怪人に管理させて人間を怪人に変えていた事が葵の父や葵を怪人にしたことで示唆されているのですが…じゃあやっぱり怪人って自然発生じゃないんじゃないのとか思わないのかと疑問に思いました。それを突きつけられ動揺していた感じを出したりしてるのどういう事なのってなりますよね。

BLACKSUNとSHADOWMOON

 正直、困った部分は他にもあるんですが、くどいようですが現実の差別や問題を取り入れるのはなんら問題は無いと考えます。いやそういう意識はあっていい。ただそれらをエンターテインメントにそっと忍ばせて、もっと言えば巧妙に織り込んでくれればいってくれれば、政治的というか思想的な部分での対立によるもやもやが起こらなかったように思います。それともう一つ「怪人たちの群像劇」と謳われていましたがそこにフォーカスしきれていなかったように感じました。そこもブラックサンとシャドームーン2人の対決にフォーカスしていけば結果周りに関わる人々の点描を通して群像劇として成立したのではないかと思うのです。何故なら南光太郎を演じた西島秀俊(1972年当時は中村蒼)と秋月信彦を演じた中村倫也の演技は思わず目を見張るものがあり、そこにためにためた「変身」の迫力があって良かった。これはTwitterのTLでの観測範囲内でも作品はのれないけどあの2人は凄い。変身は良いという人多いのでそこにフォーカスしていればと思ったのです。この作品は主に葵の視点と光太郎の視点。そして信彦の視点があり3人それぞれにキャラクターが絡んでいくので分かりづらい。2人の視点で2022年の現在と1972年の過去。そしてさらにもっと過去である戦前まで歴史を刻んでいけばもっとダイナミズムに溢れた物語になったかもしれません。もしくは純粋に人間と怪人が手を取り合う未来を夢見た葵が敗れてもなお立ち上がる視点にまとめれば…。


 「仮面ライダーBLACK SUN」は野心作ではあったけれど敗残者のブルースを歌うにはまだちょっとリズムが取れていなかった…そんな感じがします。ただ仮面ライダー2人の熱演とその他の演者。コウモリ怪人(音尾琢真)や(実際コウモリと揶揄されるような立ち回りをするのも凄いなと思いました)3神官、ダロム役中村梅雀、ビシュムの吉田羊、バラオム役プリティ太田、中でもビシュム役吉田羊はどんどん変化していく様が凄かったですね。1972年では別の役者さんがされていたんですがそこにも何かのドラマが(匂わせはあったけど)あればもっと良かったかも。ノミ怪人役黒田大輔、彼は『シン・ゴジラ』の原子力規制庁の職員役が印象に残っているけど今回もまた印象に残る仕事をしましたね。そして作中でのもう一人の主人公目線を持つ葵役の平澤宏々路、宏々路って「こころ」と読むそうです。初見では読めませんでした。ネットで検索して、記事でルビが入っていて読めたんですけど、目力ある俳優さんですが子役として結構な量の作品に出ている事をWikipediaで見ました。そして夜ドラ「つまらない住宅地のすべての家」にも出演中だとか…まったく繋がってなかった…今後も楽しみな俳優さんです。実際俳優さんたちは全員いい仕事されてるんでそこはちょっと観て欲しいかなとは思いますが…うん、難しいですよね。こんな時代の仮面ライダーだからこそシンプルに唸らせて欲しかったように思います。

AmazonPrimeビデオにて全話(10話)配信中(リンクはAmazon「仮面ライダーBLACK SUN」)

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