クズ鉄町はザレムの夢を見るか?|『アリータ:バトル・エンジェル』(2019公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

クズ鉄町はザレムの夢を見るか?|『アリータ:バトル・エンジェル』(2019公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】

2020年2月22日土曜日

manga movie SF VFX

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 Amazonプライムで100円レンタルの時に借りたままになってて危うく見逃すところでした。(Amazonプライムビデオはレンタル購入後30日間の間に観ると残り48時間で見放題になっています。)で『ターミネーター』『タイタニック』のジェームズ・キャメロンが映画化権を保有し制作したいと常から言っていた日本の漫画『銃夢』(木城ゆきと/著)をロバート・ロドリゲスの手によって実写化したのがこの作品です。今回はこの作品についてあれこれ書いてみようかと思います。

映画『アリータ:バトル・エンジェル』本予告【天使降臨】編 |20世紀スタジオ公式ch/YouTube

銃夢、ガリィからアリータへ

 タイトルが違うじゃないのっていう方もいらっしゃるかと思いますが、そもそも主人公の名前も変更されてます。詳しくは公式かググって頂くとして、ざっくりいうと漫画でのガリィという名前は女性の名前ではない(実はこの名前がガリィについたのも訳があって女性名でないのも折込済なんですが…(^^;)ということで米国で発売されるに辺りアリータという名前に変更になったと聞き及んでいます。キャメロンが惚れ込んでシナリオも起こしていて度々製作開始のニュースが入ったものですが『アバター』の製作やその後の3部作の残り2部作の製作に取り掛かった事により自分では監督できない事からロバート・ロドリゲスにお鉢が回ってきたとの事。『銃夢』は読んでいた漫画なので(完全版であるラスト・オーダーは読んでないのですが(^^;(コラッ)実写化の話は気になっていたのです。特にモーターボール編が好きなのでクズ鉄町編をメインにしているのにモーターボールっぽいシーンがあったため??となって本当に観たかったんですが結局タイミングが悪く見逃してしまい今回やっと観る事が出来たのです。

機甲天使/STORY

 2536年、300年前にザ・フォールと呼ばれる戦争で幾多の天空都市は地に堕ちた。残ったのはザレムのみ。そしてその下には生き残った人々が集まり、ザレムから投棄されるクズ鉄に群がり使えるものを再生し街が出来た。その周りにはザレムへの食料などを収める農場も出来、人々は暮らしていた。サイバネ医師(サイボーグ専門の医師)イドはその廃棄物がうずたかく積もった屑鉄の山で古いタイプのサイボーグを発見。自宅に持ち帰り新しいボディを与え蘇生させる。イドによってアリータと名付けられた少女は記憶がなかった。しかしイドのもう一つの顔であるハンター・ウォリアー(賞金稼ぎ)にアリータが尾行して来た時にグリシュカという連続殺人犯の一味とイドの戦いに巻き込まれ、一味の2体を鮮やかに撃破する。

 彼女は先の没落戦争で地球に対して戦いを挑んだ火星連邦共和国(URM)の兵士だった記憶の断片を思い出す。クズ鉄町の青年ヒューゴと親しくなったアリータ。記憶が蘇るかもとクズ鉄町の外にあるURMの宇宙艇の墜落した場所へ連れて行かれるが記憶が蘇らなかったが宇宙艇に格納された戦闘用ボディ「バーサーカー」を見つけ確信めいた感覚を得る。ヒューゴは表ではイドらにサイバネパーツを安く提供する調達屋だが裏では仲間たちとモーターボールなどを取り仕切るクズ鉄町の顔役ベクターの命を受けて高価なパーツを強奪する一味の加わっていた。ヒューゴはベクターに1万クレジットを渡せばザレムへ送ってやると言われていたのだ。一方でザレムの大物であるノヴァの命によりモーターボールチームのオーナーでイドの元妻チレンとともにグリシュカを使ってアリータをボディを生死を問わず捕獲せよとの命令が来る。チレンはザレムに戻るため、グリシュカに強力な武器を求めベクターに依頼。ベクターはヒューゴを使い反目しているモーターボーラーのキヌバの武器グラインドカッターを奪わせる。

