レッドルームから来たスパイ|『ブラック・ウィドウ』感想/考察【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

レッドルームから来たスパイ|『ブラック・ウィドウ』感想/考察【ネタバレ】

2021年7月13日火曜日

MARVEL movie

X f B! P L

 待ちに待った、いや待たされ過ぎた『ブラック・ウィドウ』なので久しぶりにスクリーンでマーベル・スタジオのロゴを見た時やはり思うところありましたね。マーベルのロゴと言えば赤に白抜き文字。スタジオの方は金属を打ちぬいた感じで文字の中に投影されるころまでの作品のキャラクターとバックは黒のスタイルです。そしてブラック・ウィドウといえば赤と黒、いろいろ思いが去来します。肝心の中身の方は『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』からの話で『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』の前の話となります。過去の因縁が深く関わる物語でナターシャ・ロマノフのこれまで語られなかった側面がクローズアップされるストーリー。そして家族になぜこだわるのかが描かれました。では感じた事、気になる所をあらすじの後にちょっと書いてみたいと思います。


Marvel Studios' Black Widow - Official Teaser Trailer|YouTube/Marvel Entertainment

ナターシャの棘/STORY

 アベンジャーズはジモの策略とソコヴィア協定で分裂してしまった。バートン/ホークアイやスコット/アントマンは捕まり、ロス長官の指揮の下、ナターシャ/ブラック・ウィドウもあるホテルの一室に追い詰められた…。はずだったがそう思わせて彼女は既にノルウェーに逃亡していた。古馴染みの調達屋メイソンの手引きで町外れのトレーラーハウスで潜伏していた彼女は町へ発電機の燃料を買いに出掛けた時に突然襲撃を受ける。髑髏のような不気味なヘルメットをかぶった人物はスティーブ/キャプテン・アメリカのように盾を投擲し、ナターシャと同じ動きで襲い掛かる。どうやらかつて使っていたセーフハウスがあるブダペストから届いた荷物を狙っている事に気が付いたナターシャは命からがらその場を脱しブダペストのセーフハウスに向かうとそこにはかつて妹と呼んだエレーナがいた。そしてエレーナから自らが壊滅させたロシアの暗殺者養成機関レッドルームが健在であり今も活動中している事、そして新しい洗脳技術で拉致してきた少女を従わせていると聞かされるナターシャ。そしてエレーナが彼女に送った品物の中にその洗脳を解除するガスを忍ばせていたのだった。そのためレッドルーム最強の刺客「タスクマスター」がナターシャを襲ったのだった。


 捨て去った過去の古傷がナターシャに襲い掛かる事に。再びレッドルームを壊滅させるべくナターシャはかつて少女時代にレッドルームの任務でアメリカへ潜入任務で父として同じく潜入したアレクセイ/レッド・ガーディアンを刑務所から救出しレッドルームの場所を問いただすがアレクセイはレッドルームの支配者ドレイコフから切り捨てられて以来その場所は知らないとナターシャに告げる。だが潜入時に母として同じ任務についたメリーナならその場所を知っているかもと教える。メリーナもレッドルームのスパイでありウィドウの一人。そしてレッドルームの科学者だったのだ。メリーナの元へ向かう3人。1995年オハイオ州でSHIELDだが実はヒドラの研究所から研究成果を奪取する任務で3年間潜入していた4人が一同に介した。果たしてナターシャはレッドルームを破壊しウィドウたちを開放することが出来るのか?

世界を護るスパイ

 観た人が「007」のようだとつぶやいているのをよく見かけます。実際「007」のようなんですよね。ロジャー・ムーア以降、敵がどんどん大仕掛けになり出てくる仕掛けが大仕掛けになってくる感じ、それは『007ムーンレイカー』で極まりました。そしてナターシャがセーフハウスとしたトレーラーハウスで観ていたのがこれでした。セリフも言えるぐらいよく観ていたのでしょう(OPで英語の習得のためにTVを観るシーンがあったのでそこを思うといろいろ複雑ではありますが)。この作品はジェームズ・ボンド007が初めて宇宙に飛び出した作品としても知られています。今観るとちょっとオイオイな部分もあるけど007が宇宙で大活躍は多くの人を喜ばせた反面ここを頂点に後は徐々に下降線に向かって行ったなという感じがあります(あくまでもtonbori堂の主観ですが)


