その話を届けるのは誰のため?/『ハケンアニメ!』感想/【ややネタバレ?注意】-Web-tonbori堂アネックス

その話を届けるのは誰のため?/『ハケンアニメ!』感想/【ややネタバレ?注意】

2022年7月18日月曜日

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 遅くなったけど『ハケンアニメ!』の感想を書き留めておきたいと思います。実は気にはなっていたけど『シン・ウルトラマン』や『トップガン マーヴェリック』など大作が相次ぎ、その上『犬王』など気になる作品も公開があったのでそこまで時間割けないよとなっていたんだけど色々あっていややっぱり観ておこうと思い立ったらもうやってない何時ものパターンかと思ったら…やってたんですよ。実は公開から1カ月過ぎてもロングランからの公開終わっても別のスクリーンにかかったりという流れがありちょっと前に市内のシネコンの最終ランに滑り込んできました。お話はお仕事物としてのフォーマットなんですがアニメという創作物を軸にクリエイター自己実現とアニメーションという共同作業で作り出される過程の塩梅が主人公とそのライバルの取り巻く人物によって程よく表現されモノを作る人の産みの苦しみ、そして届けたい思いが詰まっている作品です。ということであらすじの後感想行ってみましょう。

※完全にネタバレはしていませんが内容に触れているので【ややネタバレ注意】とさせていただきます。

映画『ハケンアニメ!』5月20日公開|新予告<アニメは世界を変える編>/東映映画/YouTube

日5のハケンを取れ!/STORY

 斎藤瞳は国立大学を出て県庁の職員として働いていたがあるきっかけでアニメ業界に身を投じ業界最大手のトウケイ動画に入社。それから数年の時を経て伝統の日曜5時枠の新作アニメ「サウンドバック 奏の石」(サバク)の監督に抜擢される。プロデューサーはくせ者であるが使えるものはなんでも使う行城理。彼の強引な手法に反発する者も多いがそのビジネス手腕では一目置かれている。


 一方、伝統の日5枠に殴り込みをかけてきたライバル局は天才と呼ばれその監督デビュー作で一世を風靡した王子千晴の「運命戦線リデルライト」で勝負をかける。そして瞳にとっても王子は憧れであり目標である監督だった。しかし気まぐれで天才肌の王子は製作途中で雲隠れ。彼の才能に惚れこんでいる敏腕プロデューサー、有科香屋子。「伝説の制作進行」と呼ばれる彼女をもってしてもコントロール不可能な王子。そして番組開始前の雑誌企画のキャンペーンで瞳と王子の対談がセッティングされるがそこで瞳は王子の鮮烈な監督デビュー作「光のヨスガ」を観てこの業界に入る事を決めた憧れの王子に日5のハケン、視聴率1位を獲る事を宣言してしまう。空回りする瞳、巻き込まれるスタッフ、声優、そして作品を届けるためには妥協はしない王子に疲弊していく現場。果たしてどちらの作品がハケンを獲るのか?誰のために作品を届けるのか?2本のアニメの激突の果てに何が残るのか?

誰がためにその物語を届ける?

 瞳は国立大学を出て安定した仕事を得たはずなのに何故かアニメ業界に転職します。当然畑違いのしかも経験のない人がやって来れば採用する側も何故?となりますよね。でも瞳には確固たる、そして揺るぎない理由があったのです。瞳は貧困家庭に育ち(詳しくは描写されていませんが)人生とは安定と考えており夢や希望など空疎なものだと子どもの頃から思っていました。だから小学生の頃はただただ写生をして過ごしていたのは絵を描くのは好きだけど空想を羽ばたかせるのは苦手だった事を表していると思います。そんな瞳に同級生らしい少女が魔法少女の変身アイテムをあげると声をかけます。しかし瞳はそれを断ってしまう。そんなものは空想で本当はいない。信じるだけ無駄な行為であると考えていたから。


 そんな瞳がアニメ業界に転職を考えたのは仕事終わりにたまたま観たアニメ(深夜アニメでしょう。)その作品のタイトルは「光のヨスガ」その一作で業界に天才監督と歌われる事になった王子の作品でした。それは瞳の目に光が戻った瞬間でした。そこからの瞳の修行というか多分、作画ではなく制作進行から演出、絵コンテと進んでの初監督抜擢なのでしょうが、周りからは7年間位で国立大出の元公務員がなんぼのもんじゃいと。これもまた印象論でしかありませんが例えばかの有名なスタジオ・ジブリの密着とか見ていると巨匠は自分が作が上がりであるから上がってきた原画チェックにしてもすぐに手を入れ厳しいまで赤(修正)を入れそれをまた原画マンが黙々と直す、つまり職人の世界です。アニメの制作現場は画を書いてナンボの世界であり、作品の行く先を照らしビジョンを提示してまとめていくのが監督の仕事です。でもぽっと出の瞳は舐められている訳です。ここからが面白いんですが実は職人はその仕事に魂込めているかは一定期間傍にいて見ているわけだから分る訳です。なのでサバクの最終回のクライマックス変更が凄く効いてくるんですよね。それとともに瞳を振り回す冷血敏腕プロデューサーが実はというのも効いている。誰かのために自分の中にあるものを振り絞って、削って届けたい、そのまだ見ぬ誰かのためにというのを上手く隣の鍵っ子少年を使って可視化するのもずるいけど上手いんですよ。しかもその少年が昔の自分に重なっていく様も丁寧に描いている。


