因果律の果てに|『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』/『プロフェッショナル仕事の流儀』庵野秀明スペシャル|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

因果律の果てに|『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』/『プロフェッショナル仕事の流儀』庵野秀明スペシャル|感想【ネタバレ注意!】

2021年3月28日日曜日

anime movie ROBOT

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 『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』、公開から3週間が過ぎいろいろと感想も評論も出てきました。で、賛ばかりない否という論も出てきました。それは当然で何せ25年前の最終回にちゃんと決着を付けただけなので、「まるで成長していない」となってもしょうがない。「25年間かけての結論がそれかいな」ってなってもそれは分かりますし、ぐぅの音も出ない。だからそれについての反論はないんですが、この世の中で物語にエンドマークを付けれるのは作った人の責務ではあるんですよね。だからこそ、「新世紀エヴァンゲリオン」という作品についてそれが成された事が良かったのではないかと思っているのがtonbori堂のスタンスです。それについて庵野監督に密着したNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』スペシャルの事に触れながらあれこれを考えて少し書いてみたいと思います。

※本編の内容に触れております。【ネタバレ注意】です。何卒よしなに。


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プロフェッショナル

 NHKの番組『プロフェッショナル仕事の流儀』スペシャルで庵野秀明に密着というのが2021年3月22日の月曜日に放送されました。それに伴い『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』のネタバレ感想も解禁のような流れもTwitterの公式アカウントからツイートされました。その中でも色々と庵野秀明を解明しようとする悪戦苦闘ぶりが見えました。しかしそこの映っていたのは、ただただ愚直にフィルムを完成させようとする庵野監督の姿がありました。そしてアニメーションというのは共同制作である、だからこそプロフェッショナルの制作クルーにももっと周りを撮って欲しいと要望を出す一幕も。



 庵野監督は『プロフェッショナル』とは?というお約束にはその題名が好きじゃないと言い放つ辺りも非常にらしいと思います。アニメーションを作る職業監督としてはプロフェッショナルではあるのにそれは好きじゃないというのは一見、?となりますがそれはプロフェッショナルを否定しているとかアマチュアであるというのではなく、それは普通にシャイなのではないかと。わざと露悪的に振舞ったりツンデレであったり、それはエヴァンゲリオンで提示されているシンジやアスカの特徴でもあり、時に感情がないかのようなレイであったりというのを庵野監督の心の発露と捉えればそれはシャイでしょうと。特徴的なのは庵野監督は取材を受けたのは「宣伝のため」と明言したり、ノーアイデアと露悪的に言ってみたり。あれも監督なりのリップサービスだと考えれば別に謎でも何でもないのかなと思っているのですが。何せ本人が「謎に包まれたものを喜ぶ人が少なくなってきてる」とまで言っているので精一杯サービス、サービスしたんじゃないかとまで感じました。


 正直、庵野監督と知り合いでも何でもないただの一視聴者にすぎないので、その人となりを知っている訳じゃないですが、でもそれぞれの証言をつなぎ合わせると人付き合いが悪いわけでもないけれど良いわけでもない。それなりの人間関係を構築してきたはずですが、ジブリの黒幕(コラッ!)鈴木Pには大人になれない子どもと評されあげくテロリストですからね(苦笑)葛城ミサト役三石琴乃には「使徒ちゃん」アスカ役宮村優子には「女性っぽい」とまで(シンジ役緒方恵美には「本当に謎」)言われています。でも基本的には好きなものに入れ込む力とそのモノを分析する能力に長け、頭の中のカメラを自由自在に動かせる人でもそれ以外には基本的に無頓着なんだろうなとtonbori堂は思っています。


そうじゃなけりゃ「じょうぶなタイヤ」みたいな解像度の高いものは作れません。(「じょうぶなタイヤ」は大阪芸術大学での庵野秀明課題制作物で線画のパラパラ漫画から発展した短編アニメーション。『アオイホノオ』のドラマ版でも使われた。その完成度に同期は度肝を抜かれたという)ただ一方ですごく真面目でもある。それは締めきりを守ると言った一言。当然それを伸ばすためにはご自身も含めカラーで一丸となって引き伸ばしをいろいろやるんでしょうけども(実際いろいろやったり後付けではありますが延期になったことでブラッシュアップの時間を最大限利用した事が今回の『プロフェッショナル』で判明しています。公開ぎりぎりの時点での0号試写がその証左。)やりたいことをやるために作り上げたカラーという会社ではあるけれど本当にずっと作り続けるのであれば一人で創作活動すればいいのであってアニメーションという共同作業でしか成し得ないものをつくるのであれば、そこで何で線引きするのかと言えばそれは締め切り(デッドライン)という部分というのは庵野監督は『エヴァンゲリオン』は自らの創作物ではあるけれどちゃんと仕事としてみているのだなと思いました。(ただだからと言ってクリエイティブな部分で妥協をするかどうかは別のお話です。まあ高畑勲監督のように画が描けないからこその緻密な追い込み方と完成するまで全く妥協せず、それ以外は全てPやスタッフにお任せという例外もありますが。)


