クリス・ヘムズワース主演の『ホースソルジャー』がAmazoプライムに来ていたので鑑賞しました。日本では一昨年の公開で観たかった作品ではあったんですがいろいろあってスルー案件になっていました。舞台はアフガニスタン。9.11後アルカイーダ掃討のため米軍が展開した頃の話でしたが、軍事機密として暫く経ってから作戦の詳細が明かされた実話をベースにしたストーリーです。ともかく観た感想は今の時代の戦争映画の基本であり、一筋縄ではいかぬアフガニスタンでの話を今(といっても一昨年ですが)やるのはちとモヤモヤする感じではあります。ただ戦争映画としては非常に上手く出来ている作品でした。
12ストロング|STORY
米軍大尉、ミッチ・ネルソンは実戦部隊の指揮官から事務職へ異動し妻と共に新生活をスタートしようとしていたが、荷解きをしている最中にあの9.11の攻撃をテレビで知る。この緊急事態に、彼は事務職に異動になることで解散となった自らのチームを再編成するように上司に掛け合うが既に決まった事とはねつけられる。しかし退役が決まっていた副官のスペンサー准尉も上司に直訴したためチームは復帰、ネルソンも指揮官に復職した。
そして彼らの戦闘ユニットODA595に新たな任務が降る。同時多発テロ事件を主導したビン・ラーディンが指導するテロ組織アルカイーダがタリバンとともに活発に活動しているアフガニスタンから彼らを掃討する任務を帯び現地へ向かう。表立っては活動出来ないためあくまでも戦闘の主体はアフガニスタンの人民が主体。そのため兼ねてからCIAなどの現地工作員が交渉していた反タリバンの北部同盟の一勢力を率いるドスタム将軍と協力しマザーリシャリーフを制圧するというものだった。折しも冬季を挟むため作戦は長期間が予想されたが、ネルソンたちはこの任務を3週間で遂行する事を求められる。
輸送ヘリの限界高度を越える隠密飛行で無事にランデブーポイントに到着したODA595はCIA工作員ブライアンから作戦の概要と情報を受け取る。そしてドスタムと引き合わせるのかと思うとブライアンは彼はここにいる。いつ現れるかは彼の自由だと。幸運を祈ると言い残し他の北部同盟への連絡のためその地を立つ。やがてドスタムは自らの手勢とともに騎馬でやってきた。ロシア語しか喋れないとのことだったが戦前はこの近辺を治めていた実力者だったドスタムは英語を理解していた。一筋縄ではいかない手強い協力者であるドスタムはこの峻険な山間部では徒歩ではまともな作戦は不可能だとネルソンに言い、前線に向かうため馬を使うように促す。しかし牧場で育ったネルソン以外は馬など初めての者ばかり。部隊をアラモと名付けたベースキャンプと前線チームに分けたネルソンたちには数々の試練が待ち受ける。果たして3週間でマザーリシャリーフ奪還は成功するのか?
スタイリッシュアクション?