 という事でお仕事ものとしてはいい感じなんですがその分割を喰っているのは王子側の話かなと感じました。原作は群像劇であり3つの章が最後の結末につながっていくというお話だそうです。(すみません、まだ読んでないのです😅)なので王子の話がちょっと弱いのともう一つある動画スタジオの天才アニメーターと公務員の話が?いやこれならドラマにしたほうが良くない?的なボリューム感だったんですが原作要素も最大限入れつつの瞳の話にフォーカスを充てたようです。なので王子の話だけでも独立させて一つの物語が出来る糊代があってそれは王子の話ではなく有科香屋子の物語なんですよね。だから中盤で香屋子と瞳が出会いそれぞれ道を確認するというのは良かったですね。


 全体的にお仕事映画として基本は抑えてあるし芸達者な人たちが短いながらもきっちり仕事をしているのも好感触だし、いやこれは王子のその後とか続編期待したい出来でしたね。あ、ドラマシリーズでもいいです(ヲイ)

キャスト

 斎藤瞳には吉岡里帆。どん兵衛のきつねさんとか最近ならURであーるとか宝くじとか。朝ドラ『あさが来る』で眼鏡の田村宜(自分を僕と呼ぶ)も印象深いです。帰って来た時効警察での新人刑事役で、まああの作品ではオーバーリアクションを要求されちゃったと思うのでそれが頭に残っていたんですが…いやいいじゃないですか。繊細でコミュニケーションに難がある瞳がやがて自信を付けていく様を体現していたといってもいいと思います。あと目力ありますよね。CMとかでも目に力あるなって思ってたんですがいや御見それしました。瞳を導くくせ者プロデューサー行城理には柄本佑。しかし上手いのは分っていたけど…今回もいい役ですよね。一番の儲け役じゃなかろうかと。一番の強敵は実はっていう(笑)いやでもそんな感じしません?

 対する王子千晴には中村倫也。彼もまた上手いんですがこういうクリエイター系が似合うんですよ。人知れず何故か抱え込んでしまうけどちょっとお茶目で。でも繊細過ぎるのを隠すために虚勢張っちゃうっていう。その王子のケツを叩いて(比喩ですよ比喩、実際は…それは本編で)仕事を進めるプロデューサー有科香屋子には尾野真千子。もっとごりごりなのかと思ったけどいやいいじゃないですかなんというか間合いがいい。王子の事を信頼し最後は自分がという受け身ながらも出すところは出す芯のある人を好演していました。他には多くの俳優さんが出演してらっしゃるんですが中でも瞳のサバクの主演声優に現役声優、高野麻里佳をキャスティングしているのはよく知られているんですがもう一人、いやこの方声優だけの活動をされている訳ではないんですが『この世界の片隅に』や『キルラキル』に出演されている新谷真弓が出演。最初に瞳に監督の洗礼を浴びせずっと彼女のお仕事を見てきた編集の白井さんを演じてらしていました。クライマックスにあたるシーンでの一言良かったですね。

最後に

 いやお仕事映画ってやっぱり群像劇で核になる人を追いつつ描くとやっぱり締まりますよねっていうのを再確認した映画でした。もちろんそれだけではただのお仕事映画だけですがちゃんと細部を作り込み、産みの苦しみというものを描いている。若干邦画の宿痾というべきくどい部分もあるし分かりやすい芝居もある。けれどもそこに熱意がちゃんと見えるし熱いものが伝わってきたら…それはちゃんとハケンとれているんじゃないですかね。tonbori堂はそう思いました。瞳と千晴はこれからも「アニメ王に俺はなる!」な感じで頑張って欲しいですね。ちなみに殆どのスクリーンでは上映は終わりましたがこれからはじまるところが一部あるのでまだまだ『ハケンアニメ!』の熱い夏は終わりませんよ。詳しくは公式サイトでチェックしてみてください。

『ハケンアニメ!』公式サイト

原作『ハケンアニメ!』(kindle版/Amazon)(紙の文庫本もあります/リンク先)

Amazon.co.jp: ハケンアニメ! [Blu-ray] : 吉岡里帆, 中村倫也: DVD(好評発売中)

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