紳士探偵、登場|『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』|感想|【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

紳士探偵、登場|『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』|感想|【ネタバレ注意!】

2020年2月7日金曜日

movie

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 『スター・ウォーズ/ジェダイの最後』の監督、ライアン・ジョンソンが撮った自身のオリジナル脚本の作品です。古き良きミステリー作品を現代を舞台に展開させる。そういったコンセプトを基に撮られたので当然、古びた大きなお屋敷、祖父の誕生日に集まってきた親族一同。高名な作家にして富豪である祖父に援助してもらった家族たち。そして家政婦に嘘がつけない訪問看護婦。そして誕生日の翌日、その祖父が死んでいるのが見つかり、警察は自殺と考えるものの、謎の依頼人によって登場した紳士探偵ブノワ、彼によって単純な事件に見えた裏側が垣間見えていくという筋立て。まさに正調クリスティ節、いやどっちかといえば日本で言えば横溝節もはいってるかも?それをジョンソンは如何にして組み立てていったのか?非常に興味深い作品でした。言わば古き良きミステリのマナーに沿いつつも現代に仕立て直した一筋縄ではいかぬライアン・ジョンソン劇場の開幕といった感じです。

※【注意】ネタバレ注意です。結末を直接書いたり、そういう事はしていませんがご鑑賞はまだで、今後観る予定があるならば少しでも情報を入れずに観る事をおすすめいたします。またはネタバレしても大丈夫という方だけお読み下さい。







スロンビー家の一族/STORY

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密/チラシ

 ある朝、家政婦のフランがその家の主で作家のハーラン・スロンビーに朝食を持って行ったところハーランが首から血を流して死んでいるのを発見する。数日後、スロンビー家の者たちと家政婦のフラン、訪問看護師のマルタがスロンビー家に再び集められた。警察が再度事情聴取をしたいと言ってきたのだ。それは匿名の依頼人よって高名な探偵ブノワ・ブランが事件を捜査したいという申し出からだった。ハーランは自殺との見解を出していた警察だったが高名なブランの申し出ということで見落としがあるかもしれぬということでこの申し出に協力したのだがスロンビー家の者たちは全員隠し事があった。

 ブランはハーランと死ぬ前に最後に一緒にいたマルタを助手にしてこの事件は殺人ではないかと敷地内を探索、不可解な点をあぶりだしていく。そんな中、ハーランの遺言書が開封され一族はその内容に驚き事件はさらに混迷を増していく。いったい誰が?そして遺言書の中身は?ブランは事件を華麗に解決できるのか?

古式ゆかしき

 映画を鑑賞してまず思ったのは(これは多くの人がそう思ったと思うんですけど)アガサ・クリスティのオマージュだなと。古びた洋館。ひと癖も二癖もある登場人物(容疑者)たち。死体とまあクリスティ以外にも古き良きミステリの香があります。ただ導入は明らかにミステリなんですがそこから物語が進むにつれて様相ががらりと変わってきます。いやミステリはミステリなんですがいわゆるフー、ダニットでお話が進むのかと思えば一筋縄ではいかなくなる中盤。古今東西の探偵物語の良い所取りな作りになっているのです。

ナイブズ・アウト/パンフレット
ナイブズ・アウト/パンフレット

 監督は『オリエント急行殺人事件』や『ナイル殺人事件』のようなクリスティの映像化作品やパロディ・パスティーシュ『名探偵登場』といった作品を参考にしたとパンフレットにありましたがなるほど納得です。探偵も気取った気障なスタイル。スリーピースをびっちし決めていたり鋭い質問をするかと思えばおとぼけな行動をしたり(笑)ただこの作品それだけに収まりません。一つはこの作品の時代設定が現代であるという事。田舎町での殺人事件というのを使っていますけれど、現代の殺人捜査は田舎でもそこそこ科学捜査が行き渡っているしそうそう警察だって間抜けじゃない。なので現代でクリスティのようなミステリをしようとすると、閉ざされた山荘や交通手段が途絶された閉鎖空間を作りたがります。それをせず舞台仕立ては郊外の一軒家ですが近くには街もあり(小さい田舎町ですがアメリカの典型的な北西部の街)閉鎖空間ではないです。登場人物たちはネットに接続はするしスマホも使います。


 だから最初の死体の死因が重要になる訳です。実際に警察もそこは両面からが基本だけど状況証拠で調べるとそうなる。だからそれ以外のものは見逃される。些細な部分ではありますが、まず最初に事件発生!って思っててもツッコミしたくなるじゃないですか。なんせマリコさんじゃなかった、向うならCSIですよ。田舎警察ではCSIは置いてない(保安官事務所)だったりするので。でも殺人事件でどうみても街の警察官。州警察あたりでしょうか。くどくど説明はしないけど画面で説明するあたりもスマート。


 すぐに調べれば何でも分かるこの時代にミステリって調べればネタはすぐに割れてしまうにも関わらずそれを飽きさせないのはキャラクターの背景が実は画面に映っていないところもふくめて(重要部分はしっかり映っているし、示唆もされています。)しっかりつくられているからです。そして展開も上手く運んで次の展開への興味を途切れさせない。ここはジョンソン監督のこだわりだと思います。


