すこし懐かしいアニメを久しぶりに回顧してみようかなと思ってまずは『超時空要塞マクロス』をやってみようかと思います。マクロスと言って思い出すのは、とにかく放送が日曜日の午後2時という、いやその時間普通は家にはいませんよという時間だった事ですね。当時出たてのビデオで録画したりもしたんですがスタート時は1時間放送を行いこれは力入ってるなと思ったものでした。(これ後で知ったんですがその後にあったレインボーマン(アニメ版)間に合わないので急きょねじ込まれたとか、こちらは単純にスペシャルだって喜んでたんですけどね😅またMBS(大坂の毎日放送)がこのマクロスのヒットに気を良くして後々深夜も含めてアニメ枠を設けていく事の契機になったんじゃないかなと思っていますが…。まあ昔の事なのでいろいろ記憶違いはご勘弁を。
THIS IS ANIMATION ザ・セレクト3/超時空要塞マクロス(上)/小学館/tonbori堂所蔵 |
と書き進めて置いて今日下書きを本エントリにしようと思ったらこんなニュースが入りました。
俺の歌を聴けぇ!「マクロス」楽曲サブスク解禁https://t.co/TNqvAIn9G1 pic.twitter.com/SIIyvQci42
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) October 1, 2020
マクロスの楽曲がサブスクリプション配信解禁だそうで、なんとまあタイムリーなんでしょうか😅ということで『超時空要塞マクロス』についてちょっと語ってみましょう。
異星人の落とし物/あらすじ
物語の発端は太平洋上の島に外宇宙から1隻の宇宙船が落着したことから始まります。このあたりはアバンでさらっと説明されていたように思いますけど特段詳しくも本編では言ってなかったような。ただ1999年に南アタリア島に異星人の宇宙船。しかも戦闘を目的とした戦艦であったことが発覚。それは外宇宙で大規模な星間戦争がある事を示しており、その処遇を巡って全世界が割れ統合戦争と呼ばれる紛争をへて統一政体として統合政府を樹立したとあります。その間も南アタリアに落着した異星人の戦艦を解析、補修、改装し人類側の守護とするための艤装が進行。それがSDF-1マクロスでした。
その異星人の放棄した宇宙船を再擬装したマクロスの進宙式に、マクロスの守備飛行隊に配属された新型戦闘機の飛行隊隊長フォッカーが、恩人の息子でアクロバット・パイロットの一条輝を招いたことから物語が始まります。晴れの進宙式の日に太陽系外縁部に異星人の戦闘艦とおぼしき未確認物体が出現、地球に向かって来たところ、突如としてマクロスが主砲発射体制に起動し、侵入してきた戦闘艦を撃破。それに対して異星人の艦隊が反撃をしかけてきたことにより一条輝は軍の新鋭機VF-1バルキリーに搭乗し南アタリアの住民で中華料理店の看板娘であるリン・ミンメイを助ける事に。そしてそれは後に第一次星間大戦と呼ばれる長い戦いの始まりでした。
スタジオぬえとダミー企画
マクロスはメカデザインで有名だったスタジオぬえが企画したオリジナル作品なんですが元々はダミー企画だったというのは有名なお話です。ダミーというと聞こえが悪いかもしれませんが、いわゆるメイン企画を通すために作られた仮の企画、今ならフェイク企画っていうのかな?というのは放送終了後や終盤で出されたムックなどの資料本やアニメ誌のインタビューでも普通に掲載されていました。今さすがに同じような作品でもそれをいう人…いやそれがマーケティング戦略ならあるかもしれませんね。とは言え『ジェノサイダス』という虐殺を意味するジェノサイドをもじったハードSFメカアクションはそのハードさ故にスポンサーである玩具会社などが難色を示したという話です。でも『ジェノサイダス』では既にメカデザインも進んでおりマクロスを企画したスタジオぬえとしてはかなり力の入ったものだったそうですがこのままでは埋もれてしまうと急きょ、当時人気のあった「うる星やつら」などのラブコメ要素を加味したり戦艦の中にまるごと街を入れるなどのアイデアを盛り込んだマクロスのひな形を対抗馬として提出。そうするとそれがめっぽう受けてしまってそのマクロスのひな型がとんとん拍子に話が進んで放送決定に至った書いてあった様に記憶しています。(ここまで関係書籍に当たらず記憶だけで書き進めているので間違いあったらごめんなさい。)
マクロスパーフェクトメモリー/月刊OUT増刊/みのり書房刊/tonbori堂所蔵 数あるマクロス関係のムックでもかなりのヴォリュームを誇る1冊 |
