その男の名はボンド、ジェームズ・ボンド|『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

その男の名はボンド、ジェームズ・ボンド|『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』感想【ネタバレ注意!】

2021年10月14日木曜日

movie

X f B! P L

 ちょっと遅くはなりましたが観てきました。007最新作にしてダニエル・クレイグの最後のボンド。なるほどそう来たかと。実際ネットで感想を見ても賛否両論なんですがそれも分かる気がします。今回の007はこれまでのダニエル・クレイグのボンド一代記を締めくくるためそうなったんだなというのはよく分かる反面ダニー・ボイルの降板後かじ取りを任されたキャリー・ジョージ・フクナガはかなり大変だったと思います。実際シナリオが出来ていないのに撮影はしないスタイルが信条なのに撮りながら書くみたいな状況に陥ったりしてしまったり。でも最終的にはボンドの決着は決まっていてそこに落とし込んでいったのかなという流れでした。ではざっとあらすじの後感想を書いていこうと思います。

『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』TOHOシネマズにて鑑賞
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』TOHOシネマズにて鑑賞

恩讐の果てに愛をみた/STORY

 スペクターを壊滅させブロフェルドを捕らえたボンドはMI6を引退しジャマイカで気ままに暮らしていたがそこに昔馴染みで数少ない友人でもあるCIAのフェリックス・ライターがやってくる。引退したボンドに仕事を頼みたいというのだ。その仕事とはボンドが在籍時代のMI6がロシアから亡命させたオブルチェフがいた研究施設が襲撃され全ての所員は殺されたが彼だけが姿をくらまし、その後キューバに現れたというのだ。そのため英国とも微妙な関係な今是非ともボンドの力を借りたいとのことだった。きなくさいものを感じて断るボンドだったが彼の引退後にダブルオーとなり007を引き継いだノーミがボンドの前に現れ手を引くように警告する。事件に裏を感じたフェリックスに連絡したボンドは任務を受ける事を承諾し早速キューバへ飛ぶ。現地工作員のパロマを合流したボンドだったがオブルチェフがキューバに現れた事自体が罠だった。果たしてボンドはこの罠をかいくぐり真の黒幕へ辿り着くことが出来るのだろうか?

ジェームズ・ボンド、殺しの許可証を持つ男

 この設定自体が既に古い感じもありますが実は現地工作員が殺しの許可を持つという事は無く大抵は孤立無援であり己の機知と人間力で危険に挑む。アンタッチャブルでキーハンターな男が007な訳です。ってか007に影響を受けた作品って片手で済まないしそれだけに小説原理派からショーン・コネリー至上派、ロジャー・ムーア派などなどまあそれぞれ作品毎にもファンがいてシャーロック・ホームズのように「私の思うジェームズ・ボンド」がそれこそ綺羅星のごとくあってダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドに決まった時も毀誉褒貶は凄かった。メディアでも叩いてたところもあったし酷いもんでしたがそれを彼は10年以上に渉りボンド役として向き合い21世紀のジェームズ・ボンド像を確立したと思います。


 実際tonbori堂も彼の初演作『007/カジノロワイヤル』は好きな作品ですし、彼の当たり役となったなと思います。007に現代の血を注ぎ込みさらなる時代へとつないでいこうとしたのも見えるしとは言えなんだろうなこうもやもやするところはありますね。例えば評価の高い『スカイフォール』からの『スペクター』は古い007シリーズでの最大の敵であったスペクターの名前を復活させたもののいまいちな反応しかもどってきませんでしたしブロフェルドも実はボンドの義理の兄という設定を持ってきながらぼやけてしまった印象なのですよね。それは『スカイフォール』が評価が高すぎたってのもあるかもしれませんが。そしてバトンは『スカイフォール』を担当したサム・メンデスからダニー・ボイルへと託されたものの「創作上の意見の相違」(これだいたいの監督降板のときの常套句ですよね)で降板し公開日が設定されているので急きょキャリー・ジョージ・フクナガ監督にお鉢が回ってきたという事があります。彼に与えられたミッションはダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドの有終の美を飾る事。それについてはちゃんとオチをつけたなと思います。


