COVID-19感染拡大後、ロードショー公開では一番の大作で、監督であるクリストファー・ノーランがなんとしてもスクリーンでの公開にこだわった『TENET テネット』IMAXで観てきました。確かにIMAXで観ないと魅力が半減するかもしれない。まさにノーランの魔術『プレステージ』な映画でしたね。だから【ネタバレ】にも気を遣っている。度々登場人物に「知らない方がいい」「知るべきではない」と言わせるあたりマジックのタネを明かしてしまうと魅力が半減してしまう。そう言えば『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督もタネを明かさない事に腐心するあまり説明をばっさりカットするという荒業をしますが、ノーラン一応序盤でルール説明をしてくれるあたりマジシャンって感じです。そんな訳でこの感想も一応一度観て【ネタ】を知った上でお読みいただければ幸いです。
映画『TENET テネット』予告 |ワーナー ブラザース
公式チャンネル|youtubeより
「黄昏に生きる」/STORY
「彼」はCIAのエージェント。キエフにあるオペラハウスでの偽装テロに紛れて浸透している工作員が奪取したモノを回収し脱出する事が任務だった。しかし作戦は失敗し捉えられ拷問を受けてしまい、自決用のカプセルを飲み込んで死んだはずだった…。しかし彼は生きておりある組織に救出された。そして作戦そのものがテストだったと告げられ、「TENET(テネット)」という言葉とある任務を与えられる。
指示されたとおりに研究者と接触した「彼」は第3次世界大戦を阻止するように告げられその手がかりになる「逆行する弾丸」を見せられる。それは未来から現代に送られてきたものだといい敵がそれを使っているというのだ。まずはその弾の出所を突き止めるため弾に使用されている金属からムンバイを仕切る武器商人に接触。しかし武器商人はただの影で真の武器商人を仕切る存在である妻のプリヤから彼女もまたTENETの人間であり弾の出所はアンドレイ・セイターというロシアの武器商人であるという事と彼が未来との接点であり彼を探るように言われる。相棒となる組織のエージェント、ニールとともにセイターの妻、キャットと接触しセイターの陰謀を探ろうとする「彼」だったが嫉妬深く、その上用心深いセイターはなかなか彼を信用しない。そんななかセイターの出身地であるソ連の秘密都市スタルスク12から紛失したと思われるプルトニウム241を奪取する事を持ちかけ罠に掛ける事に。果たして「彼」はセイターの秘密をつきとめ彼の陰謀を止める事が出来るのか?
「宵に友なし」
あらすじのタイトルに書いた「黄昏に生きる」とこの「宵に友なし」は組織いわゆるTENETの一種の符丁になっていますが意味深な言葉ですよね。調べるとウォルト・ホイットマンという詩人の一節でした。
セイターが主人公を捕らえて尋問する際にもこの言葉を投げかけていました。それに主人公はホイットマンの詩か?と尋ねます。この詩は南北戦争の事を書いた詩であり、名もなき戦士たちを記憶に刻むという意味合いの詩でした。
A TWILIGHT SONG. ( Leaves of Grass (1891–1892)) - The Walt Whitman Archive
世界を守り抜いた無名の戦士に捧ぐこの詩を合言葉にしているTENETという組織はまさに影の軍隊。ノーランの厨二力が遺憾なく発揮されている感じです。そして記憶に留めるというのもノーランは好きだなと。これまでの『メメント』『インセプション』記憶、思い出という部分や時間を操作することでまるで魔法にかかったような世界を表出させる。あくまでもCGは最小限に留め、今そこで起こっている事をフィルムに収めて魔法にかけるのがノーラン流。今回も時間を逆行するというトリックを丹念に追いかけていき多少の齟齬があっても押し切ってしまう。「見ていた筋」が通っていれば納得できちゃうんですよね。基本的な情報は最初にちゃんと説明されているし、その上でラストで伏線も回収する。
でもパラドックスは?タイムラインは?ってなっちゃうと訳がわからなくなってしまう。やっぱりこのアイデア凄く面白いんだけど「えっ?ちょっと待って」ってなると多分ダメな気がします。それでもビジュアルは凄く大変な撮影をしたんだろうなと思うし、多分役者も「大丈夫かな?」とか「分からないなあ」とか思ってたんでは。ネットにあるインタビュー記事を読むといや皆さん凄いよとは語っていますが(笑)なんとなく行間からにじみ出てるというか(笑)
「テネット」豪華出演者が語る“ノーラン・マジック” 最速インタビュー入手 : 映画ニュース -https://eiga.com/news/20200827/16/
TENET
SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS - Wikipedia
テネット=TENETはいわゆる「山本山」みたいに上から読んでも下から読んでもみたいな回文です。(正確に言うと山本山は回文になってませんけどね。新聞紙の方が回文になっています。)この文もTwitterのふせったーあたりのネタバレでは既に指摘されてる人がいますが原文は上に書いた通りセイター、アレポ(キャットの知人で贋作家)、オペラ、ロータス(オスロのフリーポート運営会社)が含まれています。この作品自体が大きな回文構造になっているという意味合いでしょうか。但しそうなるには最後の種明かしでもまだはっきりと語られていない話がありますが。大きな括りで言えばそうなっている。