しかし時代が大らかというか、いや悪く言うといい加減というか。企画を通すために2つの企画を出して通したい真面目に作ったものと対抗としておふざけがメインなものをだしてふざけたものが通ってしまうとは(笑)でもスタジオぬえの資料って関連資料本やムックを読むとめちゃくちゃ細かいんですよね。後にマクロスシリーズを指揮していく事になるVF-1バルキリーの産みの親、河森正治氏やスタジオぬえで数々メカデザインを手がけてきてその代表作は数知れず。ハインラインの『宇宙の戦士』のカバー絵のパワードスーツは永遠のマストデザインとなりガンダムにも影響を与えた宮崎一貴氏のラフデザインや世界設定などの細かさは世界を創るというのはこういう事かと思い知らされるものがあります。
アニメージュ付録「スタジオぬえのデザイン・ノート」tonbori堂所有 |
後に宮崎駿監督のイメージボード集なども見た事があるんですがやはり世界観を「創る」という事をするのがデザイナーのお仕事と意識したのはアニメージュの付録にあった『スタジオぬえのデザインノート』というミニ冊子でした。その頃からスタジオぬえという集団をチェックしていましたが彼らがメインとなっている『超時空要塞マクロス』はこりゃ凄い事になるだろうなと、放送前から媒体に掲載されるイメージボードを見て期待を膨らましていたわけですが実はそれがダミーから始まったものとは(笑)面白いものですよね。
ミリタリーとジュブナイル
相性がいいのかどうかは分かりませんが80年代「愛と青春の旅立ち」や「トップガン」という映画も公開され恋愛と軍ってのは世界的に見てもアリなんだと思われた時代なんじゃないでしょうか…いや雑すぎますが。ちなみに『超時空要塞マクロス』が先のハリウッド映画2作品よりも先に公開されているのですが(笑)それでも「トップガン」で主人公があやつる戦闘機F-14トムキャットとVF-1って似てるんですよ。というか河森正治がトムキャットをロボットに変形させてみたらという事でデザインしたのがバルキリーな訳でして、その後バルキリーはSu-27やF-117ナイトホークをバトロイドというロボットモードにするデザインワークがなされていきました。変わり種ではスペースシャトル(VB-1ケーニッヒモンスター)や攻撃機A-6イントルーダー(VA-3インベーダー)がデザインされています。
そういったVF(可変戦闘機)とデストロイド(異星人に対抗するために作られた地球側の歩行戦闘メカ)がガチガチのミリタリー感の設定やミリタリーのスケールプラモデルのような展開をみせていたのはガンプラブームを見ての話なのは間違いないんですが一方でお話はベタな恋模様なども並行して描かれるジュブナイル感が満載でした。これって結局今の世の「ラノベ」ライトノベルの草分けな感じがありますよね。こちらはアニメーション作品ですが当然ノベライゼーションもされキャラクターデザインの美樹本晴彦が新規イラストを書いたりする。そしたらそれを目当てに買うファンがいる。結構この時期そうやってお目当てのキャラクターデザイナーやアニメーターが版権イラストを飾るノベルなどが隆盛を誇ったんじゃないでしょうか。この辺りはライターでもリサーチャーでもないので体感上でのお話しか出来ないんですが。そう言う意味でも『超時空要塞マクロス』ってその走りの一つになってたんじゃないかなと思っています。
熱血でない主人公
それまでのロボットアニメの主人公って熱血漢が多かったけれど、『機動戦士ガンダム』以降そうでもない主人公が増えました。一条輝もその系譜ですが熱血ではないけれどアムロほどひねくれてる訳でも暗い訳でもない。パイロットとしての技術をもっているけれどあくまでメンタリティとしては普通の少年、青年として設定されていました。今考えるとアクロバットチームであちこち転戦しているような少年なんだがらもっと擦れてても良かった気がしますけれどね(笑)でもその少し幼い感じが良かったのかもしれない。もっとも優柔不断で二股状態になってると散々でしたけれどね(苦笑)
ダブルヒロイン
そこまで珍しかったのかどうかは別にしてもSFロボットアニメでこういう三角関数を描くことになったのは初?じゃないかなと。実際ミンメイが中華料理店の看板娘から艦内の生活の息抜きとは言え市民のアイドルとなっていく成長譚と輝との恋模様とゼントラーディとの戦争を平行して描いていくのかと思いきや思わぬ恋の伏兵がというのはまあ分かると。そして三角関係も少女漫画ではよくある話ではあるんですがロボットアニメで(しつこいようですけど)三角関係で主人公と最初から絡んでいるメインヒロインと思っていたリン・ミンメイではなく、軍のオペレーターである早瀬未沙と結ばれる展開はそういうのに免疫のない層には衝撃だったのかもしれません。でもそれよりはぐずぐずどっちにもいい顔をする八方美人な輝が最後に未沙を選んだ事に関してはtonbori堂は分かるなと当時は思っていました。
