劇場版『機動警察パトレイバーthe Movie』|tonbori堂アニメ語り【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

劇場版『機動警察パトレイバーthe Movie』|tonbori堂アニメ語り【ネタバレ】

2019年9月15日日曜日

anime ROBOT

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 OVAから始まった『機動警察パトレイバー』の人気を受け制作され後にTVアニメになりもう1本後々まで語り草となる劇場版『機動警察パトレイバー2the movie』が公開される事となった機動警察パトレイバーの劇場版。演出を務めた押井守が監督を務めた劇場版第1作の事を今回はさっと書いてみたいと思います。

機動警察パトレイバー30周年突破記念展in大阪にて
入り口エントランスにディスプレイされた98式AVのフィギュア

 どうしてもパトレイバーの映画の話となると2の話になる傾向が強く、熱烈な愛好者も多いし、押井監督はどうもっていう人でも2は凄い!っていう人も多いですが、なかなかどうしてこの『機動警察パトレイバー the Movie』も凄く面白い作品です。機動警察パトレイバーが今年で30周年を突破したことでこの夏大阪で突破記念展がありまして、そこでフィーチャーされていたのがこの『機動警察パトレイバーthe Movie』でした。今回はその話でも少ししてみましょうか。

あらすじ

 ある男が東京湾埋め立て計画バビロンプロジェクトのために作られた洋上プラットホーム「方舟」から身を投げた。その顔に笑みを浮かべながら。同じころ、自衛隊の試作レイバーHAL-X10が風洞実験中に突然暴走し追跡部隊の包囲を受け大破するという事件が発生する。事件は自衛隊の演習地で起こったため内々に処理された。


 市街地再開発事業で作業中のレイバーが突如暴走との報を受け臨場する第二小隊。第一小隊は新型の零式への機種転換の研修のため不在。太田の荒っぽい制止により付帯被害を出しながらも暴走レイバーを止めた第二小隊だったが、1号機の指揮担当、篠原遊馬巡査はこのところの出動件数の異常な増加を不審に思い独自に調査を開始していた。遊馬は父が経営する篠原重工を整備班長の榊とともに訪問し、工場長の実山に詰問するがかわされてしまう。が忍び込んだ電算室でレイバーの起動オペレーティングシステムHOSのコピーをとったところ、バベルの文字がモニターに映し出され突如プリンターから同じ文字が大量にプリントアウトされる事態に。


 HOSに問題ありと見た遊馬が小隊長の後藤に上申すると既に後藤はそのHOSの開発者である帆場暎一を警視庁捜査一課の松井に頼んで追っていた。ぶんむくれる遊馬だったが後藤はまだ暴走のトリガーが分からないとして引き続き遊馬に解析を頼む。果たしてその帆場は既に「方舟」から投身自殺を図っており死体はあがっていないもののほぼ死亡が確実視されている状況。松井らは手掛かりをもとめ帆場の住居や過去の居住地から証拠を手繰ろうとするが、行く先々で東京が再開発される中で取り壊されていく古い風景や無秩序な発展を遂げたメガロポリスを繰り返し見せつけられることになる。

機動警察パトレイバー30周年突破記念展in大阪にて|方舟の模型。

 後藤は松井に心証を尋ねると帆場は間違いなくクロだろうという答えが帰ってきた。初動で出遅れてしまった後藤であったが散発的な暴走だけでなく帆場は何かをトリガーにしてもっと大きなことを企んでいたはずと睨む。それはやっぱりレイバーの大規模暴走だった。遊馬と整備班のシバシゲオの2人はPCを使ってその条件の洗い出しにとりかかっていた。普通なら限られた区域で限られた条件下でしか発生しないレイバーの暴走。そのトリガーは風速であった。ビル風で起こる共鳴低周波、人間の可聴域外ではあるがレイバーのセンサーが拾ってしまうその音をトリガーにしてHOSに仕込まれたコンピューターウィルスにより暴走してしまうようにプログラムされていたのだ。遊馬はこのことを公表し、HOS書き換えを主張するが、政治的決着の末、バージョンアップとしてHOSの書き換えを進めることに。またしてもぶんむくれる遊馬であったが国の責任問題にも発展しかねず篠原重工の社員の事を考えると引き下がらずを得なかった。


 これで事態は決着がついたと思われたが接近中の台風により風速40メートル以上の風が吹き荒れ、東京湾上の「方舟」が共鳴し「方舟」のみならず東京中のレイバーが暴走する危険性が出てきた。帆場はそこまで読んでこの計画を実行したのだ。全てのOSを書き換える暇がない状況下で暴走を阻止するにはただ一つ、方舟を解体するしかない。

困難な任務に挑む第二小隊の運命はいかに?

エホバ

「エホバくだりて、かの人々の建つる街と塔を見たまえり。いざ我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、互いに言葉を通ずることを得ざらしめん。ゆえにその名は、バベルと呼ばる」/劇中、後藤警部補がつぶやくHOSに仕込まれた聖書の一節

 物語の途中で引用される聖書の一節。有名なバベルの塔の説話の一節です。明らかに人が作りしものである「方舟」をも指したもので、帆場の動機をうっすらと指すものとして使われていますが重要なのはこれは全て状況証拠から後藤らが想像しているに過ぎず、もっと言うとそうだとも断定されていないところ。帆場の動機は不明なままで物語は進みます。このネタ、フォロワーも多く産み出しましたけど動機を明らかにしないという手法は珍しいものではなく、さらに言えば暗喩としての災害や怪物として読める。色々と仮託できるんですよね。実際、最近の作品では『シン・ゴジラ』の牧教授も帆場という話もあるくらいです。


