今回の春クールで一番のダークホースでした(tonbori堂の視聴した中でという意味です)。というか初回は観てなかったのです(ヲイ)たまたまTwitterのドラマTLが『モンテクリスト伯』タグで盛り上がっていたので何気なく2話を観たのですが、こりゃ凄いなと。正直tonbori堂は原作である『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』は未読でした。誰もが知る名作ではあるのですが何故か読む機会もなく。ただ翻案され数々の亜流を産み出し、あらすじは知っている話です。それをかなり真っ向勝負でドラマ化しているなと思ったので、後追いではあるのですが視聴することにしました。
モンテクリスト伯ー華麗なる復讐-/ロゴはイメージです |
柴門暖から復讐鬼モンテ・クリスト・真海へ
優しい母親と愛する人と、仲間たちとともに暮らしていた青年、暖は遠洋漁業に出て遭難し一時は生還も危ぶまれたものの無事に帰還。そして愛する人と結婚式と当日に警察に逮捕拘束され、そのままラデル共和国の刑務所に収監され拷問を受ける。ラデル共和国のテロ組織であるククメットの密書を持っていたという事で一味と思われ、組織のつながりと他の協力者を吐かせるために捕らえられたのだ。しかしそれは警視庁公安部の入間公平による仕組まれた冤罪だった。
また暖が警察にマークされたのは船長から預かった手紙の事で彼を陥れようと考えた先輩漁師の神楽、愛する人すみれの幼馴染で友人である南条幸男の密告によるものだった。収監された刑務所で暖はある老人と出会う。20年もの前にクーデターによって投獄された元大統領、日系ラデル人のファリア・真海だった。彼は不屈の闘志で脱獄を企てていた。ファリアから自らが理不尽な目にあっているのは公平の父、貞吉に宛てられた手紙が原因としり復讐を誓う。そしてファリアの脱獄計画を手伝う暖は彼から様々な事を教わる。
やがて14年もの時が経ちファリアは暖に自身の持つ資産のパスワードを教え脱獄の方法を教えて世を去る。そして脱獄し日本に帰還した暖は母親が地上げにあい餓死し、世話になった水産会社は倒産の危機に瀕している事を知る。全てを画策した3人へ復讐を誓った暖はシンガポールの投資家、モンテ・クリスト・真海として彼らと彼らの身近な人たちに接近していくのであった。
復讐は地獄の季節
「復讐は地獄の季節」これはシシリーの古い諺です。といってもジャック・ヒギンズの小説『地獄の季節』に書いてある事なので本当の諺かどうかは分かりません。柴門暖はモンテ・クリスト・真海として生まれ変わり自分を陥れた者たちへ復讐を誓いました。彼はラデルから帰還し真海となったとき、この地獄の季節を思う存分味わう事にしたのです。
まず3人を自宅に招き、彼らの今の姿を焼き付け、3人をじわじわと周りから崩していく様は地獄で苦しんだ男が自分の受けた塗炭の苦しみのほんの一端でも味合わせてやるというものでした。また暖を陥れた者たちも傍目には順風に見えますがそれぞれ問題を抱えています。とは言えそんな事が一人の男を妬みや保身で地獄に追いやった言い訳には一切なりません。彼らもまた人を陥れた時から地獄の季節を往くことに決まっていたのです。
唯一、幸せそうに見えた幸男、幼馴染のすみれを暖から取り戻すために彼を陥れただけでなく大恩のある香港の大スターであったショーン・リー夫妻を結果的に殺す手伝いをしてしまい、その上その娘であるエデルヴァの人身売買を黙認してしまった。一番罪深き男でしょう。神楽は不動産業をはじめカネの力でのし上がっていったが、妻は懇意にしている政治家の愛人だった元ホステス。カネしか信じない心のさもしい人物。その妻は寂しさゆえに毎夜、男たちをカネで買い爛れた関係をもっている。カネしか信用していない孤独な男です。
そして公平は美しい妻と可愛い息子、先妻との間に産まれた娘にかこまれ出世は約束されているように見えても、猜疑心が強く、家族を捨て立身出世のみを考えていた父、貞吉のようにはならないと誓ったのに結局は父の行った道をさらに悪い方向へ進み、保身のみがその行動原理になり、愛人との間に産まれた赤ん坊を葬り、暖を葬り、その結果家庭にある悪を見て見ぬふりをするに至った。保身に憑りつかれた男です。
結末
原作のあらすじでは幸男にあたる人物は自殺して果てたそうですが幸男は生き残りました。幸男は最後の決着をつけるためにモンテ・クリスト・真海の鎌倉の別荘に向かいます。しかし眠らされ椅子に拘束されます。神楽の妻、留美が暖の母親を結果的に餓死に追い込んだ寺角を殺した安堂完治とカネを持ち逃げし腹心の牛山に裏切られ監禁され、闇献金やニュースで死んだことにされたことを知り、さらには暖が受けたような拷問(それでも数分の一ですが)を受け、ボロボロにされた挙句また別荘につれてこられました。そして床には一面ガソリンが撒かれています。
