緊急事態宣言解除後も何かと繁華街方面に本格的に行ったのは数えるほどで未だ映画館も『ファイブスター物語』『花の詩女ゴティックメード』イッキミのみで、一般ロードショーとして封切られた作品を本当に久し振りに観てきました。観たのはシルベスター・スタローンのロッキーと並ぶ看板作品『ランボー』シリーズの最終作となる『ランボー ラスト・ブラッド』です。第1作『ランボー』から今作までランボーというのは実は原作(第1作目は原作がありました)とは違った道を歩んできました。そのランボーの最終作をスライ隊長(tonbori堂がシルベスター・スタローンを指す時に使う愛称)がどのように着地させたのか?そう言った事をあれこれと語ってみたいと思います。
(あらすじはネタバレしておりますので感想だけお読みたい方は目次からSTORY下の項目へジャンプしてお読みください。)
ランボー最後の戦い/STORY(ネタバレ注意!)
ミャンマーでNGOを助けその後アメリカに帰国したジョン・ランボー。父が営んでいたアリゾナの牧場を継ぎ今は馬の調教師として、牧場で働いていた父の友人であったマリアとその孫カブリエラとともにひっそりと、だが穏やかな暮らしをしていた。しかし戦場での過酷な経験から家ではなく牧場の地下にベトナム戦争時代にベトコンに悩まされたトンネルを自ら掘りそこで寝起きをし、精神安定剤が手放せない状態だった。
そんなランボーの楽しみはマリアやガブリエラと過ごす穏やかな時間だったが大学進学を控えたガブリエラは亡くなった母と自分を捨てた父親に会いたい一心でランボーとマリアが引き止めるのを聞かずメキシコにいる友人ジゼルを頼ってメキシコへ向かう。しかし出会った父親に2人のことなど一度も愛しいとは思った事はない二度と来るなと言われてしまう。傷心のガブリエラをクラブに誘うジゼル。やがてジゼルからマリアへ連絡が。ガブリエラが行方不明になったというのだ。すぐさまメキシコへ向かうランボー。ジゼルの腕にガブリエラのブレスレットがある事に気が付き問い詰めると売春婦として売り飛ばす若い娘を攫う男に引き渡したと分かる。男を拷問し居場所を突き止めたが、たちまち取り囲まれるランボー。引き渡した相手は街で人身売買をしているギャングのマルティネス兄弟。凶悪な弟ビトと物事をスマートにすすめる兄ウーゴ。手下に散々痛めつけられたランボーを介抱したのは同じ境遇で妹を亡くしたジャーナリストのカルメンだった。
カルメンの手引きで再びガブリエラのいる娼館へ向かうランボー。ビトにナイフで顔に刻印を刻まれ麻薬漬けにされたカブリエラを救出するが牧場に戻る前に彼女は車の中で息を引き取る。悲しみにくれるマリアは妹の家に身を寄せる事になり、再び一人になったランボー。牧場を要塞としトンネルに罠を張り巡らせ、闘いの準備を済ませ再びメキシコへ。死んだ者は帰ってこない前を向くしかないというカルメンを説き伏せビトの居場所を突き止めビトの首を刎ねてウーゴを挑発するランボー。決戦の場所は安息の地だったはずの牧場。牧場が戦場と化すとき元グリーンベレーの能力をフルに発揮しメキシコのギャングとの最終決戦が始まる。
戦いから逃れ得ぬ男、許されざる者ランボー
アメリカの片田舎で最終的には州軍まで狩り出した事件を引き起こし、減刑との引き返えにM.I.Aに関する任務をベトナムで行って彼自身のベトナム戦争にケリをつけたはずのランボーは結局戦場にしか身の置きどころがなくアフガニスタンへ潜入したトラウトマンの救出のためムジャヒディンとともに戦いました。アフガニスタンでソ連(当時はまだソ連だった)相手に戦うムジャヒディンと共にハインドと戦車部隊相手に戦ったランボー。しかしムジャヒディンの一部はその後アメリカを攻撃し9.11を引き起こしました。そしてアメリカには帰らずタイに身を置きミャンマーの少数民族を助けるNGOがミャンマーの軍隊に捕らえられた救出を手伝う事で国へ戻る決心をしたのが前作『最後の戦場』までのランボーの辿った軌跡です。