 またこれ指摘している人が凄く多いんですけど前作の『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』での事を思うと一見して分からないけど共通点があるんですよ。とは言えこれ皮肉に満ちた形なんですがそれは監督もやっぱり引きずっている?でもここまでやったら作品として昇華できているし文句もないはず(笑)しかもそれは鏡像としてのモチーフですからスマートですよね。まさに名探偵ブラン(笑)そうスマートなんですよ(ブランは決してスマートじゃないですけれどね。三つ揃いでキメキメですが(笑)どっちかというと古畑、コロンボ系です。)

プロダクション

 『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の事でいろいろ言われちゃったジョンソン監督ですが今回はそういう縛りもなく、自らのオリジナル脚本でいい意味で肩の力が抜けた状態で撮っていると思います。普通なら『スター・ウォーズ』シリーズを任されてその作品がまあぶっちゃけて言えば酷評を喰らったわけですから。ちなみに今となっては『スカイウォーカーの夜明け』よりも『最後のジェダイ』の方が色々納得できない所はあるとはいえ、それまでの土台ではなく新しいものを作りだそうとした挑戦的な部分は評価できるとまで言われています。確かにスター・ウォーズって最初はスペースオペラに西部劇や時代劇のエッセンスをまぶしていった「新しい」ものでしたから、ジョンソン監督も『スター・ウォーズ』シリーズをやるにあたってこれまでに見た事もないものを作るにはその土台を崩すしかないという事だったんだろうと思います。


 対してこの『ナイブズ・アウト』は言わばクリスティへのオマージュではあるんですが、それだけではない新しい視点、今のアメリカを反映した作劇を意識的に入れ込んでいます。それはマルタの出自。彼女はベネズエラの出身ではありますが、呼び寄せた母親は移民としての滞在許可はまだもっていませんでした。つまりトランプのいう「好ましからぬ」人たちというやつです。そしてスロンビー家の人たちも明らかに上から目線でそれを見ている。一見リベラルな長女も一皮むけば共和党支持な夫と同じ穴の狢だし、次男の息子はネトウヨだし(字幕でネトウヨと出ていました。実際にはオルトライト【 alt-right】というトランプを当選させたフェイクニュースなどを発信したりする一派が転じてそういう極端な右翼思想のネットワーカーをそう言うようになっているようです。)長男(故人)の嫁はいわゆるライフスタイルインフルエンサー(グル)、そしてその娘はリベラルといった具合で今のアメリカの白人社会の縮図になっているのも上手いですよね。その辺りは日本のしきたりで縛られた村社会を戯画化して実際の現実社会をすっと切る横溝作品にも近い匂いがあると思います。


 だからこそヒロインポジションにマルタが輝く。何者でもないけれど非常に重要なキーパーソンになるというところで前述の『スター・ウォーズ』の主人公レイとも通じるところがあると喝破している人も多いですが、彼女は寄る辺がないレイとは違い背負っているものがあります。だからこそ全編に渡ってそれを強く意識しているシーンがあり、最初から最後まで見逃せません。そこに『スター・ウォーズ』での出来事も含めての監督のメッセージも込められているように思います。ああ、でも『スター・ウォーズ』での最初の鈍足爆撃とフィンとローズの道中も若干ダルいなと今でも思ってますけども(ヲイヲイ

キャスト

 キャストもブランにダニエル・クレイグを充てたのも面白いんですが、マルタ役のアナ・デ・アルマスがいいんですよね。彼女に当て書きしたんじゃないかっていうぐらいにぴったりで。いや普通に「嘘をついたらゲロを吐く」とかそういう役って色ものになるのに、そうさせないためのそういう話でアナ・デ・アルマスかと。いやもう本当に役者層厚いです。それにスロンビー家の一族が凄すぎる。ジェイミー・リー・カーチスの旦那がドン・ジョンソンで息子がクリス・エヴァンスってどんだけーですよ(笑)スクリーム・クイーンとマールボロマン(またはソニー・クロケットorナッシュ・ブリッジス)、の息子がキャプテン・アメリカとかそれだけで笑えます(ヲイ。次男ウォルトにはマイケル・シャノンです。もうだいたい頼れる現場指揮官か、冷酷なエージェント面のシャノンがここでは小心者でファーザーコンプレックスの塊ってのがこれまたキャスティングの妙。他長男の嫁、トニ・コレットもいかにもな西海岸のセレブだし演技巧者が集まってるんですが、実はおっという方が2名おられました。一人はヨーダの声の人、フランク・オズです。スロンビー家の顧問弁護士役。そしてもう一人がM・エメット・ウォルシュ、いろいろな作品に出てる人なんですが『ブレードランナー』のデッカードの上司役だった人なんですよ。でもお二人ともすぐには気が付かなくて、でも見た事があるなーと思ってエンドロールで確認しました。そうtonbori堂はエンドロール確認する人なのです。

最後に

 気障でそこそこ推理も冴えてるがどうにもしまらないところや察しの悪い、キレキレでなくてキレのいいぐらいの名探偵(笑)ブラン。演じたダニエル・クレイグもですが、監督も気に入ったようで続編したいねみたいな話が出ていましたがこの度正式決定したそうで。次も古き良きアメリカの家族が出てきてぐっちゃぐちゃのドロッ泥な沼地みたいなのをよろしくお願いいたします(笑)あ、出来れば早い目に。


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