全6話。あっという間の6話でしたがしっかりM.C.Uの作品だったし、よくぞそこまで踏み込んだなと感じ入りました。そして『エンドゲーム』後のストーリーとしても『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』とはまた違った意味合いを持ち、フェイズ4の始まりを感じさせるストーリーとなったと思います。(ワンダヴィジョンがそうではないとは言いませんが、より分かりやすいM.C.Uの本筋としてです。)キャプテン・アメリカの盾の持つ意味合いや今のこのCOVID-19に重ね合わせるかのようなアフターブリップ(サノスの指パッチン)後の世界。それはCOVID-19前の困難さえも内包しているかのようなシナリオでした。以下ストーリーの【ネタバレ】を含みつつ振り返ってみたいと思います。
Finale | Marvel Studios' The Falcon and The Winter Soldier | Disney+|YouTube
アフターブリップ
正直、『ファルコン&ウィンターソルジャー』はまるでそりの合わない2人が(それぞれにバックボーンを抱えているけれど)互いの価値観をぶつけながらも娯楽作品、エンタテインメントなバディアクションだと思っていたんです。そう『48時間』や『リーサルウェポン』、ドラマというフォーマットなら『刑事スタスキー&ハッチ』のような。ある一面ではそれは間違いではないんですがそこはマーベル・スタジオ、M.C.Uならではの視点とサノスのブリップ(指パッチン)後の世界。5年の歳月が全てを変えてしまった世界を描いています。
ワンダヴィジョンでも中盤でのネタばらし回とでも言うべき第4話やフェイズ3の最後の作品『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(FHH)』でも描かれた消えていった人たちが突然戻ってきた事によりさらなる混乱が起こり、それぞれが軋轢産んでしまった世界を描いていましたが、(アイアンマンがいない世界)こちらもそれを分かりやすく描いています。分かりやすくと書きましたけど、『ファルコン&ウィンターソルジャー』はその事が世界にヒビを入れた出来事として、普通にしていると世界は元通りに見えるけれど、その事で起こる事や事件、さらにはサムとバッキーにもその世界の歪が降りかかってくるので分かりやすいのです。
先にも触れましたけど『スパイダーマン:FHH』と『ワンダヴィジョン』も同じアフターブリップのお話でそれなりにブリップ後というのは描写されていましたがそれを深く意識するのはFHHではアイアンマン=トニーがいないという事と戻ってきた人と残った人の間にズレがあるという事でした。また『ワンダヴィジョン』では最初はワンダのヘックス内でのシットコムで物語が続くためそれを意識することは薄かったように思います。ですがSWORDの暴走(白ヴィジョン)や登場人物の立ち位置に反映されていたかなという程度。それだけにこの『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』ではサムが戻って来てスティーブがいない世界で相変わらず世直しの手伝い(といっても米空軍のお手伝い)をしていたりバッキーはNYで贖罪リストを消すという重い出だしでした。
大方の人にはアバンで始まったサムのフライト・スーツによるスカイアクションで今作は先にも書いたアクション系バディアクションで責めるのかと思い、『キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー』の冒頭に登場したバトロックが再登場したのもファンには嬉しいシーンとなりましたが、アバン後ではデシメーション(ブリップ、指パッチンによる生命体消失の事)後に戻ってきたら自分がいない間にサムの妹が一人で守ってきた両親の船を売らなくては生計が立てられないとかバッキーは未だにウィンターソルジャーの悪夢を見てその時に殺してしまった相手の父親にそれを打ち明ける事が出来ないまま交流しているというシーンが続きます。ここもキツいシーンです。バッキーは言わずもがななんですがサムは銀行に融資を頼みますがすげなく断られます。地球を救ったヒーローでもそこは関係ない。
それはいいんです。人はみな平等。でも実はそうじゃないそれがこの『ファルコン&ウィンターソルジャー』の底流にながれているもの。白人と黒人という壁。そして寄る辺なき人たちとそうでない人たち。分断の物語だったことが次第に明らかになっていきます。特に今は世の中COVID-19禍やトランプ大統領の4年で世界の分断は深まりました。そしてその分断は一つも良くなっていない。むしろ増していっている。そのなかでスーパーヒーローの活躍する物語でかなり踏み込んだなと思います。そしてこの物語はもう一つ重要なテーマがあります。盾を持つ者の資格についてです。