 イドの反対を押し切りハンター・ウォリアーになったアリータはハンターたちとグリシュカを倒そうとするが賞金のかかっていないグリシュカとやり合う者は無く反対にダマスカス・ブレード使いのザパンの挑発で乱闘騒ぎになってしまう。そこに乱入したグリシュカによって四肢を切断されてしまったアリータ。イドとヒューゴ、そしてアリータに懐いていた犬を殺したグリシュカに憤りを感じたハンターのマクティーグによって救われたアリータに強い戦う意思を認めたイドは彼女に封印したバーサーカーボディを与える。

 ヒューゴがザレムに行くために大金を貯めていると知ったアリータはヒューゴのためにモーターボーラーになる決意をし2ndリーグのトライアウトに挑戦する事に。しかしそれはベクターの罠だった。グリシュカにだけに任せておけないと思った彼はモーターボーラーにハンターと殺し屋を配して彼女を捕獲する事にしたのだ。一方ヒューゴも仕事中の仲間に足を洗うと宣言したところをアリータにプライドを傷つけられたザパンに見咎められる。アリータは罠をくぐり抜けてヒューゴを助けることが出来るのか?

銃夢とアリータ:バトルエンジェル

 随分と「ソフィスティケート」されているなと思ったのが最初の印象です。『銃夢』自体はもっとこうマニアックというか。当時の流れで言うと『攻殻機動隊』の士郎正宗など、濃い設定のSF漫画が流行っていた時代で欄外注釈、そして細かい設定、細かいタッチの漫画で一言で言えば「マニアック」でした。もちろんだからこそ読みごたえもあるしディテールも濃いという作品です。『アリータ:バトルエンジェル』も従来ハリウッド映画で言えばマニアックな部類に入る訳ですけどもイドの設定とか細かい所で違う訳です。それでも根幹は保持しようとしているという事とイドの設定が変わった事によって別の設定を組合わせていると言うのも面白いなと。チレンっていうのは映画設定かと思ったら実は『銃夢』のOVA(オリジナルビデオアニメーション、セル販売を目的に作られたアニメ作品、残念ながら絶版ですがレンタルビデオで生き残っているところがあるかも?)で登場しているのだそうです。OVAは観ていないので知らなかったんですが結構ベースにOVAが入ってるようです(但しイドの妻ではなくイドを好きになる墜とされたザレム人)。しかしイドのハンター・ウォリアーの設定の改変は納得できますね。PG12かR指定でないと難しい。漫画だとイドがハンター・ウォリアーをやっているのは「合法的」に殺人を犯す事が出来るからなんですよ。それにガリィじゃなかったアリータへの保護者感もまた映画とは違っています。ただ映画はこの設定にしたのは間違いではないと思います。これはある意味自らの存在意義を探し求める話でもあるので。イドの改変はイドファンには申し訳ないけど有りかなと思いました。

パンツァー・クンスト(機甲術)

 グリシュカ一味と対峙した時に咄嗟に反応したアリータの使うサイボーグ格闘技がパンツァー・クンスト(機甲術)は原作のままでした。このパンツァー・クンストは火星で発展した格闘技というのは原作の設定だったように思いますが、映画でも火星連邦共和国の兵士が使う失われた格闘技という位置づけでほぼ同じ扱いでした。ちなみにアリータを指導する火星の兵士はゲルダという名前らしいんですがクレジットには無し。でも声はあれミシェル・ロドリゲスじゃないかと思ったところやっぱりミシェルでしたね。ノンクレジットという事でカメオ出演だった模様です。キャメロンともロドリゲスとも縁が深いので運よく次回作があれば火星のエピソードと考えていたのでしょうか…。

 パンツァー・クンストは機甲術と文字が振られ対サイボーグ戦闘、無重力下戦闘を想定した火星古武術(マルス・クリーグ・マーシャル・アーツ)という解説が『銃夢』でなされていたはずです。繰り返しになりますが原作者の手による完全版ともいえる『ラスト・オーダーL.O』を読んでいないし続編となる『銃夢火星戦記』も読んでいないためさらに設定が付加されている可能性もありますが。この辺りは北斗の拳の影響があったかどうかは気になる所です。何故なら映画には出てきませんでしたが、周破衝拳(ヘルツァハオエン)という内部を破壊する打撃は北斗の拳を想起します。無印『銃夢』は1990年代の作品で士郎正宗『アップルシード』に武論尊/原哲夫『北斗の拳』の影響はあってもおかしくはありません。いや影響というよりは、元からの作品へのギミックとしてミックスされというべきでしょうか。大元には白土三平『忍者武芸帖』の影響も見て取れますが…とこれは脱線しました。