「起きてしまった事は仕方がない」「記録」「知らない事の方が重要」だからある意味そこに全てが行きついてくる。ただそうなると「彼」がそうだとしてももしかするとそれはパラレルワールドになっているのではないか?と思ってしまうラストになっててそこが実はtonbori堂ひっかかっています。とは言えキャットが生きているという事が重要だったはずでそこが何なのか余韻を残してきますよね。
追記:ニールと「主人公」
最初、観終わっていろいろ考察やら評論を読んだりしている間にこういうニュースがありました。主演のジョン・デイビット・ワシントンが続編を望むみたいな話です。
クリストファー・ノーラン監督『TENET テネット』続編を、ジョン・デヴィッド・ワシントンが熱望!「僕の中ではイエスだよ!またやるので2年後位に会おう」「実際の所は分からないんだ。本当にユニークなものを見つけたと思うので、もっと探求したいね」と語った https://t.co/JWUP8OkKam #HIHOnews
— 映画秘宝 (@eigahiho) September 21, 2020
でtonbori堂、ふせったーというTwitterで伏字ツイートできるやつでこうツイートしました。
@tonboriさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)
『TENET テネット』続編あるかもニュースがあったけど確かにキャットの子供がアルゴリズムを作る博士になる、「ルーパー」展開とか、逆行して何度もやり直すマドマギ、バタフライエフェクトパターンもありえる (ここから追記)ただノーランの事だから上記の作品のようなものではなくミキシングまたはネタは使っても斜め上からやらかす気がする。
追記:しかもあちこちTENET感想を見てるとキャットの息子マックスがニールみたいな感想もあってあー、そっちかーってなったりしてまあ色々アイデア考えられるよね
下線のある部分が伏字+追記したふせったーのツイートです。そう最初は折角助けたキャットの息子マックスが長じて未来人の黒幕になる起点になるんじゃないかという『ルーパー』展開(ジョセフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリス主演のタイムパラドックス映画)とか実は親殺しのパラドックスは起きず分岐点が増えてしまったマルチバース展開とかを想像したんですけれど…いやマックスがニールならいろいろ腑に落ちちゃうんですよね。もちろんそれに仮託しているものも大きいと思ったからなんですが。そうなるとこの映画、ビッグバジェットのブロックバスターでありながら極めてミニマムな話をしているとも言えるんですよ。映画は大きな舞台仕掛けで観客を驚かしたり、びっくりさせたり。そして「語るべき」ストーリーに作り手の想いを込める。それは極めて本質的な事で世界を救うという大上段な事ではなく目の前の事を成す。そういう事なんだと思うのです。それがしみこむのあまっさらで体験すること、そして記憶すること。思えば彼の作品は殆どがそういう作品だった事に思い当たります。となるとやはり続編は難しい?もちろん語られていない物語はありますがそれを語ってしまうとマジックが本当に解けてしまう。だからそれはしないんじゃないかなと思っているんですが。
追記:「ビギンズ」
ふと思ったんですがニールと「主人公」の間ならばまだ語るべき物語があるかもしれません。つまりこれが本編とエピローグならば「ビギンズ」的なものが。そしてそれは未来にあるのです。バットマンではオリジンであるビギンズから始まりましたがエピローグがビギンズの端緒であったわけだからその本編を描くってのはありかもしれませんね。
キャスト
スパイアクションとして
『TENET テネット』自体はスパイアクションのマナーに乗っ取った作品なんですよね。『インセプション』が強盗モノ映画のマナーに乗っ取ったように(ちなみに『ダークナイト』もそのマナーに則ってます。)そこにノーランの時間操作を今度は映画としての時系列の入れ替えではなくストーリーとして時系列の入れ替えを現在進行中のビジュアルで見せるという事をやってのけた訳で、それは前代未聞のビジュアルになっていたと思います。それまで映画という不可逆な時間の流れを順番の入れ替えなどでいろいろやってきた事を劇的に「今」起こっている時間の逆転を画として見せるところまで到達したある種の集大成と言えると思います。
ただ観た後にいろいろ感想を探っていると人種的な問題やジェンダー的な問題をはらんでいるというのも知りました。割とノーランそこは鈍感なのか、そこまで配慮が出来ないのか…、ただマイケル・ケインは好きなんだなと(ここ最近の作品ではずっとマイケルでてますもんね)それに『TENET テネット』は筋だけを追うとスパイ映画にありがちな話だし、登場するキャラクターも割とステレオタイプな造形ではあるんですよね。ストイックでそつなくこなす主人公に意味深な上司や秘密を抱えた相棒。そして情を交わす女性。絵にかいたような悪党(色々壮絶な過去持ち)。それだけを考えると本当に古き良き英国がグレートゲームを仕切ってた頃の冒険スパイアクションなんですよね。それを今の21世紀にアップグレードして作ってみたゼという事なんだと思います。まあ色々齟齬も弊害もあるかもしれないけれどノーランそこは一環してるなと思いました。実際鑑賞体験は木戸銭以上のものだったし(IMAXで鑑賞)これは今観る(興味があれば)作品だと思います。
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