そして最後にすみれがやってきます。真海は最後の晩餐と語りながらすみれに結婚を申し込んだときのプライベート・ビデオを上映します。そして最後の決断をすみれに求めます。復讐を止めるように懇願された真海はすみれに、幸男も彼との間に授かった娘、明日花も捨てて自分と一緒になれば復讐を止めると彼女に言っていました。その答えをこの場所で答えて欲しいといいます。すみれの答えは「わたしは真海さんと結婚します」でした。そして真海は静かにそして悲しそうに笑い「愛は勝つんだ」といって3人を屋敷から退出させて邸内に火を付けました。
KANの「愛は勝つ」というのは暖がプロポーズしたときのプライベート・ビデオのBGMでした。それにもかかっていますけれど、すみれは「真海」と結婚しますと言いました。それは暖ではなかったのです。つまり幸男と明日花を守るために。暖の復讐心を受け入れてみんなを守る選択をしたすみれを見て、それが分かったから彼は結局最後の2人を赦したわけではないけれどこの復讐を終わりにすることにしたのだと思いました。なんとも切ない終わり方でしたが、真海が暖ということが世間にしれ復讐計画が明るみになり、3人は逮捕され、公平は発狂してしまったため医療刑務所に収監されました。燃えた邸内からは死体は結局発見されずというニュースが流れました。そしてラストどことも知れぬ海岸をエデルヴァとおぼしき女性と一緒にいる真海とおぼしき男性の姿が映されたのです。彼はずっと寄り添ってくれた、そして共に心に傷を負ったエデルヴァとともに、復讐鬼は焼かれ柴門暖は死に、真海として改めて新しい人生に踏み出した。そう思いたいラストシーンでした。
幸男と神楽
ですがその前のシーンでちょっと見解が分かれたシーンがありました。警察に逮捕された幸男と神楽が全く反省していないかのような感じだったのです。ただ2人とも暖はあの炎に巻かれて死んだと言っていました。このシーンではTwitterでドラマを視聴していた人たちの間では見解が分かれました。いわく全く反省していない2人対しエデルヴァは助けるべきじゃなかったというのと何故真海は神楽に止めを刺さなかったのかと。しかし、彼ら2人は警察の取調べに対し柴門暖は死んだの証言したのでした。この「死んだ」と証言したことにより、実は彼らなりの罪滅ぼしではないかと。憎まれ口を叩いたのは、偽証を悟られないようにと…。
tonbori堂の見解はこうです。彼らは暖が生きているのは知っている。(燃え盛る屋敷にエデルヴァと執事の土屋が向かっていたシーンがあるので助け出された事は知っているはず)そして助けたのは幸男でしょう。それを示唆するシーンもありました。だから幸男は全てにおいて負けていたと語る暖に意趣返しかもしれないなと感じました。死体は燃え尽きた、柴門暖は死んだ、そして自らは罰を受けるという少しヒロイックな気分。あまり褒められたものではないけれど、結局彼にはこの後贖罪の日々しかありません。それにすみれが彼の元に戻る事は…多分無いでしょう。
だが神楽に関してはちょっと違う気もします。もう関りあいになりたくないと。そういう気持ちではないでしょうか。もっとも神楽はこの後したたかにまた何かをしそうではありますが…それでも受けた拷問のトラウマやその他の事で多分一生おびえて暮らす事になる。それは暖が生きていると告発しても結局また繰り返すだけだから逃げたかったそんな気分ではないのかなとそんな感じがします。
最初は2人とも反省していないなと思ったんですがそれはないよ、彼らなりの罪滅ぼしだよという意見を見てもやっぱりそうとは思えないんですよね。まあちょっとひねすぎているのかもしれないけれど。嘘をついて生存を隠してる事に関してはやっぱり暖に打ちのめされた2人がそれぞれの思いでその生存を隠した。ともかく彼らの地獄の季節はこれからなのではと思うのでした。
すみれ
彼女もまた翻弄されました。そして結局彼女も罰を受けたのです。彼女が幸男と一緒になっていなければ…。奇しくもエデルヴァがそう指摘したことが全てでした。そして明日花ちゃんがこの事の真相を知った時。いや何れは知ってしまうでしょう。隠せばそれは何時かは知れるもの。つまりそういう十字架を一生背負う事をになった。悲しい結末ですが…。
成長した明日花ちゃんなら分かってくれるかもしれません。なにせエデルヴァの心を動かし幸男が死ななかったのは彼女おかげなのですから。ただ幸男と一緒に暮らす事はもう無いでしょう。そういう十字架を一生背負い続ける悲しい宿命を背負ってしまった。ある意味この復讐でもっとも心を引き裂かれた登場人物かもしれません。
公平