盾を持つ者
それはキャプテン・アメリカの盾です。アメリカの象徴でもあるスターズ&ストライプスをかたどった盾はアメリカと同一視されるシンボル。一方では護りし者の象徴でもあるんですが一方で力なき者たちから見れは圧制者のシンボルでしかない。真の護り手となってその盾を揮える資格とはなんなのか?それを問うストーリーが展開されるとは思ってもみなかったのです。それだけに「うわぁ、自分浅かったわ…」と反省しきりです。黒人問題だってそうで『ブラックパンサー』とは違うもっと米国のBLM運動だけではなく南北戦争(シビルウォー)から、公民権運動を経て現代へダイレクトにつながってくるところをこうやって突いてくる。マーベル・スタジオは歩みを止めないんだなという部分が垣間見えました。
サムは序盤でスティーブから託された盾を手放します。それは心にあるわだかまりやその重責を本気で背負えるのか?と。ならば偉大な人物の「遺物」として博物館へ封じ込め自分は自分の出来る範囲で助けがいる人の助けになると考えたのでしょうが、バッキーはスティーブが見込んで盾を託したサムがあっさり手放したことに激昂します。バッキーは言わばスティーブのバディでもありその鏡像でもあった人物。そんな彼も『CA:シビル・ウォー』やサノスとの戦いで彼の人となりを見てサムならばというスティーブの想いに対しそれを裏切る行為に見えたのでしょう。そしてそれを際立たせるのが二代目キャプテン・アメリカとして政府に選ばれた男、ジョン・ウォーカー(演じるはワイアット・ラッセル、カート・ラッセルの息子)です。元米軍の特殊部隊に所属しスティーブからサムに託された盾を受け取った政府が困難な時代を引っ張るヒーローとして新しいキャプテン・アメリカを必要としたことから選ばれた男。ウォーカーの経歴は勲章を受け、戦友の命を救い活躍した人物です。そしてスティーブと同じ金髪の白人というのも象徴的ですよね。
何度もお話していますがtonbori堂はさほど原典には明るくありません。ですがファルコンがキャプテン・アメリカを襲名するというのも、ウォーカーがキャプテン・アメリカになるというのも原典にある話なんです。それをそのままもってこずM.C.Uとしてアレンジする。そのアレンジ具合はちゃんと原典にも沿いつつM.C.U独自のスタイルをとるというのがまた良いのです。だから原作未読のtonbori堂でも楽しめるし、原典にあるスピリットはちゃんと伝わるし、なんとなれば機会があれば読んでみようかなとなる。当然今作でファルコンがキャップを襲名するというのは時代の要請もあったでしょうし、今ではイスラム系のヒーローやLGBTのヒーローも原典では誕生しています。またイスラム系の移民の少女がヒーローとなる『ミス・マーベル』もディズニープラスでドラマが予定されています、とこれは脱線。そう言った意味でもウォーカーの存在はストーリーに緊張感を与えたと思います。
ウォーカーという人物は優れた軍人でしたが今作でのヴィランにあたるフラッグスマッシャーズを捕え壊滅させるという任務でキャップとしての振る舞いや姿を人々に見せなくてはならないというプレッシャーを背負っています。それまでは同じく国を護るために人知れず地獄のような戦場で戦っていたけれど、衆人環視で見える場所でさらに困難な任務に対しプレッシャーで彼は徐々に追い詰められていきます。そんな中で相棒であるレマーがフラッグスマッシャーズのカーリーによって殺されてしまい、そして今作で一番ショッキングなキャップの盾が血に塗れてしまう事態が…。これはショックでしたね。えっ?本当にやってしまうのと。でもそのシーンがあるからマーベル・スタジオは本気なんだと分るのです。敢えてキャップの盾を血塗れにする覚悟。ドラマでも手を抜きませんよという。
そして外せないのがイザイアの話。イザイアはスティーブが行方不明になった後にその効果を伏せて朝鮮戦争の時に黒人兵士だけを集めて(その理由は明言こそされませんでしたがイザイアの態度を見れば一目瞭然、そしてこのエピソードの原典であるコミックスのストーリーにもベースにある史実があるそうです。Wikipediaのリンクを貼っておきますので興味のある方はそこから深掘りしてみてはいかかでしょうか。相当に胸糞悪い話ではあるんですが。)超人血清を投与されるという実験が行われたというのです。そして実戦に投入されたものの敵の手に落ちた仲間を救うためにイザイアたちは敵地に潜入、戦友を救い出したものの結果生き残ったのは彼一人。そして軍は何故イザイアだけが適応したのかを調べるためにずっと閉じ込めていたのです。(バッキーがウインターソルジャーとして活動してた頃にもイザイアが投入されバッキーの腕をもぎ取ったとか)彼の真実をバッキーから知らされサムはますます悩むことになります。
