『ファイナル・オプション』はイギリスのアクション映画で、日本ではビデオスルー(劇場公開されずにDVDなりセルビデオで販売される作品)だったように思います。この映画を知ったのはなんだったか、月刊Gunだったか、それともそれ系の雑誌だったように思うのですが、何分古い話なので今となっては定かではないです。ただこの映画をチェックしようという気になったのは間違いなく『特捜班CI★5』のボーディことルイス・コリンズがSASの隊員としてテロ組織に潜入するというあらすじにあったように思います。既にエキブロ本家で一度この作品がDVD化されたときに購入しエントリをアップしたのですが改めてこの映画をご紹介したいと思います。
Who Dares Wins/STORY
ロンドンで行われた核廃絶を訴えるグループのデモ行進の途中で一人の男がボウガンで狙撃され死亡した。彼は潜入捜査官としてグループの過激分子を調査していたが、彼らのテロ計画を掴んだために殺害されたのだった。
事態を重く見た英国政府関係者は組織へ潜入させるため英国特殊空挺部隊S.A.Sのスケルン大尉を部隊での不祥事を理由に解雇という偽装を施し、元軍事関係者として組織に接触させ彼らの計画を探る事にした。
過激分子のリーダーはフランキーはアメリカ大使の公邸で催される晩餐会に出席する 米国務長官を人質に取り戦略潜水艦の基地に核を打ち込むように要求する計画を立てていた。スケルンが内部の信用を得てその秘密に近づいた時、フランキーたちもスケルンの身辺調査をして疑いながらも彼の能力を使うため彼の妻子を人質に取り計画に協力を強要する事に。
そしてフランキーたちの計画が実行され公邸は過激分子に占拠されてしまった。スケルンはこの絶体絶命なピンチにどう挑むのか?そして妻子の安否は?刻一刻と迫るタイムリミット。S.A.Sの指揮官ハドレーは突入の決断を下す。スケルンの運命は?
硬派なミリタリー・アクション
今ならもっとリアルかつド派手な映画が作られるでしょうけど、その当時リアルな対テロ作戦を描いた映画は少なく、あってもエンテベ空港襲撃作戦が殆どだったように思います。コンゴにあるエンデベ空港でのイスラエルの電撃作戦は有名で、映画化もされながらも周辺国への感情を逆なでするということでお蔵入りになったりすることで有名です。と、これは脱線しましたね。
この映画はイギリスで起こったイラン大使館占拠事件時の後に直ぐに企画されたそうです。でもハリウッドの大型ブロックバスターとは違いイギリス映画の常なのかもしれませんが、登場人物が実に地味なのです(笑)でもそれが却ってリアルな感じを醸しだしているのです。しかもいちいちプロフェッショナルな行動をとるし、そこが英国産のアクションの凄みですね。アメリカだとそこは勢いで行っちゃう場合が多いです。
これは英国人俳優が多くて、英国スタッフの場合、監督がアメリカ人でも同じ匂いを感じます。例えば豪華客船に仕掛けられた爆弾を止めるために決死の覚悟で挑む男たちを描いた『ジャガーノート』もそうです。(監督はリチャード・レスターは米国人ですが主に英国で活動していました)この映画は先にも述べた1980年に起こったイラク大使館占拠事件でのS.A.Sの強行突入作戦を念頭に作られているのは間違いありません。今なら過激な核廃絶グループではなくイスラム系のという別の緊張を持ち込むかもしれませんが、イスラエルのエンデベ奇襲作戦「サンダーボール」を映画化した作品がいろいろ別種の緊張を産んだように。そこで占拠する人物たちが変更になったり、まだ当時は核廃絶も叫ばれていた時代なのでこのようになったのかもしれません。これは脚本家がアメリカ人というのも関連しているかもしれませんが原案が有っての事ですのではっきりと断言はできません。ちなみにその脚本家はレジナルド・ローズ、あの『十二人の怒れる男』を書いた人です。
この作品のプロデューサーのイアン・ロイドを組んで幾つかの仕事をしていたローズは同じくロイドの『ワイルド・ギース』の脚本も書いています。そういえば『ワイルド・ギース』も傭兵の事を指す言葉としてこの映画から知ったのを思い出しました。監督はイアン・シャープ。イギリスの人気アクションドラマ『特捜班CI★5』の演出を手掛けた職人監督です。『ロジャー・ラビット』のセカンドとしてアクションシーンを担当したり、『007・ゴールデンアイ』でも同様にアクションシーンの担当をしたとか。アクションシーンに定評のある方です。
キャスト
なんといってもそのシャープが監督していた『特捜班CI★5』のボーディ役を演じていたルイス・コリンズが主演というのが大きかったと思います。後で『CI★5』については書きますが、ボーディも元軍人という設定(多分S.A.S)で演じるコリンズも元落下傘連隊に所属していたので銃の扱いなどがプロはだしなのです。それがリアリティを産んでいたのだと思います。殆どのキャストはイギリスの役者さんのため高名な方はいらっしゃいませんでしたが米国国務長官でリチャード・ウィドマークが出演。いぶし銀な演技を披露しています。でも全体的にやっぱり地味(笑)でも演技は確か。そこが英国演劇界の層の厚い所ですよね。
特捜班CI★5
