俺たちは天使だ!|『ナイスガイズ!』(2016公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

俺たちは天使だ!|『ナイスガイズ!』(2016公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

2019年7月20日土曜日

movie

X f B! P L

 去年や一昨年劇場で観れなかった映画が半年から1年後ぐらいにAmazonプライムやNetflixなどに配信来ることはよくあります。今回取り上げる『ナイスガイズ!』もその1本。予告編をシネコンで観て激しく観たいなとなったもののタイミングが悪く見逃していた作品です。


動画はYouTubeより|『ナイスガイズ!』本予告篇|Klockworx VOD|2016NICEGUYS,LLC

 こうやって配信でフォローアップできるのは有難い話ではあるんですが、反面スクリーンで観たかった!ってなるので出来ればそのままスルーにしておきたいのもあるんですが、この映画はどうしても避けれない1本でありました。

ダメオヤジのブルース

 サブタイトルをつけるとこんな感じです(笑)70年代後半から80年代のベタな感じな。アメリカでもこういう感じの作品がよく作られていましたがだんだん減っていきましたね。スタイリッシュというか頭がよくなったというか。いやさらにアホになって物量にモノを言わせるモアパワー、モアスピード。とにかくスタイリッシュに先鋭化するか、物量にものを言わせるか。いささか両極端な感じになってきたかと思います。ダイ・ハードがいい例で、高層ビルから空港、果てはNYの街ごと全部から核ミサイルとかどんどんやりすぎになってくる。あとワイルドスピードシリーズもそうですよね。そんな中緩い感じでいっちょどうですかというのがこの『ナイスガイズ!』というわけです。


ダメオヤジと強面男/ストーリー

 1977年、ロサンゼルス。少年が父親の隠し持ったポルノ雑誌をベットの下から抜き取って部屋に戻ろうとした瞬間、轟音とともに車が飛び込んできた。車は部屋を突き抜け庭先へ転落。駆け寄った少年は車にのっていたであろう全裸の女性を目撃する。それは雑誌のピンナップに載っていたポルノ女優だった。そしてこれは事件の発端に過ぎなかった。

示談屋ヒーリー

 ジャクソン・ヒーリーはトラブルシューター(揉め事解決人)だ。示談をとりつけるのが仕事だが私立探偵のライセンスをもっていないので表向きは非力な少女たちに護身術を教えるという事になっている。彼の仕事はシンプルだ。依頼人から頼まれれば相手のところに乗り込んで二度と近づかないように警告するだけ。その時に多少手荒な真似をするけれど。


 今回の依頼人はアメリアという少女。なんでも妙な男にここ数日さぐられているそうだ。話を聞いたヒーリーは早速その男の住所をアメリアから聞いて向かう事にする。そうヒーリーは仕事も早いのだ。

私立探偵マーチ

 ホランド・マーチは飲んだくれの私立探偵。愛する妻に先立たれ、それまでもダメ人間だったが、その後輪をかけてダメ人間になった。それでもなんとか仕事はこなしている。それは彼には一人娘がいるからだ。そんなホランドがお得意先にしているのは老人ホームだ。老婦人が亡くなった夫を探してくれと頼んできたりする。そして今回の依頼は死んだ姪を探してくれと頼まれた。姪は事故で死んだ有名なポルノ女優、ミスティ・マウンテンズだ。しかし老婦人は間違いなく死んだ姪を見たという。だがマーチの調査によるとそれはアメリアという女子高生で全くの別人という事が判明する。それを婦人に報告し自宅に戻ると来客が来ていた。

最悪の来客

 来客はヒーリーだった。ヒーリーはマーチに調べられストーカーと思ったアメリアから付きまとうのを止めるようにマーチと話を付けてくれと頼まれたのだった。いきなりぶちのめされ、もう付きまとわない、これで話は終わったというマーチに、これは授業料だと腕をへし折るヒーリーだった。話はそれで終わるはずだった。一仕事終えたヒーリーが自宅に戻ってくると男たちが待ち受けていた。どうみても荒事専門な男たちはアメリアの居所を聞きだしを殺そうとする。この事件には裏がある。しかし一人では調べる事は難しい。探偵免許をもたないヒーリーはマーチを巻き込むことにした。

