大塚ギチとフォー・ザ・バレルとG20|tonbori堂昔話り-Web-tonbori堂アネックス

大塚ギチとフォー・ザ・バレルとG20|tonbori堂昔話り

2019年5月10日金曜日

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 これから書くことは記憶を頼りに書いているのでどこまでが正しいかは分かりません。また永野護が大塚ギチに受けたインタビューの分とかも今は押し入れの中のどこかで眠っているのも多くて結局記憶を頼りに書いているんですが間違っている事もあるかと思います。ただ大塚ギチという人が先般、逝去されたという事で生前のインタビュー記事が無修正のままで投稿された事(それ自体には問題が全然ないという訳ではないんですが)で永野護公式アカウントが反応する事になりちょっとした騒ぎになりました。

 今回はそれについては触れません。というかまあこれについては彼が生前に患った事での後遺症の事もあり、事実関係もいろいろと怪しいところもあるとインタビュアーの方が書かれているので。もっともそうは言って商標と権利関係の話なので公式がコメントを出す形になりましたが慈愛を感じる(口は悪いけど)クリス(永野護)のコメントで締めくくられていたのでそれが全てだと思っています。







で、ちょっと大塚ギチという人について覚えている事を書いてみたいと思います。ちなみにその流れで『機動戦士ガンダム』(朝日ソノラマ小説版/富野由悠季著/富野喜幸名義/現在は角川スニーカー文庫/リンク先はAmazon/より刊行中)のネタバレをしています。ご了承ください。



追記:ちょっとクリスの物言いが乱暴で誤解している人が多いようなので追記しておくと彼らの仲を知った上なら、ちょっとやんちゃな先輩が同じくやんちゃな後輩に対して何、先に逝ってんだよ、俺もそのうちにそっちにいくからそんときにきっちり説教しちゃるからなという愛のある、まあそういう文化圏の送る言葉だったと思います。


 クリスはもともとやんちゃな友達が多かったうえに早くに亡くした友もいて(それは初期に少しだけ触れられており知ってるマモルマニアは古株だと思いますが)だからこそ、何先に逝ってんだよという想いもあったと思います。せっかく九死に一生を得たんだからしぶとくいけよと…。そういう慈愛にあふれた言葉だったように思います。

インタビュアー

 多分、彼の名前を知ったのは永野護何かでインタビュアーを務めていた人物が、ちょっと好戦的?にさえ思うような書きぶりで、あれ?何時もの中島紳介氏じゃないなと思ったのがきっかけだったように思います。今、手元にたまたま置いていたNewType増刊、『comic newtype冬号』(奥付によると1996年2月25日発売)の永野護特集のロングインタビューの聞き手がまさに大塚ギチ氏でした。当時動いてた『エアーズアドベンチャー』の応援の意味合いもあったと思うけれどゲームという共通項があるインタビューは熱を帯びたものでした。


comic newtype冬号『特集永野護』
月刊ニュータイプ増刊comic newtype冬号『特集永野護』|角川書店刊|

手に入れるのはネットでは駿河屋かまんだらけ辺りで探るか古本屋を丹念に回るかしないと難しいかと思いますが貴重なインタビュー記事ですのでマモルマニアなら押さえておきたい1冊です。それから2001年にまた、今度はニュータイプ本誌で彼の名を見る事になります。

フォー・ザ・バレル

 今や伝説になっている富野監督本人の手による小説版『機動戦士ガンダム』。朝日ソノラマから刊行されたこの小説はジュブナイル小説の朝日ソノラマから出ていたもののアニメのノヴェライゼーションというには斬新な、新たな物語が語られていました。登場人物の名前は踏襲されているものの、アムロは最初から地球連邦軍のパイロット候補生であり、セイラ(アルティシア)と肉体関係を結ぶなど衝撃の展開が待ち受けていましたが、さらに驚くのはアムロが最終的には死んでしまう展開になるという事。そしてホワイトベースクルーはシャアと手を結び結果的にはジオン共和国へ亡命という展開になります。