ミスター保身の最後は惨めなものでした。原作の公平にあたる登場人物も最後は同じく発狂してしまうのですが、家庭を顧みない父である貞吉のスキャンダルをもみ消し、愛人留美との間の子供を二度に渡って手にかけ、結局は前妻と未蘭の婚約者をも毒殺し未蘭と貞吉をも殺そうとした瑛理奈を叱責したものの留美に完治の事をマスコミの前でばらされ錯乱の余り瑛理奈とともに逃げようとしたが時すでに遅し。瑛理奈は毒をあおって自殺。全ての行為が最後に大波となって還ってきたことに耐えきれず精神が崩壊してしまった哀れな男。ですがこういった保身に走る人物って割とよくある話でここまで徹底的ってのは無いですけれどそういういやらしい部分をカリカチュアライズした人物造詣でした。結果全てを無くし哀れな最後を迎えた公平は相応しい最後を遂げたと思います。
未蘭と信一朗
偶然とはいえ公平の娘と暖の恩人でもある守尾社長の遺児である信一朗が恋仲になる。これは真海にとっては誤算でしたが、彼はそこで2人の想いを守る行動に出ました。原作でもモデルとなる登場人物が恋仲になるそうなのですが実際にモンテ・クリスト伯はエデルヴァのモデルとなった登場人物と信一朗を添い遂げさせようとしたけれど信一朗のモデルとなった登場人物は愛を貫いたという風にあります。
話数の事もあるので今回はそこはオミットしてあくまでも未蘭と信一朗に絞ったおかげで真海の行動も分かりやすいものになりましたし結果、公平の末路にも大きく作用しました。(一命は取り留めたけれど重篤であるという偽情報)そして信一朗に「この道に来ては行けない」と信一朗に語る真海の目は暖のものだったと思います。未蘭と信一朗は困難もこれから多いかもしれないけれど幸多からん事をと願わずにいられません。真海が残したメモ、『Attendere e sperare』の意味は「待て、しかして希望せよ」という意味。これは原作にもあったそうですが…真海の良心がこれを送ったのかと思うと、人生とはままならないが、自分とは違う道を行ってほしいという真海の中の暖の心の叫びのように思えます。。
エデルヴァ
ラストははっきりとは描写されませんでしたがやはりあれはエデルヴァと真海でしょうね。彼女もまた人生を無茶苦茶にされ幸男を殺しても殺したりないほど憎んでいたものの、明日花の電話で我に返るなど復讐をしてもむなしいとは分かっているものの、完全に割り切れない、それは女性だから?いいえ、真海もその部分はあったのです。信一朗の時もそうですし、すみれは死んだと思う事にしたと言ってたけどやはり目の前にすると思いが爆発する。だからこの2人は別の人生をと思うような綺麗すぎるかもしれないけどそう思いたいラストでしたね。でもまあ香港映画なら幸男絶対にぶっ殺されてましたね。それは間違いない。しかも殺すに値しないとか背中を向けた真海に向かって行ってエデルヴァに撃ち殺されるみたいな。
ただ製作者としては瑛人の瞳に復讐の連鎖をしたのに明日花にもというのは酷すぎると思ったのか(原作では息子で父の悪行を知り母とともに父を見限り絶望の内に自殺するという流れだそうです)明日花ちゃんは「真海さんは空に帰った」と言わせるラストを選んだようです。エデルヴァと真海ともに人生を一度捻じ曲げられた者同士。完全に復讐を遂げた訳ではないけれど彼らは彼らなりに罰を受けた。未蘭と信一朗に残した言葉のようにエデルヴァと真海にも『待て、しかして希望せよ』というところではないでしょうか。実際に真海はエデルヴァに「お前が望んでくれれば」と言っています。復讐は地獄の季節…ですが同じ季節を過ごした2人だから、この結末ではないかと思いたいですね。
最後に
公平の妻、瑛理奈役山口紗弥加のサイコパスのような毒婦の怪演や、最初は狂ったように男遊びに耽け、やがて完治と出会い、体を合わせた後、彼が息子としってそれでもなおかつ彼を守ろうと母性を発揮した留美を演じた稲森いずみ。2人の熱演は特筆すべきものでしたし、すみれ役山本美月、エデルヴァ役の桜井ユキなど女優陣の好演が非常に目立ちました。
だからこそ男たちの狂騒ぶりと寂寥感も際立ったと思います。連続ドラマとして完結している短いながらも大河感のあるドラマで非常に濃いし、ツッコミどころもありましたがその実パワフルな演出と俳優陣の熱演が記憶に残るドラマでした。ラストは多くの人に委ねる(それこそ幸男や神楽の反応を含めての)ラストでしたが未蘭と信一朗や真海とおぼしき人物とエデルヴァと思われる人物が海辺でというのも良い余韻だったと思います。そうじて満足感の高いドラマが多い春クールでしたが、これも力作としてよいドラマでした。数字は残せていないかもしれませんが記憶に残るドラマというのは間違いない1本であったと思います。
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