 最初はしぶるマーチだったが半ば脅されるようにしてヒーリーに協力する事に。なんとそこにマーチが心配な一人娘のホリーも加わることに。アメリアは企業の環境汚染に反対する連中と付き合っていたようだった。やがて付き合ってた彼氏の家が火事で燃えて死んでいた事。どうやらアメリアは何かを知ってしまった事。アメリアを知っている彼氏の雇い主だったポルノ映画のプロデューサーが殺されたこと。そしてアメリアの母は司法省の高官だった事。そのどんどん道中で死体が増えていく。自動車業界の闇もちらつくなか3人はますますヤバいところに足を踏み込むことになってしまう…。

THE’70年代

 物語のは舞台は’77年のロサンゼルス。そして70年代といえばウォーターゲート事件です。政府は陰謀をめぐらしていると多くのアメリカ人が考え、ベトナム戦争はアメリカの負けという形で(明確に敗戦ではないものの事実上の敗戦でした)終わったけれど、その後遺症で国は疲弊していました。その頃の映画もそれを反映したアメリカンニューシネマの時代でした。1960年代から1970年代後半といえばまさしく『ナイスガイズ』の77年はその最終盤に位置する時代。結局長いものには巻かれろ。権力には逆らうなという厭世観も漂う時代(その後キラキラな’80年代が来るのも皮肉な話ですが)でした。

 とくに’77年の前年である’76年はスコセッシ監督/ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』が公開された年です。ですが’77年にはアメリカン・ドリームを体現するシルベスター・スタローン主演の『ロッキー』が公開されています。そんな時代の空気感を切り取ったアクションムービーがこの『ナイスガイズ!』です。

バディムービーの系譜

 酔いどれ探偵っていうのは探偵小説のある種のテンプレートでマーチのような酔いどれ探偵ってフィクションの世界では数多くいます。大抵は心に大きなトラウマをかかえているんですがマーチは単純に妻を無くして飲んだくれているダメオヤジです。ある意味ダメオヤジすぎてて清々しいくらいです(笑)しかも探偵なのに思考が単純かつセコい(笑)もっともそれが後々効いてくるんですね。対する示談屋(フィクサー)ヒーリーは強面のタフガイ。70年代強面タフガイの象徴といえば「ダーティハリー」ですよね。まあtonbori堂だけかもしれませんけど。80年代の派手なアクション以前の渋い顔で容赦がないってのはやっぱりハリーだと思います。ヒーリーは奥さんとは離婚してて元軍人。タフガイすぎてて若干自分に酔ってるところがありますが、ハードボイルドで自分を律している分、マーチの欠けてる部分をうまく埋めれる感じになっています。ちなみにこのフィクサーってのはドラマ『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』のように弁護士事務所に雇われてたり若しくは弁護士がというパターンも多いですがヒーリーはどちらかというとトラブルシューター(もめ事解消)に近い感じです。

 この作品はバディムービーの系譜でもあり70年代のこの頃はよく作られていました。『フレンチコネクション』もメインはポパイことジミー・ドイル刑事ですが相棒のクラウディことバディ・ルソーとのコンビが印象深いですし、ピーター・ハイアムズ監督の『破壊!』も主人公はマイケルとパトリックという刑事コンビでした。『破壊!』は無力感あふれるラストはこの『ナイスガイズ!』およぼした影響は小さくないと思います。

憧れ

 監督のシェーン・ブラックが多分浴びように観ていた’70年代や’80年代の作品からの影響が凄く大きく、だから舞台が77年の西海岸だし、凸凹コンビはワイズクラック(軽口)叩きまくるし、殺し屋たちが個性的なのはタランティーノとかと同じ理由でしょう。好きだからという(笑)例えば『殺し屋ハリー/華麗なる挑戦』には義手の殺し屋や登場しました。また映画ジョーズに倣って鉄の歯を持つ殺し屋ジョーズが007シリーズに登場。007シリーズは毎回個性的なヴィランが登場します。今回で言えばマット・ボマーが演じたジョン・ボーイ。如何にもって感じの殺し屋すぎてついクスっとなってしまうし、オールド・ガイとかブルーフェイスとかもいいですよね。