この『ランボー ラスト・ブラッド』で描かれているのは結局本国(ホーム)に寄る辺がなかったランボー、しかしずっと戦場に身を置くことは出来ないという諦念に近い境地でアリゾナに戻ったはずだったのに、亡き父の牧場を引き継いでも地下にトンネルを張り巡らせそこで寝起きしている。この事からも彼の心はずっと戦場に囚われているのは明らかです。精神安定剤のピルを飲む描写は結局彼の心はホームに戻っても休まる時がないという事を表しています。また冒頭アバンタイトルで急な豪雨に遭遇し遭難した3人組の登山者を助けるためにボランティアで参加しているランボーの描写があります。退避命令が出ているにも関わらず3人を探すランボー。鉄砲水に襲われ手近の石に助けた一人とともに身体を固定してやり過ごしたんですが、一歩間違えれば二人とも死んでしまう状況。そして二人を助けられなかった悔恨。それはベトナム戦争で捕虜を救っても、アフガニスタンで苦しんでいる人たちを助けても、ミャンマーで難儀にあったNGOを助けても報われない彼の心とオーバーラップします。(もっとも一人は既に死亡していて一人は自ら危険が迫っているのに妻だからともう死んでいるというランボーの声に耳を貸さず結果流されてしまうという…ちなみにこれ本国ではカットされたそうです。国際版のみのエクステンテッド版だそうで。これがあるかないかでは受け取り方が若干変わってしまうかもしれません)
ランボーの実家が牧場で、今やっている仕事は馬の調教師というのは多分にイーストウッド翁の『許されざる者』やイーストウッド翁がそれまでやってきたタフガイへの憧憬もあるのかなと思いました。ランボーはアメリカの青年として17歳でベトナム戦争へ志願。その後訓練を受けグリーンベレーの隊員として数々の戦績を残したものの国へ帰れば赤ん坊殺しと罵られ、身に着けたのは殺しのスキルだけ。ベトナム帰りというだけで結局駐車場係の職にもつけない。戦場では仲間がいたし、輝いていられたと第一作の最後で述懐していますがそれさえも結局は負け戦の中で出会ったわけですし鬱屈したものを中に溜め込んでいたのがランボーという人物でした。そこがイーストウッドの『許されざる者』とかぶる部分があります。過去に凄腕の早撃ちでギャングとして名の馳せたウィリアム・マニー。今は乳飲み子抱えた寡夫でしかないしがない人物でしたが過去が結局彼を凄惨な場所へと引き戻します。ランボーもガブリエラが結果的に命を落とすことになって自らをあの血生臭い戦場へと己を駆り立てるあたりとランボーの現在の仕事が牧場で馬の調教師をしているという部分は失われたヒーローへの憧憬やまた西部劇、アウトローへのオマージュを感じます。ただイーストウッド翁は『許されざる者』では敵対者であるダゲットと壮絶に撃ち合い仕留めましたがイーストウッドは後の『グラントリノ』では自らを退場するものと定めた結末を描いています。となれば『グラントリノ』が朝鮮戦争を戦ってきた古強者の身の処し方であればベトナム戦争を戦った古強者は西部劇のガンマンのようにまた荒野へと消えゆく定めである…そんな感じがしました。
またこれは偶然だと思うんですが日本では去年公開された(2017年制作)ジャッキー・チェンの『ザ・フォーリナー/復讐者』にも通じる点があったのはやはりアクションスターが高齢になると自らを振り返えるかのような作品を作るのかと思ったんですが…これはまあ偶然というかたまたま似通ったしまったというか。(アクション映画パターンで言ってしまうと『96時間』っぽさありますからね。)しかも『フォーリナー』と『ラスト・ブラッド』ではケリの付け方が全然違いますからね。ランボーのような郷愁を誘う終わり方ではなくエスピオナージの中にそういうセンチメンタルな部分をはめ込む終わり方でしたから。
ランボー怒りの系譜