子供っぽくてわがままミンメイよりも大人の女性である未沙に同じく子供のような輝が徐々に惹かれていくというのは自然の成り行きなんですよね。しかもゼントラーディに囚われ一度死線をくぐり抜けている。これは大きいです(いわゆる吊り橋効果)。この結末にはまだインターネット黎明期。ネットで炎上とかそういう事は無かったけれどファンレターやアニメ誌への投稿で結構意見が戦わせられたのは薄っすら記憶しています。どちらにせよこのネタが後々まで踏襲される事になろうとは作った河森正治(当時はまだ企画の中心ながらもメカデザイナーという肩書)も思ってもよらなかった事でしょう。
歌姫
三角関係ともう一つマクロスにはずせないものがあります。それが「歌」最新作『マクロス⊿』に至るまで歌はマクロスにとって切っても切れないものであり象徴するイコンでもあります。最初はリン・ミンメイがマクロス内部に仮に作られた街に避難した人たちを慰める存在としてアイドルとして選ばれたものの、相手のゼントラーディがプロトカルチャーと呼ばれた彼らの上位種族によって文化が禁忌となりそれ故、歌の力で戦局を左右するという、今考えると凄い際どい話ですがそういう話をしていたわけなんですよね。敵ゼントラーディから文化に触れ反旗を翻したブリタイ艦隊を味方にしても敵は数万、数十万規模(数百万だったかも)そしてそれほどの超巨大艦隊を叩くためには司令中枢を一気に叩く。そのためにミンメイのオンステージをマクロスのブリッジ上で展開し混乱した間隙を突くという荒っぽいものでした。それでも圧倒的な物量に対しこちらももてる戦力を展開し、ミンメイの歌にのって突進していくマクロス。そして敵司令艦(これがまた巨大な小惑星のような艦)にありったけの反応弾をお見舞いして一挙に司令系統を沈黙させブリタイによって戦闘を終結させるという。この最終決戦27話『愛は流れる』はその後のマクロスに色んな影響を及ぼしています。
そして数多くのマクロス・ユニバースを彩った歌姫もリン・ミンメイがいたからこそ。そこでオーディションが行われ新人歌手である飯島真理に白羽の矢が立ったのです(ちなみに『超時空要塞マクロス』のサントラはハネケンこと羽田健太郎氏が担当)そこでミンメイの歌唱する歌を担当し一躍ミンメイとともにアイドルとして人気を高めていきました。それもアニメではアニソンを歌う歌手の人気や声優さんが歌うのとはまた違うムーブメントを産み出したように思います。そして以降アニメソングとシンガーの関係性というのも変わってきたターニングポイントでもあったように思います。皮肉なことにニューミュージックのような楽曲でも作品に合えば単体でもヒットするし作品もヒットする。一時は作品と関係ないような曲までがアニソンとして使われるようになったりもありましたがここまで音楽、特に歌との関係性を深めた作品はこの『超時空要塞マクロス』が発端でした。
歌のチカラ
マクロスの中での歌って、凄く複合的に意味をもっていたけれど後述の話でも分かるように最初はサブのようで実はメインヒロインだった未沙に対して目立つ存在だったミンメイを際立たせるための仕立てとしてのアイドルだったんですが80年代のアイドルブームをあいまって凄く盛り上がったわけです。当然声優としては素人でも歌はしっかりした(ミンメイ役飯島真理はシンガーソングライター指向かつ音大に通っていた)というのもあって制作者たちの中でも歌がクローズアップされとうとう歌の力で敵に打ち勝つというのは観ていたこちらとしてもかなり衝撃もありました。歌には力があるとよく言われますけれど例えば戦意高揚などに使われたりしていたのは歴史書にも載っている話です。でも「歌」そのものがその力で戦争をまるごとその趨勢を左右してしまうというのはある種の危うさをはらんでいながらも、その高揚感というものにどうしてものめり込んでいる自分がいる。これはちょっと危ない処にいってしまったんじゃないかと思ったりしましたね。
愛・おぼえていますか