 でもその後にティモシー・ダルトンのボンドを経てピアース・ブロスナンのボンドの作品『ゴールデンアイ』で人気が復活したように思います(あくまでもtonbori堂の主観ですよ。ちなみにどこかで読んだんですが実はダルトンのボンドはすごくジェームズ・ボンドらしいボンドだそうです。)その後ダニエル・クレイグのボンドでまたボンド「007」映画はまた一つの頂点を迎えたと思うんですが実は『ブラック・ウィドウ』クレイグの『スカイフォール』との共通点(敵は過去の仲間だったり、ナターシャの潜伏場所のロケーションの風景が似ているなどなど)があるというのですがならばtonbori堂は『ゴールデンアイ』を推したいですね。ちょっと捻ってきていますけど。(余談ですが『ゴールデンアイ』のロケに使われたアレシボ電波天文台のパラボラは崩落事故で崩壊したそうです。)


 ナターシャの過去の作戦(レッドルームを抜けてバートンの尽力でそのレッドルームを壊滅させる事がSHIELDへ入るためのテストだった。)においての苦い過去や死んだと思っていた人物が実は生きていてという。『スカイフォール』もMとボンドのパーソナルな物語になっているんですがジュディ・デンチのMは実は『ゴールデンアイ』からなんですよね。いやショーン・ビーン、M.C.Uに仲間入りしないかなーとこれは余談が過ぎました。


 どう考えても007/ジェームズ・ボンドの話を好んでいるナターシャは、自分の過去の仕事から、SHIELDに入ってからの自分はその過去の贖罪でありアベンジャーズとなってもなおそうである「世界を護る者」としては不適格ではないかという想いがどこかにある。バートンなんかはフィールドエージェントでありながら自分を「兵士(ソルジャー)」と定義しているので戦う信条としては「敵を倒す」とはっきりしているんですがナターシャはスパイという影の仕事をしていたためその根幹部分でずっとそういう影を纏っていたように思います。先にも触れましたが『007ムーンレイカ―』を観ていたのはOPロールでレッドルームに連れてこられた子供たちが怯えた表情からやがて無表情でTVの画面にながれる番組を見るシーンが挿入される事から英語の習得のために見たものでしょうけど子供心に刻まれたというのは『ワンダヴィジョン』でもあるし今回のストーリーラインは『007』ですよというリスペクトにしてもやはりその後レッドルームを離脱してSHIELDで働くというのは正しい事をしたいという彼女の想いの現れではないのかとまた深読みしたくなる良いシーンでした。

レッドルーム

 何処にあるかは分からない。見つからないというネタ明かしがそうかーそうだったのかっていうのはあまりにもまんまやんかという。いやミッションインポッシブル脳で考えると自由落下でのアクションってのは基地から輸送機での逃走。そして破壊からの脱出みたいな雑な展開を予告編で想像していましたが、あーそう来ましたかと(笑)確かに予告編のフリーフォールな感じはヘリキャリアっぽいところからダイブしてますもんね😓なんていうかあのテクノロジーってのはSHIELDとヒドラ両方からパクってる感じでしょうね。ドレイコフのセリフからだと上手く立ち回っているってのはそういう事のように思えます。当然スターク・インダストリーの部品も探したらありそうな。

偽りの家族

 エレーナ、メリーナ、アレクセイとは偽りの家族でしたが1995年のオハイオからの脱出劇までの3年間は幸せな時を過ごした。それぞれがその後の人生はまさに痛みだらけの人生だった。それでもあの偽りの家族を過ごした時間は大きな影響を及ぼしていた。思わぬことから4人がまた揃う事になったことを契機に想いを少しづつ話をしてもスパイはスパイ。どうしても裏を読んでしまう。ナターシャとメリーナはそうでしたがエレーナだけは新世代のウィドウとしてコントロールされた状態だった。だからあの幸せな時間で記憶が止まっていた。あのテーブルを囲んでそして結局想いを爆発させるシーン。あれが無ければメリーナがナターシャに協力する事は無かったのでは?そう思っているのですがどうでしょう。


 そう思わせるフローレンス・ピューの演技がまた素晴らしい。はすっぱな口の聞き方といいナターシャに喰ってかかる様と言い、特にナターシャの着地ポーズについてのワイズクラックのシーンがよく取り沙汰されますがドライブインで二人で語るシーンがこれまたいいんですよ。それ以外でもクライマックスの表情とか。エレーナがフローレンス・ピューで良かった、本当にと思えるベストシーンが連続しますんで是非彼女にご注目頂きたいのと同時に、これでナターシャの物語が本当に終わってしまうのめちゃくちゃ悲しいですよ…。スカーレット・ヨハンソンはマーベルからの卒業を明言していますけど、あれを観た後でエレーナとのバディ感がもう無いとか、終わってしばらくして思い返すと本当に悲しい。


