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「 MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密」/tonbori堂「本」語り

2020年12月2日水曜日

book MARVEL movie

X f B! P L

 最近、久しぶりに1冊の本を買いました。いや実は3か月前に購入してたんですが今ごろになってしまって(^^;この本はTwitterのマーベル・シネマティック・ユニバース、アメコミ映画タイムラインで少しだけ話題に上ってた本ですがマーベル映画「作品」についての解説本ではありません。実際にはビジネススキームの解説本なんですが取り上げられている題材がマーベル・スタジオだったのです。そこにはまずパルプフィクションのような雑誌を販売するブックスタンド(立ち売りの露店、ニューススタンドのようにニュースペーパーを売るスタイルと同じ)のコミック雑誌ビジネスからの出発したマーベルの創成期からやがて成長期を迎え、やがて映画に進出し今の成功を築くまでの挫折と成功を「分かりやすく」解説した本でした。マーベルの歴史や映画業界に打ってて出たその内情や裏話を簡単ではありますがポイントを突いて解説しているので非常に興味深く読めたのですが、そこには幾つかのM.C.U作品を読み解くヒントみたいなものもあり簡単だけど場外で行われていた事も触れられているインサイダーネタとしても興味深い内容でした。

倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密 MARVEL/書影/すばる舎 著者/チャーリー・ウェッツェル/ステファニー・ウェッツェル|上杉隼人:訳
MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密 /書影/すばる舎
著者/チャーリー・ウェッツェル/ステファニー・ウェッツェル|上杉隼人:訳


マーベル創成期

 ブルックリンのリトアニア移民2世で出版ビジネスを興していたやり手社長マーティン・グッドマンが別の出版社につとめていたフランク・トーピーに勧められてコミックス出版に乗りだし新たに興したのがタイムリー・コミックス社。そこで新たに創刊されたのがマーベル・コミックです。グッドマンはコミック好きというわけではなくそれに興味もなかったようで参入したのもトーピーが掲載できるコミックを持っていたことと、それを使って自らのビジネススタイルで新しく社を興して発行しただけのようです。ですがマーベル・コミックは初版8万部が売り切れ。増刷した80万部も売り切れといういわば爆発的ヒットを産み出しました。これが後のマーベルとなった訳ですが、やり手の出版社社長が何時ものスキームで出版してみるとこれがバカ売れ、そこからマーベルがスタートしたというのは面白いしこれが結果、後のマーベルを支えるキャラクターを産み出した基になっているというのも世の流行り廃りも関係しているとは言えまさに偶然の産物だったのだなと感じます。


 グッドマンはお金儲けをしたいので「売れるものを作ってくれ」という人でした。またそこにお金を惜しむことは無いけれど儲けの出ないものはあっさりと切ってしまう。クリエイターはつくったものに愛着があるからそこをなんとかしようとするけれどグッドマンは見切りが早い訳です。だから売れるキャラクターを作ってくれとなる。結果マーベルでは数多くのキャラクターが産み出されたわけですが、この本によるとなんとメインキャラクターだけで7000以上、サブキャラクターまで入れると6万という途方もない数字になっているとか。まったくもって驚きです。ですが偶然をモノにするにはやっぱりそれを回すエンジン(欲望)が必要。それは必ずしもお金だけではないというのが次に登場するキープレイヤー、スタン・リーな訳です。

スタン・リー

 スタン・リーがマーベル(タイムリー・コミックス)に入社したのは若干17歳の頃。社長のグッドマンの親戚なんだそうですが、別の親戚がライターを志望していたスタンに募集している出版社があるけどどうだい?といったとかでグッドマンが呼び寄せたというわけではないそうです。そしてキャプテン・アメリカの生みの親でタイムリー・コミックスの制作部門をけん引していたジョー・サイモンとジャック・カービー(この2人もアメリカのコミックスの歴史を語る時欠かせない人物です。)、この2人とグッドマンの間で亀裂が入り彼らが社を辞めた後になんと甥であるスタン・リーを編集長に抜擢というびっくりするような人事を行うのでした。当然スタンの仕事ぶりに光るものがありサイモンとカービーもメールボーイのような下働きからはじめていた彼にライターとしての仕事を与えたりもしていましたが、それにしてもやっぱり甥だから?ってのがあったのでしょうか。そこは詳しくは書かれていません。ですがスタン・リーを抜擢したのは間違いなく彼の才能に光るものを感じ、第2次世界大戦でスタン・リーが徴兵され終戦を迎えタイムリー・コミックスに戻ってきてからも制作を取り仕切りマーベルの屋台骨を作り出したことは事実ですからそう考えるのが自然かも。この本では彼の仕事ぶりや代表的作品である「ファンタスティック・フォー」や「スパイダーマン」誕生についても書かれています。


 1960年代コミックのブームは去りスタン・リーも退社を考えていたころにライバルDCコミックがスーパーマン、バットマンが集合する「ジャスティス・リーグ」を発表注目をあつめていました、そこからグッドマンが自分のところでもヒーローチームを出したいとスタン・リーに持ちかけたのが『ファンタスティック・フォー』の始まりだし、『スパイダーマン』はスタンのアイデアをグッドマンが否定したにもかかわらず機転とアイデアで世に送り出し大ヒット。スタン・リーの創造したヒーローは超人的な能力を持ちながらも悩めるヒーローが多く、『ファンタスティック・フォー』のザ・シングは自分の岩石のような醜い姿の事で悩み、スパイダーマンは放射線を浴びて変異したクモに嚙まれ力を得てもなおティーンエイジャーの悩みが上位にきます。「親愛なる隣人」はスパイダーマンにつけられた愛称のようなものですがスタン・リーが産み出したキャラクターたちは現実的に存在しそうな「普通」の人々、泣きもすれば笑いもする、当然怒り、悲しむ人としての共感できるキャラクターが特徴です。だからこそ今でも愛されるキャラクターになったことは疑いようもないでしょう。

