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現代アメリカの寓話|『アメリカン・アサシン』|感想|Amazonプライムから一掴みbytonbori堂 【ネタバレ注意】

2020年3月6日金曜日

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 予告編を観た時に設定が『一弾で倒せ』という小説に似てるなと思ってたんですが、実は有名なスパイ小説シリーズの主人公が如何にして工作員となって殺しの道へ入ったかを描くいわばオリジン・ストーリーなんだそうで、あちらでは人気シリーズらしく14本もの作品が発表されています。ただし日本では2作品のみだそうであまり知られていないシリーズでした。


AMERICAN ASSASSIN - Official Trailer - HD (Dylan O'Brien, Michael Keaton)
YouTube/CBS Films

 tonbori堂が気になったのは恋人が殺されて復讐に燃える主人公がCIAにリクルートされカウンターテロの特殊工作員になるというところでした。似ているなと思った小説『一弾で倒せ』はジェラルド・シーモアの傑作冒険小説なのですが、同じようにテロにより恋人を殺された青年外交官が犯人の顔を目撃しており、犯人を探し彼だけを抹殺し報復するという荒唐無稽な作戦のため凄腕のスナイパーとともにベカー渓谷(レバノン!)のテロリスト養成キャンプにいる実行犯を射殺するための人定をするためにスナイパーと同行するという話でした。その後色々あってその彼が(素人同然なのですが)狙撃を引き継ぎそれは成功するのか?といお話なんですが帯にはトム・クルーズで映画化企画がって書いてありましたね(遠い目)割とある小説に近いけどそれをヒントに別に話を作るってのはよくある話でもあるしそうかなと思っていたらそうではなかった訳です。そうですね、トム・クランシーのジャック・ライアンシリーズに出てくるジョン・クラーク(彼のスピンオフシリーズもありますよね)が主人公のシリーズではないかという印象を調べてみると受けました。

アベンジャー/復讐者ミッチ|STORY

 ミッチ・ラップは幸せの絶頂にいた。共にスペインでの休日を過ごしていた恋人のカトリーヌにプロポーズをして彼女が受け入れたのだ。しかしその幸せは一瞬にして崩れ去った。テロリストが突如上陸してきて観光客を虐殺し始めたのだ。カトリーヌはミッチの眼前で射殺され彼も銃撃され重傷を負った。

 18カ月後、彼はダークネットで過激派とやり取りし、自ら格闘技や射撃のトレーニングを行い聖戦を行うテロリスト志望の人物と信じさせリビアで彼らと接触することになった。目的はカトリーヌを殺したテロリストをこの手で抹殺する事。しかし彼が本当に聖戦を行う気があるのかどうかを疑っているテロリストたちはミッチを椅子に拘束し質問を浴びせかける。隠し持ったカッターナイフで逆襲の時をまつミッチだったが、その瞬間特殊部隊が突入しテロリスト全員を射殺した。

 CIAに保護されたミッチは厚顔不遜な態度で尋問官に対するが彼の習得能力の速さ、頭の回転、そしてCIAが追跡を蒔かれたテロリストへ接触して見せた手腕を工作担当の副長官、アイリーン・ケネディは評価し、彼にこのまま拘置されるか、それともCIAの特殊工作員になるかの選択を迫る。ミッチはCIAに対しては失望していたが間違いを正すためのチャンスと考えその話に乗った。

 アイリーンはミッチをスタン・ハーリーの元へ連れて行く。スタンは元シールズでアイリーンとは彼女の父親の戦友で親友だった男。特殊作戦の非情さ冷酷さを身をもって知っているが冷戦時代の遺物とも思われている「オールド・マン」だ。ミッチのレポートを読み彼には感情に左右されるところがあると採用を断るスタンだったがアイリーンはにべもなくミッチをスタンの元に置いていく。

 一方、ロシアから核物質が流出。核開発を停止したイランの関与が疑われるがイランの国防省、革命防衛隊司令官、情報機関チーフはそれを否定する。買い手を早急に押さえる必要があるがポーランドでのロシアンマフィアとの取引に現れた謎の買い手が警官や売り手のマフィアを射殺して脱出。核物質は消え失せてしまう。CIAは起爆装置を手配できる人物、または作れる人物をマークし買い手が接触したところで押さえる作戦に乗り出しスタン率いる特殊チーム、オライオンからビクターとアイリーンの命令によりミッチを同道させることになった。