戦争映画だともっと泥臭く埃っぽさがあってもいいんですけれど、実際埃まみれだわ、髭面おっさんばっかりだわで絵面は普通なら暗い映像になりそうなもんです。でもこの作品どこかシュッとしている。これは監督がこれが初監督作品になるニコライ・フルシーがCM映像作家ということで納得です。爆発シーンやクライマックスシーンのスローモーションなどはやっぱり綺麗に描いているのですよね…。それが全部アウトとは思わないけれどやっぱり違和感は少しありましたかね。
もっとも最近のそういう戦争アクションではそっちが主流になっているし、いわゆるマイケル・ベイタッチと申しましょうか。そういう感じが強いかなと。彼自身はこの作品に関わっていませんが彼と長年組んでいたプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーなのでそこは推して知るべしなのかもしれません。なとでマイケル・ベイタッチというより実はブラッカイマー印なのかも(苦笑)
ただ実施困難な作戦をたった12人で成し遂げた、実際には現地工作を担当したCIA工作員グループや実働を担当した北部同盟の活躍も無視できませんが、ODA595と北部同盟でもこの作戦で中心にいたドスタム将軍にスポットを当てた構成になっているのは、映画として題材となりやすい事と、彼らの活躍がヒロイックかつ、騎馬による作戦行動が画になる。これにつきるのではないかと思われます。ただ最初は本土に大規模なテロを仕掛けられ、実戦経験は無いものの有能な軍人であるネルソンが自信過剰ともいえるのめり込み方をしながらも、ベテランとして手綱を引くスペンサーや、軽口を叩きながらもネルソンをフォローする部下たち、ディラー、マイロ。固い信頼に結ばれた男たちの物語なのでそういうアンサンブルキャストの楽しみと、アフガニスタンで大国の思惑に翻弄されながらもその土地を守ってきた男たちとの矜持のぶつかり合いが一つの見どころになっているところは全体の印象としては好きな部分です。
騎兵隊
アメリカ人の好きな言い回しで、援軍が到着する事を「騎兵隊が来た。」または頼れる部隊を「騎兵隊」と称する事があります。それは騎兵隊が軍隊の中でもエリート部隊だった、強力な力をもっていたからという認識があるからです。歩兵に対して騎馬の機動力、突破力は第一次世界大戦前までは戦場の花形でした。ただ世界大戦の後、戦争の形態も代わり主役は塹壕戦や戦車へと移っていきました。騎兵は儀仗兵などと同じ扱いになっていきましたが、その機動力を例えば軽車両(ジープなど)やヘリコプターなどに置き換えたりしてその名を残すこともあります。『地獄の黙示録』のヘリボーン部隊も第一騎兵師団のヘリコプター強襲部隊でした。この話は21世紀の今日に米軍のエリート部隊であるグリーンベレーが騎馬による作戦を実行したと言うのがアメリカの多くの人の琴線に触れるんだろうなと観ていて思いました。
実際にはそこまでの綺麗ごとばかりではなくもっとドロドロしたものもあるだろうしアルカイーダの戦闘指揮官はかなりステレオタイプな感じも受けます(実際にそういう恐怖で支配する方法を取っていたとしても)。ただこの作戦が長年機密指定を受けていた事やアルカイーダはこの痛撃はかなりの打撃として伏せていた事も相まって対テロ戦争秘話となった事を今映画化するのはなんとなく分かる感じがします。個人的には同じようなアフガニスタンでの秘話なら『ローン・サバイバー』に惹かれるものを感じますけど(アレは救出部隊も全滅してしまった大失敗の物語でもありますから)。
またアメリカ軍がまだ世界の警察としての役割があるのだという事を想起させたいのかという気にもなりますが、ドスタム将軍が反目している北部同盟のもう一つの勢力が別方向から侵攻してきて街の入り口でかち合うところで彼らに道を譲ります。しかしその後で今日の支配者は彼らだが明日は我々が支配者だとネルソンに告げます。そして君とは友達だとも言いますが翻って考えると死線をくぐり抜けた中だからこそそうなっただけでアメリカ全体とは仲良くなったわけじゃないよとも読めるわけです。深読み、逆読みすれば騎兵隊の限界も感じる話にも取れるラストでありました。