モーターボール

 原作のクズ鉄町ハンター・ウォリアー編エピソードが中心になっていますけどモーターボールを入れたいという構想段階でのキャメロンの意向でモーターボールシーンが大々的にフィーチャーされています。そしてザレムへ行くためにアリータが大金を掴むためモーターボールの2ndリーグへのトライアウトに参加するというエピソードが出てきます。ここでトレーラーに使われたモーターボールシーンが出てくるんですが、いやこの映画続編あるとしたら(ヒット度合いがよく分からないしキャメロンはアバターで忙しいし20世紀FOXもディズニー傘下になってしまったので結構難しいと思うんですが)ジャシュガンとのエピソードは観たいなと。一応ジャシュガン出てましたけど凄腕だけどまた脳改造受けてないんでチャンピオンだけどちょっとそこまでの凄みはまだ感じられない感じで、あのクオリティでモーターボールがあますところなく再現されたらそりゃもうめちゃくちゃカッコイイと思うんですがどうでしょう。

 実際、パンツァー・クンストに対してのジャシュガンの機関拳(マシン・クラッツ)は「機」という概念があってそれを機械のボディを操るという「機」は気に通じるものというなかなか面白い解釈。この辺りは格闘技系の後手の先、相手の気配を読むなどやはり格闘技系作品の影響かもなと思うのですがどうでしょう。とまたまた脱線しましたが出来ればデカいスクリーンで観たいですよね😅

クズ鉄町はザレムの夢を見るか?

 実際のところ凄く綺麗にまとまってるなと思う部分はありました。続編も作れるような塩梅にしているし(ノヴァの事とか)でもクズ鉄町(映画ではIRON CITY)はいい具合に表現されていたとは思います。原作もマッドマックス的世界観あるし、ロバート・ロドリゲスが監督したのも腑に落ちる。とは言えやっぱりパンチに欠けるし要素はあるのに…もったいないって感じるところも多いんですよね。キャストに関してはイドを演じたクリストフ・ヴァルツやチレンを演じたジェニファー・コネリーも良かったし、そしてベクターを演じたマハーシャラ・アリはもうクリソツすぎててベストキャスティングでしょう(笑)

 グリシュカはジャッキー・アール・ヘイリーだけどほぼCGキャラだからモーションと声ですね。でも何より物議を醸したのはアリータの顔だと思います。彼女を演じたのはローラ・サラザール。ですが彼女の素顔ではなくCGで目を強調されたものになっています。ここもキャメロンがこだわったところと伝え聞いていますが確かに原作の『銃夢』ではガリィはいわゆる目の大きい漫画のキャラクターとして設定されています。だけど周りは普通なのに彼女だけっていうのも違和感でるんじゃないのと思いましたが、案外見てるうちに気にならなくなってきました。理由は2つ、一つはアリータ(ガリィ)完全サイボーグであるということ。あとは慣れの問題。つまり完全義体(サイボーグ)であるというのはイドがアリータを発見するシークエンスではっきりしています。そして生身の人間と機械の人間が共存しているという世界観をざっと描いて彼女が目を覚ます。あれがもう少しだけ大きかったら違和感もっとあったけどギリギリ許容できるところを探った結果ではないかと思っています。

 ただこれ万人受けするかと問われると難しいところでしょう。tonbori堂はガリィという原典を知っているから目が大きい事が分かる。理解できる文脈を知っている訳ですが大多数の観客がそれを受け入れられるかどうか。目は心の窓であり、過去には兵士であったかもしれないけれど今は無垢な心を持ちキリングマシーンではない人として覚醒したアリータという人格を表現するにはその目は必要だったのかどうかってところにかかっていると思うんですが…先にも言ったようにtonbori堂はそこはクリアは出来てるかなと感じました。とは言えこれでモーターボール編が作られるかどうかは分かりません。ノヴァ(これものノンクレジットでエドワード・ノートンが出演)との戦いはこれからだエンドになってるのもうーむって感じですし。原作が地球を飛び出し太陽系一大年代記的な様相になっているもののそこまで描かれるかどうか。でも繰り返しになりますがモーターボール編はこのクオリティで観たいですね。その時はちゃんとIMAXで観るようにしたいと思います。
Alita: Battle Angel(C)Twentieth Century Fox Film Corporation

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