 現地で情報を収集していた連絡員アニカとともにイスタンブールで作戦に望むが敵はビクターを殺して逆襲し逃げのびる。彼はゴーストと呼ばれる凄腕の傭兵で、実はもとオライオンのメンバーで、ある作戦で捕らわれしまい本国から見捨てられ、敵側に転向していたのだった。敵は同じ能力を持ちこちらの手の内を知っている。しかもことごとく先手を打たれてしまう、もしや内通者が?果たしてミッチはゴーストの魔の手から核物質を奪還できるのか?

今、そこにある危機

 テロの時代、海外で同時多発テロ事件や爆弾事件などに遭遇する事は絵空事ではありません。もっともアメリカ人全員にそれが当てはまるのかと言えば、日本人だって海外でテロ事件に巻き込まれるかもしれない昨今そこまでのものではない感じも確かにあります。だからトム・クランシーの「今、そこにある危機」のように、世界情勢を適度に煽ってそこに巻き込まれた青年が復讐の黒い炎を燃やして政府の暗殺者にリクルートされるというファンタジーを描くために舞台はまずスペインから始まり(スペインも国内では分離独立派のテロ問題があります)ここはあえて地中海対岸のイスラム系テロ組織が享楽的な異教徒に鉄槌をという、ステレオタイプな描写で描くという。とは言えこのようなイントロダクションはやっぱりショッキングだしこういう事件が無い訳でもないのはパリでの無差別銃撃事件などを例に取れば明らかです。

 そこから青年は国に戻り敵の事を知りダークウェブで彼らとコンタクトをとり、自分は聖戦に参加したい米国の殉教者と思わせ(もっともテロリストがミッチを完全に信用したという訳ではなさそうで、敵のスパイか、そうではなくともはねっかえりのアメリカ人を人質に別のテロを起こそうと考えたのか)接触する事に成功します。そこで彼は拘束されながらも小さく隠しもったカッターナイフの刃先で拘束を切り、反撃の時を伺います。そこに飛び込む特殊部隊ってのもまあテンプレートなんですがダークウェブでテロリストと接触しているころから、いや彼が襲撃され治療を受けた頃からCIAは危険人物として目を付けていたという描写があったのでこうなるのかなと思っていたらやっぱりという描写でしたね。

 確かに素人として出来る事をやってるシーンが挿入されますがよく出来てもやはりそれは素人レベル。CQBやナイフ格闘などは訓練されないとやはり返り討ちにあうかもしれないけれど、彼は復讐の牙を研ぎその瞬間に全てをかけてきた訳です。だけどそれは急な横やりで水泡と化した。仇敵の死体に刃物を突き立てる様はいささかやり過ぎかもしれないけれど彼のナイーヴで危険な面を強調していました。そしてCIAに捕らえられた彼を工作担当の副長官であるアイリーンはリクルートする訳ですが、個人的感情を強くもっている人物を普通はリクルートしないんじゃないの?って思う訳ですよ。でもアイリーンは徒手空拳からの執念や機転、目的を達成するための不屈の精神を戦士向きと捉えた訳です。

 ただそのままではただのキリングマシーンでしかないので規律を叩きこむためにメンター(導師)としてスタンの元へミッチを預けるわけです。オールドマンであるスタンは不正規戦のプロとして心構えをミッチへ叩き込んでいくお決まりの展開ですが、序盤のテロリスト追跡に時間をかけたせいかここちょっと消化不良でしたね。反抗的なまま任務に就くってのもテンプレートではあるんですがもうちょっとスタンとミッチの関係性を描いて欲しかった気がします。まあ時間配分の難しさではあるんですが。その後作戦は失敗、敵はもう一人のミッチのようなお決まり展開。