 『カジノロワイヤル』でジェームズ・ボンドがダブルオーのナンバーを与えられ最初は未熟ながらも徐々に成長していく成長譚、またはビルドゥングス・ロマンのような作りになっており、その流れで恋をするものの悲恋に終わりました。そして『慰めの報酬』以降その組織(最初はクォンタムだったのにその上部構造にスペクターがあるという事に)を追い、『スカイフォール』では元MI6で組織に裏切られたテロリスト、シルヴァと対決し、その過程でそれまでボンドのお目付けでありメンターでもあるM(ジュディ・デンチ)が死んでしまうという自らの鏡像のような敵との対決とメンターとの別れが描かれ『スペクター』ではシリーズを通しての敵であった組織が実は義理の兄であったブロフェルドの差し金であったことが分かり、彼と対決してこれを打ち破る。そしてその時、組織の秘密を暴くために重要な手がかりをもっていた『カジノロワイヤル』で愛するヴェスパーを殺したミスター・ホワイトの娘であるマドレーヌと心を通じ合わせるんですがそれらを勘案した上でならこの『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のストーリーラインは納得できるものではあるんですよ。


これはラストシーンから逆算して作った?のかなと思われるんですがクレイグの演じる007が最終的に終わりを迎えるにあたってまさかM.C.Uのインフィニティ・サーガの集大成であった『アベンジャーズ:エンドゲーム』と同じ終焉を迎えたとは。これも一つの時代の終わりを象徴する出来事なのかもしれません。とは言えこれをもって007映画なのかと問われると、はてどうでしょうという自分がいるのも否定はできません。なんだかんだで死地から生還する男。それが007だったはず。でも時代は変わった、これが終わりなんだよというのを世界的に知られており大いなるマンネリズムの作品でもある007シリーズでやっちゃうというのは一つのターニングポイントなのは間違いないと思います。とは言えこれで最後にそれこそM.C.U作品よろしく「ジェームズ・ボンドは還ってくる」なんて言われた日には…いやいや今退場したやん。この上なくきれいさっぱりにと。でそこで最後に暗幕に反転文字で出すなら「ダブルオーセブンは戻ってくる」じゃないかなと。いや何時までボンドに頼るんすかって言うのはちょっと言っておきたいですね。

2人の工作員

 そこもかと思ったのはボンドと協力したり厄介ごとを持ち込む米国のカズン(いとこ)、これは英国の情報機関員はCIAの事を呼ぶ時に使う隠語でスパイ小説などではしばしば出てくる言い回しです。その代表格フェリックス・ライター、彼もこの作品では落命してしまいます。過去にフェリックス・ライターが死んだ作品もしかするとあるかもしれませんけど『カジノロワイヤル』から今のライター、演じるはジェフリー・ライトですのでここも何故かそうなのかとは終ってから思いました。

 そして別の2人が出てきます。1人はボンドがジャマイカに引っ込んでいた間にダブルオーナンバーを受けた凄腕工作員ノーミ。彼女は黒人であり口さがない人なら多様性やポリティカルコレクトネスに配慮しただけだろという話にもなりそうですがその立ち振る舞いは堂々としたものでボンドに結果的には出し抜かれたりもしますけど新世代のダブルオーナンバーを背負える人物として描写されていました。

もう1人がクレイグとは『ナイブズ・アウト』でも共演しているアナ・デ・アルマス演じるパロマ。CIAの新人でこれが3週間の訓練を受けての初の任務という素人かと思いきや銃捌きや格闘を見事にこなしてボンドをサポート、そして任務が終わったらさっと別れる潔さ。初対面時も口説こうとするボンドを一向に意に介さないのもそういう事なんですよね。そこがいい。なんでもパロマはアルマスにあてがきされたキャラクターで幾つかのエレメントはボイルが残したものもあるけれどこれは完全にフクナガ監督が作り出したシークエンスだそうです。tonbori堂のTLでもパロマは大人気ですね。この2人は去り行く2人対して未来を担っていける力を鮮烈に見せつけたしその力があると思います。多分それは度々ボンドガールに対して否定的な姿勢を見せていたクレイグの意思も感じるキャスティングとアクションでした。ただパロマのシーンは実際は無くても機能するシーンではあるんですけれどね(^^;lとはいえ逆算されているからこそこのシーンは外せないしフェリックスの退場が後の状況を予感させるという意味でも後から考えると重要でした。

※ノーミとパロマの推し公式YouTube動画もあります>映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』特別映像(New Agents)(リンク先はYouTube)