緩い感じも’70年代

 2時間弱の映画なんですけどテンポも実はのんびりとしている。ヒーリーは暴力的だし太った冴えない風貌ですがタフガイだし頭の回転も速い。対するマーチは探偵のテクはあってもどこか抜けている。詰めが甘いタイプ。その2人が即席コンビになるところは割とテンポよくなのにどこか緩い時間が流れます。全体的に必死なはずなのにふざけてる(笑)そういう空気感を醸しだしているんですよね。そこがまたいいアクセントになっている。『ナイスガイズ!』のタイトルロゴもショッキングピンクを使って当時の雰囲気を出してきているのもそういう空気感を醸すのに一役買っています。

 また’70年代はセックス、ドラッグ、ロックンロールの時代です。格好も派手だけど何故か古めかしい。そして懐かしのプレイボーイ誌とプレイメイトのようなパーティ会場ではトップレスのお姉ちゃんがバニーガールよろしく(人魚だったり金粉ショーだったり)とかでとにかく色物感を上げてくる(笑)’70年代ってサイケデリックでギラギラしていたなと改めて思いました。

賢い天使

 シェーン・ブラック監督の『ザ・プレデター』の時にも主人公の子どもが出てきて、今回もまた賢い子どもというか娘が登場します。シェーン・ブラック、全作じゃないですけども割と賢い子どもが出てきてその子が核となる事が多いんですよね。例えば『アイアンマン3』でもトニーとハーレー・キーナー。(彼は成長した姿をエンドゲームで見せていましたね)『ラスト・アクションヒーロー』のダニーとスクリーンの中のスーパー刑事ジャック。他の脚本作でも親と子が絡むのは多いんですがこの3作は結構それが顕著で、シェーン・ブラックの隠れた作風なのかなと思います。

キャスト

 なんといってもキャストがいい。ヒーリー役のラッセル・クロウ。『グラディエーター』の時のマキシマスのような精悍な剣闘士のような体つきから一転、太った強面おっさんだけど、実は腕っぷしはめっぽう立つという。最近は『ザ・マミー』の時にもそうだったけど恰幅が良くなって、でもそれはそれでいい雰囲気だし無理してない感じなのがまた良かったですね。マーチ役はライアン・ゴズリング。そうです『ラ・ラ・ランド』では夢破れながらもまだ夢を見るジャズピアニスト。そして『ファースト・マン』では孤高のアストロノーツ、アームストロング船長を。そしてマーチ…いや硬軟自在ってのはこの事でしょう。それはラッセル・クロウにも言えますけれど(笑)

 そして最重要なホリー役、アンガーリー・ライス。彼女は現在公開中の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でピーターやMJと同じ科学クラブのメンバーでネッドといい仲になるベティ役で出演しています。ベティとはまた違う賢い娘さん役を好演しているので『スパイダーマン:FFH』を観た人はこちらも是非観て欲しいですね。それ以外でもハンサムな殺し屋ジョン・ボーイにマット・ボマー。物語の重要なカギを握るアメリアの母親で司法省の役人ジュディスにキム・ベイジンガー。クロウとベイジンガーでLAといえば『L.A.コンフィデンシャル』の2人ですがまた違った形で共演しているのも見ものです。あと実はハーレイ君タイ・シンプキンスも出演してたんですよね。どこに?っていう人はディックなキッズって言えば分かりますか?(苦笑)

ダメオヤジの逆襲

 割とダラダラって続くんですけど何故が最後まで観てしまうし、風刺もあるしツイストも効いている。これはシェーン・ブラックの好きなものをぶち込んだ闇鍋なんでしょうね。だからハマった人にはこれめちゃくちゃ面白いはずです。『探偵物語』とかああいうオフビートな空気とか。’70年代アクションとか。今のような洗練されたタクティカルなものでなく派手にぶっ放し、派手に殴るスタイル。そしてワイズクラック。どうしたって2作目期待しちゃいますよね。是非ともシェーン・ブラック監督にはこのダメオヤジコンビの2作目をお願いしたいものです。

Amazon.co.jp: ナイスガイズ!(字幕版)を観る | Prime Video 

Amazon | ナイスガイズ! [Blu-ray] | 映画 

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中
永野護著/KADOKAWA刊月刊ニュータイプ連載『ファイブスター物語/F.S.S』第17巻絶賛発売中(リンクはAmazon)

このブログを検索

アーカイブ

QooQ