『ハート・ロッカー』再考(2010公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

『ハート・ロッカー』再考(2010公開|米)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】

2018年10月18日木曜日

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 久しぶりにシネフィルWOWOWで『ハートロッカー』を観たのですよ。既に9年前の作品ですが、随分と遠い昔のように思います。ですがオバマ元大統領が大統領時代にアメリカがウサマ・ビン・ラーディンを殺害した事を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』をこの作品と同じキャスリン・ビグロー監督がその4年後に撮る事になるとは思ってもみませんでした。

動画はYouTubeより|『ハート・ロッカー』予告編|シネマトゥデイch|(C) 2008 Hurt Locker, LLC. All Rights Reserved.|配給:ブロードメディア・スタジオ

 そういえば両作品でオスカー監督となったキャスリン・ビグロー監督は『デトロイト』を撮りましたがこちらはオスカー獲りませんでしたね。そんなキャスリン・ビグロー監督のブレイクのきっかけとなったこの作品について少し書いてみたいと思います。

ハート・ロッカー論争

 実はこの作品、ちょっとした論争を巻き起こしました。覚えている人がどれだけいるかは分かりませんが、ある程度ググれば当時の発言がそこかしこで見つかると思います。これはリドリーが撮った『ブラックホーク・ダウン』のような作品だけども低予算で撮られた(といってもアメリカの低予算は日本の大作並みの予算ではあります。)作品でした。そしてこの低予算で撮られた『ハート・ロッカー』アカデミー賞9部門ノミネートの快挙を成し遂げ主要6部門(作品、監督、脚本、編集、録音、音響)で受賞しました。


 自分の最初のファーストインプレッションは、「緊張状態に常に身を置いているためアドレナリンが常時出ているアドレナリンジャンキーな主人公がいろいろ思うところもあるんだけど結局その緊張感でしか自分が生きているとしか思えない、一種の中毒患者を描いた作品」だと思ってて、これはエキブロでも書いた感想エントリでもそう明言しています。

『ハート・ロッカー』の感想|クらりと来る麻薬。「ハート・ロッカー」 : web-tonbori堂ブログ

 一般的な受ける要素の少ない(戦争映画だが大きな戦闘を描くのではないし、明確に戦争のえぐさを描いているわけでもない。残酷なシーンもあるけれどややもすれば散発的な感じ)映画が何故それほどに受けたか(米国で)それは後年にイーストウッドが『アメリカン・スナイパー』を撮るくらいに社会問題化しててオバマ大統領も泥沼だった中東から撤収をするという事で当選した部分もあるからではないでしょうか。

プロパガンダか否か?

 とは言えあまりにも爆弾解体や戦闘シーンをじっくりと舐めるように撮影しているためプロパガンダではないかという話もありました。それは映画監督の黒沢清が当時のディスカッションか何かで発言したからです。

ソース:Togetter - まとめ「国際シンポジウム 「クール・ジャパノロジーの可能性」2日目のTLより」での発言のツイート録。

 ここでの発言が波紋を読んだのも懐かしい話です。たしか


『「ハートロッカーって映画は実写の力を全面を出して、アバターと対極にありますが、とてもひどいプロパガンダの話で、これは現実だよと押し付けてますが、全然面白くないです。』

 という事をおっしゃっていたとか。ちなみに『アバター』も引き合いにでていましたが(当時のオスカーの対抗馬にして本命だった。)それに関しては古臭い話だけどまだましだそうです。この事や、映画評論家の町山智浩が絶賛していたこの作品にアトロクでお馴染みのライムスター宇多丸が、当時担当していたTBSラジオ『ウィークエンドシャッフル』にて激論を戦わせたのも懐かしい話です。

ソース|町山智浩×宇多丸 『ハート・ロッカー』 まとめ - Togetter

 宇多丸氏はそういうアドレナリン・ジャンキーが最後、戦場に戻っていくのを肯定的に捉えているのではと、非常に違和感を覚え戦争を肯定しているのではと思ったそうです。一方の町山氏はこの映画は反戦をテーマに持ち、主人公は爆弾解除のプロフェッショナル。そしてイラクでの爆弾テロの目標はイラク人。主人公は後半ストレスから失敗を繰り返し、任期満了で帰国するが誰かがやらねばならぬ。なら俺がやるという使命感を持って戦場へ舞い戻る。そして反ブッシュの音楽がかかることから明白と説いています。


 これに関してはtonbori堂は宇多丸氏でも町山氏よりでもない両方ないまぜな感じですね。あるアドレナリン・ジャンキーの居場所は結局戦場にしかない。でもそれは延々と続く地獄を再生産しているようなものだという感じで俺がやらねばというより俺がしたいからではないかと。そして最後は肯定的に見えるようにしているけれど、戦争はそういうジャンキーを作りだしているのでは?やっぱり止めるといってもまた戻る、そんな恐ろしさをと思うのですが…。


