ロバが旅に出ても馬になって戻ってくる訳ではない。|『TENET テネット』考察|【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

ロバが旅に出ても馬になって戻ってくる訳ではない。|『TENET テネット』考察|【ネタバレ注意!】

2020年10月6日火曜日

movie SF

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 起こってしまった事は戻らない。それがこの映画の明快にして唯一のルールだと思います。そう考えると結末ははっきりしているんですよね。ただ未来はまだ決まっていない。未来に災厄を招かないためにその未来を確実なものにする。それを未来から贈られてきたものを使って。そういう物語がこの『TENET テネット』です。ということで所謂時間の逆行についてネタバレ込みでの考察をしてみたいと思います。といっても完全文系の人なので量子とかエントロピーとかよく分かっていないので何卒よしなに。もしそういう説明を分かりやすく平易に書いているものをご所望ならパンフレットやネットにもテキストがあろうかと思いますのでそちらをご覧いただけると良いかと😔ではまずはこの映画の肝である「逆行/INVERSION」から考えてみたいと思います。


映画『TENET テネット』主題歌「The Plan」予告|動画はYouTubeより|ワーナーブラザーズ公式チャンネル

逆行/INVERSION

 『TENET テネット』で行われる時間の逆行はタイムトラベルやタイムリープのようなものではありません。「時をかける少女」(アニメ)で真琴がやり直すのとは全く意味が違うのです。ただ逆行するだけ。ちなみにINVERSIONで翻訳すると反転と訳が出てきます。逆行というよりまったく逆の位相にするようです。といってもtonbori堂はまったくの文系なので細かい原理や理屈はさっぱり分かりません。ただ逆の位相にするだけでキャットの傷の進行を遅らせる事が出来たりエアロック外での通常空間では呼吸が出来なくなるという通常とは反転した世界に「存在」する事になっているのです。


なので原理的には反世界の人間として実際の自分と接触すると「対消滅」するという説明もありました。ただ主人公はフリーポートの回転ドアから出てきた自分と取っ組み合って、しかも順行時間の自分に腕を撃たれていますが、生の接触が無かったので特段対消滅ってことにはならなかったようです。それでいいのかな?実際セイターと手下は酸素マスクだけでしたが主人公が応援部隊の衛生兵から説明を受けた時にはプラス防護服もという話がありました。接触面は明らかに減らしておいた方が無難ってことでしょうね。


そう考えると反転しているから時の流れに逆らっているだけでタイムリープのように任意の時間から任意の時間へ跳躍するのではなく逆行してその時間へと辿り着く訳で、順行へ戻れば時はやっぱり元に戻るだけなんですよね。ただ経過した時間だけは(経験時間?)は増えると理解すればいいのでしょうか。となればあまり長い時を行き来する事は出来ない。そう考えれば未来の人間(これも言い方によるけれど)アルゴリズムや逆行弾、そして未来の戦争の痕跡を送ってきた人々が登場しないのもなんとなく頷ける気がします。

記録

 「起こってしまった事は戻らない。」このルールがあるから記録(情報)が重要になってくる。いつ何時、何処で、誰が?5W1hとはよく言われるビジネスルールですがこのうちWhyは重要視されていません。それを知っていると確度が下がるからではないかと思っています。「起こっている事を既に知っている」なら「何故」は知っている必要がありますが、これから起こる事を知らないはずの人間が知ってしまうと確度が下がる(意図しない行動にでる)すると起こらない未来が変わってしまう。ある意味二律背反になってしまう。だからこそ主人公が最後に気付かないといけない。


 ニールは主人公から指示されてやってきた訳だけどある時点で主人公はこの世界のフィクサーであることを理解するのです。黒幕と訳されていましたけど、実際には自身の思うように世界をフィックスする存在。プリヤが世界の秘密を知るキャットを人知れず消そうとするのを止めるのも、それが主人公が知る未来を招くからであって彼は主人公からその時点でTENETそのものになった…。そう考える事が出来ます。


パラレルワールド

 「起こってしまった事は戻らない」のだからパラレルワールドは出来ない…はずなんですがどうなんでしょう。もしセイターが「記録」の存在を知りそれを消していたら?ただ歴史の修復力なるようなものがあれば世界線はどの道を辿っても同じラインを通るはず。とこれはエンドゲームでのスマート・ハルク=ブルース・バナーが説明していた説ですが、なのでローディやスコットの提案した「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように過去に戻って子どものサノスを殺してしまうというのは却下されてしまいました。これも「起こってしまった事は戻らない」ですよね。でも現時点での未来は不確定要素があるのでそちらへ向けての細工は出来るという事です。なので過去からインフィニティ・ストーンを集めて現時点からの未来へ向け未来へのタイムラインを作った。