魂のルフラン

 『エヴァンゲリオン』に関しては私小説的なものであるというのも半ば公然である話でしたが父親の存在でそれが明確になったと思います。父との確執はあったんだろうなというのは皆推察はしていたものですが、1999年の新聞の取材記事以来それを再び明言した形になりましたよね。その話はあまりにも以前にされた上にあまり話題にもなっていなかったように思います。実際tonbori堂が知ったのも『エヴァンゲリオン新劇場版』公開間近でいろいろ過去の話が出てきてそれが浮上したからで、そこに論評した人も少なかったように記憶しています。その父の存在とゲンドウを重ね合わせていることからエヴァンゲリオンが「父殺し」の物語であることは明白です。また『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に突如として現れた第3村。そこで描かれる農本主義的な描写をそれ自体には異は無いもののエヴァンゲリオンという作品には似つかわしくない、もしくはそんな手垢のついた話はいるのかとか、深化がないとまでいうのにも関しても「そうですね」と。安西先生風に言えば「まるで成長していない」と言えばよろしいでしょうか。それでも安野モヨコという伴侶というか現実に引き止めてくれる相棒を得てなんとか帰着点を得たのがこの作品であったというのは賛でも否でも共通している認識なんですよね。


だからこそ私小説的であるとも言えるわけですが実は異を唱える人も結局はその繰り返しの物語に心を留め置かれているのかもしれません。普通気にならなければ放置しておけばいい。いやまあアニメ方面の文芸というかサブカルチャーを語る人たちにとっては何かしらの言葉を発せなければならない人たちにとってはエヴァンゲリオンは避けては通れない。だからこそ落としどころをどうにしか探るしかない。そしてやっと25年の長きの旅路が終わり「おめでとう」なのかあの最終回をみて「ふざけんな!」というまさに歴史は繰り返される。その終劇まで25年前の繰り返しであるというのもやはり『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の…いや『新世紀エヴァンゲリオン』のエンドマークに相応しいのかもしれません。

因果地平へ

 あともう一つ。『プロフェッショナル仕事の流儀』ではジブリとの関係というか(鈴木Pが色々協力しているのは周知の事実)宮崎駿監督の弟子関係がクローズアップされていますが、実は師弟関係ではないものの庵野監督がリスペクトしているアニメ監督がいます。それは『機動戦士ガンダム』の監督である富野由悠季です。富野監督の『逆襲のシャア』が好きとか『Vガンダム』が好きと公言しているのもこれまた周知の事実なんですが、何と言えばいいのか実は今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もしかすると富野(全滅)エンドもあり得たかなと期待していた向きも多いのではないかと。


実はtonbori堂もその一人で、ここに来てイデオンのような全滅エンドそして因果地平の果てへというのはゼロじゃないなというのと(旧劇はそれに近い事してるからよく考えるとそれはないんですけれども)、もう半分としては宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(原作漫画版)のような痛みを残したラストではないかと思っていたんですね。でもそうではないなんだろう、26話の焼き直しをして結論として因果地平の果てではなく因果律の中でなんとかしようとした結論に至っているように思いました。でもそれでは結局一回りしてもどってきただけじゃないかというのが、否としている意見を一通り見てこの結末を否としているかなとも思いました。ただそれもそれぞれの個人の思い入れと期待感が裏切られたという極めてパーソナルな想いからの批評にしかなり得てないなと思い、それは分るし反論しにくいけど違和感も残るのが正直なところです。


それでもなお前に進む、その先が荒れ果てた荒野でも、道を探しながら。ラストシーンの実写にはそういう意味合いもとれるのであのラストの宇部駅からの町並みはそういうただの現実への帰還ではなくその先にもサバイバルしていかなければならない現実が横たわっているが想像力でその荒れ地を渡っていくという話なんじゃないかなと。まあそこにパートナーがいるかいないかも引っかかる人がいるとすればもうそれはしょうがないですよねという話です。とまあ、長々と書いてきましたがエヴァンゲリオンの次に提示されるもの(シン・ウルトラマンは実質作業中に進行していたと思うのでその次ですね。)そこが庵野秀明の真の分かれ目だと思っています。つまり次回作で何を提示できるのか?還暦を迎えた監督の紡ぐ世界は何なのかが本当に楽しみです。

※公開日に観てそのまま書いた感想です。よろしければ。


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