ランニングタイム163分

 これを長いと感じるか短いと感じるか。案外見ている間は大丈夫でした。とは言え切り詰められるところもあるよなあって思ってみてると説明不足かなと思う時間もありなんとも言えないこの163分。ただクレイグ・ボンドの有終の美を迎えるためにはこの時間は必要だったとは思います。それにしても一番思うのはサフィンの年齢なんですよね。マドレーヌって設定何歳?ってなるし(画面で見るマドレーヌとサフィンはそれほど年齢が変わらないように見える)レミ・マレックは不気味なヴィラン、サフィンを不気味に演じていましたが(このクレイグ・ボンドシリーズのヴィランってみんな一様にゆっくり喋りますよね)いやその前にあなた何歳?っていう。毒の何かでアンチエイジングしているという感じでも無いしそもそもヘラクレス計画で盗みだしたのは毒でもウイルスでもなくマイクロマシンだし(この辺りは攻殻機動隊チックではあります。)それぞれが上手くつながっていないところもマイナスではあったかなと思います。最初からフクナガ監督が采配していれば…でも同じ結末を迎えるとしてこうなったかな?もっと違う何かがといってもそれは「WHAT IF…?」でしかないので否定派にとっては冗長な、肯定派にとってはお別れの言葉としては適当で十分な時間だったのかなと思います。難しいところですよね。tonbori堂はどっちかって?うーん今もまだちょっと考えています。

女王陛下の007

 フクナガ監督によると頭にあったのは(大元イメージ)『女王陛下の007』だったそうで、昔テレビの月曜ロードショー(TBSでやっていた映画番組)で初見したジョージ・レーゼンビーが主演した作品です。劇中でテーマソング「愛はすべてを越えて」のインストが流れエンドロールで再度「愛はすべてを越えて」がまたかかるという周到さ。この作品この『ノー・タイム・トゥ・ダイ』と同じく衝撃のラストではあるのでそういう対称性を参考に今のジェームズ・ボンドの作品としてその精神を継いでいったのかなと思うとまた観直してみるのもいいかもしれません。ただそれはそれとしても意図が伝わらないといけない訳ですよね。他方では『007は二度に死ぬ』オマージュ?と思われるクライマックスの舞台設定やサフィンの謎の東洋趣味とか。日ロの国境でもめているって北方領土なんでしょうけど実効支配しているのはロシアなのでロシアの協力無しではあのような研究施設兼基地は作れないというかロシアが放棄した基地をみたいな感じも有って設定ガバガバだなって言われてしまう甘さもあるんですよ。そこは甘めに見ても先ほど書いた年齢問題と共に厳しいなと思うところです。実際誰にも知られていない島とかかなり難しいとは思いますが大がかりな組織力を有しているのかいないのかどうにも組織全体がスペクターからこっち掴みづらいのも少し問題なのかなとも思います。

最後に

 これが最後のクレイグボンドってことで観に行きましたが最初のイタリア、シークエンスやパロマとキューバで大暴れ、ノーミとともに毒の島へ潜入シークエンスとかもりあがるところもあったし、逆算から考えるとああこれで最後のボンドに綺麗にけりをつけたと思います。それとマドレーヌが実はボンドの子どもを身ごもっており別れた後に一人で育てていたという事実もいろいろ思うところはあるんですがそれ自体は悪い事ではないかと。どちらかというとマドレーヌとマチルド親子に二度と触れる事が出来ない身体になってしまったという事に絶望して死んだようにも思えるんで(晴れやかな顔で2人を護りきったという満足感で思い残す事は無いという流れではあるんだけど)あの最後やっぱりどうなんだろうかと。静かに脱出はしてQとMだけには事情を説明してどこかへ去っていくみたいなのでも…ダメだったのかな…当然それだとちょっとありきたりかもしれないけど、あそこで全てを諦めてしまったかのようにも思うんで遠くから見守るというのもきついけれどありなんじゃないのとは思いました。うーん本当に物語のオチって難しいですよね。


そこで思い出したのが『ブラック・ウィドウ』だったんですが、こちらもスパイ映画というルックを引っさげてしかも驚くべきことに相手の本拠地は浮遊城な訳ですよ。まあ空母を浮かして飛ばしている世界観なんでそういうのアリでしょって感じなんですが科学的な方法での洗脳などなテクノロジー的な嘘も、いかにもなスパイアクションの王道だし、しかも女性を搾取するヴィランの親玉はまさに「今」なボスキャラです。最終的には『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』もそこを指向しつつもボンド一代記なのでサフィンは恩讐の彼方からやってくるし、過去に復讐される。過去からの恩讐という点は『ブラック・ウィドウ』とも被るんですけれど過去を悔いるためそして家族のために奔走するナターシャと家族を護り「今日は死ぬのにいい日だ」と死地へ乗り込むボンドが少しダブって見えてしまいました。まさにダニエル・クレイグの『エンドゲーム』それがこの『ノー・タイム・トゥ・ダイ』だったという感じでした。

前作『007/スペクター』Blu-ray/Amazon

※Amazonプライムビデオでも配信中『007スペクター』(リンク先はAmazon)

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』Blu-ray/Amazon

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中
永野護著/KADOKAWA刊月刊ニュータイプ連載『ファイブスター物語/F.S.S』第17巻絶賛発売中(リンクはAmazon)

このブログを検索

アーカイブ

QooQ