 これも今のアメリカが抱えている問題の一端で結局自分たちで産みだしたものに結果脅かされる状況を作りだしているという。しかしこの作品はエンターテインメントなので最終的には新たなるマシーンが出来上がり静にこの世のバランスを取るためにバランサーとしてミッションを遂行するというオチに持って行っちゃう当りアメリカンですよねって感じます。「我事において後悔せず」とでも言うのでしょうか…(^^;それとミッチは間違わないし群れないってところでロンリーウルフがちゃんとした規範をもっていれば大丈夫的な考え方は偏ったリバタリアニズムなのかもしれません。

ブロークンアロー

 舞台もトルコで、敵は究極的には敵となった自分ですが踊らされているのはイランの急進派。この作品が作られたのはまだオバマ政権でトランプになってすぐにイラン核合意から離脱するとは思ってなかったんでしょうけど今観ると凄い陳腐化している感じだし、そもそも買い付けるより自分のところで作るでしょとかツッコミどころを感じさせます。それでもまだオバマ後に民主党政権が続いていたらある程度の説得力はあったかも。しかしやり口はアメリカがしばしば行うサージカルストライクという所謂、外科的処置、問題点だけを取り除くピンポイント爆撃(これはコラテラルダメージがある)や特殊部隊による急襲ってのは定番化しています。それに核紛失というブロークンアロー事案を持ってきたのは今でも有効な話題ではあるんですが…しかしテロリストが米の特殊部隊で見捨てられた過去をもって復讐するというところに落ち着かせるのは民主党的決着な感じがありますね。もっとも接近中の米軍艦隊に核爆弾で特攻とか、止めようがないから海中で爆発させるとか本当によくやるよなと感じてしまいます。実際水中で起爆させた方が海水が遮蔽物となって放射線などは減じられることは減じられるんですがにしても割と兵器として爆発させちゃうのがハリウッドスタイルだなと。やっぱり日本人は原子力爆弾の被爆国として、理屈はそうでも熱核爆発に関してはナーバスになってしまうものなのです。いくら地表面での影響が軽微だとしても。

 とは言えこういう核絡みの映画ではジョン・ウー監督の『ブロークンアロー』でも地下での核爆発とかさせてましたので映画として一度は爆発させて人の多い密集地で爆発させるとガチでヤバいんだよと訴えたいのは分かるんですけどもね。この映画以外でも割とハリウッド映画は核を爆発させます(ある程度配慮はしているのは分かります)が、これ戦術級なら一発やそこらではと馴らさせているんじゃないかと勘繰りたくなります。(※ちなみにブロークンアローとは核兵器の紛失を指す符丁です。)

AFTER・『ボーン・アイデンティティー』

 ざっくりと言っちゃうと『ボーン・アイデンティティー』後のフォロワー作品の一つであるなという事は間違いありません。元々のジェイソン・ボーンシリーズはロバート・ラドラムの小説『暗殺者』の主人公でそのあと2作品でボーン・シリーズを成していました。その頃に『狙撃者』というタイトルでリミテッドシリーズかTVスペシャルとして製作された事もあるんですが、21世紀に入り華々しくリブートしたわけです。アクションシーンはよりリアルになり手持ちカメラによる撮影やドキュメンタリー映画の手法を取り入れたポール・グリーングラスによる『ボーン・スプレマシー』でその流れが決定づけられました。この作品もその系譜に則っており、アクションシーンや海外での逃走、追跡にそれが見て取れます。そしてその範疇からは傑出して飛び出ていないけれど、主人公の暗い衝動とそれの鏡像となる敵役。指導者である人物、大義と私情の間に翻弄される人々を描いている部分はいいと思うところです。惜しむらくはもう少し師弟の部分を敵と含めて描くかすると深みが出たように思うんですが割とあっさりでしたね。そこがtonbori堂は食い足りないと感じました。でもスパイアクション映画好きならカウチポテトで楽しめると思います。

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※ジェラルド・シーモアの『一発で倒せ!』狙撃モノ小説としてもクラシックな名作です|一弾で倒せ! (新潮文庫) 文庫/Amazon

※『ブロークンアロー』記憶が確かならジョン・ウー監督がハリウッドに招かれて作った2作目でその後『フェイス・オフ』でも組むことになるジョン・トラボルタがヴィランとして出演しています。

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※ジェイソン・ボーンシリーズ第1作目。後発作品全てに影響を与えているのは実質2作目の気がしますがやはりここは1作目から。

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