しかもテロを起こすカーリー・モーゲンソー率いるフラッグスマッシャーズたちもファーストブリップ後に世界が混乱し国境線が半ば機能しなくなった世界で半ば棄民だったカーリーたちも安住を得たと思ったらセカンド・ブリップ後(エンドゲーム後)にまた元の世界に戻ってしまったことに失望を憶え世界をセカンド・ブリップ前に戻そうとするというバックボーンを抱えています。サムはウォーカーのように力でねじ伏せるのではなくまず話をしようとします。当然行き違いや周りの状況がそれを許しません。そして事態は悪化の一途を辿るけれど最終的に全てを受け入れ「まず自分のできる範囲を救う」事から始めようとするサムはやっと吹っ切れ、イザイアの歴史も背負った上でキャプテン・アメリカとなる道を選びます。それが結果、ウィンターソルジャーとして贖罪を続けていたバッキーにもまず話をして許しを乞う。例え許されなくても。そこから始める決意をさせる。5話と6話は台詞も多いけれど心に刺さるシーンが多かったです。最後にサムがスピーチするシーンも正直、それをはっきりというのは今のこのCOVID-19禍とトランプ後だから凄く刺さるものがありました。
多分映画でこれをやると「台詞が長いよ」ってなると思うんですけれどドラマ仕立てで6時間という長丁場だからこそ出来たんだと思います。もちろん説明不足なところや足りない部分もありましたけど(ジモの話とか。でも短いながらも強烈な印象を残したし彼はラフトにいてもまた何かしそうです。それにラフトは一度破られていますからね。)キャップの継承として考えるとこれ以上ないフェイズ4の根幹になるストーリーとなったと思います。
先に書いたある実験のWikipediaの記述|タスキギー梅毒実験 - Wikipedia
新たなサーガの幕開け
『ワンダヴィジョン』もなんですが、サーガの根幹としてはこのストーリーかなり重要になってくると思います。もちろんばら撒かれたピースを他の脚本家たちや監督がどうはめるのか、はたまた別のピースをもってくるのかという点においてなのですが。tonbori堂はM.C.Uの発起点は『アイアンマン』ですがその根源になっているのはオーソドックスな『キャプテン・アメリカ:ザ・ファースト・アベンジャー』だと思っています。このストーリーが無ければ『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』も『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』も無かったし、『アベンジャーズ』もそう考えています。M.C.Uは幾つかそういうキーストーンになる作品を置いてきますがキャップ関係はアベンジャーズも含めてそういう部分があります。
今回の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』もそういうキーストーンなストーリーになってくると思います。それはパワーブローカーの正体だったシャロンの事やウォーカーをUSエージェントにリクルートしたヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌもしかり。超人血清も作っていたネイゲル博士はジモに射殺されましたがあれが最後の超人血清なのか?とか(ロス長官は准将の頃にブロンスキーに投与した超人血清しておりまだ幾つかは保存していると思われるし下手をするとフューリーだって)それは今後の展開次第だしどういうストーリーが紡がれるのか?ますます楽しみが拡がりました。
もちろんUSエージェントになったウォーカーの事も。まだまだちょっと危なっかしいというかそういうところが見え隠れしてますし、シャロンはこのまま闇落ちしたままなのかとか。ふせったーではtonbori堂はもしかして洋ドラ『ブラックリスト』のレッドみたいな立ち位置になるのか?とか思ったんですが、それはどっちかというとジモでしたね。でもシャロンもそういうポジションになりそうな気がするし。ヴァルに至っては完全に悪い方の人やん!って感じですが…。最後は女フューリー?みたいな感じを醸しだしていますし。原典ではマダム・ヒドラだったりSHIELDのエージェントでフューリーの恋人だったりとかいわゆる峰不二子ポジションのようでそこはシャロンと被ってくるのでは?とかまあ謎だけは増やしていった気がしないでもないです。とまあ、今後はまずは6月の『ロキ』そして7月の『ブラックウィドウ』ですよね。M.C.Uの勢いはCOVID-19では止まりません。まだまだ拡がりを見せそうです。
※インフニティ・サーガのブリップ前と後のM.C.Uの3本。
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