ランボーの怒りは今回マックスでしかも前作までの怒りに駆られての行動ではなくどちらかというと研ぎ澄まされた怒りという感じがあって、そこに『ランボー最後の戦場』からのゴア描写(人体破壊を含むシーン)はえげつないというか痛い描写が多かったですね。でもそれもランボーはベトナム戦争で体験したことを彼を侮り、それをほど深く感じていない連中への命を代償とした教訓という風にも捉えられるかもしれません。ただ一般観客に対しては悪を成すものは地獄へ落ちる以外のメッセージを読み取ることは難しいと思いますが…(^^;
ゴア描写はいささかやり過ぎ感もありますけれど、時代はランボーにそれを要求したのかも。そう言えば第1作目はそこまでじゃなかったものの剃刀で切り裂くシーンあったし、2作目の『怒りの脱出』(タイトルからして怒っています)ではコンパウンド・ボウ(今作でも大活躍)の矢じりが爆裂弾になってたやつで連絡員のバオを殺したベトナム軍の将校を吹き飛ばしていますし、3作目『怒りのアフガン』はそういうシーンは少ないもののヘリコプター(ソ連の軍用ヘリ、ハインドっぽくしたてたヘリ)やイスラエルで撮影したため鹵獲した東側の戦車(T-54/55)を使用したためルックがまさにソ連軍っぽい画が撮れていました。
その意味では今回の『ラスト・ブラッド』では痛さは倍増してもアクションに関しては大人しいといってもいいかもしれません。えげつない描写(人体破壊など)はあっても主たる戦闘シーンはラストに詰まっていますから。そういう意味ではランボーの逃走を扱い中盤から常に対ランボーで振り回される体制側と対になるようになっていたかも。今作のタイトル『ラスト・ブラッド』は第1作の原題名『ファーストブラッド』と対になっているのですから。ただ相手を見くびった者たちが高い代償を払わされるというのは共通しています。
総評
前作のヒロインに言われた事でアメリカ(ホーム)に戻ったけれど結局そこに真の意味では安住はしていなくて、それでもマリアとガブリエラの存在がホームにランボーを繋ぎとめていたというのが凄くよく分かるんですよ。だからガブリエラに手をかけた兄弟は惨たらしい死を自ら招き入れた。そしてランボーはペイルライダーとなって荒野に旅立つ。そんな作品になっていたと思います。ランボーシリーズやスタローンファンなら落とせない1本かなと思いますが反面きついゴア(人体破壊)描写がありますので観る人を選んでしまうかも。またある種の定型ではあるのでそこに捕らわれると凡作に思えてしまうかもしれません。(実はtonbori堂も若干そこに陥ってたところもありました)しかし時代遅れだと言われても自分の道はそこにしかない愚直なスライ隊長が演じたランボーのラストシーンでやっぱり「ランボー…カムバーック」ってこだましそうなシーンを入れ込んだのはやっぱり最期と言われても続編を匂わすように思えて「許されざる者」からあの名作のラストシーンへオマージュを捧げたように思えるのです。もしかすると滅びゆくジャンル(シリーズ映画)として西部劇とアクション映画を重ね合わせているのかもしれません。なのでこれが本当に(クリードのように新人にバトンを渡す役ででることはあっても)最期だと思います。なのでランボーのラストシーンを観たい人には絶対おススメです。
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※第2作目、MIA救出モノとしてランボーの人気を不動のものとした作品|ランボー/怒りの脱出 4Kレストア版 [Blu-ray]/Amazon
※第3作目、ソ連のアフガニスタン侵攻に絡んでムジャヒディンとともに戦うランボー。今考えると色々思うところがある1本です。|ランボー3/怒りのアフガン 4Kレストア版 [Blu-ray]/Amazon
※ラスト・ブラッドの一つ前の作品、『最後の戦場』、かなり激しいシーンがあります。|ランボー 最後の戦場 エクステンデッド・カット [Blu-ray]/Amazon
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