ただその時点ごとでの決断、選択から派生するパラレルワールドが発生する事はあっても結局は一本道なのでそのパラレルワールドがそのタイムラインと交わる事は無いはずですがもし続編をノーランが考え付くとすればそのポイントが交わる瞬間を使うことになるんじゃないでしょうか。この理屈はかなり難しいと思いますけれどね。

ニール

 ニールは唯一かどうかは分かりませんがはっきりと未来からやって来た男でしょう。何故ならどの時点の未来からこの世界にやってきたかははっきりしませんが少なくともこの一件が決着した後の時間から逆行してやってきた。そして主人公が全てを知った時に自ら戻ってこれない最後の任務に旅だって行く主人公より「ヒロイック」なサイドキック(相棒、助手)です。幾つかの推論がネット上でもあげられていますが彼はキャットの愛する息子という説がありますがとなれば「生まれた」後なので問題が無いとはいえ親殺しに加担しているとも言えるのですがもしそうなら制作側も多分わざとやっていると思います。

映画『TENET テネット』特別映像(ニール編)||動画はYouTubeより|ワーナーブラザーズ公式チャンネル

 親殺しのパラドックスって感想でも書いたけれどタイムパラドックス、タイムトラベルモノの定番ですからね。ただ「起こってしまった」事は起こってしまったので、それに既に存在している人間を消すことなどはもう出来ない訳ですからニールはある意味確定した未来からやってきた特異点という事が出来ます。だからこそ主人公はキャットを救う事になるし、それをサポートする事はニールの最重要任務だったのかもしれません。そして長い時間を逆行で戻ってきたニールは元の時間に戻る事は難しい。そう考えるとまるでメビウスの輪に囚われた人物のように思ってしまうけれど、それは実は主人公もそうなんですよね。


 だから主人公が覚醒した時にいた人物が主人公に「ウェルカム、アフターライフ」というのはある意味当たっている。ただあの人物もどこまで知っているのかという点が問題になりますが。実は思わせぶりに出てきたあの船の人物と主人公に説明する学者はその後一切物語に絡んでこないんですよね。観ている時は気にならないけど本当に説明のために配置されたキャラクターでしかないというのがある意味凄い。そして重要な情報を主人公に与える。そこがゲームのように感じます。生還したのではなくあの時間へ戻るように全てが仕組まれた大いなるゲームのプレイヤーになった。そしてゲームマスターは自分であるという。スパイ映画やりたいためにここまでややこしい話を組み立てるノーランには脱帽しかありません(笑)

ロバが旅に出ても馬になって戻ってくる訳ではない

 なぜこのタイトルをつけたのか?それは結局主人公は最初から主人公だったからです。途中で存在理由を見失いそうになりゲームオーバーになりそうな時に自分のプレイヤーではないのかと問うけれどやっぱりプレイヤーだった。だがゲームマスターでもあるという結末では「いや馬になったじゃないか」という人もいるかもしれません。でもやっぱり彼は最初から「主人公」(protagonist)だったわけです。つまり「ロバが旅に出ても馬になって戻ってきた」訳じゃないのです。あくまでも主人公の行動のみで物語が結末を迎えた。だからこの物語は「主人公」の物語だったなと観終わった時はまったく逆の事をおもっていました。ある意味定型の主人公が困難に打ち勝ち成長する冒険譚の一種だと。でもニールの考察を読んで思い出したのが映画「イノセンス」のこの台詞でした。西洋の諺だそうですがそれさえも定かでは無いですが、ラストシーンを観ただけなら殆どの人が逆を思うでしょう。でもニールを込みで考えると結局彼は最後まで「主人公」(protagonist)だったという事に想いを馳せたのです。全ての人がそこに向かっているという事では全員がその役を務めているに過ぎないという皮肉さも込みで、それでも役割を果たすという物語だったと今は思っています。その辺りは「スパイ映画を作ろうとして極めて英国の「スパイ小説」的な結末へと導いた。そんな感じもします。『TENET テネット』はノーランがスパイ映画を作りたいと考えそこからそれを可能とする舞台仕立てを考える事から始まったそうですがまさに古き良きグレートゲームを新しいルールで見せた稀有な作品だと思います。是非ともスクリーンで堪能して欲しいですね。

※サウンドトラックもくせになります。

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※『ロバが…』の件はこの映画からの引用です。TENETとは何の関係もないですがバディ感は通じるものが…?(苦笑)

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