月刊ニュータイプ連載時の「フォー・ザ・バレル」
月刊ニュータイプ連載時の「フォー・ザ・バレル」|tonbori堂の蔵書より|大塚ギチ/コヤマシゲト/

月刊ニュータイプ連載時の「フォー・ザ・バレル」
月刊ニュータイプ連載時の「フォー・ザ・バレル」|tonbori堂の蔵書より|大塚ギチ/コヤマシゲト/

 それを新解釈でビジュアルストーリー化したのがこの『フォー・ザ・バレル』でした。メカニックとキャラクターデザインには当時新人だったコヤマシゲト氏。彼は最近では『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のメカデザインや『キルラキル』のアートディレクター、『ベイマックス』のビジュアルコンセプトなどで有名ですが、当時は殆ど知られていない存在だったと思います。 当時はこれは1冊にまとまるだろうと思っててF.S.Sの休載やらなんやらで幾つかの回が抜け落ちているんですがそうとうにガンダムへの愛憎半ばの感情と、そこからどこまでエッジを立てたものが出来るかというチャレンジが見てて伝わってきてこりゃ凄いなと。そして実は小説版に忠実であったりもする。なんだろう原作はあるんだけれど解体してさらに肉付けしていってエッジを立たせるという感じでした。


 モデルグラフィックスで『ガンダム・センチネル』が出てきたときはMSV的分かりやすさがあってそれはそれで好きなところがあったんですが(MSVをさらに推し進めて雑に言えばインダストリアルデザインに近づけていく)『フォー・ザ・バレル』は完全にロックでした。いわばパンクロック、コードはちゃんと抑えてるけどディストーション効かせまくりのシャウトしまくりの挑発しまくりのという感じです。ガンダムの呪縛がそれほど強いならそれ以上のノイズを放り込んでやる。そんな気概も感じたものの結局1冊にまとまる事は無く連載の中で最終回を迎えてしまいましたね…。

G20

 もしかすると大塚ギチが『フォー・ザ・バレル』を立ち上げたのはアスキーから刊行されたガンダム・トリビュートマガジン『G20』の立ち上げ編集に関わっていたからかもしれません。ガンダム20周年に向けて刊行されたこの『G20』、このコンセプトマガジンは後発の同種の雑誌類に影響を与えていると思うんですが、実は『G20』を超えたものは出てきて無いと思うし、もっと言えば創刊号は粗いところもあるのです。どこにフォーカスしているのか一見してくみ取りにくい。けれど読み進めるとおぼろげに浮かんでくる一本の筋があるという感じです。

G20Vol.1ガンダム・トリビュート・マガジン
G20Vol.1ガンダム・トリビュート・マガジン|アスキー刊|tonbori堂の蔵書。

 そんな目が離せないごちゃ混ぜ感があって好きでした。そうですね、ヴィレッジヴァンガードで何か面白いものないかなと探す感覚に近いものがありました。でも本人、ガンダムを解体する事はかなわなかったなと、だから満を持して『フォー・ザ・バレル』で言わばガンダムの本丸角川書店であの企画を放ったのかなと思うのですが…そんなんじゃねえよとか言われちゃいそうですね(苦笑)


 でも言わばある時期、非常に濃密な時を過ごしたといってもいい永野護が看板漫画を描いているニュータイプで永野護の師匠ともいえる富野監督のガンダムを潤色した作品を、これまた永野護に影響を受けているコヤマシゲトの絵でビジュアルストーリーを紡ぐ。なかなかに挑戦的なお仕事だっただけに1冊にまとまっていないのは本当に残念です。

『NewTypeMKⅡ』

 大塚ギチは『NewTypeMKⅡ』という月刊NewTypeの増刊雑誌では3人のアニメの監督にインタビューをしていることは件のインタビュー記事でも述べていましたがその中でも富野監督にインタビューしていて、なかなか挑発的な物言いをしていたけれど「傷」という言葉を拾ってくれたと(富野監督が)記事で素直に喜んでいたりと面白い記事になっていました。

月刊ニュータイプ増刊『Newtype mk2』
月刊ニュータイプ増刊『Newtype mk2』|角川書店刊|ニュータイプ編集部|tonbori堂の蔵書。

 残りの2人は押井守、幾原邦彦。『攻殻機動隊』はもっと原作から逸脱していないと挑発し(もっとも押井さんもああいう人だから俺こういう人だもんっていってました。)幾原監督とのインタビューも面白いものでした。読み物系が弱いとされている月刊ニュータイプの文芸面を埋めるべくして試験的に発刊されたんでしょうけど…。この1冊で終わってしまったのは残念ですね。もっともこういう企画はセンターページのロングインタビューなどそっちに残っていってると思います。

 でも富野監督のインタビュー記事、そのタイトルは『バイストン・ウェルからの帰還』でした。ならば彼には今の富野監督の仕事を見届け最後に総括をして欲しかった…そう思います。少し早過ぎたよと本当に思います…。


心から大塚ギチさんのご冥福をお祈りいたします。



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