 これは『アメリカン・スナイパー』にも通じる話だし、イーストウッドも『アメリカン・スナイパー』に関しては主人公のクリス・カイルも結局その後PTSDで苦しみましたが国のために尽くしたという視点がしっかり入ってて、その分『アメリカン・スナイパー』の方がもっとプロパガンダと叩かれても良かったはず。でも戦場にいるのはその個人でしかない。だからこそ戦場の狂気に皆がやられていくわけで、そういう意味ではこれらは全て『地獄の黙示録』の延長線上にあるといってもいいのではないかと思うのです。だから最後の戦場に戻る時の清々しいジェームズ(ジェレミー・レナ―)の顔はある種の狂気を秘めた危うい顔で、彼は結局その地で命を落とすのではないかという気がしました。でも黒沢氏や宇多丸氏のようにそういう風に見えてしまうのは、カッコよく撮ろうとするキャスリン・ビグロー監督の業みたいなものなのかなと思います。彼女の画って本当にカッコイイんですよ。でも戦争映画でそれをやると戦争の悲惨さが伝わらないという事をよく聞くんですが…翻って想像力を働かせると、だからこそ危険なのだとも思えないのでしょうか…。いやお二人をディスるつもりはないし慧眼だなと思うんですが…。そこは水は低きに流れるという話なのかもしれません。

併せて観たい作品たち。

 今『ハート・ロッカー』を観るなら合わせて『ジャーヘッド』(湾岸戦争時に海兵隊のスナイパーとして戦場に赴いたものの一発も撃たずに戦場を後にした海兵隊兵士の体験記をサム・メンデス監督が映画化したもの。主演はジェイク・ギレンホール。)が一番ではないかなと思います。多分戦争の馬鹿馬鹿しさ、怖さはこちらの方がストレートです。

動画はyoutubeより|Jarhead (2005) Official Trailer|Universal - 2005|Movieclips Classic Trailers

 また比較の意味で『アメリカン・スナイパー』『ゼロ・ダーク・サーティ』を合わせて鑑賞してもいいかもしれません。多分多角的にいろいろ観れるんじゃないかなと思うんですが…。あとポール・グリーングラスの『グリーン・ゾーン』も良いかもしれません。先の作品とは違って一兵士が主人公という体裁は同じなのに凄く俯瞰して観ている作品なので。

動画はyoutubeより|映画『グリーン・ゾーン』予告編|(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED|シネマトゥデイ

アペンドディスク

 おまけというより余談なんですが、『ハート・ロッカー』後にアメコミヒーロー映画のお馴染みの顔になる人達が集っているのです。そこもちょっと今思うと面白いものですよね。主人公のジェームズ曹長はジェレミー・レナ―、『アベンジャーズ』などマーベル・シネマティック・ユニバースではホークアイことクリント・バートンとしておなじみになりました。彼もこの映画以降本格的にブレイクしました。ちなみにtonbori堂は『S.W.A.T』という映画の主人公の元相棒にして劇中で敵になるギャンブルっていう名前の元警官役で彼を覚えました。

ソース|ジェレミー・レナー - 映画.com

 ジェームズの相棒役サンボーン軍曹にはアンソニー・マッキー。彼も『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でファルコンことサム・ウィルソン役としてブレイクを果たしています。彼はこの映画から名前を覚えた人ですね。

ソース|アンソニー・マッキー - 映画.com

 ジェームズの妻役はエヴァンジェリン・リリー、『アントマン』『アントマン&ワスプ』ホープ・ヴァン・ダイン役でマーベル・シネマティック・ユニバース入りを果たしています。ちなみにリリーはこの前に人気ドラマ『LOST』でブレイクしていました。

ソース|エバンジェリン・リリー - 映画.com

 ちなみにジェームズがブラボー中隊爆弾処理班に加わる前の前任者で仕掛け爆弾の爆発に巻き込まれ死亡するトンプソン軍曹はガイ・ピアース。『アイアンマン3』でヴィランのアルドリッチ・キリアン役でした。

ソース|ガイ・ピアース - 映画.com

気が付くとマーベル・シネマティック・ユニバース関係者が4人というのも凄い話ですよね

エキブロでの感想:web-tonbori堂ブログ : クらりと来る麻薬。「ハート・ロッカー」

ソース|ハート・ロッカー - Wikipedia

ソース|アメリカン・スナイパー - Wikipedia

ソース|ゼロ・ダーク・サーティ - Wikipedia

ソース|ジャーヘッド (映画) - Wikipedia

ソース|グリーン・ゾーン - Wikipedia

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