 製作陣は戻って欲しいと秋波を送っているようですけど『エンドゲーム』のナターシャの決断を受けての今作品ですからね…なんだろうでもって感じです。今後エレーナの危機にアレクセイとメリーナが駆けつけるもってなった時にやっぱりナターシャの影を感じちゃいますよ…そして出来れば本人がというね。(戻ってくるには『LOKI』のようななんかこう納得できるような仕掛けは必要になると思いますけどもね。)あとこういう疑似家族って『アベンジャーズ』シリーズもそうだけど『ワイルドスピード』シリーズもそうですよね。血縁関係だけではない絆というと何か嘘くさいけれど心の深いところで結びついた。ソウルメイトとか名前を付けるとちょっとアレになっちゃうけど(苦笑)そういうやつがあると思います。やっぱりアメリカ人がそういうのが好きなのかもしれませんね。


 余談になりますがアレクセイたちの脱出先がキューバってのが凄くソ連な感じがしますが(いや1995年ならもうロシアか)ペレストロイカ前夜にアメリカに潜入したスリーパー(いわゆるモール、もぐらという潜伏している工作員)を描いた『ジ・アメリカンズ』という人気ドラマがあってアバンタイトルでそれを思い出した方が多かったようです(tonbori堂は未見です。)そういう潜入してきたモールにシグナルが送られて一斉蜂起をっていう半ば都市伝説のような話もありましたけど実際に一般人になりすまし定着したスパイってのは実際にいます。映画『ブリッジ・オブ・スパイ』で米のU2偵察機パイロットと捕虜交換という形で引き渡しが行われた大物スパイだったアベルはアメリカで画家として過ごしていました。そういう冷戦下の厳しい敵地への浸透工作はベルリンの壁崩壊で終わったと思われいてもまだ自国ファースト主義のため生き残っていると思えば何の不思議もありません。当然今は冷戦下よりも潜入工作は容易にできるでしょうし、それに対抗するカウンターパートもまた人知れず活動している。ナターシャもその世界の住人であったはずなのですがSHIELDの崩壊からアベンジャーズへの参加という道を歩みスーパーヒーローとして世界中に顔が売れてしまったスパイになったのは皮肉な話だけれどリアリティラインが微妙なところに設定されていて町ゆく人が「あー!ブラック・ウィドウ」だってことにならないのが面白いところですよね。でも『エンドゲーム』ではファミリーレストランでスマート・ハルクはすぐに分かっていましたけどアントマン(スコット)は知られていないとか案外顔を認識している人って少ないかも。(ニュースなどでもある程度制限かかってそうだし)

アメリカン・パイ

 アレクセイが子ども(特に事情を分かっていないエレーナ)たちに冒険に出掛けるといってステーションワゴンに最低限の荷物で逃走するときにエレーナがせがんだ曲がドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」です。長尺で8分を越えるナンバーで「ラ・バンバ」のリッチー・バレンチ、「ペギー・スー」のバディ・ホリーらが演奏ツアーで搭乗していた飛行機が墜落した時の事を歌っているとされています。かなり深い歌詞なのでもしよかったら検索してみてください。そのフレーズを再会したアレクセイとエレーナが歌うシーンはほっこりとしました。

エンドゲームを経て

 Twitterで感想を少しつぶやいたときにtonbori堂はこうつぶやきました。


 結局そこに行きつくと思います。これもTwitterで見かけたんですが、最初の頃のナターシャは性的な意味合いも持たされていました。レッドルームの要請されたスパイが女性であるというのも時にそういうのを使って相手を篭絡するという事も当然あります。しかし『アイアンマン』から10年、世の中は変わりました。それを考えるとスカーレット・ヨハンソンが考えるナターシャの隠された物語を紡ぎ出すにはこのタイミングしかなかったのかもしれません。それでも次のM.C.Uの集大成的作品には彼女がいないと思うと寂しさが募ります。エレーナがいるといっても彼女は彼女で独立したキャラクターでウィドウを継承してもそれはナターシャではないのですから。もちろんエレーナの今後の活躍は期待したいしなんなら彼女の新しい冒険としてブラック・ウィドウ2を作ってもらっても差支えは無い…いややっぱりそこはもやもやしてしまうかな…。ビッグ3(トニー、スティーブ、ソー)はトリロジーだったわけですから…そういう想いが残る久々のマーベル映画でした。

※ちょっと勘違いしていたところがあったので冒頭の枕の部分の文章を改定しました。何卒よしなにお願い致します。2022.04.20

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