このドラマと内容的には直接の関係は無いけれど、監督や主演のルイス・コリンズが関わっている事からこのドラマのファンが、こういう映画が!ってなった経緯があります。『特捜班CI★5』(原題名「The Professionals」)は英国にある内務省管轄の特別捜査班の事で架空の組織です。「クリミナル・インテリジェンス・5」(Criminal Intelligence 5)というナレーションがOPで森山周一郎さん(CI5のボス、コーレイ部長の吹替を担当)の声で入るのですがこれが同じく森山さんのナレーションによる『大追跡』の「遊撃捜査班」っぽいのがまたいいんですよね。
原題の「プロフェッショナル」というのは凶悪な犯罪に立ち向かうプロフェッショナルという事ですが、組織のモデルになったのはイギリスのスパイ組織MI5でしょうか。旧軍情報部5課、有名な007が所属するMI6こと6課が海外担当で5課は国内の防諜担当ということになります。このMI5のメンバーが主人公となるドラマもイギリスでは制作されています。
この『特捜班CI★5』は激しいアクションも売りでした。市街地でのカーチェイスや銃撃戦がかならず入ることで、ちょっと刺激が強すぎるのでは?という話も出たりしましたが人気を博し57本ものエピソード(シーズンにして5、各シーズン毎に放映話数は異なる)が制作されています。『攻殻機動隊』の公安9課もこの作品を参考にしているとも言われています。(確か原作者士郎さんもご覧になってたとか。スティングレイさんから発売された傑作選でもそういう宣伝文句があったように記憶しています。)
基本的に主要な登場人物は3人、ボスであるコーレイ部長(ゴードン・ジャクソン)(ちなみに部内ではオヤジと呼ばれています。攻殻機動隊の荒巻部長と同じです。)捜査官のドイルとボーディ。ドイル(マーティン・ショウ)は警察官上がり、ボーディ(ルイス・コリンズ)は軍人上がりでそれぞれ有能な捜査官で時には潜入捜査をしたり、事件を地味に捜査もしますが、相手が普通のギャングだけではなく凶悪なテロ組織だったり爆弾犯だったり。警察が手が出ないような事案を主に担当するという描き方でした。シリーズ監督にはこの『ファイナル・オプション』のイアン・シャープだけでなく『007・ゴールデンアイ』マーティン・キャンベルもこの『CI★5』を手掛けています。アクション映画、ドラマ好きにはもちろん制作を志す方々にも教科書として是非ご覧いただきたいシリーズです。
特捜班CI5 傑作選DVDーBOX|リンク先はAmazon(既に販売終了のためマーケットプレイスでは中古品がプレミアプライスになっているのでご注意を)
S.A.S/世界最強の特殊部隊
この作品の原題名『Who Dares Wins』は英国特殊空挺部隊S.A.Sのモットーです。意味は『挑む者に勝利あり』(他にも危険を冒す者が勝利する/敢えて挑んだ者が勝つ/とも)で、当時、いや今もそう言われているかもしれませんが、S.A.Sは西側最強の特殊部隊と評されていました。その評判は先にも書いた英のイラン大使館占拠事件での突入作戦の成功で、これは第二次世界大戦後に行われた準軍事作戦の中でも際だって成功した数少ない事案として知られています。(但し犠牲者は出ています。)
英国内での事案であったこととトラブルが発生したものの全体的には上手くいったという事で、その成功部分を大きく喧伝された側面もありますがそれでも輝かしい功績です。またカウンター・テロリズム以外にもアフガニスタンなどでも作戦に従事し、その訓練の厳しさは世界一とも言われています。この作品でも序盤のスケルンの偽装で除隊させるシーンがその訓練シーンでした。(ブレコンビーコンズ国立公園での踏破行軍)
S.A.Sはそもそもは北アフリカ戦線でドイツ軍の後方をかく乱するために少数によるコマンド部隊を設立しことに端を発しています。ドラマ『ラットパトロール』のように砂漠でドイツの飛行機や戦車を破壊する破壊活動や伏兵して戦力を過大評価させたりなどをしていましたが、戦後、戦争の形態が変わるにつれて不正規戦へ比重を移し、今に至っています。この作品での描写もそれに沿った内容でそれ故にカルト作品的に人気が高いのです。
エキブロ:web-tonbori堂ブログのエントリ:『ファイナル・オプション|Who Dares Wins』(DVD) : web-tonbori堂ブログ
ちなみにエキブロ、文中で『途中ダルなところもあるし乱暴な展開もあるけれ描かれていることはおおむね事実に即しておりリアルな突入作戦があますところなく描かれている。そういう作品が好きな方にはオススメできる1本である。』と書いていますが事実には即していません(^^;というか事件自体は架空のものなので手順とかその辺りがという意味ですが、今はもっとスマートにかつ隠密性が上がっていると思います。が基本はしっかり押さえてあるので今観てもよく出来てるなと思います。
※Blu-rayは販売元が販売終了のためマーケットプレイス品となります。ただAmazonPrimeビデオで配信があります。(何時までかは分かりませんが)
0 件のコメント:
コメントを投稿
お読みいただきありがとうございました。ご意見、ご感想などございましたら、コメントをよろしくお願いいたします。【なおコメント出来る方をGoogleアカウントをお持ちの方に現在限定させて頂いております。】