これが凄かったですね。TVアニメから映画になったと言えば『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』が挙げられるわけですけどtonbori堂がよく覚えているのは『機動戦士ガンダム』のようにTV版の再編集に最終決戦(第27話『愛は流れる』)で新規作画だろうなと思っていたので色々度肝を抜かれました。あ、OPの流ちょうなオペレーターの英語のガイドアナウンスに輝が返答する「サンキュー!」は笑っちゃいけないけど笑っちゃいましたね(^^;でもブービートラップからのストーリーは大幅カット、冥王星に飛ばされ既に輝は統合軍に入隊。バルキリーは新規デザインとなりTVでは物語中盤から登場したコードネーム「ブービーダック」、ファストパック(スーパーパック)装着のスーパーバルキリーだし、ほぼほぼというか完全新規作画だしびっくりしましたね。
TV放送で全話観た方なら知ってるでしょうけど『超時空要塞マクロス』は作画の当たりはずれの多いアニメでして外注に発注(主に韓国でスタープロという名称でした。)ちなみにビデオ発売時に若干修正はされていると聞き及んでいますけれどそれにしても現場の状況が逼迫しまくって押せ押せなスケジュールでやっていたとか。なのでそういう悪い作画を直してレベルを合わせて再構成かと思ったら…まさかの新規デザインかつ新規作画とは。正直作画は完全に一つ頭を抜け出た存在感を放っていたと思います。
線の多くて動かすのが大変なスタジオぬえのデザインをさらに数倍パワーアップさせて、そしてそれに合わせてサントラのスコアもそして台詞も新規でという全てがお話の大筋は変わっていないのに完全新作を観た気分。こんなのアリなんだと、多分今でもこれを越えるTVアニメの劇場版ってそんなに無いのではないかと思います。そして戦いを終わらせたその歌がプロトカルチャーが残したただの「ラブソング」であったというのが先にちょっと書いた歌への制作者たちの一種の答だったのかなと。それはずっと後でそう思ったのですが「ただのラブソング」に込めたものの青臭いけれど「願い」のようなものを感じました。その「歌」である主題歌もパワーアップしています。ヒットメーカーである加藤和彦と安井かずみのコンビによる『愛・おぼえていますか』は今でもファンの多い楽曲です。まさに普遍的なラブソングでした。この曲は日本のアニメの歴史の中でも残していきたい1曲です。
ちなみにtonbori堂は未沙の「ただのラブソング」という言葉があった後で暗転してからミンメイのコールから入るエンディングテーマでもあった『天使の絵の具』も好きです。これもまた『超時空要塞マクロス』の名曲の一つとして残していきたい素晴らしい曲ですので是非聴いていただきたい1曲です。
愛・おぼえていますか(Spotify)
天使の絵の具(Spotify)
板野サーカス
超時空シリーズ
そのためか『超時空世紀オーガス』はその設定からSF色が濃厚です。軌道エレベーターを巡っての争いや、それを奪取するための時空振動弾によって引き起こされた時空の混乱。パラレルワールドが一つにまとまってしまった世界などなど。またバルキリーにちかいAV-11ブロンコⅡが別世界の技術で主人公機オーガスになるなどデザインも斬新だったしストーリーも悪くは無かったんですがどうもマクロスほどのヒットにはならなかったように思います。元SHOGUNのケーシー・ランキンが歌うテーマソングなど思い出は結構あるのですが…。その後の『超時空騎団サザンクロス』は女性が主人公の当時では稀有なメカSFアニメでしたけれど、登場人物の多さに加えてメカデザインの異質さがどうもうけなかったように思います(あくまでもtonbori堂の主観ですが)。そしてこのサザンクロスをもって超時空シリーズは終わったんですが、こうやってざっと振り返ってみても超時空要塞マクロスが切り拓いたものって大きかったし、その後の超時空シリーズにしても今では普通のSFロボットアニメでもよくある設定が数多く見られるエポックメイキングな作品群だったわけで、これらをあのアニメブームの中送り出したスタジオぬえや関わったスタッフ、スタジオを含めてやはり忘れ得ぬ作品になっていると思いますし今後も語り継がれていく事になるでしょうね。
※『愛・おぼえていますか』は今見ても作画も話も凄い。前情報なくても話はちゃんと分かります。
※TV本編は…お時間ある方で興味のある方向け(各話の作画のブレがあります)
※ハネケンさんのスコアと主題歌とミンメイの小竜白(シャオパイロン)が入ったサントラBGM集Vol.1(デジタルミュージック)
|Amazon.co.jp: 「超時空要塞マクロス」 マクロス : 飯島 真理、藤原 誠、羽田 健太郎: デジタルミュージック
※AmazonMusicでもマクロス解禁されてます。
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