実際このドスタム将軍、Wikipedia情報なので正確かどうかは留保したいですけれど映画ででもしたたかな面を持つ世俗的な部分もあると描写がありますし、実際額面通りの人物では無いとは思います。Wikipediaによると政敵には結構暴力的にふるまった事もあるし、実際この作戦前まではトルコに亡命してたりなど(ただ以前に治めてた街では映画館やそれほどの宗教による締め付けもなかったとも言われています)問題多き人物だったこともあるし、マザーリシャリーフ制圧後も誤爆もあったり北部同盟による虐殺もあったとかで本当に額面通り受け取れない話がぼろぼろ出てくるので興味のある方はWikipediaではありますがこちらのページをどうぞ。
Fall of Mazar-i-Sharif - Wikipedia
またこの作戦実施にはCIAの現地工作チームがお膳立てしているところも大きかったかのように書いてあるんですが、そちらにフォーカスした作品でもまた面白いものが出来そうな気がします。ちなみにCIAのブライアンを演じたのはテイラー・シェリダン。『ウインド・リバー』の監督であり『ボーダーライン』の脚本のシェリダンです。後で知ってビックリしました。シェリダンには自らが演じたブライアンを主人公にそのストーリーを脚本にして欲しいと思います(笑)
CH-47
CH-47チヌークは航空自衛隊も採用している大型ヘリコプターでローターが2つ前後に装備された特徴的なスタイルは瞼に焼きつくデザインです。このヘリコプターは数多くの映画に登場しており、それこそ日本の映画でもゴジラ、ガメラなどの特撮怪獣映画やアメリカではベトナム戦争時に採用されていることから以降の戦争アクションでしばしばその雄姿をスクリーンに登場させています。先に上げた『ローン・サバイバー』でも救出部隊を載せて向かったもののタリバンのRGPによる攻撃で撃墜されてしまったりしていましたが、この『ホース・ソルジャー』ではODA595を載せて限界高度を越える7000m以上を飛行し彼らを降下地点へ運搬しました。多分tonbori堂が今まで観た映画の中で一番カッコいいCH-47だったように思います。塗装は真っ黒で、ヘリを飛ばしたのは『ブラックホークダウン』でも孤立したレンジャーとデルタを援護するために夜間飛行を行った第106特殊作戦航空連隊「ナイトストーカーズ」所属と思われるMF-47という真っ黒なチヌークでした。夜の闇に紛れて飛ぶチヌークもこの作品の見どころです。
アンサンブルキャスト
こういった作品だと出演者の力量がやっぱり重要視されるわけで、実は色んな作品に出ているぞマイケル・ペーニャや悪党面だが確かな演技力、マイケル・シャノンなど実力者がそろっており、観ていてそこは安心感がありましたね。あとウィリアム・フィクナーが坊主頭でアフガン進駐軍の特殊部隊司令官として出演してたり、クリス・ヘムズワース演じるミッチ・ネルソンの奥さん役が実際のクリスの奥さんであるエルサ・パタキーであったりとかそう思うと奥さんとのシーンが色々味わい深くなるかもしれません(笑)それとODA595隊員の一人マイケルズ役のサッド・ラッキンビルは製作も担当していて、Black Label Mediaという制作会社の設立者でもあります。先のシェリダンの出演はその縁からかも(彼の『ボーダーライン』と続編『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』はBlack Label Mediaが製作に関わっている。ちなみに『ラ・ラ・ランド』もそうです。)
最後に
アフガニスタンでの戦闘の話が『ローン・サバイバー』やらこの作品やらが作られたのもトランプ氏が大統領になったことと無関係ではないのかなと少し思っています。未だアフガニスタンでの政情は不安定でタリバーンのみならずISと呼ばれる組織も入り込み状況は実は混沌としている。9.11後に反撃という名目ではあったものの政情が不安定なアフガニスタンで現地の民衆が自らの自治を回復しそれを成し遂げる手助けというのは世界の警察であった頃のアメリカの美談の一つでありトランプはカネにならない戦争は止めたがっている部分としてのブレーキとして期待されたのかなといううがった考えか方も出来なくはないんですが、戦争アクションとしては撮影地がニューメキシコながらアフガニスタンのような感じを醸しだしているなど映像はチヌークも始めかなりスタイリッシュでカッコいいと思います。戦争アクション好きなら観て損は無い1本でした。
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※Amazon.co.jp: ホース・ソルジャー(字幕版)を観る | Prime Video
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