機動警察パトレイバー30周年突破記念展in大阪にて
|帆場の認証プレートをつけたカラスをモデルアップしたもの。

 またエホバはヤハウェ、神であり、帆場の自分の留学時代のあだ名でもあり、さらに言えば綴りが違う。これもまた状況証拠でしかないけれど全てを混乱させるものであるという宣言。悪党を逮捕するだけなら話も簡単ですが何かひっかかりを残すためのフックとしては完璧だったと思います。

バベル

 もう一方の巨大なフックが「方舟」バビロンプロジェクトの要であり洋上でのレイバー用作業プラットホーム。巨大な構造物であり、『長靴をはいた猫』に出てくる最後の魔王の城であり、カリオストロの城でもある代物。(別にかけた訳じゃないけど城に代がかかってますね(苦笑)そして帆場が混乱をもって打ち壊そうとしたバベルの塔でもある。人類の英知を結集した方舟を、台風の出現までを正確に予想し、二者択一を迫る帆場という人物の(もしグズグズしていたら帆場の当初の目論見通りに全てが瓦解したことからも)彼という人物が設定的にこの世のならざる人物として設定されたことが明らかになってくるわけです。そしてアニメの演出上も巨大構造物は崩れるのが常道。いや王道と言ってもいいでしょう。炎につつまれるア・バオア・クー、崩れ去る白色彗星の巨大都市(中に巨大戦艦がいましたけど)、これもまた炎に消え去りました。まさに巨大ながらんどうとして、今にも何かが起こりそうな、そして不安、恐怖などを象徴したストラクチャーとして「方舟」が描写されたことにより最終決戦が盛り上がったわけです。

レイバー

 パトレイバーのもう一方の主役。レイバーは人では難しい場所や大規模作業用に作られた汎用人型作業機械の総称です。ロボット工学が発達した未来には、作業を補助するロボットが登場する未来が来る…という設定です。実際にはもっと小型の人間を補助するタイプが主流になりそうですが、もしかすると今後近いものが出来るところまで現在は近づいているかもしれません。とは言え作品中の位置づけとしてはクレーンやブルドーザーなどに近いものです。しかしそのパワーを犯罪に使われた時に通常の警察の装備ではこれに対抗する事が難しいという事でこれに対抗するために開発されたのがパトロールレイバー、略してパトレイバーという訳です。


 第一小隊は97式アスカという旧式作業レイバーを警察用に仕立てたものを使用していたのですが、第二小隊に導入されたレイバーは最初から運動性、機動力を向上させたパトロール用として開発された新型を98式として導入されました。劇場版ではさらに能力を向上させた零式が登場。やがては第一小隊に配備されるという話になっていましたが、まだ量産先行機が作られたばかり。そして方舟に持ち込まれ第一小隊の小隊長南雲しのぶがテストをしていました。


機動警察パトレイバー30周年突破記念展in大阪にて|方舟で落下しそうになる98式と零式

 そしてレイバー暴走を食い止めるため方舟解体作戦に際して試験機は急きょNY市警から助っ人にやってきた香貫花・クランシーが搭乗し、暴走したレイバーを止めるために使用しますが、HOS搭載機のためやがて帆場の仕掛けたウィルスに侵され98式に牙をむきます。ここが物語のロボットアニメ的なクライマックスで、まさに王道、敵は主人公ロボを参考にした強力なライバル機。そして面構えは主人公機の系譜ながら凶悪な面相。そして隠し武器を持ち98式を追い詰める。理想的な対決です。そして結末もリアルロボットらしい決着のつけ方。この辺りは2にはない爽快感を産み出してて、実は2の焼き直しである実写版パトレイバー首都決戦も決着はこの1の方の流れを使っているんですよね。そういう意味でもこの対決は歴史に残るロボット対決だと思います。


 ちなみに押井監督はヘッドギアメンバーとちがって所謂ロボットアニメに出てくるロボットではなく2の坑道で待ち伏せしていたイクストルみたいなのが好きなご様子です。四つ足も一脚やられたら終わりなのは兵器としても重機としてもいかがなものかという事を本に書いていましたね。

リンク|押井守・映像機械論[メカフィリア] 大型本 – 2004/9/10 押井 守 (著), 竹内 敦志 (著)

劇場版

 何かと2と比べられると影の薄い感じもしないでもないんですが、実はこの『機動警察パトレイバーTHE MOVIE』、2が好きな人はもれなくこの1も好きだし、押井ファンも、またこの作品の根強いファンもいるという潜在的なファンが凄く多い作品だと思います。それが証拠に未だに首都圏に台風が接近すると「風速40m以上」ってことでファンの口に上るし、着眼点としてのコンピューターウィルス。変わりゆく首都圏の風景、そして犯人の正体など。未だに模倣されミームがあちこちに伝播しているインフルエンサーのような作品です。

押井守監督

 良きつけ悪きに付け、押井監督の思想がそこかしこに入り込んでいるしそういう意味では機動警察パトレイバーという作品の中でも劇場版の1作目と2作目がその色が濃く、特に2作目は第二小隊よりもある意味、第一小隊の南雲しのぶと第二小隊の後藤喜一が主人公といってもいいので、第二小隊がちゃんと主人公でラストの大団円までの流れやレイバー戦などを考えると1作目がパトレイバーとしての映画って感じは強いです。


 ネタにしても2はある意味、唯一無二ので同じ感じをもってくるとどうしても二番煎じとのそしりを受けかねない(本人が実写でやってもそうなるところがまさにその業が深い気がしますが)1は実はそのネタだけを取り出してあれこれ出来るんですよね。当然上辺だけを掬うとこれまた二番煎じどころか出がらしになっちゃうのですが、そういう意味でも今また観るにちょうどいい作品として強く推したい1本です。

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