そしてハリウッドへ

 ここまでが本書の第2章までにざっと書かれているアウトラインです。ブルックリン産まれのビジネスマンが興したコミック出版社がクリエイティブな才能を持つ人々が集結しやがてキープレイヤーであるスタン・リーが壮大な計画をもって世界に打って出る。当然見込み違いやビジネスの方向性を見失って何度も経営的危機に遭い倒産の憂き目にあってもなお夢を諦めなかった(当然勝算もゼロではなかったのですが)記録がアウトラインではありますが分かりやすくまとめられていて読みやすいものでした。


 ハリウッドへの進出にあたってはグッドマンが晩年にマーベルを売却。その後幾つかの投資会社の手を経て当時投資家のペレルマンという人物に牛耳られていたマーベル傘下にある小さな玩具会社トイ・ビズという会社がありました。そこの営業マンだったアヴィ・アラッドという次のキープレイヤーが登場します。今では映画の制作者として有名なアラッドが元々はビジネスマンというのは知っていましたが彼がハリウッドの扉をこじ開け(文字通りこじ開けた)と言ってもいいかもしれません。それまでの経営危機などに際して複数の映画製作会社にキャラクターの映像化権を売却していたマーベルでは映画を作る場合にキャラクター商品のライセンス権やその他を握っていても映画の興収のうちの取り分はほとんど雀の涙ほどでした。だから彼らは一からクリエイティブから制作後のインセンティブをコントロールできるようにマーベル・スタジオ作り自ら映画製作に乗り出したのです。


それも順風満帆ではなくどちらかと言えば逆境からのスタート。そもそも経営危機の最中に実写化権を切り売りしたことでそれまでのマーベル映画は作られました。例えばX-MANシリーズは20世紀FOXで。そしてスパイダーマンはソニーピクチャーズで製作されそれぞれヒット。アラッドも当然製作としてかかわっているもののやはりマーベルがもっているキャラクターを自ら映画化すれば「他のどこかに」お金を持っていかれる事はないということで乗り出そうしてもトイ・ビスの社長でアラッドのボス、そしてアラッドとともにマーベルを掌握することになるアイザック・パルムッターが壁となります。パルムッターって人はマーベルを苦境から救った人だけど、締まり屋で損は回避するタイプ。そしてグッドマンのように利益の出ないものは切るビジネスマン。ある意味、博打でもある映画製作にはあまり乗り気ではありませんでした。(ちなみにパルムッターはゴリゴリの保守派でトランプ大統領の大口献金でも知られています)そんな時にデイビッド・マイゼルという辣腕のビジネスパーソンが登場しパルムッターに自ら映画を作っても損はしない、いやむしろ当たったら儲かるし作らないという手はないと説得、そこでやっと「アイアンマン」への道が拓けたのです。

マーベル・シネマティック・ユニバースの誕生へと

 その他にもX-MANの製作中にリチャード・ドナーのプロダクションにいた若きインターンがその後のマーベル・スタジオをけん引していくケヴィン・ファイギだったという知られている話でも歴史の順番に書かれていると、非常に頭に入りやすい。アラッドが動いてハリウッドへ、そしてやがてファイギがそれらの作品をコミックのように一つの大きなストーリーへと導く。重要なのはアラッドだけではなくファイギもコミックのカルチャーを知っていてビジネスも動かせる人物だったという事。ビジネスだけでもコミック好きなだけでも多分ダメだったでしょう。両方に精通していてなおかつチャンスを掴む運とそれをモノに出来るビジョンがあったなればこそ。それを分かりやすくストーリーとして読ませてくれる本でした。

倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密 MARVEL/書影/すばる舎 著者/チャーリー・ウェッツェル/ステファニー・ウェッツェル|上杉隼人:訳
MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密 /書影/すばる舎
著者/チャーリー・ウェッツェル/ステファニー・ウェッツェル|上杉隼人:訳


 本書はチャプター1からチャプター7までに別れて今のフェイズ3までの軌跡が辿られているんですが、チャプター毎にそれぞれマーベル・シネマティック・ユニバースからキャラクターの印象深いセリフがその章のコアになる部分に重なるように配置されているのも面白かったですね。それにこれでパルムッターの役割や現在のキープレイヤーであるケヴィン・ファイギがどうやってこの世界にとかスタン・リーについてもヒストリーチャンネルのアメコミ大全で知ってるくらいの知識しかありませんでしたからマーベルに絞ってある分、それぞれの立ち位置が明確に分りました。マーベル・シネマティック・ユニバースのファンなら楽しめると思うおススメの1冊です。

※下のリンクは紙の書籍ですがkindle版(電子書籍)もあります。

『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』/チャーリー・ウェッツェル (著), ステファニー・ウェッツェル (著), 上杉 隼人 (翻訳)/すばる舎/Amazon

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